私の墓 あなたの墓
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私は『墓を作る者』です。
私の墓 あなたの墓
私は森の誰かが死んだら燃やし、誰かが悲しむところを見守り、そして死んだ者を埋めます。
それは私の仕事であり、私の誇りでもありました。
私は人の最期を手伝えるのです。
素晴らしいことだと思いませんか?
人々はそんな私を「墓作りのロコン」と呼びました。
死んだ方の親類や友人は涙を流しながら、必ず私に言って来ます。
ありがとう、と…。
…私には理解できません。
なぜお礼をいうのですか?
なぜ私などに感謝をするのですか?
私にはわかりません。
私はあなた方の大切な人を熱い炎で焼き、冷たい土に埋めたのです。
…私は憎まれるべきではないのですか?
ある時私は一匹の雄のイーブイに出会いました。
そのイーブイは病気だというのです。
それでもイーブイは私に話しかけてくれました。
そして私の仕事を手伝ってくれました。
私が「どうして私なんかといるの?」と聞くと、彼は答えました。
「好きだから」と。
私の頬は真っ赤に染め上がります。
そんな恥ずかしいこと言わないで下さい。
そんな嬉しいこと言わないで下さい。
私は思わず笑ってしまいました。
涙を流しながら笑いました。
だってあなたは病気だったんだから。
もうすぐ、あなたは私の隣からいなくなってしまうのだから。
数日後、太陽が沈む直前にあなたは死にました。
呼吸がありませんでした。
ひゅっ、と一気に冷たくなりました。
冷たくて無気力なあなたは死ぬときまで私に話しかけてました。
たくさんたくさん、「ありがとう」を言われました。
こんなに哀しい気持ちになったことはありません。
いままで、どんなに冷たい人を触ったでしょう。
いままで、どんなに冷たい人を埋めたでしょう。
いままで、どんなに沢山の人から感謝されたでしょう。
いままで、どんなに沢山の人の悲しむ姿を見たのでしょう。
…馬鹿ですね、私。
今、初めて分かりました。
残された者の気持ちが。
亡くす者の気持ちが。
そして、亡くなった者の気持ちが。
そうですか…。
そうなんですか…。
忘れるため…なんですね?
あなた達がその方を捨てて、前に進むためなのですね?
死んだ方を追い求めず、心の中にしまい、そしてそれを支えに進むためなのですね…。
私はたくさんの涙を流しました。
いつだったか、あなたは私に微笑みながら言いましたよね?
「君が死ぬときは僕が埋めてあげる」と…。
…嘘、つかないでくださいよ…。
せめて…何も言わずに去って下さい。
死ぬ直前に「ごめん」なんで言わないで下さい。
嘘つき。
嘘つき。
…嘘つき。
私は生まれて初めて、死んだ者が蘇ればいい、と馬鹿なことを考えました。
今まで、割り切ってたじゃないですか。
なんでいまさら?
なんでいまさら?
…馬鹿…。
ただ泣くことしかできない私は、静かに自分に火をつけました。
とても熱かった。
そして私はあなたの隣に倒れ込みました。
せめて一緒に死にましょう?
私はあなたの墓なんか作りませんから
あなたは私の墓なんか作れませんから
…おあいこ、でしょう?
それで、いいでしょう?
その後、私はすぐに死にました。
死ぬ直前、うっすらと見えました。
白くすけたあなたの影が、まるで私を待っているかのようにこの場に踏みとどまっている姿を。
…待っててくれたんですね。
私がそう言うと、あなたは優しく微笑みました。
私は…あなたの元へと駆けていきました。
私達の体は、その内朽ちます。
そのあとはきっと、植物の栄養になります。
…私達が死んだのは、きっと無駄ではありませんでした。
私達が自然の中で死ぬことは、有意義なことのはずです。
死ぬ場所なんて、本当は誰もいらなかったはずです。
誰かの傍で、一番大好きな人の傍で死ねるなら…それは…
…――1つの幸せなのかもしれません――…
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