砂の海
空真さんに感想を送る
「暑いな」
「・・・ああ」
「こんなくそあちいと、やっぱアレしたくなんね?」
「・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・なんで黙りこくるんだよおいっ!!」
「ったくよう、お前が無口なのはよぉぉぉっく知ってっけどさぁ」
ぶちぶち、と文句を言いながら、少年は落ちていた流木を使い砂浜に線を描く。
ざぁ・・・・ざぁ・・・・と満ちては引き、何かを残しては消していく海の音を片耳に聞きながら、黒髪の少年はやる気無さげに眼を擦っている。
どうやら、眠いらしい。
せわしなく働く少年の方はというと、そんな様子を片目に映しては、何時もの事何時もの事、とブツブツ・・・まるで呪詛のように呟いている。
黒髪の少年はそんな様子が全く見えていないようで、己の胸に抱くロコンの背を撫でていた。
撫でながら、寝ていた。
「・・・・・・てめ、俺がわざわざバトルフィールド作ってやってんのに、寝るたぁどういう心意気だこらぁぁ!!!」
「・・・・・うるさい」
耳元で怒鳴られながらも平然と・・・・いや、さすがに眉はしかめて文句を言っているが・・・・・・、少年は気だるそうに大口を開けた。
その髪色同様の漆黒の瞳が、涙の膜を張る。
腕の中ですやすやと依然眠り続けるロコンを抱えなお
「取った」
「!!!!」
・・・す前に、その紅く滑らかな毛皮は、つい先ほどまでじとっと睨んでいた少年の手によって奪われた。勿論少年は一瞬のうちに、彼と大きく距離を取っている。
驚愕を通り越して殺気立った漆黒の睨みを受け流し、少年は口端を上げてニヤリと笑う。
「俺と、やるだろ?つか、やらなかったら、こいつは返さねぇ」
「――――――」
返事は無い、しかしそれは否定ではなく。
太陽を受けて強い光を燈した漆黒の瞳は、陽炎を立ち昇らせるほどの闘氣を放っていた。
++++++
漆黒の髪に漆黒の瞳の少年、彼の名をシンヤと言う。
第四次ポケモンリーグチャンピオン、にして、最強の名を冠された、無口な少年だ。
いつも傍らには紅の毛皮が美しいロコンがいて、名はコロン。それがただ唯一の弱点・・・というのはポケモントレーナーにおける一般常識。
ただし、弱点がわかった所で並大抵のトレーナーはロコンに触れる前に全てが終わってしまうので、あまり意味を成さない情報なのだが。
そして、ただ一人シンヤ以外に、ロコンに触れられるのが、シンヤのライバル、シン。
隣近所に住んでいて、同い年、ポケモントレーナーをずっと目指していて、それこそ、生まれる前から一緒。おまけに名前まで似ている。
そのためか、シンは幼い頃からバリバリ対抗心を燃やしていたが、シンヤはと言うとこの調子。
ポケモントレーナーになっても、バトルが大得意なくせに、シンヤは面倒くさがる。
そうして、シンが考え出した方法が、この、「コロンを掛けて決闘」方式だ。
その方法を用いないで戦ったのは、ポケモンリーグだけと言う事になる。
++++++
「方式は3対3、入れ替えはオーケー、手持ちが全部戦闘不能になったほうの負け、いいな!?」
「・・・・・・」
ぼぼぼぼぼぼぼ。炸裂音がきっかり12回、ほぼ重なって聞こえた後、シンヤの姿は見えなくなった。
彼の全手持ちが、己の主人を取り囲むように出現したためであるのだが。
シンも同じように自分の手持ちを出し、そのうち3匹だけボールに戻して、残りはビーチパラソルの下で今だ眠りこけているコロンの傍に行かせる。
同じタイミングでシンヤも同様の事をして、彼の9匹のポケモンたちが砂浜で観戦態勢を取っている。
