強さを追い求めて
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相手の右肩を狙って正拳を打ったら、天地が逆転した。
「“柔よく剛を制す”とはよく言ったものですな」
投げの体勢のまま、そう言ったのはホウエン地方、トウカジムのセンリ。
言われた相手・・・ジョウト地方、タンバジムのシジマは「むぅぅ・・・」と唸りながら身体を起こした。
「センリ、まさか合気の心得まで持っているとは思ってなかったぞ」
「ポケモンの技に真っ向から対抗していては押し負けますからね。こうした方がポケモンたちの特訓にもなりますし」
体勢を直したセンリ。平然と言葉を発するが、内心シジマの頑丈さに驚いていた。
シジマもセンリの言葉に納得したように腕を組む。投げられたときは驚いたが、受身を取ることはできた。
「確かに。力押しでは勝てん相手にどう対処するか。大事な知識だ。しかし、人間相手に使う必要があるのか?」
「体得した技術は自然とにじみ出てくるものなので。本気になりすぎると、技の後にトドメを刺しそうになってしまう。それが難点ですが」
「そう言われると何も言えんなぁ。俺もたまにやりすぎちまう」
苦笑いを浮かべあう中年男2人。
どうしてこんな状況になっているのか。説明には以前のことを見たが早い。
事の始まりは『強さを追い求める男』センリが、他の地方のジムリーダーたちの中からシジマの紹介文を見たことにある。
『自分がポケモンたちの特訓相手になっている』という文章に、センリが自分に通じるものを見たのだ。
ポケモンたちに強くなってもらうのはトレーナーとして当然。しかしセンリは「ポケモンに侮られないように」と自身も強くなるために努力していた。
そして実際にポケモンたちの練習相手を自分でやっていたところ、シジマの紹介文を見たのだった。
興味を持てば、後は早かった。
一時的にジムを閉め、ポケモンたちを引き連れて、格闘道場も行なっているというタンバジムへ、「たのも〜!」と電話も無しに乗り込んだのであった。
些細な誤解を作りはしたが、シジマとの交渉の末 手合わせすることとなり、そして先ほどの状況となったのだった。
「トウキから話は聞いていたが、まさかここまでできる男だったとはなぁ・・・」
「おや、トウキと何か?」
立ち上がらないシジマに倣って腰を下ろしたセンリ。トウキとシジマの関係が気になった。
「あぁ、お互いに格闘タイプを主としているからな。時々バトルをしたり連絡を取っているんだ。お前さんの話もあったさ。俺みたいに無茶なことやってるヤツがいるってな」
シジマの冷やかすような笑い。それに対してセンリも苦笑いを浮かべる。
「ハハ、否定はしませんよ。ポケモンの特訓相手なんて、生身の人間ではまず務まりませんから」
「まぁなぁ。それはそうと、お前さんはなんで強くなろうと思ったんだ?」
「私ですか。えぇと、ポケモンに見限られないため、ですね」
「見限る? お前さんのポケモンはそんなに反抗的なのか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。私ばかりがポケモンに認められたいだけです。それはそれとして、シジマさんはなぜ?」
「俺か? 俺は最初から格闘家志望だったんだよ。格闘家がポケモンつれてるってわけだ」
「なるほど。自分を強くしたいがためにポケモンに相手をしてもらっていた、というわけですか」
「おぅ、そんな感じだ」
そういって笑うシジマ。センリもつられて笑い、そして「では、そろそろ・・・」と腰を浮かした。
「そうだな。今度は投げないでくれよ」
「善処しましょう」
「でやぁッ!!」
相手の守りごと打ち払おうと攻め込むシジマ。固められたその拳は一撃で決定打になりうる。
「はッ・・・とうッ!!」
対するは、相手の力を流しては死角を狙い打つセンリ。掌による一撃は確実に衝撃を伝えてくる。
シジマが左腕を盾にしながら距離をつめ、腹へ右拳を打ち込もうとする。センリはその右拳を払い、シジマの左腕を押し返そうとした。と、その腕が伸びてセンリの胸を打った。
「ぐッ・・・!」
痛みをこらえながらもその左腕を引き、足をかけ、転ばせようとする。しかし、すぐに振り払われたので、シジマの左肩に右掌を打ち込んだ。
衝撃にシジマの体勢がわずかに崩れるが、すぐに左の裏拳でセンリを狙う。受け止めるか。そう思ったが意外にもセンリは距離をとった。
シジマが距離をつめようと足を踏み出すと同時に、センリも飛び込んできた。
「―――ッ!?」
とっさにシジマは右拳を出すが、上へ払いのけたセンリ、勢いそのままにシジマの腹へと右肘を突き刺した。
硬い手ごたえ。条件反射で腹筋を固めたか。さすがは本職、格闘家・・・―――などと悠長に考えている場合ではなかった。
「がはッ―――!」
背中に衝撃。息がつまり、その場に膝をついてしまう。センリの背中があった辺りには、シジマの振り下ろされた拳が残っていた。
「はぁ〜・・・・・・・・・降参です」
「お〜 いてぇ・・・、なかなかやってくれたな・・・」
何とか息を吐いたセンリ。そして腹をさするシジマ。センリの受けた息が詰まるほどの一撃もそうだが、シジマの受けた肘鉄もかなり痛かった。
「“剛よく柔を断つ”とも言いましたね。いやはや、本職にはかないませんなー」
「そうでもないぞ、センリ。最後の一撃、あれにもっと威力があったら判らなかった」
センリはあの一撃で仕留めるか吹き飛ばすかと想像していたのだろう。踏ん張ったことで予想を外し、センリに隙ができたのは幸いだった。おかげで降参の言葉を聞けたが、場合によっては吹き飛ばされてこちらが降参していたかもしれない。
実を言うと、センリに殴られた左肩が軽い痺れを訴えていた。おかげであまり力が入らない。
「お前さんなら格闘家としても充分やっていけると思うぞ。まぁ・・・・・・ただ・・・」
「お互い、年齢に難ありですな・・・。私も四十路が近い・・・」
「もう若い頃のようにはいかんからなぁ・・・。体力は衰えるし、腹は出るし・・・」
そう言ってシジマは改めて腹をさすった。腹筋はそれほど衰えていないが、すっかりダルマの様になってしまった。しかも帯に引っかかっていて格好が悪い。
中年2人、計ったわけでもないのに同じタイミングでため息をついた。
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