緑色が好きな機械 後編

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 罵声が飛び交う。



 ただ、それの中心にいるのは、ユドではなかった。水色の機械…ミム。様々な攻撃を受けているため、歯車が数個、外れたようだった。変な音が、不定期に体の中を駆けめぐっている。
(…本物ナラ、痛インダロウナ…。)
 そんなことを思いながら、ミムは静かに目を瞑っていた。
 機械だから…本物じゃないから、こうして虐められる。ユドが虐められなくなった代わりに、自分が虐められる。ユドが痛くないなら別に良い、そう思いながら、水を掛けられ、火であぶられ、爆風に煽られる。
 そう…。
 今日もいつもと同じ…




 ガクンッ




「!!!」
 一瞬、何が起きたかわからなかった。ネジと歯車の外れた体では、もう立てなかったのだ。こんなときでも、痛みも辛さも感じないのが悲しい。ユドなら…なんて言ったかなぁ…。
 そう思っていたその時だ。なんというタイミングだろう。ユドが草陰から此方を見つめていた。大きな緑色の瞳が揺れている。
「…ミ……ム…?」
 ミムは動かなかった。
(オカシイナ…、意識ハハッキリシテルノニ体ガ動カナイヨ…。)
 ミムの体は砕けていた。銀色のネジが、ユドの足下に転がる。水色でツヤツヤな鉄板の下には歯車が、ネジが、鉄板が、コードが、変な機械の固まりが、ミムの全てが粉々になっていた。
 虐めていたポケモン達のうちの1人が呟く。
「……うわ……変な目の色の奴が来やがった…。」
 その言葉を引き金にユドは走り出した。
 何故もっと早く気づいてあげられなかったのだろう…。彼女の体の異変に…どうして気づかなかったのだろう…。ただそれだけが悔しくて…。本物じゃない機械の彼女を差別する彼らが憎くて…。ただ…走る…。全ての怒りを、恨みを、悲しみを、愛しさを、全部をミムを壊した彼らにぶつけた。




 …どのくらい経ったのだろう…。ユドの息づかいはとても荒い。体の所々に血痕が付いている。
 今まで、自分が虐められるのはなんとも思わなかった。皆、この目の色が悪いからだと思っていた。でも…今は…今だけは…自分じゃなくて、彼らを責めた。機械で何が悪い。血が流れて無くて何が悪い。ミムがミムであって何が悪い。…何が悪い…。
 ユドは壊れたミムに近寄った。
(ユド君…気ヅイテヨ…。私、マダ生キテルヨ。体ガナクテモ生キテルヨ…。……気ヅイテヨ…。)
 …気づいてよ…。動かなくても、生きてるよ…。気づいてよ…、ねぇ…。
「…ミム…。」
 ユドが小さく呟く。けれどもミムは動かなかった。全てが壊れてたから、ぴくりとも動けなかった。
 ユドは砕けた機械の中に顔を埋めた。
「…ミム…。何で言わなかったの…。言ってくれたら…助けれたかもしれないのに…。」
(ソンナノ…、ワカッテルデショ…。私ハ機械ダカラ平気ナノ。貴方ハポケモンダカラ、痛イノ。ユド君ガ痛ガッテル所ナンカ、私ハ見タクナイ。)
 届かない想い…。所詮は心の中でしかない語りかけ。きっとユドは、私が死んだと思ってる。
 やばい…こうして考えられる力もあと少しで底をつく…。
 ミムの頭の中では、機械音がザァーザァーと波打っている。
「…ねぇ、ミム…。答えてよ…。ミム…ミム…。答えてよ…。喋ってよ…。歩いてよ…。……死んじゃやだよ…。」
 ユドの声は弱々しい。もしかしたら、ほんとは叫んでるのに、ミムが聞こえないだけかもしれない。
(ユド君…、泣イテルノ…?)
 ユドの体が小刻みに震えている。細かい音は聞こえないから、すすり泣く声は聞こえない。




 もし…もしもだよ。
 貴方が私の為に泣いてくれているのならば…
 私は答えたい。
 大好きでしたって。
 もう一度だけ、喋らせて…。
 ずっとずっと大好きでしたって…。
 聞いて…
 届いて…
 伝わって…




「ミム…」
 ユドがもう一度、名前を呼ぶ。ミムは意識が朦朧【もうろう】としていたが、なんとか、聞こうとした。最期なんだ。最後の言葉、一つ一つまで聞いてあげたい…。
 ユドは顔を上げて、潤んだ緑色の瞳を此方に向けた。
「…もし、生まれ変わるなら…機械でも鳥でもタンポポでも電柱でも木でも星でも草の一本でもいいから…」




























































      ずっと  ずっと  僕の傍に居てね ――…





























































 その時、私は思ったんだ。
 機械でも愛してもらえてたんだなあって…。
 だからミムは、最後の力を振り絞って叫んだ。
 ミムの『ノド』の役割をしていた部分は、ヒビが入っていたみたいだったが、
 雑音が交じりながらだったが、
 すごく小さくて途切れ途切れの音だったが、
 確かにユドに届いていた。











































                                    ―― ユ ド 君 モ 緑 色 モ 大 好 キ ダ ヨ ――

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