ソフトボールのセレナーデ
無々さんに感想を送る
「はぁん?告白の仕方ぁ?」
とある森のとある草むらの中、人目に付かないような場所で、間抜けな声を上げたのは、この和やかな自然の風景とはかなりミスマッチなゴースである。
その隣で
「馬鹿っ!声がでかい、ハゲ!!」
っと小声で叫びながら、ゴースをぶん殴ったのは、これは珍しい、雄のプクリンだ。
「ぃって!アキヒ!御前、ノーマルタイプの癖にゴーストタイプの俺に触れるから嫌いだ!それに、頭に毛があるからって偉そうだぞ!!」
「何で説明口調なんだよっ!こんなこと相談してるこっちが恥ずかしいんだから、とっとと教えろっ!!」
アキヒの頬がほんのり赤い。ゴース…カガネもそれを見て、自分をからかってるわけじゃないとわかると、気を取り直して、何でまた急に、と尋ねた。まあそれをぺらぺらと喋れるアキヒじゃないわけで、もごもごと俯きながら、まるで呟くように説明する。
「…や…だからその…あれだよ…結構前から…か…かわいいなぁ…って思ってた子が…い…いるんだけど…」
普段、一緒に暴れたりしている彼からは想像がつかないくらい、顔を真っ赤にしてたもんだから、カガネは思わず吹き出した。
「…なんだよ…。」
当然、アキヒは不機嫌になってしまうわけで、まーるい体のふにふにした頬を膨らませた。またチョップを喰らうのは御免なので、カガネは悪ィ悪ィ、と言いながら少し後ずさる。そして、こほん、と咳払いをすると、
「ま、初めは“お友達”からだろ、普通は。ちょっと何気ない話をしながら、徐々に近づいていくのが一番良いんじゃ…」
「だっかっらっ…それが出来たらこんな恥ずかしいこと、御前なんかに相談しねぇよ!!」
「ハァ?何それ、どーゆーことだよ。」
カガネが苛立たしげに尋ねると、アキヒは大きな大きな溜息を吐きながら言った。
「…その子…、男嫌いなんだよ…。」
…………しばしの沈黙が流れる。
「…え゛?」
顔を引きつらせながら、聞き間違いかと思い、カガネが聞き返す。アキヒは、赤くなった顔を青色に変えて、
「だから…その子、男が嫌いなんだよ…。」
「…………………まじ?」
カガネが黒い顔に冷や汗を伝わらせながら、更に聞き返すと、アキヒは、更に更に顔を赤く染めて、
「っ〜〜〜〜……!!!まじだから…どうやって告白すりゃ良いかを聞いてるんだよ!!!」
いや…そう言われても…、と言わんばかりに、カガネは苦笑した。目の前には、顔を真っ赤にしながら、自分に相談してくる親友。逃げ出したり、曖昧な答えを言うのは許されないだろう。だからといって、そんな良い考えが…
「あった。」
ピーンと豆電球が光る。
「え、まじ?」
アキヒは身を乗り出して…と、いうか、カガネの額から2pの所まで顔を近づけた。カガネはにっこり笑って、まじまじ、と頷いて見せた。ゴーストポケモンが優しく微笑むというのは妙なものだが、そんなことは気にしない。
「何何何何!?とっとと教えやがれ、はげ!!」
っと、言いながら、身を乗り出している。それに苦笑しながら、ゴースは、まあ落ち着け、と呟いた。そして、軽く上を向きながら、自信満々に、
「御前が女の振りすりゃいい!!」
…と、主張するのであった…。
「…なぁ…、まじでやんの?」
「あら、アキちゃん、その娘とお友達になりたくないの?」
「そのおばはん口調、やめれ。」
「ほらほら、てきとーに前通って『良いお天気ですね』って言ってこりゃぁいーんだよ。はーい、いってらっしゃーい。」
