卓上の理論(中編)
わたぐもさんに感想を送る
誰もが一度は、純粋で無垢な時代を生きた事がある。
何をやっても許された、そんな優しい時代が誰にもあった。
・・・だからさあ、神様。もういい加減時効じゃねぇ?
『卓上の理論』(中編)
何度も言うけどオレは神様を信じてない。
・・・でもなあ。思わず問いかけたくもなるってどうしよう。
ポケモンセンター裏の空き地で、オレと少女が対峙していた。
オレが意見を発する間もなく、あれよあれよと言ううちに、
いつの間にかこんな状態になってしまった。
・・・おいおい、本格的ヤバイんじゃないですかコレ?
「面倒だから2対2で行こ! 交代もナシ、道具も使っちゃダメだよ!」
「いやあの、それよりオレ金な」
「いくよっ、・・・『イオタ』!」
オレの話を聞けーーーっ!!
・・・いやすみません嘘です、聞いて下さい。
イオタ、と呼ばれて出てきたのは、トゲットゲの体毛を持った黄色いポケモン。
何だっけ、えーと・・・。
「・・・ザングース?」
「ちっがーう! サンダースだよっ。もう、早くそっちもポケモン出して!」
惜しい。
・・・ていうかもう回避不可能ですかそうですか。
ちくしょう、こーなったらオレだって腹くくるさっ!
「いけっ、シータっ!」
投げられたボールはキレイな弧を描いて着球した。
現れたシータは翼を目一杯伸ばして、高い鳴き声を上げる。
・・・そして、何故か少女が派手にすっころんだ。
「な、何でネイティオなの!? わざわざあたしが先に出してあげたのに!!」
「いや、つーかさぁ・・・」
今気付いた。オレ他のポケモン家に忘れてきた。
財布もポケモンも忘れるわ自転車はなくすわ変な少女に絡まれるわ、
ほんっと今日ツイてねーな、オレ。シータだけでも持ってて良かった。
「信じらんない・・・飛行タイプなんか電気でイチコロ、常識でしょ!」
「や、その偏見もどうかと思うけど。まあいーじゃん、なあ?」
オレが話を振ると、シータが冷たい目でオレを見た。
・・・む、『何で俺がこんなんと戦わなきゃならんのだ』とでも言いたげだな。
悪いけど、お前しかいないんだよー。だからキライにならないでー。
と、いう目で返したら更に冷たい目で見られた。
やっぱりキモかったか。
「お兄ちゃん鳥使いなの? ・・・もういーや、こっちからいくよ。
イオタ、“10まんボルト”!」
「シータ、空中に逃げろ!」
いきなりかよ!
と思うくらい、サンダースは速かった。
そりゃもう、オレが指示を出したときにはとっくにシータが空中に避難してたくらいだ。
間一髪、“10まんボルト”はシータの下を通りすぎ、一直線にオレへ・・・っておい!
「危ないだろッ!!」
「あ、ごめーん」
間一髪どころじゃない、本気で髪の先コゲたよ今!
可愛く謝れば許されると思ったら大間違いだッ!!
「シータ、“そらをとぶ”!」
「あーあ・・・“でんじは”」
突っ込んだシータを、緩やかな電磁力が包んだ。
一瞬引きつったように翼が動いたけど、何とか地面に着地する。
・・・もう飛べないな・・・。
「そのまま突っ込んで来ない・・・?」
眉をひそめて、少女が呟く。
そのまま突っ込んで・・・って、ヘタに飛び回って翼に障害残ったらどーすんだっ!
何事も根性で何とかなるとか思ったらダメだぞ。
「まずは1匹、だね。イオタ、“10まんボルト”・・・あれっ!?」
「・・・残念、“さいみんじゅつ”」
あっはっは! あんだけ接近すりゃー“あやしいひかり”をかけるのもカンタンだ。
混乱したサンダースはあらぬ方向に電気を飛ばしたり、
必要以上の放電を繰り返したりしている。
シータの“そらをとぶ”はどっちかってーとそっちがメインで、
相手に突撃はしないよう訓練してあるのさっ。
ついでにシータはちょっと変わったネイティオで、
ネイティ時代に捕獲したときから“さいみんじゅつ”を覚えている。
・・・まあ、だから珍しくて捕まえたんだけど。
「しっかりしてイオタ! ・・・あっ・・・・・」
「・・・寝ちゃったみたいだな。どうする?」
「う・・・・・・」
ギリ、という少女の歯がみする音がやけに響いた。
サンダースの身体が光に包まれ、手のひらサイズのボールへ戻ってゆく。
まずは1匹、だ。
「強いんだ。・・・何でさっきは逃げたの?」
「へ? ・・・いや、争わないですむならそれに越したことはないし、
大体オレは強くないし・・・」
「・・・ふーん、そう。いいよ、本気出しちゃうから・・・!」
あ、あのー、何かさっきより不機嫌になってません?
オレは強くないよー、その上小心者なんだよー。有り体に言えば、臆病なんだよー。
「いけっ、『オメガ』ッ!」
叩きつけられたボールが光を発する。
・・・あ、あれ? なんか・・・デカい、よーな・・・?
「あたしのいっちばんのポケモン! リザードンのオメガ!
・・・お兄ちゃん、負けないよ!」
「・・・・・・」
・・・ダメだ。スケールがでかい。
オレの一番のポケモンっつったらこの半分くらいの大きさしかないんじゃないかな。
いや、家に忘れてきた奴だけどさ。
ポケモンの強さは大きさじゃない。
分かってるけど・・・・・・けど!!
「“かえんほうしゃ”!」
「シータ、避け・・・ッ!?」
指示を出そうとして、思い出した。
シータ麻痺してんじゃん!
よたよたと歩きかけたところを、“かえんほうしゃ”で吹っ飛ばされる。
右にはじき飛ばされて、そのまま地面に自然落下した。
うげぇ、痛ェッ!!
「シータッ!」
「オメガ、もう一発!“かえん・・・」
少女が言い終わる前に、オレは決断していた。
賭けることを。
ごめんなシータ。痛かったな。
電気苦手なのに、サンダースなんかにぶつけて悪かったよ。
全身麻痺なんて経験ないけどさ、オレも正座5分しか持たねーから、
その痛み、ちょっと分かる。ツラいんだよなぁ、もー動くの嫌になる。
ホントごめん。
でも、・・・もうちょっとだけ、オレの我が侭、聞いてくれるか?
「“メロメロ”ッ!」
「・・・ほうしゃ”! ・・・えっ?」
紅い竜が炎を吐き出すより、シータが色目使う方が速かった。
シータは♂だから、リザードンが♀なら成功するはず・・・!
・・・どっちだ!?
「・・・嘘ッ、ちょっと、しっかりしてよオメガッ」
キタァァァァァァァ!!
新事実! 少女の切り札は♀だったッ!
喜べ、シータ! お前の時代がやって来たぞ!
「“あやしいひかり”!」
「オメガ、・・・オメガってばぁ! ああもうッ、同じ手にやられるなんて・・・!」
記述するまでもなく、リザードンの視線はシータに釘付けだ。
あっさり混乱して、彼女がシータに攻撃できる確率はもはや4分の1だ。
「えーと・・・“さいみんじゅつ”までかけてもいいけど・・・?」
「くっ・・・、いいよ、わかったよっ・・・!!」
目が完全にイッちゃってるリザードンが、光に包まれてボールに戻ってゆく。
あーゆー状態から正気に戻ったら、一体どんな気分なんだろうなー。
・・・・とにもかくにも、勝った。
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