もう夏だというのに、落ちてきた場所はうっそうと茂った木々に日の光がさえぎられてひんやりと冷たかった。
ここ・・・どこだろう。 アゲトじゃないのだけは確か。 こんなに深い森はなかったし。
後ろを振り返るとアゲトとは違う、木で出来た小さな祠があった。
おもちゃみたいな扉からセレビィが手だけ出してパタンと閉めたら、他には風と木々のメロディ以外、ほとんど聞こえなくなる。
静かで不気味? 独りぼっちだから、怖い?
ううん、違う。 隠れてる。 この森に住んでいるポケモンたちが、想像している以上に、きっとたくさん。
そうだった、私の世界って・・・『こう』なんだ。
私、思ってるよりずっとたくさんの命に関わってる。 それが少しずつ動いてるから、少しずつ・・・世界が変わってく。
動かなきゃ。 このままだと遭難しちゃう。
「イザヨイ、あなたこの森の抜け方、わかる?」
モンスターボールから出したイザヨイは、少しだけ首をかしげると何も言わず歩き出した。
・・・もう、通じないんだ。 私の言葉。
そりゃそうだよ、あんなチカラ・・・ずっと無限に続くわけない。
夢だったのかもしれない。 オーレも、シャドーも、スナッチ団も・・・レオも・・・
・・・あれ、でも、イザヨイはいるよね。 何で?
どうして、涙が出てくるの?
溢れてきて止まらない、この気持ち・・・何?
『ミレイ!』
「・・・ふっ・・・うぅっ・・・!」
涙が止まらない。 会いたい
どうしよう・・・どうしようもない。 気持ちばっかりが溢れてって、自分でも止められないよ。 少しでも早く
イザヨイがなぐさめてくれるけど、ダメ、止めようとすればするだけ流れてく、決壊してく。 あいつはすぐに泣くから・・・
泣き止め、ミレイ。 またレオに怒られるよ。 言おう
でももう・・・レオには・・・会えないん・・・だよ?
「っ・・・! うわあぁん!!」
イザヨイが顔を上げた。 ゴメンねイザヨイ、こんなご主人様で。
自分の泣いてる声の隙間を縫って、何かが近づいてくる物音が聞こえる。 野生のポケモンかな・・・結構大きい。
指示・・・出さなきゃ。 気が立ってるポケモンは人のこと襲うって聞いたことあるし。
だけど、ホントダメだ、顔も上げられな・・・ 「お前のところに、帰ってきた」って
「・・・また泣いてるのか、お前は!」
真っ暗だった視界が、急に光を取り戻してゆがんでいた。
うん、そうだよ、泣いてたんだよ。 だけどそれは・・・何のため?
「本当にミレイはいつもいつも・・・泣いて、泣いて、何度も泣いて・・・俺のことを困らせる!」
顔を上げると、見慣れた顔と、金色の瞳が自分の瞳に映っていた。
・・・これは、夢? じゃあ、抱きしめられたこの感触は?
「・・・もう泣くな。」
少し、息が切れてる。 肩が震えてる。
夢って、こんなにリアルなものだったっけ・・・?
「・・・レオ?」
「・・・そうだ。」
「ホントに・・・ホントにレオなの・・・?」
「・・・そうだ。」
「どうして・・・?」
「走ってきた。 言葉も、完全ではないけど・・・覚えた。」
どうしよう、聞きたいこと・・・またいっぱい増えちゃった。
でもその前に確かめたい。 レオと私がここにいること、あったかい・・・この感触、この気持ち。
レオの胸に顔を埋める。 ヤバイ・・・また泣けてきた。
「・・・また泣くのか。」
呆れてるね、レオ。 泣き癖直さないと、そのうち嫌われちゃうかも。
でも、今だけ許して。
「人ってね・・・嬉しくても泣くんだよ?」
一回り、大きくなった?
どうやってここまで来たの?
ポケモンたちも一緒?
なるべく泣かないようにするけど、時々は許してくれる?
これからは・・・ずっと一緒にいられるの?
溢れて止まらなくなりそうな言葉は、まだ胸の中。
顔を上げると、金色の光と一緒に、太陽の匂いがする。
2人顔を見合わせて、2人同時に笑って、2人、同じ言葉を相手へと向かって投げかけた。
「ただいま!!」
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