〜更なる高みへ/053〜



 
 「聞かせて? グリーンの気持ち」


 ・・・・・・


 「聞いたところで何になる」

 「やーくーそーくー」

 「聞きたい理由がわからん」

 「いーでしょ。別に」

 しかし、その一心のおかげで態勢は持ち直せた・・・のかもしれない
 最初から集中し、そのやる気を出してほしいとグリーンは切に思う
 今のグリーン達の実力では、そもそもあの程度の刺客は障害になり得ないのだから
 
 「早く言わないとレッド達合流しちゃうわよ。皆の前で盛大にぶちまけてもらってもいいけど」

 バトルが終わったのだから当然だろう
 どんな内容であれ、その他大勢に聞かれるのは気まずいはずだ
 そこをつけば落ちる、そうブルーは狙っているのかもしれない

 グリーンはため息をついた
 
 「嫌いじゃない」

 「・・・・・・やっぱりそれだけ?」

 予想はしていたが、なんて当たり障りの無い返答
 つまらない
 
 仲間のことを面向かって悪く言うわけ無い

 そりゃそうだ
 下手なことを言って関係に亀裂を入れたら、この後が大変だ
 グリーンの返答はひとつの正解であり、これ以上のものは無いだろう
 逆にそれだけのことをはっきり言ったのも好感が持てる方だ
 
 ふぅとブルーはため息をついた
 そのことに少しだけ驚く
 ちょっとくらい、ほんのちょっとくらい色好い返答でも期待してたのか
 堅物相手に面白がってるだけなのか

 「好きでもない、と並べては言わん」
 
 ん?

 「後は推して知れ」

 ふいとグリーンはそっぽを向いて、さっさと歩いていってしまう
 好きでもないし、嫌いでもない・ではなく
 嫌いではない・だけ?
 推して知れ、ってどう捉えるわけ?


 『で、どうなったの?』

 首を縦に180度回転させ、シショーが首をかしげている

 「あら、聞いてたの?」

 『鳥の耳を侮っちゃいけないよ』

 「最初から?」

 『どこから最初なの?』

 ふふっと笑うシショーに対し、ブルーは耳元で思い切り手拍子をうった
 響いたそれにくらくらとシショーは目を回している
 どこまで聞いていたのかはわからないが、とんだ出刃かm……鳥だ
 
 「(まー、いっか)」

 今回はアタシが変だった
 きっとたぶんおそらく、そうなんだろう

 また、いつか
 この戦いとかが終わったら、仲間じゃなくなったら改めて聞いてみよう
 ・・・・・・うん、そうしよう
 他意はないのよ、他意は

 ブルーが鼻歌混じり、ご機嫌そうに先へ進む

 そして、展開に忘れられた人達
 相変わらずわからない、という表情を皆はしている
 しかし、何も追求しなかった
 聞くだけ無駄というより、聞かなくてもなんとなくわかるのだろう

 平穏なパーティだ


 ・・・・・・


 『触らぬ神に崇りなし』


 不可侵を尊守すればいい
 それだけで何事も起きないのだから

 人心に触れること無かれ
 恨みをおぼえれば死してもなお牙を見せ付け襲い来る
 故に恨みもった人心を神とし、崇め・奉り、触れさせぬようにした事例もある程だ

 推して知るべし
 その恐ろしさ


 ・・・・・・


 若干アシが高くなった草むらを踏みしめ、レッド達は進む
 辺りを警戒するものの、特に変わった気配なども感じられない

 「珍しいポケモンとかいませんね」
 
 「そんなもんだろ」

 「まー、あの庭が変すぎただけで」

 あの庭とは、その示唆するものはあの育て屋の庭しかない
 それにしても比較対象として規格外すぎる
 
 「逆に進みやすくていい。これ以上厄介ごとに巻き込まれたらかなわん」

 珍しいポケモン=強い。という安易な図式が成り立つわけではない
 それが当てはまることもまた珍しくないのだ

 「まだt」

 『あ、見えてきたよ』

 文句のひとつたれてみようかという矢先、シショーが器用にその翼で示した先に見えるもの
 石造りの無骨な遺跡
 あれが『てんのあな』のようだ 


 「・・・ふつーに遺跡ッスね」

 「まだ何があるかわからん。気を抜くな」

 へーい、とゴールドが気の抜けた返事をする
 とりあえず妙な気配も動きもない
 シショーの五感でも読み取れるものはないという

 「んじゃ、なかに入りますか」

 このなかにサファイアがある可能性
 ルビーとそれがあれば、久しく見ないボックスメンバーと出会えるようになる
 正直、手持ちの入れ替えが出来ないとこの先のバトルに対応出来なくなるかもしれない
 反逆、裏的な使い道だが回復の防止
 組織が転送装置を押さえたのもそこに理由があるのだろう


