マンタインにつかまり、水中をゆっくりと進む者が居た
 夏の水温には程遠いが、冬のように凍えて死ぬわけでもない
 
 
 ・・・音も無く浮上し、黒のダイビングスーツを着た者が姿を見せた
 マンタインにここで待機するように無言で指示し、素速くダイビングスーツを脱いだ
 ゴム製であり濡れたそれは脱ぐのに少々苦労したが、この格好では間抜けで見つかりやすい


 ここはカントー本土がクチバの港、その光景にやはり少々驚いたが・・・ここまでは事前の情報通りだ

 「(・・・時間は限られている。1秒でも早く、奴らに関する手がかりを見つけないと・・・)」

 男は腰に付けていたモンスターボールを瞬間的な動作で、上空へ放った
 その中から出てきたのは『エアームド』、その首にカメラや集音器をぶら下げる

 「上空から探ってくれ」

 『合点承知』

 ヒュゥッと上に舞い上がると、ぐるりと辺りを旋回する
 トレーナーの方も慎重に動き、何やら機械にその上空から得た情報を転送している

 「(・・・やはりか)」

 男は辺りを見回し、誰も・・・戦闘構成員や見張りのいないことを確認し、自らの手でも情報を集め始める
 その時、上空から大声が響いた

 『オイ、向こうの方に人が倒れているようですぜ!』

 「ばか、声を下げろ。隠密行動中だぞ」

 トレーナーの叱責の声に対し、上空のエアームドは全く応えていない様子で、また続けて言った
 
 『・・・同時に複数の、奴らの姿も見える。このままだと、1分以内に目標と接触するだろうねぇ』

 「!」

 もし、それが本当ならば、1秒でも早く保護・安全な所へ連れていってやらねばならない
 それが囮や罠だとしても、このまま何もせず見過ごして行くことは彼の性分がそれを許さなかった

 「エアームド、先に行け」

 『合点承知』

 シュンッと高速で飛び、その方へと飛んでいく
 彼も『ドードリオ』を出し、それを追いかけるように全速で走るよう命じた
 
 「(間に合え・・・!)」





 ・・・・・・


 「おい、アレ見ろよ」

 目つきの悪そうなごろつき風の男達が、水道付近であるものを見つけた


 それは無惨にも服を斬り裂かれ、倒れている少女の姿だった
 出血もあるが、何よりも男達の目を引くのは露わになっている肌の方だ

 「ま〜だ残ってたんか」

 「見回りも楽じゃねぇや」

 その少女に近づき、ぐいっと顔を近づけた

 「・・・悪かねぇな」

 「ああ。な、どうだ? 1人ぐらい、わかんねぇと思わないか」

 「ハッ、テメ幼女趣味か? 反対はしねぇがな」

 ウグクククと男達が下卑た笑い声を漏らし、少女を担ぎ上げようとした時だった
 

 上空から、何かが急接近してきた

 「音、届くことなく。音、届く間もなく。音を越え、敵へ到達せよ」

 刹那、何かが輝いた
 が、男達がそれに気づいた時には・・・・・・既に終わっていた


 「『風切』(かざきり)!」

 何の音も無く、男達が後方へと吹き飛び、水道の中へ派手な音を立てて沈んだ
 少女はエアームドがくちばしでくわえ、技の指示を出したトレーナーがやや遅れて到着した

 「間に合ったか?」

 『エアームドが速すぎるんザマス。ワタシ達の方は全速力でしたわよ〜ん』

 『うっせぇ! 今回は足場が悪かったんだ、だから次こそ俺ら勝つんだよ!!』

 『うわぁ〜ん、どうやったって、これ以上速度を上げるのは無理だよぉ』

 『ふっ、速さと硬さが自慢でね。・・・ああ、何とか間に合ったようで。技も具合良く決まりましたぜ』

 彼が「そうか」と安堵し、早速その『目標』を地面に下ろすよう指示した
 エアームドが素直にくわえていた少女を地面に下ろすと、彼は「わっ」と言い目を逸らした

 『へっ、テメェも大概に純情だねぇ』

 『いいのよ。そこがワタシ達の主のイイ所じゃないの〜ん』

 『こんな主の下じゃやってらんねぇよ! ぬるすぎんぜ!!』

 『みんなぁ〜、主のこといじめないでってばぁ』

 「〜〜〜〜〜っ! こら、やかましいぞ!」

 彼が顔に手を当て、ぶんぶんと追い払うような仕草をした
 ポケモン達は失笑し、少女の周りでたむろっている
 それから、自分の着ていた羽織を少女にかぶせ、ようやく直視することが出来た

