春の風に抱かれて
すずしろさんに感想を送る
「春になったら、また会おうね!」
ハルカは俺にそういった。
笑顔で手を振って、そういった。
俺は覚えている。
約束したじゃないか!
なんで・・・なんで忘れるんだよ!
さらさらとした白い髪を風がなでる。
しかし、そんなことに構わず少年ーユウキは歩いていた。
目の前に広がるのは瓦礫の山。
隣には紅い首輪をつけた彼のポケモン、グラエナが寄り添う。
周囲に気を配りながら瓦礫を探している。
何か手がかりになるような物はないかと。
2日前、カントー地方に大地震が起きた。
そのニュースを聞いた時、ユウキは無事を願ってやまない。
春までカントー地方にいるといったハルカのことを。
けれど、無事だという連絡は何一つ来なかった。
いてもたってもいられず、ユウキは家を飛び出した。
「ハルカ!ハルカ!」
2日も経って瓦礫の中にいるのでは生きてはいないだろう。
だけど、行方不明ということは、生きてるかもしれないってことだから。
ユウキは探し続けた。
救助隊の人達にまぎれて、ハルカをただ探し続けた。
街の崩壊は酷かった。
寒い・・・
「ハルカ!」
え?
「ハルカ!」
その声・・・ユウキ君・・・?
ユウキ君だ・・・!私が間違えるわけない。
私は、ここにいるよ!
「・・・」
声が出ない。
なんで?
なんで近くにいるのにユウキ君がいるのに・・・。
ユウキ君・・・ユウキ君・・・。
「ユウキ君・・・。」
グラエナが立ち止まる。
ユウキの側をぴったりくっついていたのに、反するように座り込む。
「グラエナ?」
「クーンクーン・・・」
ユウキのズボンをくわえて引っ張る。
「なんだよ?どうした・・・。」
グラエナは瓦礫の山に立つと穴を掘り始めた。
ガラスの破片が飛び散っているにも関わらず。
ユウキも瓦礫をどかしはじめた。
「いるんだな?」
「くぅん。」
夢中で瓦礫をどかしていった。
ガラスだとか関係ない。
ユウキの手には大小の切り傷があった。
グラエナの前足からは血がでていた。
それでも続けた。
「ハルカがいる」といったグラエナを信じて。
その家は全壊していた。
原形はどこもとどめていない。
ようやく2階部分だと思われる家具や柱が出てきた。
「ハルカ!」
グラエナはさらに進んだ。
そのアゴの力でタンスを壊し、柱を押し、安全な道をユウキに作る。
ユウキはその後をついていく。
やがてグラエナは止まった。
もう、無理だということを悟った。
進んでも無駄なことを。
しかしユウキは駆け寄った。
探していた人に。
「ハルカ?大丈夫か?寒かっただろ?」
優しく抱き締めるように触れる。
瓦礫の下にある彼女の体を引きずり出した。
その体は冷たく、頬は涙で濡れていた。
ユウキとの再会を喜ぶように。
しかし、ハルカは何も答えなかった。
「ハルカ・・・約束しただろ・・・春になったらまた会うって。俺は覚えてるからな。忘れてないから・・・だから、何か返事してくれよ!」
その目は閉じられたまま。
いくらユウキが揺すっても頬を叩いても変わらなかった。
その現実を易々と受け入れられるわけがなかった。
死ぬという現実なんて。
「嘘だろ・・・ハルカ、返事してくれよ・・・ハルカ・・・。」
黙ってハルカの手を握る。
その手は冷えたユウキの手よりも冷たく、凍っていた。
「もう少し早ければ助かっていたかもしれない。」
医者にそんな慰めを言われても、ユウキの心は納得がいかなかった。
なぜ誰もハルカを見つけていてくれなかったのか。
なぜハルカが死ななければいけなかったのか。
死因は、凍死だそうだ。
この寒い中に何日も放っておかれたせいだ。
ユウキの頭に一つの考えが現れては消え、そのくり返しで頭が一杯になる。
「ハルカ・・・ごめん・・・俺がもっと早く見つけてられたら・・・。」
遺体安置所の片隅でハルカの手をずっと握りしめていた。
この寒さで死ぬ思いをして苦しんだのにまた外に置くのか、とユウキはずっと側にいた。
自分の温もりを分け与えるかのように。
「クーンクーン」
ふとグラエナがしっぽを小刻みに振り、ユウキに鼻を押し付ける。
そんなグラエナの変化に誰も気付かなかった。
誰もが自分のことに精一杯で、グラエナごときに構ってられない。
「くーん・・・。」
ユウキの服の端をくわえ、力の限り引っ張る。
その間もグラエナは鳴くのを止めなかった。
『お願いです!主人を、ユウキを連れていかないでください!』
ポケモンには人の見えないものも見えるという。
グラエナの目には何が映っていたのだろう。
「くーんくーん。」
『お願いですから・・・ハルカさん・・・。』
グラエナはユウキの服を放した。
そしてユウキの顔を覗き込む。
その顔は穏やかだった。
それを見て安心したのか、グラエナの目から涙が流れる。
パチン
グラエナのしていた首輪がひとりでに外れる。
見えない誰かが外してくれたように。
グラエナは主人に別れを告げると、後ろを振り向かないように走っていった。
「貴方、こんなところで風邪ひくわよ。」
救助活動をしている人がユウキの肩に手をかけた。
「あら・・・?まさか・・・。ねえ、ちょっと!?誰か!誰か!」
何も答えなかった。
ユウキはハルカと手をつないだまま、もう何も言わなくなっていた。
しかし、その顔は2人とも穏やかで、幸せそうで。
眠っているとしか思えないほどに。
ユウキ君・・・
ハルカ・・・
ごめんね・・・約束やぶっちゃって
気にしてるのか?また会えたじゃねえか
・・・そうだね
・・・行こうか
どこへ・・・?
もう二度と離れないところへ
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