『Gray War』 特別編 〜四大幹部(−1)の日常〜



 『四大幹部』、それは『The army of an ashes cross』の最高権力者である


 実力は誰もが認め、尊敬や憧れ、上へ上り詰めようとする者達の目標でもある


 現在物語に登場している『四大幹部』は3人・・・ディック、リサ、ジークである


 彼らには謎が多く滅多に過去を話さない、今日はそんな彼らの日常の一部を特別にのぞいて見よう・・・











 「・・・ZZZZZ・・・」


 ある日の真夜中・・・12時半、ディックは当然のように眠っていた・・・あと起きるまで10時間は寝ていられるハズだった
 だが、突然部屋の電気がついて・・・・・・リサがディックの部屋に侵入してきたのだった


 そしてディックが掛けていた布団を剥ぎ取り、耳元で言った
 ・・・この時『逆夜這い』とかなら、この話は此処に載ることは無かった
 しかし・・・この2人ではそれはありえないことだった


 「のんきに寝てる場合かぁっ!!

 「・・・ZZZZZ・・・」


 少しぐらい怒鳴ったぐらいじゃ、このある意味強者であるディックは起こせない
 枕や掛け布団を引っ剥がしたって無駄だ、シーツにくるまるなり、そのままだって今の季節は快適に寝ることが出来る
 リサが次に取り出したのは、ツッコミの定番商品『ハリセン』である
 ・・・・・・もちろん「何処から出したの?」、なんて野暮なことは訊いちゃいけません
 

 「起きんかぁっ!!

 「・・・ZZZZZ・・・」
 

 スッパーンといい音を立てるが効果はない、そもそもハリセンは音だけ凄くて痛みは殆ど無いから当然である
 ベットの上ではぐっすりと、幸せそうに眠り・・・寝返りをうつディックの姿が・・・これではどんな方法でも起こすのは不可能に近い


 ・・・・・・となれば、『最終手段』しかない


 「・・・覚悟はい〜い?」


 とリサが耳元で囁いた、この時・・・本当に寝ているはずのディックが無意識にビクゥッと反応した
 無意識の内に小刻みに震えるディックに・・・・・・リサが腰のボールに手をあてた


 「バシャーモ、『ブレイズキック』」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 「おはよう、ディック。 お目覚めの気分は?」

 「・・・・・・最悪ですが」


 チリチリと背中が焦げる臭いがする、パジャマは完全に燃え尽き・・・リサに了承を得て着替え終わった所だ
 ・・・・・・リサのバシャーモの『ブレイズキック』を喰らい、生きていた人間は・・・殆どいない(当然)
 ・・・しかし、そこまでしてディックを起こさなくてはいけないワケとは・・・いったい何なのだろうか?


 「・・・んで、用件は・・・ZZZZZ・・・」

 「寝るなぁっ!


 リサのアッパーがディックのあごに直撃した、ゴツッと頭の方から床に叩きつけられた
 ・・・まぁ仕方ないと言えば、仕方ないのだが・・・・・・普段ならディックはこの時間寝ているのだから
 リサも当然寝ているのだが、こういう時・・・何かあった時は必ず昼間以上の働きをする・・・しっかり者なのだ


 「・・・うう・・・死ぬよ、俺。 ジークみたいに、丈夫じゃないんだから」


 ・・・いえ、貴方達の存在は既にギャグ化してます、死ぬという万一にも可能性はありません


 「それよ、ジークのことで大変なことが起きたのよ! ホラ、血なんか流してないで、真面目に聴いて!」

 「え? ジークが・・・・・・って、このキズはリサがつけ・・・ぐはぁっ」

 「真面目に聴きなさいって、言ったでしょ」


 もちろん、リサがディックを攻撃したのである・・・この腹へのパンチはかなりキツかったようだ
 色んな所から血が流れているディックが、面倒臭がりながらも・・・真夜中の訪問のワケを聴くことになった


 「・・・んで、大変なコトって?」

 「それがね、ジークが交通事故に遭っちゃたのよ!

 「・・・ええっ!!? あのジークが!!?」


 これは一大事である、ジークが怪我したとなれば・・・自分達に回ってくる仕事の量が増えてしまうではないか!!


 「で、怪我の具合は!!?」

 「全治3ヶ月ですって・・・」

 「うわぁ、面倒臭いことになりそうだね・・・」

 
 とディックがため息をついた、リサも「そうでしょ?」と相づちをうった
 ・・・それから、面倒臭いが事故の状況を色々と訊いてみた


 「先ず、いつ轢かれたのさ?」

 「ええと、ジークの日課の・・・夜のロードワーク途中で」

 「どの辺走ってたの?」
 
 「昼は車通りが多いんだけど、夜は殆ど無いっていう場所かな・・・人目がつかないのよ、その辺」

 「へぇ・・・事故の状況は?」

 「車がいきなりジークの前に飛び出してきたんですって・・・」

 「運が無かったね・・・。 車は? どのぐらいのヤツ? 15トントラックぐらい?」

 「ううん、自家乗用車だって」

 「ますます、運が無いね・・・慰謝料はどうなってる?」

 「まだもめてるみたいよ、『そんなこと、あり得ない』って・・・警察が」

 「そっかー、ますます面倒臭いことになりそうだね。 でもジークってこういうコト、多いよね」

 「多いのよね、結構。 もう、そのたんびに警察とかが躍起になって捜査してくれちゃうのよね・・・」


 ・・・ちょっと待って下さい、警察がどうして「あり得ない」と?
 「躍起になる」のはイイコトなんでしょう? ああ、『轢き逃げ』なら・・・わかりますね
 しかし・・・少なくとも、事故のシュチュエーション的にはよくありそうなんですが・・・





 「え? 悪いけど、ジークが事故に遭ったんじゃないよ?