どんっとアキヒの背中を押すと、アキヒは嫌でも彼女のいる丘へと突き出される。のぞき見すんじゃねぇぞ、と言い残すと、彼女のいる丘へと駆けだした。カガネは、へぇへぇ、と言いながらニヤニヤ笑うと、くるっと一回転するなり、姿を消したのである。
彼女はマリル。普段は水辺にいるはずだが、彼女はいつも、決まってこの殺風景な丘に腰を下ろしている。殺風景とは言っても、これまた目立つのは一本だけ大きな楠が生えているのだが。
ギクシャクした、まるでロボットのような動きで、アキヒはマリルに近づき、そして
「と…隣、宜しいでしょうか?」
と、普段では考えられないような敬語と、少し高い声で尋ねた。
マリルは一瞬きょとんとしたが、すぐににっこり笑って、どうぞ、と柔らかな声を出した。その言葉にほっとして、アキヒは隣に腰を下ろした。
「良い天気ですねぇ…。」
彼女はうーんと伸びをする。アキヒに至っては、もう隣にいるっつーこと事態が、脈を速めるわけで、丸い目を白黒させながら、そそそそそうですね…と、答えた。明らかにどもっているのだが、彼女はそんなことは気にしない。
「…名前、何て言うんですか?」
と、ほのぼのとした会話を続ける。流石に『アキヒ』ですなんてほんとのことは言えないわけで
「あ…アキっていいます…。」
…あんまり変わらない偽名を使ったのである。もう顔から火がでて、放火犯になるんじゃないかってぐらい熱い。俯いてないと、それがばれてしまうので大変だ。
「アキさんね。私はシュン。宜しくね。」
どっちが男でどっちが女だかわからない名前だ。
シュンが手を出すと、“アキ”はその手を恐る恐る握った。…温かかった。
「アキさんは、よくこの丘に来るんですか?」
「え…あ…はい…。良い眺めですよね、此処。」
「ですよねぇ〜…。私、湖の皆とあんまり相性が良くないから、よく此処に逃げてくるんですよ〜。」
そう言いながら、シュンは笑った。そして、変ですかねぇ?とアキに尋ねる。
「……変じゃないと…思いますよ。」
ドキドキしながらしぼり出した声は、震えていた。シュンは、そう?と尋ねかえした。
「…私、ノーマルタイプなのにゴーストタイプに触れるんです。だから、私もやっぱ群れに馴染めなくて…。」
不思議と、すらすらと言葉を並べられた。こんな弱音を吐いたのはカガネの前だってない。本当に、自分でも不思議だった。
シュンは、アキの言葉を聞くなり、ぱあっと表情を明るくした。
「でしたら、私と友達になってください!」
「え?」
「私、向こうで馴染めないから、いつも此処に居るんですけど、…友達がいなくて…。」
最後の方は、恥ずかしそうに声を縮めた。耳をてろんと垂れさせ、顔もほんのり赤い。それを見て、アキヒは顔も赤くした。…可愛い、そんな言葉を思い浮かべて、更に赤くなる。
「…も…勿論。私で良ければ…。また、此処に遊びに来ますよ。」
その言葉を聞いて、シュンの声はぱあっと花が飛ぶように明るくなった。
「本当!?」
「…うん。」
シュンは嬉しそうに頬を染めた。
「…嬉しいっ…。」
そんな嬉しそうに笑うなよ、とアキヒは苦笑した。恥ずかしいのはこっちなんだから。そう思いながらも、これで一歩踏み出せた、とニヤけたい気持ちが膨れあがるのだった。
それからは毎日毎日、その丘で他愛のない話をした。その日々が嬉しいことは嬉しいが、アキヒは彼女を騙してるという罪悪感に少々潰されていた。いつまでもこうしてるわけにはいかないだろうなぁとか思いながら。
「私、小さいとき知り合いの男の子にいじめられた記憶があってね、それ以来男の子が怖くて…。」
「…はあ…。」
相っ変わらずこんな話である。
「…ねぇ…、歌ってくれませんか?」
「え゛?」
