暗闇のお伽噺

蒼月 水城さんに感想を送る

あの時、私は見た。
暗い、くらい、あのラボで。
もっと一緒にいたい。
ずっと一緒にいたい。

暗闇のお伽噺


パリーン!
「きゃあっ!」
少女が悲鳴を上げた。
びっくりしたように辺りを見回し、ほっと息をつく。
「なぁんだ、コレが割れただけか・・・」
そう、「チルリア」は胸をなでおろした。
「もう・・・私ってほんとに臆病っ・・・」
チルリアはぱさぱさと背中の羽を動かすと、気分を鎮めた。
そして見知らぬラボの中を、ランプを頼りに進んでいく。
何故、臆病なチルリアがこんな暗闇の、しかも怪しい研究所にいるのか。
理由は数時間前のとある兄妹喧嘩のせいだった。

           *

「へっ!臆病者!」
「お兄ちゃん!私は臆病じゃないもん!」
チルリアは、たった一人の肉親「ルリアス」と暮らしている。
兄はとてもスタイルが良くモテるのだが、チルリアは何故かもてなかった。
それをルリアスはチルリアが臆病だからと言い、チルリアは反撃した。
「臆病じゃないか!怖がりだし暗いところは駄目だし言葉は詰まるし、それにさ」

俺たちは血が繋がってないんだから、そんなこと気にするなよ。

「だったら言わないでよ!お兄ちゃんをぎゃふんと言わせてやる!」
「あの「暗闇の研究所」の一番奥まで行ってきてみろよ?」
ルリアスが冗談めかし、そして。
「行ってくるわ!お兄ちゃん、見ててよ!」
今に至るわけである。

           *

「はぁ、そんなこと言わなきゃ良かった・・・」
もう弱気である。
しかも、何処まで行けばいいのか分からない。
怖いし、暗いし、誰もいない。
そんなチルリアの「嫌い」が凝縮された空間だった。
「帰りたいよぅ」
一度弱気になると、どんどん弱気になる。
チルリアの性格だった。
兄との約束を忘れたわけではない。
あんな大口を叩いてしまったのだから。
「お兄ちゃんとの約束もあるけど・・・」
帰りたい。
呟いてから、へたへたと座り込んでしまった。
「ふぇ・・・ひっく・・・ぐすんっ」
涙が止まりそうにない。
こんなところで。
「怖いよ・・・くらいよ・・・誰か・・・っ!」


「大丈夫?キミ、何してんの?」


確かにさっきまでは一人だったはずなのに。
顔を上げると、少年がいた。
髪はシルバーみたいな、でもピンクがかった不思議な色。
パーカーに、長いズボン。
そして――
「あの・・・な・・・んで浮いて・・・?」
「気にしなくていいよ。キミ、チルタリスでしょ?」
薄ぼやけた、柔らかな光を体から発し、浮いていた。
少年はにこりと屈託のない笑いを返してきた。
「泣かないでよ。可愛いんだから」
「私・・・可愛く・・・なんかないです」
ボクはリュム。
そう、少年は名乗った。
「私はチルリア。どうしてこんなところにいるんですか?」
「ん?ちょっとね」
また、にこりと笑いチルリアに手を差し出した。
「お手をドウゾ、チルリア姫。君は可愛いよ」
「あ・・・」
そう言えば、座りこんだままだったとチルリアも笑った。


「ふぅん。お兄さんと喧嘩・・・。」
「うん。私とお兄ちゃん、血が繋がってないの」
夜が明けない、空。
二人は浮かんでいた。
チルリアはリュムに引っ張られ、羽ばたいている。
リュムはただ、ふわふわ浮いている。
「いいんじゃないの?そんな血とかさぁ」
「え?」
「ボクにもね、お兄さんみたいな人がいるんだけど」
空を見上げるリュム。
まるで顔を見られたくないと言うように。
「全然、会ったことないよ。けどね、やっぱりお兄さんなのかなぁ」
「そう・・・なんだ」
チルリアはリュムの顔を覗き見ようとした。
「さ、帰ろう?」
「う、うん・・・」
にこりとカタチどられたリュムの笑顔は、無理しているようだった。
ひゅううううう。
空を切って二人が飛ぶ。
「ひゃぁあ!」
「落ちないようにつかまっててね。キミならだいじょぶでしょ?」



ひゅうう・・・すとん。

「はい、ついた!・・・バイバイだね」
「・・・・・・」
チルリアは黙り込んだ。
家の前まで来たのに。
このまま家には帰ろうと思わない。
何か足りない。
何かが。
「リュム・・・くん」
「ん?」
チルリアは緊張して、詰まりながら、つっかえながら言った。

「私、も、もっと・・・リュムくんといたいです!」

心臓の音が聞こえそうだ。
壊れそうなほど、心臓がバクバクいっている。
ぎゅっと握り締めた手、下を向いた赤い顔。
「ボクもそう、思った」


真っ赤にしたチルリアの顔がはっと上を向き。

リュムがにこにこと近づいてきて。


刹那――頬に柔らかいものが当てられた。


「お兄さんに、言ってきなよ。待ってるから」




「ずっと、一緒にいよう」



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