卓上の理論(後編)
わたぐもさんに感想を送る
思うんだけど、神様って割と気まぐれだよな。
人の運命とか、サイコロで決めてるって、絶対。
『卓上の理論』(後編)
「お兄ちゃんッ!!」
「うわっ!?」
いきなり胸ぐらを掴まれて、おにーちゃんはたじたじだよ。
一体ナニ!?
「何で、そんなに強いのに逃げたの!? それに・・・一回も攻撃しようとしなかった。
最初の“そらをとぶ”で突っ込んでこなかったのもワザとでしょ? 何で!?」
「だからオレは強くないし、逃げたのは金がなかったんだ、単純に。
・・・あ、だから今もしキミが勝ってもオレ金払えなかったよ」
「ウソつき。強いじゃん!」
オレのどこが強そうに見えるんだよ。
もやしっこだ、もやしっこ。
「・・・じゃあ、攻撃してこなかったのは何でなの?」
「何で、って・・・。シータは攻撃技“そらをとぶ”だけだし、
それも突っ込まないよう訓練してあるんだよ。
ネイティオはもともとそういう直接的な攻撃をするポケモンじゃないから、
自分からぶつかった時に上手く受け身が取れない。
衝撃でクチバシや翼に障害が残ったりしたらマズイだろ?」
「え・・・そうなの? でも・・・じゃあ、何でそんな技・・・」
「だって便利だし・・・バトルで使わなきゃいーかなー、って」
ていうかもともとオレのポケモンはあんまバトルを想定してないからな。
逃げる専門。“テレポート”でも良かったけどアレはなかなか融通きかないし・・・。
「・・・納得いかない。大体“あやしいひかり”と“メロメロ”なんて、
どっちか片方でいいじゃん・・・」
「いやー、なんつーか、ほら。
ヘタに攻撃技覚えると、どうしても使わざるをえない状況になっちまうだろ?
だったら最初から使えない方がいい」
「・・・?」
怪訝な顔で、少女がオレを見上げた。
うーん。やっぱオレの意見は少数派か。
「思うんだけどさ。ポケモンバトルとかって、人間の都合じゃんか。
野生のポケモンから身を守るったって、
大抵はこっちから手ぇ出さなきゃ素通りして行くし、トレーナー同士なら尚更、
ポケモンには関係ないよな。でも実際戦うのはポケモンで、傷つくのもポケモンで・・・可哀想かな、って」
例えばオレの自転車管理不全で暴走族に突っ込んだとしてもさ。
それってあくまでオレのせいだし、その尻ぬぐいをポケモンにさせるのは何か、
違うよーな気がするんだよな。
オレのポケモンはひょっとしたら強いのかもしんねーけど、オレは全然強くない。
自分で逃げるのもままならないから、ちょっとだけ・・・ってか、まあほぼ全面的に、手を貸して貰ったんだ。
・・・少なくとも、そんなオレの不注意で、ポケモンを傷つけるのは気が引ける。
キミだってフライパンで火傷したり、足が痺れたりくらいしたことあるだろー?
それの症状悪化バージョンをポケモンたちは日常茶飯事で体験してるんだよ?
オレなら泣く。んでもって家出する。
・・・でも、こいつらは付いてきてくれるんだよな。
「だから、できるだけ相手を傷つける技は覚えさせないようにしようって。
自己満足だし、その分オレのポケモンが傷ついちまうし、意味ないかも知れないけど、
オレら人間は、人を殴ったら殴った方も傷つくっていうじゃんか。
じゃあ、コイツらも相手傷つけるたびに傷ついたりしてんのかなぁって、思うとさ・・・」
まあオレはポケモンの気持ちなんて知らないし、全然見当違いかも知れないけど。
でも、オレはそう、思うから。
こいつらだって、オレたち人間とおんなじだって。
少女は何とも言えない表情でオレを見て、それからうつむいた。
・・・あ、あれ? どしたの??
「でも・・・じゃあ、あたしは、どうしたらいいの?」
「へ?」
「だって。ずっと夢だったの、ポケモンリーグで優勝して、殿堂入りして・・・、
チャンピオンになるのがずっと夢だったの。バッジも集めた、チャンピオンロードだって、
もう越えたよ。空を飛んで、セキエイ高原まで行けるの。でも・・・」
「・・・えーと。じゃあ、なればいいんじゃないかな? チャンピオンに」
「だってお兄ちゃん、今言ったでしょ! ポケモンバトルは人間の都合だって!」
言った。
でもそれはオレの価値観であって、一般的にポケモンバトルは合法で、
ポケモン愛護法的にもなーんも問題ないわけで・・・ああもうワケ分かんなくなってきた。
「キミは・・・」
「ファイア」
おっと、名前か。
オレも一応名乗ってから、話を続けた。
「ファイアは、ずっとファイアのポケモンたちと頑張って来たんだろ?
オレはさっき言った風に思うけど、それがホントに正しいかどうか、
そんなのポケモンにしか分からない。
オレのポケモンは、こんな意見のオレに付いてきてくれるけど、
他のポケモンの事までオレは知らない。ファイアのポケモンたちが、
ファイアに付いてきてくれるなら、それはポケモンたちがファイアの夢を叶えたいって、
そう思ってくれたからじゃないかな?」
うーむ。我ながら分かりにくい台詞だ。
ホラ、ファイアも呆けてる。口空いてるよー?
「いいのかな・・・。オメガたち、傷ついたら・・・・・痛い、よね・・・」
「かもな。でも、ファイア、だからこそキミは夢を叶えないと」
頑張って、傷ついて。
夢を叶えようとする、ポケモンたちのために。
「・・・できるかな?」
「うん?」
「夢、叶えられると思う?」
愚問だな。
「ポケモンが一緒ならね」
こいつらはとにかくスゴイからな。
だから、きっと。
☆☆☆
1週間後。
たまたまテレビを付けたら、ポケモンリーグ決勝戦の生中継をやっていた。
最近のトレーナーは若いなー、うんうん。・・・って、ジジイかオレは。
『さあ、いよいよ始まりました、ポケモンリーグ決勝戦!
奇しくも残った二人はなんと同じマサラタウン出身で、
リーフくんはあのオーキド博士のお孫さん!
その幼なじみ、対するファイアさんは、今大会最年少のミラクルガールです!』
とりあえず思ったのは。
「アレ? 相手も同い年じゃねーの?」
・・・あ、それでも最年少は最年少か。
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