かなり突然のシュンの要望に、アキヒは濁点をつけた声をあげる。
「プクリンの歌って一回聞いてみたかったの。歌って下さいなっ。」
急にそんなことを振られて、アキヒは焦った。…そして、顔から湯気が出るほど真っ赤になりながら、俯き、
「…俺…音痴だから…。」
と、呟いたのである。
今度はシュンが、え?と言った。
「俺、プリン族でも歌が下手だから…外れモンで…。」
歌が下手なプリン族なんて、というのが彼の仲間の言葉であった。シュンにも馬鹿にされるかもしれない。怖くてしょうがない。歌、下手だね、とは言われたくない。だから、今まで歌ったことだって数えられるほどしかない。自分が傷つくのが怖いだけ。…けれどもシュンはそんなことは言わずに、無理言ってごめんね、とだけ言ってくれた。嬉しかった。だから、優しいね、と言ってあげると、シュンは照れながら、ありがとう、と微笑みかけてくれた。アキヒの中で彼女の好感度がぐんぐん上がる。彼女を知るだけ好きになる。…止められない。
そんな日々が毎日続いていたある日のこと。
「…私、アキさんのこと好きです。」
「…へ?」
シュンが唐突に自分の考えを述べたのである。
「アキさんは私のこと嫌いですか?」
「…え…あ…い…いえ…。私もシュンが好きですよ。」
「…ふふ…、良かった!」
…え?ちょっと待ってくれ。今勢いで言っちまったのはともかくとして、俺は今…女なんスけど…。
「私、アキさんのこと大好きだったんですよ。アキさんとっても可愛いですし。」
え。
え?
ええぇぇぇぇ!!!!!?????
これって…レズっちゅーもんじゃないかっ!!!いや…好いてくれるのは嬉しいけど…でも…女同士でらぶらぶは勘弁だ!!!!!
「あ、私今日はこの辺で。また明日!」
シュンは大きく手を振って、頬が赤いまま丘を下りていった。
「…よーお!告白されちまったみてぇだなぁっ!」
ひょんっと姿を現したのはカガネである。
「…てっめぇ見てたのか!!!」
「今日はたまたまなぁ。それより良かったじゃねぇか。おめっとぉさんっ。」
アキヒは目を潤ませて顔を真っ赤にしてカガネを揺すぶった。カガネは残像を残して叫び声をあげる。
「馬鹿やろおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!!!!女だと思われて告白されて何がいいんだあぁぁぁっっ!!!!!何とかしやがれ、こんのはげえぇぇぇっっっっ!!!!!!!!!!」
「げおえうぐあぁぁぁぁぁぁっっっっっ……!!!!ちょちょちょちょちょちょちょっとおちちちちちちつけけけけけけ!!!!」
…さて、そして10数分後。
「や…やっと落ちついたな…。」
息荒にそう言ったのは顔を真っ青にしたカガネである。うぷっと口を閉じてることからして酔ったらしい。ちなみに、その酔わせた張本人ことアキヒは顔を赤くしながらブツブツ言っているのである。
「…で、何だっけか?女だと思われて告白されたって?はっ、阿呆かいっ!」
「阿呆っつーな!禿げ!!!」
「いちいちハゲっつーなっ!」
ふぅ、とカガネは息を吐いた。
「…まあそれはともかく、そろそろ正体明かした方がいいな。」
「え゛、まじ?」
「だってよ、このまま騙しといたら可哀相だろ。いっそ御前が振られた方がいいって。」
「って振られること前提かよっ!」
「ったりめぇよ。上手く行けばそれも受け入れてくれるかなーみたいな?」
アキヒは言い返そうとしたが、このままシュンを騙し続けるのはさすがに気が引ける。結局、反論もせず、ゆっくり首を縦に振ることしか出来ないのであった。
「シュン、ごめんな。」