「相変わらず12匹・・・コロン入れて13匹全員連れてんのか?大変だろ、ポケモン達の方が」
「・・・・・・・・だろうな」
それでも文句も言わず、主人のやりたいようにやらせてくれている。
そんな彼らの主従関係は危ういものではなく、むしろがっちり繋がっているのだ。
普通のポケモントレーナーであれば6匹がせいぜい面倒を見切れる範囲だというが、彼は本気で12匹に同じだけの愛情と努力を注いでいる。
すごいな、と心の中で感心しているなどとはおくびにも出さないようにしつつ、彼は待機組のリザードンに視線を送った。
3年もこうした環境の中で過ごしていると次にやる事はわかっているらしく、準備万端に用意していた白いハンカチを、その鋭い爪で器用に持って、上げた。
ひらりと舞い落ちたそれが砂の上に覆いかぶさる瞬間、二人の少年は同時に動いた。
「キイロ!”サイコキネシス”!!」
「ハナビ、”10万ボルト”」
念波と雷撃がぶつかり合って空中で四散する。
キイロと呼ばれたフーディンは、構わずそのまま突っ込む。
「もいっちょ”サイコキネシス”!!」
至近距離で打たれたサイコキネシスは、高く高く砂を巻き上げる。
それは、相手には当たっていない。
「”高速移動”」
「ちっ、戻れっキイロ!!やったれムラサキ、”催眠術”!!」
輪状のそれが、高速で移動し続ける花火に当たりそうになるが、彼は俊敏にそれを避けていく。
だが、彼は追い込まれている事に気付かない。
はっと足を止め、速すぎて見えなかった正体が見えた瞬間、シンがにやりと笑った。
「”金縛り”!!」
ピィン!と空気が張り詰めた音とともに、ピカチュウの動きが完全に止まる。
「もう一回、”催眠術”!!・・・・そして、”夢食い”だ!!」
バタリ、とその黄色い体が倒れ、砂浜の上で、掻き消えた。
「・・・・は、」息が零れる。瞬間、
「”10万ボルト”」
どぉぉぉん!!と腹に響くような落雷の音がして、残ったのは黒焦げのゲンガーだった。
「・・・・んのやろっ・・・・”身代わり”か・・・!!ったく、涼しい顔してやってくれるぜ・・・・・」
「そっちは、”ナイトヘッド”・・・・か」
10万ボルトを放った格好のまま眼を回しているピカチュウをボールに戻し、シンヤがぼそりと呟く。
「一定量のダメージ、キイロのサイコキネシスと自分の身代わりで、体力が4分の1以下のハナビにはキツイだろ。
お前のハナビがあんなに簡単にやられるわけねぇもんな、指示しといて正解だったぜ」
悔しそうな顔というよりはむしろ、何回戦っても魅せられる相手の技術に酔った表情を歪め、シンは再度キイロを出した。
シンヤの二匹目はジュゴンのすずみ、放たれた瞬間、白い体躯から冷気を放つ。
「”吹雪”」
「いきなり大技かよ、くそったれ!キイロ、”サイコキネシス”で跳ね返せ!」
大技と大技がぶつかり合う。激しい風に煽られながらもシンは腕で己を庇ったりしない。シンヤも、また。
「”冷凍ビーム”!」
「”サイコウェーブ”!!」
冷気と念波はぶつかり、誘爆し合う。軽いキイロの体が吹き飛ばされかけるが、彼は己の念動力でその場に持ち堪える。
「”のしかか”れっ」
「受け止めろ、キイロ!」
ガカっと音がして、二匹の体が離れる。
「・・・熱くなってきたな?シンヤ」
「・・・・・・」
肯定はしないが、その闘志の昂ぶり様は、漆黒の瞳にありありと映し出されている。
にぃっと笑みをひとつ零して、シンが3歩後ろに下がった。
「キイロ!」
ピクリとフーディンがその声に反応した。
ジュゴンを睨みつけていたその瞳を閉じ、空中に浮遊する。
