赤という色


赤という色は、どんな色だろう。 光を知る友人たちに尋ねてみる。
どうしてそんなことを聞くのかと問われてみれば、それはただの興味としか言えない。
先日、私の主人に当たる人が何気なく口にした言葉が、たまたまずっと、頭の中に残っていた。 それだけのことである。
友人たちは私の答えに一笑すると、口々に赤という色を語りだす。



熱い炎を自在に操る友は、赤は炎の色だと言った。
何者をも寄せ付けず、いかに強い相手もなぎ倒すことの出来る、炎の色だと友は言った。
それを聞き、私は想像する。
赤という色が、攻め入る強敵を包み込み、灼熱の力をもって焼いていくところを。
感じられるのは、悲鳴。 叫び。 怒号。 狂気。
どれも、私の好きなものではない。
私は、赤という色を恐ろしく感じた。


大地の恵みをよく知る友は、赤は花の色だと言った。
せせらぐ水より生を受け、包み込む土に育まれ、光り輝く太陽に愛され咲き誇る、花の色だと友は言った。
それを聞き、私は見つめようとする。
赤という色が、一面に咲き渡り、自分を育んだ水 空 大地に微笑むところを。
感じられるのは、光。 優しさ。 黄昏。 笑顔。
どれも、私の知らないものばかりだ。
私は、赤という色をうらやましく感じられた。


心の闇を見透かす友は、赤は血の色だと言った。
命を持つもの全てに心があるように、命を持つもの全ての中に絶え間なく流るる、血の色だと友は言った。
それを聞き、私は考える。
赤という色が、生きとし生ける全てのものの中を駆け巡り、命の鼓動を奏でているところを。
感じられるのは、命。 情熱。 激流。 萌動。
どれも、興味深いと思えるものばかりだ。
私は、赤という色をもっと知りたいと感じるようになった。


大空と光の中を生きる友は、赤は夕陽の色だと言った。
昼と夜が入れ変わる刹那、空の色が変わり、それはそれは綺麗な色になるのだと、友は言った。
それを聞き、私は空を向いてみる。
赤という色が、私がいまだ見たことのない光というものを包み込み、暗く冷たい夜の中へと引き込んでいくところを。
感じられるのは、煌き。 歌声。 寒気。 喪失。
優しくも、哀しくも、嬉しいようにも、切ないようにも思うことが出来る。
私は、赤という色が、ますますわからなくなった。



私は、友人たちに問うた。
友人たちの言うことはバラバラで、赤という色を知ることは出来ない。
結局のところ、赤という色はどのような色なのかと。
皆が皆、頭をひねっている中、普段あまり喋らない友人が、珍しく口を開く。

普段はあまり喋らない友は、こう言った。
赤という色は、私たちを取りまとめる主人の色だと。
友人はそれきり口をつむり、また喋らなくなってしまったが、私たちは顔を見合わせ、皆が皆、彼の言うことに賛同した。
私たちの主人は、熱い炎を操る友にとっての炎であり、大地の恵みをよく知る友にとっての花であり、心の闇を見透かす友にとっての血であり、大空と光の中を生きる友にとっての夕陽なのだ。
友人たちが、普段喋らない友人の言うことに何度もうなずく中、ようやく赤という色を納得した私は遠くからやってくる主人の気配を感じ取る。
強く、色鮮やかで、私たちのことをよく知り、時に憂いを感じさせる主人は、私にとっての赤である。
ゆっくりと近づいてくる赤という色に、私は尊敬の念を覚えた。


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