**あるみつりんポケモンが語る夢**

雨音さんに感想を送る




「やったね!今日は全戦全勝だよ!ありがと〜!!」


目の前には俺のトレーナー。

とても嬉しそうに、俺を抱きかかえている。

どこかで、一度、見たような風景。

キモリの体の自分。

そうだ、これは、俺がこいつと旅立って間もない時のこと。


あぁ俺は、夢を見ているんだ。





**あるみつりんポケモンが語る夢**






それは、いつのことだったか。

そう、雪が溶け、花が芽吹きはじめた頃。

あいつはやってきた。

カントー地方から引っ越してきたらしく、ポケモンも持っていなかったあいつは


『オダマキ博士、助けてあげたんですからこの子ください!』


と、俺を育てていたオダマキという奴から、俺を引き取った。

ハチャメチャで、うるさくて、馬鹿っぽい女だったけど、何となくウマが合った。

それから五日位たち、俺達はトウカシティ近辺を練り歩いていた。

仲間も増えた。スバメのメイ。交換で貰ったらしい、アチャモのショウにミズゴロウのジンガ。

俺達はそこらのトレーナーと戦い、着々と強くなっていった。

そしてこの日、連勝記録がついに20を超え、俺のトレーナーは大いに喜んだ。


「本当にありがとー!ジュンのおかげだよぉ!」


ジュン。それがこいつにつけられた俺の名前。

本当の名前は別にあるんだろうけど、俺はそれを覚えていないから、ジュンと、こいつは呼んでいる。

正直それは嬉しい。名前がないことは、この上なく辛いことだ。

今回の20連勝ということも、とても嬉しい。

でも俺は、感情表現と言うものが苦手だから、常に無表情。

喜ばしい事態のときも、俺は無表情だから、よく嬉しくないんだと誤解される。

本当は、俺だって飛び上がるほど喜んでいるのに。

いつだって、俺は冷たい奴だと思われていた。

だけど、こいつは違った。


「ふっふーん。仏頂面でポーカーフェイス気取ろうったってそうはいかないわよー!
 あんた、本当はめちゃくちゃ嬉しいんでしょぉ。白状せぃこのこのォ!」


どうやらこいつは、ポケモンの『感情』を読みとる力を持っているらしい。

だから、俺や他の皆が嬉しいとき、悲しいとき、怒っているとき、こいつはすぐに反応してくれる。

嬉しいときは、一緒に喜んでくれる。

悲しいときは、何も言わず傍にいてくれる。

怒っているときは、理由を聞き、共感したり、渇を入れたりしてくれる。

ある意味で、トレーナーとしてはとてもいい能力を持っていると思う。





そんなときに、あるトレーナーが、こいつに勝負を仕掛けてきた。


「今日の夕方五時!104番道路の崖の上で勝負だ!」


この先にある、カナズミシティの、トレーナーズスクールの生徒だろうか。

自信満々の面持ちで、いかにも温室育ちのお坊ちゃまタイプだ。

こいつは、その申し出をとても楽しそうな顔をして、受け入れた。



勝負は俺達の圧勝。

どうやらそのトレーナーは、トレーナーズスクールを卒業し、晴れて立派なトレーナーとなり、

調子にのっていたようだ。勝負の前に何回も、自分がスクール出身であることを自慢していた。

こいつは心底がっかりしたような顔をして、いったんトウカシティに戻ろうと、踵を返していた。


「待ってくれ!そ、そのキモリ、俺のポケモンと交換しないか!?」

「…はぁ!?」


トレーナーは、こいつに交換を申し出てきた。

俺と、さっき戦ったキノココを交換するつもりらしい。


「こ、こいつ、ねむりごな覚えてるから、ポケモン捕まえるときに便利だぜ!?」


よっぽど俺がほしいのか、俺達に惨敗したポケモンを必死に勧める。

こいつは、そのトレーナーを、強く睨みつけた。


「ふざけんな!勝負に負けたくらいでそのポケモンを手放そうとするんんじゃない!」

「し、しょうがねぇだろ!?こいつ弱すぎるんだよ!」


その言葉にこいつの顔がいっきに、怒りの色に染まる。

こいつはそのトレーナーに近寄ると、胸倉をつかんで叫んだ。


「弱かったら育てろ!!努力もしないで強くなろうなんて甘いんだよ!」


そう吐きすてて、こいつはトレーナーを突き飛ばし、また足をトウカシティにむけようとする。

俺はおとなしくその後をついていった。

すると、トレーナーは、ゆっくりと立ち上がり、こいつを睨むと、走り出した。


「えらそうなこと言ってんじゃねぇよ!!」


まっすぐにこいつに体当たりしようとしている。どうやら怒りで周りが見えなくなっているようだ。

こいつの向こう側には…崖の終わり。つまり、下は海だ。

このままではこいつは海に落ちる。そう頭で理解する前に、俺の体は動いていた。

どんっ!という二つの音がする。一つは俺が、こいつを安全な場所へ突き飛ばした音。

もう一つは、俺が、こいつの代わりにトレーナーに海へ突き落とされる音。

体にはしる衝撃が、トレーナーがどんなに強くおしたかを物語る。

自分を包む浮遊感。次に、落下していることを体に教える、海のにおいと、下から拭きぬける風。

崖の上では、あいつの俺の名前を呼ぶ声。

