うみのうた
由衣さんに感想を送る
No.131 ラプラス
ひとが ぜつめつの ききに おいこんでしまった。
ゆうぐれどきになると すくなくなった なかまを
さがして かなしそうな こえで うたうと いう。
(ルビー・サファイア・エメラルド)
いっしょに うたおう
いっしょに うたおう
ひろい うみのうたを
とおい そらのうたを
うみにすむ なかまといっしょに
そらをかける ともといっしょに
へただって いいんだ
まちがって いいんだ
いっしょに うたえる
そのことが たいせつだから
いっしょに うたおう
いっしょに うたおう――
歌ってから眠ると、決まった夢を見る。
沢山の仲間に囲まれて、みんなで歌っている夢を。
今まで、沢山の仲間と一緒にいた、なんて経験はない。それでも、僕の中に流れる血は、きっと昔を覚えているんだ。
昔、大きな群れで悠々と海を泳いでいた時のことを、覚えているんだ。
僕がまだ産まれる前、僕らのご先祖様は、他の生き物……ポケモンとはまた別の生き物に、捕まえられてしまったらしい。
沢山、沢山捕まえられて、僕らのご先祖様は逃げ惑ったが、数がどんどん減ってゆくのを止めることは出来なかった。
そして、僕ら――ラプラスは、本当に少なくなってしまった。
――これは、父さんから聞いた話だ。
僕が産まれた群れも、父さんと母さん、叔母さんと従兄の4匹しかいなかった。叔父さんは、僕が産まれる前に亡くなったらしい。
5匹で身を寄せ合うようにして、海をあちこち泳いで回った。
夕暮れ時になると、母さんと叔母さんは、声を合わせて歌った。僕と従兄は、その歌を教えてもらって、たどたどしいながらも良く一緒に歌ったものだ。
この歌を聴くと、他のラプラスも歌いたくなって、集まってくるのよ。昔は、この歌で仲間を集めて群れを作っていたらしいわ。
母さんはそう言ったけど、仲間を集めるものにしては、歌の調子は少し寂しげだった。
こうして5匹で旅を続けたけれど、ある日それは唐突に終わってしまった。
嵐に正面衝突し、高波で僕らは離れ離れになってしまったのだ。
暴風の音で声すらも届かない中で、僕らは必死になってはぐれまいとしたけれど、どうにもならなかった。
嵐が去って僕が気が付いたときには、海の真ん中に一人だった。
悲しくて、寂しくて。何日も何日もみんなを探して泳いだけれど、誰も見つからなかった。
そうして、僕は『歌う』という方法を思いついた。
僕の歌が聞こえれば、きっと誰かが来てくれる。その希望が、僕の寂しさを紛らわせた。
そうだ、母さんが言ってたじゃないか。これは、仲間を集める歌なんだ。
きっと歌っていれば、いつかは――。
だから、僕は今日も歌う。
誰かが聞いてくれることを信じて。
今日も、明日も、歌い続ける。
仲間と一緒に過ごす、そのことだけを夢に見て……。
ふと、確かギャラドスといった筈のポケモンに乗って、誰かが近付いてくるのに気づいた。
……僕よりずっと小さくて、体には尻尾もうろこもない。ものすごく細くてほとんど骨にしか見えないひれが、4つついている。
僕は思わず、歌うのをやめてその生き物を見てしまった。
その生き物は、僕に何か話しかけてくる。でも、その言葉は僕らポケモンが使っているものとは全く別物で、何と言っているか分からなかった。もしかしたら、この生き物はポケモンじゃないのかもしれない。
その生き物……多分、声の高さから雌だろう。彼女は、何かを呟くと、歌を口ずさみ始めた。
そう、僕が歌っていた歌を。
僕が歌っているのを聞いて、覚えてしまったのだろうか。
でも、彼女の歌は僕よりもずっと自由に、ずっと温かく響いた。
僕はおずおずと一緒に歌いだす。彼女は笑って、歌い続けた。
段々嬉しくなってきて、僕は声を張り上げた。
彼女と歌っていると、悲しい感じだった歌が、明るいものに変わっていく。
僕らは……僕らは、そうして歌った。
沈みかけていた日が完全に沈むまで、ずっと歌っていた。
これが、夢なら――どうか、一生、一生覚めないで欲しい。本気で、そう願った……。
こうして、僕は彼女と一緒に、海を泳ぐようになった。
次第に、彼女が何を言っているかも分かるようになる。言語そのものが分かるんじゃない、何となく通じるんだ。
彼女は今陸地に向かっていて、もうすぐそこに着くんだそうだ。
出来ることなら、僕は彼女にずっと着いていきたい。
彼女の話を聞く限りでは、そうすることも可能だそうだ。
えっと、何だっけ……何とかボール、っていうのに入れば。
それで、彼女に着いて行けるのなら。
独りでなくなるのなら。
昔、僕らを絶滅の危機に追いやった、ポケモンとは別の生き物達。
彼女もポケモンとは別の生き物だけど、きっと僕らのご先祖様を捕まえたひどい生き物達とは別のもののはずだ。
だって、彼女についてゆくことが、僕の幸せなのだから。
こうして、僕は独りでなくなった。
でも、たまに、ラプラス達に囲まれてみんなで一緒に歌う夢を、まだ見るのは何でだろう……?
いっしょに うたおう
いっしょに うたおう
ひろい うみのうたを
とおい そらのうたを
うみにすむ なかまといっしょに
そらをかける ともといっしょに
へただって いいんだ
まちがって いいんだ
いっしょに うたえる
そのことが たいせつだから
いっしょに うたおう
いっしょに うたおう――
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