 
 ・・・・・・はぁ?


 「ジーク車を轢いちゃったのよ、正確に言えば車を運転手ごと弾き飛ばしちゃったのよね」


 ・・・ちょっと待てぇ!!?


 じゃあアレですか? ジークが事故に遭ったんじゃなくて、ジークが事故を起こしちゃったんですね!!?


 「そういうことね、折角だから・・・最初から振り返ってみましょうか」





 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・





 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ・・・」


 今日の夜、丁度日付が変わった頃の出来事だった
 ジークが小刻みに呼吸し、常人には終わりの見えないようなマラソンをしていた
 そしてそのマラソンにはルールがあって、『電信柱があるごとにダッシュをする』というものだった
 これは有酸素運動と無酸素運動の繰り返しで、心肺能力などの向上に繋がるトレーニングの一環であった


 しかし、これが今回の失敗だった
 丁度ジークがダッシュし始めた時に、不運な車がジークの目の前に飛び出してしまったのだった


 もの凄いブレーキ音が辺りに響き渡り、次の瞬間・・・鈍い音と、車の爆音が聞こえた





 「・・・危ない所だった」


 ・・・・・・ジークは無事だった





 交通事故というのは大体が力の差から起きるモノである
 人間と車の場合、車の方が圧倒的に強いため・・・人間は轢かれるか吹き飛ばされるかして、交通事故が成立する
 しかし、ジークと車の場合・・・余程大きく重みと速度のある車でなければ、ジークが轢かれることも吹き飛ばされることも無いのだった


 そう、ポケモンを使わずとも・・・ジークは走っている車より圧倒的に強いのである


 よって、ここで全治3ヶ月の怪我を負ったのは車を運転していた人の方、ジークはほぼ無傷
 慰謝料の問題は・・・普通なら車で轢いてしまった方が払うモノだが、今回怪我したのは運転した人の方である
 そうなると車を弾き飛ばしたジークの方に責任があり、慰謝料を払わなくてはいけなくなるが、警察はそれを認めようとはしない
 故に慰謝料はどちらが払うべきかで、もめているのである


 ・・・事故の正確な状況はお分かり頂けただろうか?


 


 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


 ディックとリサが笑いながら話している


 「しっかしさー、ジークも不運だよなぁ。 車を弾いちゃうなんてさ」

 「ホントよね、もう少し周りを見て走って貰わなくちゃ・・・私達が困るのよねー」

 「そうそう、余計な仕事が増えちゃうし・・・あー、これからジークは警察の事情聴取?」

 「そのハズだけど・・・どうかしら? 運転していた車がハンドルを切りすぎたって話で終わるかもね」
 
 「警察はお堅いからねー、そう言う既成事実を創り上げちゃうんじゃない?」

 「全くだ、真実を知ろうとしない者達の集まりなど、行く末もたかが知れているな」
 

 ・・・・・・あれぇっ!!?


 「お、ジーク。 もう釈放されたの?」


 ディックが振り返ると、確かにジークが其処にいた・・・いったい、いつの間に・・・


 「ああ、無実だそうだ。 全く・・・こちらは善意で真実を語っているのに、誰も認めやしない。
 唯一、真実を知っているのは、弾き飛ばしてしまった車の運転手だけだ。
 ・・・もっとも、頭を打ちすぎてあらぬ幻覚を見たと勝手な診断をされ・・・警察病院の精神科と脳外科へ送られたがな」

 「ふぅん、おかしな話ね。 ・・・で、慰謝料はどうなったの?」

 「ん? ああ・・・結局、運転していた車がハンドルを切りすぎたってコトにして、俺はどちらかというと被害者扱いだ。
 この交通事故のおかげで、今日の分のトレーニングが10分の9しか終わらなかった・・・!」

 「ごしゅーしょーさま」


 ディックがわざとらしく手を合わせた、それからニカッと笑った
 リサもまたくすりと笑った・・・なにはともあれ、無事に帰ってきたことだし・・・めでたしめでたしじゃないのかな?





 それからジークが自分の部屋からチェスの道具一式を、ディックの部屋に持ち込んできた

 
 「今からトレーニングの続きをやっても、無駄なだけだ。 久し振りに一勝負・・・お手合わせを願おうか」

 「ん〜、面倒臭いけど・・・ジークが無事に生還しました記念ってことで、やろうか・・・」

 「あ、私にもルール教えて。 見てるだけじゃつまんないし・・・ね?」

 「「教えるのが面倒臭い」」

 「ちょ、何ですってぇ!!?」


 珍しく見事にハモッたディックとジークが、リサに部屋の中を追いかけ回され始めた
 しかし、字の通り部屋の中を縦横無尽に逃げ回る二人・・・壁走り、天井走りなんかやっている


 「・・・うわぁ、どうするジーク?」

 「簡単だ、口頭でチェスをすればいい。 頭の中にチェス盤を描くぐらいは簡単だろう?」

 「そうだね、面倒臭いけど・・・んじゃ、俺が先手ね」

 「2人とも、待ちなさい! バシャーモ、『ブレイズキック』!! 目標、ディック!」


 リサのバシャーモが部屋の壁を駆け上り、ディックを蹴り上げるが・・・紙一重で避けられた


 「か、勘弁してよ、え〜と・・・『KBの5』」

 「フム、なら『QBの4』」

 「やめんかー!!!」
 



 
 




 ・・・とまぁ、こんな日常の繰り返し


 別に普通だったろう?


 『四大幹部』だって、ちょっとトレーナー能力なんかに目覚めただけの・・・普通の人間なんだから


 ちなみに、この話は続かない










 End






 


 
 この話は本編50話突破記念として書かれた短編です。
 妙にタグを多く使ったので、変換されない場合は見にくくなっていると思います。
  

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