もう一度会えたならば・・・

無々さんに感想を送る

「これは夢か?」
「うん、夢。」
 一匹のアブソルが問うと、間を入れずにチリーンが答えた。
「…いや、そんな即答されると困るんだが…」
「知らないよ。君が僕に聞いたんじゃないか。だから僕はイエスかノーで答えた、それだけ。」
 ピシャリと言ってのけるチリーンの声は彼の体で共鳴してアブソルに届いた。
 2人は向かい合っていた。何もない、暗い、黒の空間の中で。
「じゃなかったら僕と君が会えるはずなんかないだろ。」
 チリーンは無表情に答えたが、出た音は明るくて甲高い。隠していても、嬉しいのだ。

 何年も前に、ずっとずっと昔に、まだ幼いときに、2人は友であった。大切な、大切な、唯一無二の。
 ところが、それぞれの仲間の都合により、2人は東へ西へと離ればなれになった。
 何度も何度も後ろを振り返って、それでももう目が合うことはなく、サヨナラと叫ぶ声も、アリガトウと泣く声も、届かなくて。勿論今も別々の場所で暮らしている。…だからこそ、アブソルは第一声目で、夢か、と尋ねたのだった。

「夢なら覚めて欲しい。」
 アブソルが俯いて頭(かぶり)を数回振りながら苦い顔をして言う。それを見て、チリーンは少しばかり激しい音を出した。
「なんでさ。僕と会えたことが不満なのかよ。」
 いつでも無表情な彼は、代わりに音で気持ちを示す。
「いや…そういう意味じゃないが…」
「じゃあどういう意味なのさ。」
 その質問に顔を引きつらせて苦笑いをしながら、アブソルは器用に前足で頬をかいた。
「……なぜなら、これは夢だからだ。」
「はぁ?意味わかんないよ。 ……ああ、もしかして君、暫く会ってない間に老けた?頭がおじいちゃんになっちゃったんでしょ。ああーかわいそ。」
 両手で自分の体の中から出ているぺらぺらの紙のようなもので目元を拭う仕草をしたチリーンに向かってアブソルは呆れて半眼になった。
「馬鹿、そんなわけあるか。察しの悪い奴だな…。 つまりだな、夢なんだから今俺の前にいるお前は嘘で、お前の前にいる俺は嘘なんだよ。」
「ふぅん。で?」
「で、ってお前…。馬鹿馬鹿しくないか?自分の夢の中に出てきた相手に感動して喜ぶなんて。」
「いいじゃん、別に。」
 チリーンが冷めたような音を出す。アブソルは溜息を吐いた。
「いいのかよ。本当なら会えない奴が夢の中で出てきて、昔と変わらなくて、実際目が覚めたときに、会いたいとか思わないのかよ。」
「思うね。」
「でも、会える距離じゃない。だから夢なんか見ないでそのまま知らんぷりしてた方がいいだろう。」
「よくないね。」
「…お前なぁ…」
「何さ。」
 脳みそのない生きものだから、本能のままにチリーンは答える。
 暗い闇は本当に何もないのに、お互いがお互いの顔を見ることが出来る。光など、どこにもないのに。
 チリーンは瞬いて、その場をくるくると回り動いた。
「いけないかよ。君に会いたいと思ったら、駄目かよ。 ちっさいころにうちの長と君んとこの長が大げんかして巻き添え喰らって、その所為で君と離れて、ずっとずっと会いたくて、また一緒に川行ったり落とし穴掘ったり洞穴で宝探ししたりしたいとか、思っちゃ駄目かよ。友達と会いたいって思ったら……………駄目なのかよ…。」
 後ろを向いたまましゅんと小さくなって俯くチリーンを見て、アブソルは動けなくなった。
 それは、自分も同じだと、言いたかった。―――言いたかったけど、時はそれを許さない。
 闇が晴れる。朝日が昇ったのだ。黒い空間はたちまち光に覆われて、2人を包んだ。
 チリーンが涙を溜めた目を擦ることもせずにアブソルに手を伸ばした。その、名前を呼びながら。
 アブソルは驚きで何も出来ないでそれを見ていた。彼は、チリーンは、何も変わってなかった。何も、…何も…。
 一緒にいたいと叫びながら、短い手を必死にこちらに伸ばしながら、チリーンは消えた。
 目を見開いたまま、何もしないでただ呆然とそこに腰を下ろしていたアブソルも光の粒子となって消えた。
 小さな泡の様に音もなく、それは東と西へと飛んでいった。







 ああ、お前は何も変わってなかった。
 俺は変わってしまった。
 希望を、なくしてしまって、何も信じられなくて。
 手を伸ばすことも、声を出してお前の名前を呼ぶこともせずに、ただ、そこに座っていた。
 ――――――もう一度会えたならば、その名前を呼び、その手を掴むことが出来るだろうか。



 ああ、君は昔と変わってしまった。
 僕は何も変われない。
 昔の、思い出だけを追い求めて、前に進めなくて。
 もう忘れようと思ったのに、叶わぬ願いは捨てようと決めたのに、なのに、やっぱり君が愛しくて。
 ――――――もう一度会えたならば、昔を振り返らないで、新しい自分と君を受け入れることが出来るだろうか。












 朝日が昇って、世界が光に満ちたとき、2人は同時に瞼を開けた。



























































 その視線の先には

























































 黒と白の災いポケモンが、

        透明な風鈴型のポケモンが、


























































自分を真っ直ぐに見つめていた―――――・・・。









































































アブソルは尋ねた。








「…これは、夢か?」
















































チリーンは答えた。








「……ううん、夢じゃない。」





                                   ------------------(2006.12.10)

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