緑色が好きな機械 中編
無々さんに感想を送る
「私、ロボットヤメタイ。」
ミムの言葉はいつも唐突だ、とユドは思った。ただし、今日はいつもと違って、呑気に笑っているわけではなく、真剣な顔だったのだが。
「私、皆ト違ウノ嫌。」
「でも…止めれないんだよ。ロボットはポケモンになれない。ポケモンもロボットになれない。」
「ヤダ。気合イデヤメル。」
気合いって…とユドは苦笑した。彼女は本当にロボットか、と言うほど頭が悪い。覚えたことは30秒で忘れるし、1+1=5と答える。だから、今日もこんな素っ頓狂なことを言っているのだと、初めは思った。しかし、今日はどうもそれが本気なようで、両手を上げながら一生懸命、ポケモンになれーと澄み切った空に向かって叫んでいる。
「何でそんなにポケモンになりたいの?」
思わず聞いてしまった。
皆と違うって言っても、彼女もポケモンの種類が無数にあることくらいは知ってる。個性というものも知っているはずだ。それなのに何故急に…?
「…ダッテ…私、ドクドク言ッテナイ…。カタカタキィキィ言ッテルノ。」
何のことかは直ぐに分かった。心臓と歯車を比べているのだ。
「私モドクドク言イタイ。カタカタキィキィ止メタイ。アトネ、寝タイ。食ベタイ。血ィ流シタイ。」
今にも泣きそうな顔だった。本当は泣きたいのだろう。でも、泣けないのだろう。
「私…泣ケナイ…。」
頬を押さえた。ぐいぐいと引っ張った。固かった。冷たかった。
「…私……温カクナイ………。」
温もりも冷たさもわからない。
こうして触ってみても、固いとしか分からない。
言葉も上手く使えない。
「私…生キテナイ…。」
ドクン…ドクン…
ユドは、まるで太鼓を叩いているような音が体中を駆けめぐっているのを感じていた。
ミムはそっとユドの胸の左側に手を当てた。その手は、外見は何ら変わらないのに、冷たくて固かった。
「ドクドク、イッテル…。」
次に自分の胸に手を当てる。
「カタカタ、イッテル…。」
そこまで言うと、ミムの顔は酷く歪んでいて、自分が『機械』だということを再認識していた。ユドはその様子を暫く見ていた。そして、ゆっくりとミムの胸に手を当てる。カタカタキィキィカコンカコン…と歯車が回っている音がする。
「…ミムは…生きてるよ…。」
「…生キテナイヨ…。」
「でも、カタカタいってるよ。」
「デモ、ドクドクイッテナイヨ。」
ユドは一回、大きな深呼吸をした。
「…本当に生きてない者は、何もいわないで静かだよ。」
ミムは大きく目を見開いた。数回、ぱちぱちと瞬きをすると、ユドの手の上に自分の手を重ねた。暫く、ユドの手を通して、自分の鼓動を聞いていた。
「…………生キテルノ?私…。」
恐る恐る、カタカタという音を聞いた。確かに、小さく鳴っていた。
ユドは数回頷いた。
「だって、動いてるよ。ミムの中で歯車がミムを動かしてるよ。」
カタカタ キィキィ ガタガタ キィキィ…
「…ね?それがミムの生きてる証だよ。」
「…………ウン。」
ミムは一度だけ頷いた。少しだけ、嬉しそうに微笑んだ。
しかし、それから直ぐに顔を歪めて、デモ…と一言呟いた。
「……私ハ………本物ジャナインダヨ。」
今にも壊れそうな笑みをうっすらと浮かべながら呟くその姿は、……生きてなかった。生きている者のする顔ではなかった。あまりにも弱々しすぎる言葉…。生きてない彼女を誰が救えるというのだろう…?
ミムは、バイバイ、マタ明日ネ、と呟くと、それこそ普通のニドランでは考えられないようなスピードで走り出した。深い深い…森の奥へと…。誰も届かない闇の奥へと…。
悲しげな表情を浮かべながら立ちつくしているユドの手には、まだ機械音が残っていた…。
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