Sedona
すずしろさんに感想を送る
セドナ・・・
セドナ・・・。
・・・ヴァツキ?
私はずっと ここにいます・・・。
静かな月夜の崖から海に向かって金色の輪が飛んだ。後ろからは野生のポケモンの群れがやってくる。裏切り者のブラッキーを追って、この崖に追い詰めたはいいが、肝心なところで逃がしてしまった。この海に落ちて生きてるものはいない。諦めてポケモンの群れは引き返した。しかし、一匹のサンダースだけは、あのブラッキーは死んではいないと、諦めなかった。
朝日が差し込む。ブラッキーは波の音を聞きながら眼を開けた。夜に海へ飛び込んでから全く記憶がない。体を起こしても、痛いところが全くない。そして、自分が今、海の上にちょこっと顔を出しているような岩の上にいることを知った。しかし、どうやって帰っていいか全く解らない。こんな海のど真ん中に来てしまっては、帰る方法も見つかるわけがない。自分が落ちた崖が全く見えないほど遠くに流されたようだ。
呆然とする。どうやって戻ればいいのか。考えれば考えるほど、ブラッキーは混乱していく。すると、足下の波がいきなり持ち上がり、形になる。海にとけていたシャワーズが姿を現したようだ。シャワーズはそのままブラッキーに近付くと何かを話し掛けた。警戒して姿勢を低くするが、シャワーズには敵意がないようだった。むしろ、話を聞いてるうちに、助けてくれたことを知り、そして名前も知ることになる。
セドナという名前のシャワーズ。そしてヴァツキという名前のブラッキー。
ヴァツキはセドナに崖から飛び込むまでの経緯を説明した。とても控えめなセドナはただ聞いているだけだった。今まで荒くれの中で生活してきたヴァツキにとって、セドナはとても珍しいポケモンだった。イルカのようなしっぽを軽く動かして嬉しそうに笑う。セドナが言うには、ずっと一人で・・・。
夕方になってヴァツキはセドナの背中に乗せてもらい、陸まで送ってもらった。砂浜について、ヴァツキが背中を向けて歩き出した時、セドナは悲しそうに鳴いた。ヴァツキは、また来る、としっぽで合図をすると、夕闇に溶け込んでいった。
ヴァツキは、セドナに会うためだけに、追っ手から逃れ、海に来た。そして、追い付かれると思った瞬間にセドナに乗せてもらって逃げたこともある。
「どうしてあんなに追うんですか・・・?私には・・・わからない。戻ってこないなら、追う必要なんてないのに。」
「セドナは・・・優しいからな。」
「え?優しい・・・ですか?」
「追われてる俺を何も言わず乗せてくれる。」
「それは・・・ヴァツキが・・・友達だからです。」
ヴァツキは嬉しかった。セドナに友達だと言ってもらえて。山に住んでいた時は友達なんていなかったに等しいのだから・・・。唯一、信頼できたのは姉のサンダースだけだったけれど・・・やつらと一緒になって追ってきたのだから、もう信用なんてしない。
今日も海の上に出ている岩の上でずっと話し合った。話題は尽きることがない。すでに日は傾いていた。
「明日も、会ってくれるか?」
「もちろんです。あの・・・ヴァツキ・・・お願いがあります。」
「なにを?」
「あ、あの・・・もうあの、山のポケモン達に会わないように・・・海に住みませんか?あっ、もちろん、ちゃんと住めるようにしますっ。だって、元は同じイーブイですから・・・きっと住めますっ。それと・・・。」
「俺は海に住めない。山で、夜に狩りをして生きるから。前はイーブイだけど、進化したら生活環境は全く違うからな。」
「そう・・・ですか。」
ヴァツキはセドナに乗った。セドナは泳ぎ出す。しかし、いつもよりスピードが遅い。ヴァツキもそちらの方がいいと、しっかりセドナにつかまっていた。二人とも、離れたくなかった。
夜の砂浜はひっそりとしている。そしてこのひっそりとしたところからいつもセドナと別れてヴァツキは山へ向かう。夜に強いヴァツキは追っ手ならすぐに解るから昼は海、夜は陸へと移動している。
「ヴァツキ。」
「ん?まさかその声・・・。」
ヴァツキの行動を知り、待ち伏せできるのはただ一人。姉のサンダース、プラム。弟を取り戻すために、プラムは毎晩、ヴァツキが帰ってくるのを待ち伏せしていた。
「ヴァツキ、生きていたのですね・・・。」
「プラムがここにいるってこたー、ただごとじゃないな。」
「その通りですわ。仲間を裏切ったのはやりすぎですことよ!今なら私が口添えいたします。戻ってらっしゃい。」
ヴァツキは黙った。たった一人の肉親だが、そう簡単に戻るわけにもいかない。何度も何度もしつこく追い掛けてきて、いまさら仲良くできるわけがない。
「いやだ。俺は戻らない。第一、あんなことで俺を裏切りというのがおかしい。俺とプラムは違う。」
「何をいうのです!貴方は山でしか生きられないくせに、山での生活を捨てようとするのですか!?」
「俺には海がある。海に住む。」
「その割には、毎晩毎晩山に戻ってきているではないですか。さ、戻りますわよ。」
「いやだ!俺はもどらない!」
ヴァツキはプラムの目の前から姿を消した。プラムは何となく気付いていた。ヴァツキが何か違う雰囲気でいることが。前はもっと狩りにしか興味のないような目つきだったのに・・・。
「まさか・・・ヴァツキ・・・。」
夜の山でヴァツキを探し出すのは不可能に等しい。プラムは諦めて、奥へ姿を消した。
「やっと帰ったな。俺の姉ながらしぶといっつーかなんつーか。」
「ここにいたかヴァツキ。」
