儚(ヒトユメ) 其の二

わたぐもさんに感想を送る


最初から痛みを知っていたなら、傷つくこともなかったのに。
あの時の私は幼くて、良くも悪くも純粋で。
信頼は必ず返ってくると、キズナになると、思ってた。

―― 君と友達になりたいな ――

とてもおかしなことを言っていると、この人は気付いてないのかな。
友達になんかなれないよ。だってキミは人間だもの。

あの人と同じ。人間だもの。



『儚(ヒトユメ)』

其の二



「ユキ、ひょっとしてモンスターボール苦手?
・・・んー、じゃあいいや、はぐれないでね」

そう言ってすたすたと歩くリマの後ろを、不本意ながらついて行く。
あれからややあって、ようやくここがポケモンセンターであると気が付いたとき、もうすっかり日は暮れていた。
そしてあの憎たらしいボールから一定以上の距離を離れられないことは、昼間実証済みである。

「ここがボクらの部屋。ホントは2人部屋だけど、今日はボクたちだけなんだって」

ラッキーだね、などと笑いかけてくるリマに冷たい眼差しを投げかけて、私はさっさと部屋に入った。
できるだけベッドから距離を置いたところを陣取り、入り口で困った顔をしているリマを威嚇する。
フローリングのひやりとした感触がお腹から伝わる。今日も冷えそうだ。

「・・・そこ、寒いと思うけどな・・・」

私もそう思う。
だけど、言われてしまったからには意地でも動くわけにはいかなかった。
くしゃみ1つすることも許されない。

・・・ちょっと後悔しかけたけど、頭を振ってごまかした。


******


あったかい。
ふわり、と柔らかなモノに包まれて、私はゆっくりと目を開けた。

・・・これ、は。
・・・・・・・夢だ。

金色の髪。呼吸を感じる。心臓が鳴る音。
澄んだ瞳は、今は少し伏せられている。
低い声はどこか遠くに響いていて。

私は、彼の腕の中。
なんて、しあわせなゆめ。

彼の腕の中でまどろみながら、下手くそな歌を聴きながら。
どうしてこんな夢を見るのだろうと、考える。
あの日、意味不明なことを言われた時の夢なら何度も見たけれど。
ちょっとだけ、泣いたりも、したけれど。
(ポケモンが泣くなんて、きっと人間は信じない)

どうして、どうして今更。
彼に捨てられて絶望して失望して。
悲しくて惨めで傷ついて、それでも。

こんな、夢を見るの?

『    』

歌が止んだ。それでも響く、低い声。
私は顔を上げる。何を、言っているの?

・・・・・・、え?

『ごめんな』

決してこちらを見ない、彼の表情は分からない。
でもその言葉は、確かにあの日も紡がれた言葉だ。

意味が分からない。

何で謝るの。何で謝るの?
お前なんか要らないって、そう言えばいいのに。
どうして、そんな、風に。

『ごめんな。・・・ごめんな』


低い声。(あの日の彼は悲しい顔して)

これは夢だけど。(夢だから)


何度も。何度も。

『ごめんな』

聞こえてるよ、ちゃんと聞こえてる。
あの時もちゃんと聞こえてたよ、でも分からなかったんだ。
ううん、今もよく分からないけれど、でもキミのこと大好きだったから。
今でも本当に大好きだから、だからこんな、夢を見るんだ。

叶わないって、分かっているのに、心の何処かで信じてる。
キミとまた幸せに過ごせるって、過ごしたいって心の何処かで叫ぶから。
だから、こんな。

しあわせなゆめを。

『ごめん、な』

ふ、と。
彼の腕が解かれる。
嫌だ、嫌だ、まだここにいて。

誰かが誰かを呼んでいる。
彼がそちらに顔を向けた。
私も振り返る。

・・・深い森と、大地の色を宿した人。

「こんにちは。ボクの名前はリマ。君の名前はユキ」

違うよ私そんな名前じゃない。
それになんか変だよボクなんて、だってキミは。

「君と友達になりたいな」

・・・とてもおかしなことを言っていると、この人は気付いてないのかな。
友達になんかなれないよ。だって私には彼がいるもの。
彼だけいれば、こんな、幸せになれるもの。

そう思って、彼を、彼がいるはずの場所を見た。
誰もいない。

・・・そんな。

何もない場所に響くのは、
あの下手くそな歌よりずっとずっと高い声。



(きみとともだちになりたいな)

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