 「(時間ももう無い。・・・俺の手に負えそうもない。皆と相談するか)」

 彼はポケギアを取り出し、これから帰還することも含めて、連絡を取った

 『任務ご苦労。で、どうだった?』

 「収穫はあったし、事前情報の裏も取れた。あと、それと・・・・・・」

 すると、今まで意識の無かった少女がむくりと起き上がった

 「・・・!」 

 『おい、どうした?』

 彼は「あとで話す」と言い、ポケギアを切った
 少女はフラフラと危なっかしく歩き、やがて先回りをしていたエアームドに捕まった

 『どうも無意識みてぇだな』

 『大丈夫なのん? ホントにこの子ったら〜ん』

 『こんなヤツぁ放っとくに限るんだ! あぁ、無視無視ッ!!』

 『かわいそうじゃないかぁ、そんなこと言っちゃヤダよぅ』

 「・・・・・・マに」

 ボーっとした虚ろな目で、少女が何かぶつぶつと言っている
 あまりに小声でよく聞き取れないため、彼は目を逸らしつつ再び羽織を着せると同時に耳をそばだてた


 「・・・シマに。・・・ナ・・・マに。・・・・・・ナナシマに」

 「!」

 そして、また彼女の意識が途絶えた
 彼が頭をかきむしり、何か必死で思い悩んでいるようだ

 『何悩んでんだよ、決まってんじゃねぇか』

 『そうよ。もうとっくに・・・でしょ〜ん?』

 『オラオラ、さっさと即決しやがれ! その態度にゃ苛々すんだっ!!』

 『女の子と思いやりを大事にしようよぉ』

 「・・・・・・わかってる。お前達に言われるまでもないことだよな」

 彼がエアームドから少女を受け取り、背中におぶった
 心なしか彼のポケモン達がにやにやしているようだが、ここははっきりと無視を決め込んだ

 「エアームド、港にいるマンタインをこっちまで呼んできてくれ」
 
 『合点承知』

 ヒュゥッと軽やかに飛んでいくのを視認すると、彼はドードリオをボールに戻した

 「・・・危険な賭けになるかもしれない。それでも・・・」
 
 まだ仲間内での了承も取っていないのに、これは明らかに越権行為だ
 が、もしかしたら奴らに関する重大な情報を得られるかもしれない
 が、もしかしたら奴らのスパイで・・・・・・いや、憶測はやめにしよう

 



 「(彼女を連れて行く。俺達の修行場、ナナシマ諸島に・・・!)」

 恐らく、カントー本土にこうして忍び込めるのは今回限りだろう
 海に潜ってわかったが、少し潮の流れが変化している
 カントー本土付近でこれなのだから、元々潮流が激しいナナシマではもっと変化するに違いない
 得意の空からの侵入は明らかに目立ちすぎるし、仲間内に潜入・侵入用の能力を憶えている者はいない

 「(・・・この選択が、吉となるか凶となるか・・・)」

 やがてエアームド共に水道からマンタインが顔を覗かせた

 『ごしゅじんたまーっ、マンタインくんですぅ』

 「よし、ちょっと待っていてくれ」

 彼は少女を下ろし、またエアームドの背中に乗せた
 ・・・怪我人を海に潜らせるわけにはいかないだろうし、また不測の事態なのでダイビングスーツの予備が無い
 そこでエアームドには限りなく海面スレスレの目立たない低空飛行を命じ、少女を落とさないようにアジトへ帰るよう言った
 彼自身は行きと同様、ダイビングスーツに身を包み、マンタインの誘導でアジトまで帰る 

 『先行って、待ってるからな』

 「ああ、頼んだぞ」

 エアームドがシュッと先へ飛び、ダイビングスーツを着た彼も水道の中へゆっくりと身を沈めた
 ・・・そういえば先程沈めた男達は大丈夫だろうか、見た限り能力者ではなさそうだったのだが・・・・・・

 「(手加減はしたし、死ぬことはないだろうが・・・)」

 いや、というか今目の前で・・・タイミング良く、男達が気絶した状態で漏れなく水の上に浮いてきた
 ほっと一安心し、マンタインが潮流の変化を感じ取ったのか彼を「ごしゅじんたまー、いそぎますよぅ」と急かした

 「ああ、すまない」

 とぷんと頭まで水の中に沈み、彼はカントー本土をあとにした・・・



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