木の上でプラムの様子をみていたヴァツキは、後ろから奇襲をかけられた。全く気付かなかったため、木から落ちる。
「てめえ・・・。」
「何をいう。裏切りものは生かさない。あのプラムの弟だからって今まで遠慮してきたがな。こんな暗ければプラムも解らないだろう。」
多くの声がする。これは自分一人では抜けられないだろう。助けを求めたところで、誰も来てくれはしない。夜目はヴァツキの方が有利。姿勢を低くたもち、隙をみて逃げ出す体勢に入った。
「逃げられると思うなヴァツキ!」
泥をかけられ、怯んだ隙に様々な攻撃が飛んでくる。眼に入った土を振りほどかなければ何も見えない。反撃しようがなく、ヴァツキはその場にうずくまった。
「裏切りもの・・・裏切りもの。」
低い罵声のようなものがずっとヴァツキの耳に聞こえていた。ヴァツキは誰に助けを求めるでもなく、ずっと耐えていた。そして顎に強い攻撃が炸裂し、ヴァツキの体は吹き飛ぶ。
「死んでしまえ・・・死んでしまえ・・・。」
あまりの痛みにヴァツキは限界を悟った。これ以上抵抗しても無理と分かって、ヴァツキは言い出した。
「もう・・・お前らの勝ちだ。」
「裏切りものが何をいうか。」
「頼む・・・俺を殺しても構わない。だけど、それなら俺を砂浜で殺してくれないか?」
「裏切りものが・・・」
「場所くらいいいだろう。どうせ人目につかないだろうからな。」
リーダー格のドンファンは言い出した。引きずられるようにヴァツキは砂浜に運ばれ、そしてリンチは続いた。
セドナ・・・・
セドナ・・・・
ヴァツキは心の中でセドナを呼んでいた。もう無理だと知って、最後に一目だけでも会いたい。そう思って、叫び続けた。しかし、叫びは声にならず、やがて朝日が昇る。その頃にはすでにまわりにはポケモンはいなかった。静かな砂浜に横たわるヴァツキがいるだけだった。
「ヴァツキ!?ヴァツキ!?」
いつものように迎えにきてくれたセドナは倒れているヴァツキをみて心配そうに何度も呼び掛けた。何度も、何度も。しかし、ヴァツキは何の反応もせず、ただ横たわっているだけだった。
「ヴァツキ、どうしたんですか?眼がどろだらけで・・・私が洗います。痛くないですから眼をあけて・・・。」
セドナは水鉄砲を利用してヴァツキの全身についた泥を洗う。そんんことしても、ヴァツキが反応するとは思えなかった。むしろ、泥を落としていくごとに知る、ヴァツキの傷を見て怖くなった。
「ヴァツキ・・・お願いです・・・またいつものように・・・私と会ってください・・・。こんな・・・こんな・・・。」
「・・・セドナ・・・・?」
「・・・ヴァツキ!?解りますか?ここにいます!」
「セドナ・・・・。」
ヴァツキはかすかに嬉しそうな表情を浮かべる。セドナに会えたことが、何よりも嬉しいことだと証明するように。
「セドナ・・・。」
「ヴァツキ・・・嫌です・・・私と友達でいてください!ずっと、明日も明後日も、その次の日も・・・おねがい・・・です・・・。」
「泣くなよ・・・。」
「泣いてませんっ!眼から海水が出てるだけです!」
横たわりながらもヴァツキは前足を動かしてセドナに触れる。控えめでありながらも強気に出るこのセドナに、全てを託すように。
「セドナ・・・泣くくらいなら聞いてくれ。俺はお前と・・・友達ではいたくない。」
「それ・・・は私のことが嫌いなのですか!?どうしてです?昨日はあんなに・・・。」
「セドナと、恋人でいたい。ずっと・・・明日も、明後日も、その次もずっと・・・。でも、俺がこんなになって・・・遺言みてーだけど・・・俺はセドナが好きだ。」
「ヴァツキ・・・ヴァツキ・・・っ・・・いか・・ないで・・・。言うだけいって・・・私の返事なにも聞かないで・・・ヴァツキいっ!」
弱っていくヴァツキを目の前にして、セドナは何も出来なかった。何が起きたのかも解らなかった。どうしていいかなんて全く解らなかった。
「シャワーズさんシャワーズさん。」
「・・・ツボツボさん?」
「ちょっと退いてくださいまし。ヴァツキさんのお姉さんのプラムさんから言われております。」
セドナは2、3歩後ろに下がった。いきなり来たツボツボは背中から、いかにもまずそうなドロドロとしたものをヴァツキの口に流し込んだ。
「きのみジュースです。一緒にどうですか?」
「え・・・あの・・・。」
「ああ、そうなんです。私、コツボと申します。ヴァツキさんの手当てをしてくれって頼まれてます。」
「あ、もしかしてあの秘薬師のコツボさん・・・。」
「海では有名ですかぁ。とりあえず、もうちょっとですね。」
コツボはドロっとしたものを傷口にも塗り捲る。あまりにおおくて、ヴァツキの体はドロッとしたもので覆われてしまった。
「夜に騒ぎを聞き付けましてね、岩場から歩いてやっと辿り着きました。このきのみジュースが落ちないなら海に入っても大丈夫。山の荒くれから守るためにも、海にいた方がいいかもしれないですね。」
「ありがとうございます。」
「仲良く・・・するんですよ。お互いに、ひかれあってここまで来たんですからね。」
コツボに言われてセドナは少し恥ずかしかった。コツボが去ったあと、動かないヴァツキの体を引きずって、波打ち際まで来ると、海へとくり出した。
セドナ・・・。
なあにヴァツキ?
セドナは、俺にとって、大切なものだから・・・離さない。
ヴァツキ・・・
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