あぁ、無事だったのか。妙な安心感。俺は、自分の身を挺してまで、一体何をしたかったんだろう。

トレーナーの、後悔に満ち、少しずつ遠のいてゆく、悲鳴にも似た絶叫。

どうやら、すぐに自分の犯したことに気づき、恐れをなして逃げ出したらしい。

あぁ、俺の人生ここで終わりか。

諦めかけたそのとき、上の方で、しかしあいつがいるところより、少し近くで、自分を呼ぶ声がした。

あいつだ。あいつが、崖から飛び降りて、俺の名前を叫びながら、俺の方に腕をまっすぐに伸ばしてる。

馬鹿だなぁ、俺が庇った意味ねぇじゃん。ぼんやりとそんなことを思う。

あいつの腕が俺を掴む。すぐに自分の元へと引き寄せる。

あいつは、俺の耳元で囁いた。


「…ジュン…助けてやるんだから…」


すると、あいつは俺を崖の上へと放り投げた。力強く。その細い腕の何処にそんな力があるんだと問いたくなるくらい強く。

下を見ると、あいつはとても悲しそうな笑顔を浮かべ、叫ぶように言った。


「私のこと!人間のこと怨んじゃやーよ!」


なんだそりゃ。やーよって何だよ。お前、もうすぐ死ぬかもしれないんだぞ。

ふと、あいつの声が、心に響く。何処で聞いたのかわからない。いや、聞いたことのない言葉。



『私は私の仲間を護る!!』



護ると言ってくれた人。自分に名前をくれた人。はじめて自分をわかったくれた人。

その人が、今、目の前で、消えてゆく。


嫌だ。

嫌だ。

嫌だ。




護りたい


護りたい




あの人を


命を懸けて


護りたい…!





はるか……!




自分の体から、眩い光が発せられる。

あいつがとても驚いた顔をしているのがわかる。

体の形が変わってゆき、関節の節々に鈍い痛みがはしる。

腕に、葉の様な者が生え、体が徐々に大きくなる。

崖の側面に脚がつき、無意識のうちに、強く蹴った。

少しずつ縮まっていくあいつとの距離。

そして腕を伸ばし、しっかりとあいつの体を掴む。

発せられていた光が消えてゆく。俺は腕に生えた葉を、崖の側面に突き刺す。

ガガッ、と音を立て、落ちる速度は減速していった。

俺の主人は、俺に抱えられ、呆然と俺を見つめていた。

自分でも、何がおこったのかは、まだ微妙に理解できていない。

考えるのはあとだ。そう思うと、側面に突き出ていた岩に、脚をかけ、飛び上がった。

人一人抱えてのジャンプだというのに、軽々と崖を飛び越え、地面の上に着地した。

こいつ…ハルカを地面に立たせると、こいつは何とも言えない間抜け面で、口を開いた。


「ジュン…だよね?」


他に誰がいるんだよ。

心の中でそう呟くと、まるでそれを読みとったように、言葉を続けた。


「そうだよね…ジュン以外にいないよね…。…そっか。
 ジュン、進化したんだね!おめでとう!!」


進化?ふと、自分の体を見てみる。

いつもハルカを下から見上げていたのに、今では同じくらいの背丈で、少し首を動かせば視線があう。

そうか、俺はジュプトルに進化したんだ。

こいつを…ハルカを…大切な主人を護る為に。


「ジュン…もしかして、私の為に進化してくれた、の?」


いつもおちゃらけた顔したハルカが、真剣な顔して見つめてくる。

俺は、何も言わずに、ハルカの肩に顔をうずめた。

お互い助かった安堵感と、主人に言われた言葉の恥ずかしさを誤魔化したいが為に。

ハルカは、俺の羞恥と言う感情を呼んでいるにもかかわらず、ただ『ありがとう』と言うだけだった。



俺は、この人を、護りたい。

護れるだけの力を得たい。




この人が自慢できるポケモンになる。その日から、それが俺の夢になった。














「ジュン!起きんかい!ポケモンリーグ前にしてなーに寝こけてんの!」


ふと瞼をあげる。そこにはハルカと、仲間達がいた。

初期系だった奴らは、皆、最終進化系となっていた。

そして、俺もまた、ジュプトルからジュカインへと進化を遂げ、今ここにいる。

チャンピオンロードを抜け、ついにたどり着いたポケモンリーグ。

決戦を控え、ポケモンセンターで一休みしていたところ、どうやら眠ってしまったらしい。

…?さっきまで見ていた夢の内容が思い出せない。何だかとても懐かしい夢のような気がしたが…。


「ハーイ、シャキッとする!起きたら行くよ。ポケモンリーグ!!」


ハルカは仲間達をボールに戻すと、最後に俺にボールを向けながら、呟いた。


「頑張ろうね」


赤い閃光が俺を包み、ボールへといざなう。

ふと、頭の中に、ある記憶が蘇る。

アクア団とかいう連中に付けねらわれたときに、あいつは言ったんだ。


『私は私の仲間を護る!!』


護ると言ってくれた人。自分に名前をくれた人。はじめて自分をわかったくれた人。

言われなくとも、頑張るっての。そう心の中で答えた。




俺の夢は、現在二つ。

この人の自慢できるポケモンになること。

もう一つは、この人をチャンピオンにすること。

後者の夢は、もうすぐ実現しそうだ。



END...




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