桜が咲いたら。
わたぐもさんに感想を送る
おかしいかな?
だって私はポケモンで。彼は人間で。
とてもとても大事な、パートナーで。
・・・そんなあの人に、恋する、なんて。
『桜が咲いたら。』
「・・くら、さくら。どーした? 最近元気ないな?」
「・・・くぉー・・・・・」
大好きな彼に言われて、私は慌てて笑顔をつくった。
心配なんかかけられない。こんな、くだらない事で。
私は、・・・彼が好きなのだ。
パートナーだから、とか。懐いてる、とか。そんなんじゃなくて。
本当に、恋してしまったのだ。好きで好きでたまらなくて、そばにいたい、抱きしめて貰いたいと思ってしまう。
しかも最近、ますますその想いが強くなった。
「ほら、さくら。もうすぐだぞ」
「くー?」
「お前も好きだろ? 桜の花」
もうすぐ、というのは別に私たちが旅をしていて次の目的地にもうすぐ着くとか、そういうコトじゃない。
彼は生まれたこの町で一生を過ごすのだと、いつだったか豪語していた。彼が言っているのは、町中至る所に植えられた桜の開花のコトだ。
「だいぶ暖かくなってきたし・・・さくらはどの木が一番好きだ?」
「くー・・・くぁっ、くぉー」
「あ? ・・・ああ、あの木か? ははっ。じゃあオレと一緒だ。
オレもあの木が一番好き」
・・・同じ木が、好き。それだけでココロがこんなにも浮き立つ。
それに私は与えられた自分の名前も好きだった。彼が大好きな桜。
その名を、もらえたから。
こんな変な気分になるのは、春だからかもしれない。
春は始まりの季節だ。惹かれ、出会い、
そしていつか新たな生命が生まれる。
全ての生物が息づき、目を覚ます。
暖かな陽の光と優しい風を受けて、旅立つ。
・・・そんな季節だから、私も。春の恩恵を受けてそこに立つ彼を、
好きになってしまったのかもしれない。何となしに見上げると、「ん?」と返され、
・・・何故かとても顔が熱くなって、私は視線を桜の木に戻した。
「桜が咲いたら、みんなでお花見しような。弁当持って、シートひいて」
「くぅあー!」
「だーいじょうぶ。ちゃんとお菓子も持ってくよ。・・・それから、・・・」
楽しそうに話す彼に相づちを打ちながら、私のの心中は複雑だった。
みんな、より二人、がいい。どうしても、そう思ってしまう。
ひょっとしたら他のポケモンたちは私に気を遣ってくれるかもしれないけど。
(彼に恋したと言った覚えはないのに、何故かバレているようなのだ)
おかしいよね。
だって私はポケモンで。彼は人間で。
とてもとても大事な、パートナーで。
・・・そんなあの人に、恋して、しまった。
「・・くら、さくら? ホントに元気ないな。今日はもう帰るか?」
「・・・・・」
笑顔が、引きつってしまったからかもしれない。
彼はちょっと眉を下げて、ひょい、と私を抱き上げた。
・・・うわぁ、ちょ、タンマタンマ!!
「ごめんな。モンスターボール、置いて来ちゃったから」
「く・・・くあー・・・」
顔が近いッッ!! どうにも気恥ずかしくて、
ココロの中はもやもやしてる。・・・・・でも。
幸せ。
「さくら。花が咲いたら絶対、見に行こうな」
「くぉ・・・」
「・・・二人で、さ。初めて会った場所に」
・・・え。
あの、・・・スイマセン、もう一回。
「覚えてるか? 初めて会ったとき、お前桜の花びらに埋もれて寝てたんだ。
相当桜が好きなんだな、って思って名前はさくらにした。・・・それでオレも、桜が好きになったんだ」
「・・・!」
ふわり、と笑う彼はとてもとてもキレイで、
・・・やっぱり、大好きで。
今はもうぼんやりとしか覚えていない一年前を必死に思い出す。
多分あの時は別に桜が好きだったワケではなく、
たまたま寝てたのが桜の木の下だっただけ。・・・でも。
それでも、彼は。
桜が好きだから『さくら』じゃなかった。
私が『さくら』だから。桜が好きだって。
そう、言ってくれたんだよね?
「だから、さくら。二人で見に行こう」
「・・・くおっ!」
彼の腕の中で、私は元気よく返事した。
私の恋に、彼は答えてはくれない。・・・答える事などできない。
でも彼は確かに、一握りの愛を、くれるから。
それで、いい。
それだけで、いい。
私は彼に恋をして、彼は私に愛を与えた。
きっと、それで、十分だ。
桜が咲いたら二人、並んで。今はもう覚えていない、
あの場所へ行こう。
枝いっぱいに咲いた花を見上げて、彼は笑ってくれるだろう。
花びらに埋もれながら、眠るのもいいかもしれない。
桜が、咲いたら。
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