「?どうかしたの、アキさん。」
翌日のことだ。会ってすぐ話をつけることにした。出来ればずっとずっと一緒にいたかったけど、騙している時間は短い方が良いに決まってる。
「アキさん?」
「…俺、本当は男なんだ。」
シュンは口を少し開いた。
「騙しててごめん。」
深く深く頭を下げる。少しでも一緒に居れたならいいだろう。少し心に残っててくれればそれでいいだろう。…ほんとはもっと一緒にいたかったけど、彼女を騙してるのは一番嫌だ。
「あの…アキさん…顔を上げて下さい。」
シュンは恐る恐る声を掛けた。そして、一つ聞いてもいいですか?、と呟くように尋ねた。
「…私を好きと言ってくれたのも嘘ですか?」
アキヒは顔を上げて、少し他所を見たが、
「…それは本当。ずっとずっとシュンが好きで、近づきたくて…」
「なら良いですよ。」
「…は?」
「元々アキさんが男なのは知ってましたから。」
「…へ?」
「何せ男臭さが滲み出てますもの、分からないわけがないですよ。」
…男臭さって…。
「初めは何かの間違いかと思ってましたけど、なんか本当に男の方みたいで、だんだん吃驚してました。…そして、今日その事実をアキさんの口から聞かされたと。」
アキヒの顔がかあぁっと赤くなる。恥ずかし…。
「へぇ、めでたいねぇ…。」
頭上から声がした。
「げ、カガネ。」
「げ、とはなんだ、このカツラめ。」
カガネはふよふよとアキヒの隣に舞い降りた。っと同時にシュンが一歩退く。
「よ、シュン。久しぶりー。」
「え?カガネ、シュンと知り合い?」
「へ?アキヒの好きな人ってシュン?うわあ、イ・ガ・イぃー。」
シュンは青い顔を更に青くして、俯いていた。それを見て、アキヒはがしっとカガネを鷲掴みにした。
「カーガーネエェェェ…」
「いやん、怒らないでアキ姐さん!」
「御前かあぁぁっっ!!!シュンの男恐怖症の犯人はあぁぁぁ!!!!!!」
「ちょ…ギブギブギブギブギブギブ…揺するのは勘弁してくれれれれれって…アアアアアアキアキキアキアキヒヒヒヒヒ…!!!!」
出た。アキヒの必殺☆揺すり攻撃(カガネ専用)。
「…ふふ…あはははははっ…」
喧嘩をぴたりと止めたのはシュンの笑い声であった。シュンは大きな口を開けて笑っていた。
「…シュ…シュン…?」
汗をたらたらと流しながら、アキヒがシュンの名を呼ぶと、シュンは
「あんっなに怖かったカガネ君がちっちゃく見えるっ…。アキさん強いね!」
と微笑んだのだった。
その言葉は、アキヒを真っ赤にするには十分すぎて、カガネがアキヒをからかう材料にはちょっと度が行きすぎていて…。カガネはこほんと咳払いをしながら空を仰ぎ、呟いた。
「祝言あげるときは呼べよな。」
「なっ…。」
「アキさん、歌って下さい。」
「……でも俺は…」
「音痴だろうが何だろうがいいですよ。私はアキさんの歌が聴きたいです。」
「あ、俺も聴きたいー。アキヒ、歌え!」
狼狽えながらも、アキヒは口を開けた。確かに音は外れるし、リズムもぐちゃぐちゃ。それでも、綺麗なテノールの声と仄かに温かい曲は風に乗り、丘の上を、森の中を、皆をくすぐる。上手いわけじゃなくても、温かい。それで十分だ。
「…アキさんの歌、私は大好きですよ。また私のために歌って下さいね。」
シュンが笑いかけると、アキヒも満面の笑みで、ありがとう、と答えた。
さて、そんな中、木の裏側で、空中に浮かび、広い広い澄んだ空を眺めていたカガネは呟いた。
「あーあーあー…あっついあつい。」
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