その隙を狙って押しつぶそうと跳ね上がったすずみを全く見ないまま、その両腕に持ったスプーンは彼女をはっきりと捕らえている。
「すずみ、来るぞ」
「遅い!”破壊光線”!!!」
破壊音とともに、強烈な光が視界を奪う。
・・・やがて音と視界が色を取り戻したとき、
「すずみ、ありがとう」
倒れ伏した真白の体と
「・・・早いな、このヤロ」
腹に一撃を受けた状態から、ぱたりと砂に落ちたフーディンの姿がそこにあった。
目の前には、ギャロップ。
「お前の最後の一匹、ゴウだってのはわかってたけどよ・・・ちっ」
「・・・・・・だから、急いだんだろう」
「よくおわかりで。戦いにくいから、少しでも体力落としとこうと思ったんだけど・・・なぁ、チャキ」
対峙するは、鮮やかな朱色のブースター。
そう、二人は、お互いの手持ち3匹を、最初から読んでいた。
相手の手の内を知り尽くしている・・・だからこそ、フェアに戦いたいと思う二人は同じ行動を起こし、自分の手持ちが何かを、限定させる。
「で、お前はチャキが出るってわかってて、あそこで・・・すずみを出すんだな」
「相性がいいのは、タイプだけだ」
「知ってるよ、氷技三つにのしかかり。それでもあののしかかりだったら、チャキにダメージを与えられるんじゃねぇの?」
「お前のチャキには、近づかない」
「・・・・・・・・・よく、わかってるじゃねぇかっ!!」
話をしながらもジリジリと間合いを取っていた二人と二匹が、ほぼ同時に飛び出した。
“影分身”を繰り出し、上下から攻め入るチャキに、ゴウは”踏みつけ”を繰り出し、火炎放射を浴びせる。
すかさず飛び退ったゴウの影の下の砂が、焦げて細かく砕け散る。
「チャキの火炎は2000度超、青い炎も出るぜっ!!熱くi
こうじゃねぇかっ、なぁシンヤ!!」
熱くなったシンの叫びに、邪魔になる前髪を撥ね退け、視線で返す。
炎が、彼らの瞳を照らす。
映し出す炎に勝るとも劣らない、強い想いが、瞳の奥で燃え滾っている。
「「火炎放射!!!!」」
+++++++
「・・・・・っはー!あー楽しかった!燃えたなー!」
そういうシンの髪は、普段ツンツンと立っている全てが濡れて下がっている。
上だけ着替えただけで、シン同様髪から雫を滴らせている・・・シンヤはシンヤで、満足そうにコロンをそっと撫でている。
最後の熱気でさすがに眼を覚ました彼女は、少年の腕の中で幸せそうに微笑んでいる。
「いつもいつも助かるぜ、コロン。お前の主人ほんとーはバトルするの好きなくせに、意固地なんだよ、なぁ?」
こんっ、とひと鳴き、同意したふうの彼女に文句も言えず、シンヤは抱きかかえる腕をもどかしそうに動かした。
周りで、彼らの手持ちも笑っている。
最後の火炎放射、ぶつかり合いによる熱気で吹き飛ばされた二人は海に落ちた。
だから今、髪は湿っているのだが・・・、引き分けた彼らはお互いに満足そうだった。
「・・・・・・・ど、は」
ふと、シンヤが思い出したように呟いて、シンはおろかコロンもその瞳を瞬かせた。
「?どわ?」どういう意味だ?と言わんばかりのシンの表情に、漆黒の瞳は夕焼けを帯びて煌く。
「・・・・・今度は、フルバトル、だ」
唐突、そして珍しいその言葉だったが・・・・・・・・・・・、
「・・・・・・おう・・・・・っ!!!・・・・・・今度は、俺の勝ちだな!!」
「ありえない」
「なんでそういうときだけ返答が早ぇんだよてめぇは!!」
口では文句を垂れながら、満面の笑みを浮かべて、シンは彼の背中を思いっきり叩いて、走り出した。
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