華夢

黒月さんに感想を送る

彼女が見た夢は、夢ではなかったのかもしれない。
今も彼女はもう一度、彼女が来るのを待っている。

割れたコーヒーカップを眺めながら。




華夢







私がアレを見たのは、昨日の晩のこと。

曲を書いていた、昨日の晩だ。

雨が降っている、昨日の晩。



アレを見るちょっと前。

私は曲の続きが思いつかなく、

ずっと悩んでいた。







あ、自己紹介がまだだったね。
この話をする前に、自己紹介をするよ。

私の名前は、ラフ。
♀のトゲチックです。

私はこの小っちゃな町で、グループを組んでいる。
つまり、歌手よ、歌手。
そんなに有名じゃないけどね。
この町でちょっと活動する程度の。
私は作曲・作詞&ピアノ担当。
メンバーは私を含めて5匹。
リーダーは、ギター&ボーカルのラプラス♂、タキさん。
副リーダーは、ドラムのキノガッサ♂、キウさん。
メンバーは、ボーカルのオオタチ♀、ナミっち。
ベースのハッサム♂、ネアさん。
そして作曲・作詞&ピアノの私、ラフ。
5匹そろって『花鳥風月』。
え、渋い?んなことどうでもいいでしょ。タキさんが決めたんだから。あの人(?)は昔っから渋いのよ。

じゃ、本題に戻るよ。




その曲はまだタイトルも決まっていない。

期限は12時間後。





はあ〜ぁ・・・。
どーしよ。

ピーンポーン。


チャイムが鳴った。
ナミっちが様子見に来たのかな。

ガチャ

「はい。」

立っていたのは、ロコンの女の子。
ひどくぬれている。

「あの、すみません。ちょっとでいいので、入れてくれませんか?」

やさしそうな声だった。

「汚いけど、それでいいならどうぞ。」
「ありがとうございます。」

パタン。
ドアを閉めたのとほぼ同時に、声が聞こえてきた。

「おい、・・・は見つかったか?」
「多分、このへんのどこかだと思いますよ。くそ、・・・は何にでも・・・だからわかんねぇなぁ。」

窓から覗くと、アーボとコノハナがいた。
声の主はこの二匹のようだ。

「私はあいつらに追われてるんです。」
「・・・なんで?」
「わかりません。」
「そういえば・・・名前は?私はラフっていうんだけど。」
「本当の名前はわかりませんけど今、名乗っている名前は、『ハナ』です。」
「へえ。いい名前ね。」
うっかり聞き流しそうになった。

「って、ちょっと待って。本当の名前がわかんないってどういうこと?」
「私は、もともと捨て子なんです。それで、全国を一匹で歩いてるんです。」

しばしの沈黙。
いつのまにかハナはビショビショだったはずなのに、乾いていた。
ネアさんからこの前もらったコーヒーを出す。
はっきり言って、賞味期限がギリギリだ。

「どうぞ。ちょっと苦いけど。」
「いえいえ。いきなりおしかけたのは、こちらですし。」

沈黙をやぶったのは、こちらだった。

「・・・『花鳥風月』って知ってる?」
「へ?」
「いやいや、知らないんだったらいいんだけど。」
「なんかの歌手・・・ですか?」
「うん。私が入ってるグループ。」
「へぇ、すごいですね。」

そう言って、ハナはコーヒーを一口飲んだ。

「月が・・・綺麗ですね。」
「は?」
「だから、月が綺麗って。」
「何言ってんの、今日は月なんか・・・」
「あ、えっと。そういえば、『花鳥風月』って、どういう曲歌ってんですか?」

ハナは半強制的に話を移した。
どうもハナの言ったことが気にかかる。
今日は雨が降ってるので、月はぼやけて見える。
あれのどこが綺麗なのだ。

「ラフさん?」
「え、えーとね。『花鳥風月』はねー、主に昔ヒットした歌とか私が作詞・作曲した歌とか歌ってんの。」
「ラフさんは何をやってるんですか?」
「わ、私?私は、ピアノ。」
「へぇ、すごいですね。」

ハナはさっきと同じ反応を示した。
いつのまにか、コーヒーカップは空になっていた。

「運んでおきますね。」

ハナは空のコーヒーカップを手に取ると、キッチンへ向かった。
そのときだった。

トントン。

ノックの音だった。

「はーい?」

ドアを開けると、
アーボとコノハナがいた。

「お急がしのところすみませんが、このポケモンを見ませんでしたか?」

コノハナは写真を突き出した。
写真に写っていたのは、灰色のポケモン。
耳がネコのようで、尻尾はエーフィの尻尾をくっ付けた感じ。
そして、灰色に鈍く光っている。
シルエットしか写ってないので、よくわからなかった。

「そうですか。では失礼します。」

バタン。

「なんで今日はこう訪問者が多いんだか。」

私がぶつくさ言っていると、

「それは、ラフさんにとって人生の転機が起きるからですよ。」

とハナが言った。

ガシャーーーーン!

と同時に割れる音がした。

「すっすいませんッ!カップ割れちゃいました!!!」
「大丈夫?!」

コーヒーカップは粉々に・・・
砕けてるわけなく、ちょっとふちが欠けただけだった。
あれ・・・?
このふちは前から欠けてたような・・・?
それに音が大げさだったような・・・?

ポーーーーーーン。

12時の(時計の)鐘だった。

「・・・・・・もう時間みたいですね。」

ハナが突然言った。

「え、何が時間なの、」
「ラフさん。」

ハナが遮(さえぎ)った。

「私は、残念ながらロコンのハナではないんです。」

ハナは額に手を当てた。

そのとき、光った。

あの写真のポケモン、




ミュウだった。
しかも、あの、写真で見た灰色のミュウだった。


私ハ、ろこんノ、はなデハナイ。
みゅうノすーらダ。
アイツラ、あーぼトこのはなの入ッテイル組織、『すなっるふ団』に捕エラレ、コノヨウナ姿ニナッテシマッタ。
ダカラ、私ハ逃ゲ出シタ。
ソノ私ヲ、アイツラハ追ッテイルノダ。
ソノ私モ、ツイニ寿命ガ尽キルトキガキタ。
多分、実験用具トシテ使ワレ、寿命ガ早マッタノダロウ。
ソ・・・・・・・・・・

「え、待って、ハナ・・・・・・・?」





「ちょっと、ちょっと。ラフ?」
「ふぇ?」

ぼんやり目を開けると、そこにナミっちがいた。

「どしたの、ラフ。魘(うな)されてるよ?」
「ナミっち・・・。」

「ねぇ、ハナ・・・じゃなくてスーラは?」
「ラフ夢見たんでしょ。」

なんとなく窓をふらっと見ると、もう朝で、雨が止んでいた。

「雨いつ止んだの?」
「ハァ?雨なんて降ったの一ヶ月前だよ。やっぱ夢見てたんだね。魘されてたし。」

やっぱ、夢だったのかナ。
ふと見ると、机にある楽譜の上に、コーヒーカップが置いてあった。
ふちが欠けている、あのコーヒーカップ。

やっぱ、夢じゃなかったんだね。

END

戻る