秘密の友達
まっしらさんに感想を送る
昔から、この土地は半分に分けられていた。
半分をニドラン♂が、もうまた半分をニドラン♀が所有している、といった具合
に。
小さい頃から聞かされていた、あの言葉。
『あいつら、おしとやかな顔して、我らからこの土地を奪うつもりだ。決して近
寄るんじゃない。』
ずっと言い聞かされていたため、それが真実だと信じきっていた。
それを確認することも考えなかった。
半分に分けられた土地のなかに、大きな湖があった。
湖もきっかり半分に分けられている。
久しぶりにそこへおもむいた。
特にこれといった理由もない。なんとなくなのだろう。
「きみは…。」
わたしがまだ幼い頃か
ら、言われ続けていたあの言葉。
『やつらはわたしたちのいる、この土地をぶんどるつもりなのさ。絶対に近寄っ
ちゃダメだよ、いいね。』
ずっと言われ続けていたその言葉。
すでにお決まり文句のようなものになっていた。
毎日行くあの湖、誰もいない静かな時間は好きだった。
今日も、またそこへ足を運ぶ。
「あなたは…。」
―秘密の友達―
その出会いは突然だった。
なんの前触れもなく、そう、突然に。
それから二人は毎日会った。
それぞれの日常に起こる笑い話、哀しかったこと怒ったこと。
他愛もない話だったけれど、それはとても楽しかった。
自分の名前を語らないことは暗黙のルール。
お互い、会うことは許されないと知っていたからだ。
ならばせめて、名前だけは秘密にしておこう。
―とうさんが言っていたあの話は嘘じゃないか、だってあのコといるのはとって
も楽しいもの―
―かあさんが言っていたあの言葉は嘘だったのよ、だってこのヒトといるのはと
っても楽しいから―
ある日、それは叶わなくなった。
二人の仲は引き裂かれた。
彼らにはルールがあったからだ。
『なんでやつらと会ったりなんてしたんだい』
『まったく、お前というやつは』
『あいつのことは忘れるんだね、しばらくそこで頭を冷やしておいで』
『もうそいつのことは忘れるんだ、もうおまえを一人ではどこへも行かせないか
らな』
二人は嘆き、悲しんだ。
あのヒトに会いたい、会って話がしたい。
また元気な顔が見たい。
それから何日もたったある日のこと。
その月日は、二人を湖へ向かわせるのには充分だった。
二人は仲間の目をかいくぐり、会った日と同じ場所にでる。
二人は思い切り抱き合った。
大粒の涙を流しながら、今まで会えなかった月日を埋めるように。
それからいろんな話をした。
今まで話せなかったぶんの思い出を。
二人は、かみしめるように。
『やつらが、うちの息子を連れ去ったんだ』
『わたしの可愛い娘を…』
『やられるまえにやってしまおう!』
『戦いの、準備を!』
しばらくしてから、二人はは仲間たちが争うことを知った。
このままでは二つの群れが大変なことになる。
たが、二人にはどうすることもできなかった。
小さくて非力な、自分を呪った。
「ねえ、ぼくらでここをでていかない?」
「ここを?」
「そうさ、二人で新しい群れを作ろう。争いのない、いい群れを。」
「そうね、いい考えね。…でも、」
「でも?」
「それは、現実から逃げることだと思うの。」
ふわっ、と風が吹いた。
まるで、今までの歴史を変えるように。
暖かい風が、ふわり。
すこし経った森のなか、二つの群れが対立していた。
互いに殺気を放っている。
自分の群れを守るため、自分の子供を守るため。
守りの心はいつしか、憎しみに変わっていた。
『わたしの息子を返せ』
『わたしの娘を返しなさい』
ガッ
二つの群れが激突した。
お互いに憎しみの心をぶつけながら、傷つけあった。
そこへ、二人はやってきた。
争いを止めるため、これからを変えるため。
自分は儚くて非力だから。
その存在を確かめあうかのように、二人は軽く見つめ合う。
「とうさん、もう止めて。」
「かあさん、いい加減にして。」
心からの願い。
平穏に暮らしたいという二人の願い。
二人だけではなく、ここにいるすべてのものの願い。
程よくして争いは終結した。
『…あなた、またやり直せる?』
『すまなかったな』
昔、この二つの群れは一つだったらしい。
そして争いを止めた二人は抱き合った。
群れを祝したのかなんなのか。
これまた大粒の涙を流しながら。
彼は彼女の涙を拭いとってやった。
彼女は彼の涙を拭いとってやった。
初めて二人は名前を教えあった。
この日をどれほど待ちわびただろうか。
「ぼくは、セツナ。」
「わたしは、ミネ。」
二人は笑った。
セツナなにっこりと。
ミネは控え目に。
そうして、今まで一番言いたかったことを同時に口にする。
「好きだよ。」
『やっぱり、どっちが先に水を飲むかなんかで喧嘩するんじゃなかったわね』
『そうだな』
群れが、怒りに燃えた。
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