夢幻の海で

すずしろさんに感想を送る

一晩のうちに、私は全てをなくしました。

お父さん、お母さん。
そして思い出の物。
友達が別れる前にくれた物。
帰るところ。

全てを。


夜のうちにそれは起こりました。
変なにおい、そして騒がしい熱気。
たたき起こされるように見てみれば、オレンジ色の炎が私を取り囲んでいました。
火事です。
炎が逃がさないと言いました。
わけがわからず、ただ叫んでいると、銀色の防火服を着た人たちが私を抱えました。
助かったのだと、思ったのです。


昨日の火事は消えました。
しかし、私は戻るところも消えてしまいました。
どうやって生きていいのか解らず、海が見える灯台にいました。

岩は白い波を砕き、潮の香りをここまで持ち上げました。
この海の中に入れば、とても楽になるんではないかと思いました。
手すりを乗り越え、遥か下に見える崖を見下ろします。

「それは、違いますよ。」

誰もいなかったはずなのに、話しかけられました。
振り向けば、人ではないので多分ポケモンでしょう。
私はポケモンに対する知識というものがないので何のポケモンかまでは解りませんが。
青くて美しい鳥のようでした。
「・・・あなたはどこから来たのですか?誰もいなかったはずですが。」
もっと聞きたいことがほかにあったはずなのに、なぜかその言葉が真っ先にでてきました。
「私は人に会うのが怖くて隠れていました。つかまるのが怖いのです。」
「なぜですか?私は人ですよ。あなたはポケモンですよね。ポケモンならば、私があなたを捕らえるなどは思わなかったのですか?」
「はい。あなたはそんなことよりも、死ぬことを選んでいましたから出てきました。全てをなくし、何の希望も残されていないのですね。」
「なぜわかるのですか?」
「あなた自身がそういっています。言葉でなくても、目や行動、身振り手振りが全て。昨日の火事で、生き残ったのはあなただったのですね。」
「そうです。やはり昨日の火事は大きかったのですね。」
「大きいもなにも、あの火事は失火ではなく、放火だからです。」
失火、つまり事故や過失による火事ではなく、誰かに火をつけられたからだといわれました。
そのとき、私の中で心臓が落ちる思いがしました。

助けられた後、消防署の人たちには台所から火が出たと説明されました。
なんでも、一番最初に火が出るところが一番激しく燃えているのだそうです。

「嘘・・・ですよね?それは本当なのですか?ではどうしたら台所が・・・。」
「何者かが侵入し、火をつけて失火に見せかけた、という推測ができます。何せ、火が出はじめた時間、あなたたちはすでに眠っていたでしょう?」
「あ・・・。」
私は忘れていました。
肝心なところはそこです。
誰も逃げられない状況で、誰かが火が燃え移ったまま逃げるわけありません。
それに、私以外に生き残った人はいないのですから・・・。
「・・・どうしますか?」
このまま死ぬわけにはいかない、と私は思いました。
「もしあなたが犯人を見つけようとするなら、私は協力しましょう。あなたは被害者であるのだから、私はあなたの味方です。」
青い鳥は腕(あるんだから鳥ではないんですが)を伸ばしてきました。
手すりごしにその手をつかみ、再び乗り越えます。
そして、灯台に足をつけた時の感触はさっきまで違いました。
何がなんでも生き抜いて、そして全てを奪った人を見つけてやると。
そのために、私はこのポケモンと生き抜くと、そう思ったのです。

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