緑色が好きな機械 前編
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バーカ 死ね キモイ ウザッ
次々と飛んでくる罵声と、炎・電気・格闘…と様々な攻撃…。その中心にいるのは、紫色の体に、大きな耳…、体はトゲトゲしていて、今は瞑ってはいるが大きい目…、…ニドランの♂だ。
彼は“集団リンチ”というものにあっていた。これは今日昨日に始まったことではない。ずーっとずーっと昔から…、もっともっと小さい頃から…こうして毎日虐められているのである。そのため、体には生傷が絶えなかった。青タンの他、切り裂かれたあとのカサブタや焦がされたために赤く腫れてしまった肌…、顔も殴られたために膨れあがり、耳の先は欠けていた。
彼はただじっと耐えていて、反撃などもしない。丸まって目を固く瞑っているだけだ。決して痛くないわけではないのだが、彼はいつもこうして嵐が過ぎ去るのを待っているのである。
…暫くすると、誰もいなくなった。いるのはイジメを受けていた張本人だけ…。ぴくりとも動かず、丸まっている。
いつもなら、体が動くくらいになると、起きあがるのだが、今日は違った。その欠けた耳に何かが触れたのだ。
血の所為で紅く染め上がった体がビクつく。
「傷ダラケダヨ。」
一瞬、耳を疑った。この欠けてしまった耳が、とうとう壊れたのかと思った。何故って、聞こえてきたその声は、機械音だったのだから…。
「血ガ出テルヨ。死ンジャウヨ。」
恐る恐る顔を上げてみると、一匹のニドラン♀が此方を見ていた。彼女はゆっくりと彼の体を隅から隅まで眺めると、
「目、綺麗ナ色ダネ。」
と言いながら笑った。それを見て、ニドラン♂は目を丸くした。
「…綺麗なの?」
「ウン!トッテモ綺麗ダヨ!素敵ナ緑色ネ!」
彼は更に目を丸くした。
「貴方、名前ナンテイウノ?」
「……ユド…。」
「ユド君ダネ!綺麗ナ目ハユド君ネ!」
何なんだ、この子、と思いながらも、この目の色を誉めてくれたことが嬉しかった。何せ、イジメの原因はこの普通と違う瞳の色なのだから。
「君の名前は…?」
「私、36号。」
ふざけてるのかと思った。36号?そんな変な名前があるもんか。
そう思ってしまったんだ。次の彼女の言葉を聞くまでは…。
「私、ロボットダカラ。」
虐めないでいてくれるのは、彼女だけだった。それどころか、誰かに虐められてるときは助けてくれる。ユドにとって、最初の…友達。ロボットだろうがなんだろうが、関係ない。傍に誰かが居てくれるだけで嬉しかった、ただそれだけ…。
「ユド君、ユド君。コレ何?」
「これはリンゴ。食べ物だよ。」
「食ベ物カアァー…。」
心底がっかりしたように溜息を吐く。
「ミムは食べれないもんねぇ…。」
36号だから語呂あわせでミム。ユドが付けた“名前”だ。
「ウン、残念ダケド、マァイイヤ。モット良イ物見ツケルカラ!」
そう言いながらガッツポーズをするミムを見ながら、ユドは柔らかな笑みを浮かべていた。笑うようになったのは、ミムが来てから。楽しいから、嬉しいから笑うようになった。
「アノネ、私、ユド君ノコト好キダヨ。大好キダヨ。目ノ色モ大好キダヨ。」
一生懸命、片言の言葉で、ミムは自分の気持ちを伝えてくれる。そう言ってくれるときは、決まって、ありがとうって言いながら笑ってしまう。そうすると、ミムは照れながら、えへへ、と笑い返してくれるのだった。
ミムのことが好き。
ずっとずっと一緒にいたい。
きっと、そう言えばミムはずーっと一緒に居てくれるだろう。
…でも、恐かった。
恐かったんだ、嫌われるのが。
嫌だって返されて、ミムからも虐められたらどうしようって、そればっか考えてて、言えなかった。
恐かった。
恐かった――…
「ユド君?ドウシタノ?具合悪イノ?」
気が付けば、ミムが心配そうにユドの顔をのぞき込んでいた。
「何でもないよ。ちょっと考え事。」
「ふーん…。」
まぁいいや…。
今のままで幸せだから。
だから…
ずっとこのままでいれることを願おう――…
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