昔は昔、今は今
梓狂さんに感想を送る
―――人間の、夢を見た。
「ラスト―。朝だよ―。」
「ふぁい〜。」
低血圧のイーブイは、懸命に目をこすりながらふらふらと玄関までやってくる。この状態の彼女を見ると、今日の救助が心配になってくる。
「おふぁようごじゃいます。シュラン」
「おそよう、ラスト。ちゃんと目をさまして。今日は結構遠くまで行くよ。」
ふらふらと水桶に向かっていく背中を見て、ふっと、今朝の夢を思い出した。
(あれは、ラストだったのかなあ。)
まだ、そんなに大きくない女の子。優しそうなお母さんの前で、満面の笑みを浮かべていた。とてもとても、幸せそうだった。
(家族、か……………)
「ねえ、ラスト。」
顔を洗い終わったのか、いつものシャキッとした表情をしてこちらを振り向く。
「何ですか、シュラン」
「ラストは…………その………」
(寂しくないわけ…………ないよね)
ラストは未だに人間だった時のことを、思い出せないらしい。あの時戻らなかったのも、僕と一緒に居たかったからって言ってたけど。本当にあの夢の女の子がラストなら、きっとお母さんに会いたいだろう。
「シュラン」
「へ…………ギャッ!」
いきなり耳を真上に引っ張られた。ものすごく痛い。ほっぺから電気が漏れてしまった。
「な、何するのさ!」
「シュラン、あなたの耳は目の次にものを言います。口はその次です。あなたの耳が真上を向かない時、あなたはマイナス思考になっています。」
「な、何じゃそりゃ」
「事実です。そして、あたしの勝手な推測でアドバイスをしましょう。」
「か、勝手な推測って…………」
「シュラン、昔は昔、今は今です。」
はっとして彼女を見る。その口調とは違う、幼さの残るかわいらしい微笑みで僕を見ている。
「あたしは、今の生活に満足しているから、ここにいます。昔よりも、今が大切だと思ったから、ここにいます。だから、悔いはありません。」
誇らしげに語る彼女は、あの夢の中の少女のように…………
…………とてもとても、幸せそうに、笑っていた。
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