 ・・・

 そして、なかに入っていくレッド達は気づけなかった
 背後から覗き見る黄色の目に

 
 ・・・・・・


 中に入ると石畳が敷かれており、すぐ下へ降りる階段を見つけた
 慎重に、ゆっくりと降りていくと上と同じように大きな空間が広がっている
 薄ぼんやりと壁が光っているのか、地下空間という狭苦しさや息苦しさは殆ど無い

 「へぇ」

 「壁はどういう仕組みなんだ?」

 『劣化しない蛍光塗料でも塗ってるんじゃない?』

 「古くせー割にしっかりつくられてんなぁ」

 「じゃないととっくに潰れてるわよ」

 クリスのツッコミにゴールドがくってかかる
 それを無視してその部屋を他の皆が調べてみる

 壁の仕組みは一概にはわからないが、何かヒカリゴケのようなものを自生させているのかもしれない
 前後左右にある落とし穴、それ以外に何も無い

 正確には他にもあったのだろうが・・・


 「中央に石の残骸、か」
 
 「たぶん、これ、この先に進むための手がかりだったんでしょうね」

 「後から来る奴らに読ませないように破壊したってことッスね」

 残骸を見ると、わずかに点字らしきものが刻まれているのがわかる
 しかし、点のみで構成されている文字がこうもばらばらにされては解読するのは難しい

 では、これからどうするか
 おそらくではあるが、この先に進むための道はもう示されている


 「クリスはこの部屋の右の穴、ゴールドは前面の穴、レッドは左、ブルーは後方の穴の前に立ってくれ」

 グリーンの指示にピンときた
 言われた通り、その位置に立つ

 「んで、同時に飛び降りるわけね」

 「そういうことだ。気をつけてくれ」

 そうグリーンが言うが早いか、4人はいっせいに飛び降りた
 何も変化は


 ぐしゃ

 グリーンの真上からレッド、クリス、ブルーがほぼ同時に落ちてきた
 対応しきれず、グリーンは下敷きになっている

 「やー、ほんとにどーいう仕組みなのかしら」

 「空間がねじ曲がってるのか?」

 「そんな技術があるんですか」

 「いいからさっさとどけ」

 潰されているグリーンは無様にならないよう、腕立て伏せの形でとどまっている
 地に這いつくばったりはしていないのが意地だ

 「で、誰がいない」

 「ゴールドさんです」

 イエローの言葉に、皆がその前面の穴を見る
 どうやらあれが正解の穴のようだ

 「放っとくと先に進みそうだな」

 「じゃ、さっさと行くか」

 レッドが軽いステップを踏んで穴に飛び込もうとした
 が、不可思議なことにまた上から落ちてきたのだ

 「???」

 正解の穴ではないのか
 しかし、次にイエローが入っていくとゴールドと同じように帰ってこない
 ポケギアで電話をかけても圏外だった

 「つまり、一度間違えたら次は無いってことか」

 「このトラップは人にしか反応しないのがまた厄介だな」

 どの穴に石を投げ込んでも落ちて、戻ってこなかった
 ポケモンはシショーは通れたが、グリーンの知性を持つポケモンは通れなかった
 喋れることなど、人間的な要素で見分ける何かが働いているのだろうか
 よくこんなおかしな遺跡を作れたものだ

 「まぁ、考察は後にして、残ったメンバーで先行けよ」

 「ああ。そうしよう」

 ゴールド、イエロー、グリーン、シショーともう4人になってしまった
 この先いくつも同じトラップがあったら最下層までたどり着けない可能性があった

 「気をつけてね」

 ブルーの呼びかけに後ろを向いたまま、グリーンが手のひらをひらひらと返した
 

 ・・・・・・


 『ほら来た』

 「うぃーッス」

 「上は大丈夫ですか?」

 「問題ない」

 グリーンが穴から下りると、先に入っていた3人・・・・・・がいた
 ここは差し詰め地下2階といったところか
 あと、どのくらい降りれば最下層までたどり着けるのだろうか

 「早速なんスが、またアレが壊されてるようで」

 「だろうな」

 先に来た者達が最下層まで行けたのかは知らないが、少なくとも4人いれば1人はここに来れる
 とすれば、後発組の妨害策として上と同様手がかりの破壊はしていくだろう

 「また4人で行くと後がキツいッスよ」

 「わかってる」

 グリーンが砕かれた手がかり、点字を細かく分析してみる
 試みるが、やはり厳しい

 「・・・石版を正面において見て、左だな」
 
 「はぁ?」

 『どうしてわかるの』

 4択が1択になったのはいいが、その根拠がわからない

 「砕けた点字は3文字であったようだ。
 この部屋の穴を上・下・左・右とした時、該当するのは左だけだ」

 「じゃあ、東西南北だったら?」 

 「遺跡のなか、方角もわからない状況下に設定したんだ。それはないものと推測出来る。
 本当に最下層に行かせたくないなら、道を作らなければいい。それがあるのだから、多少にヒントくらい残すだろう」

 「前、後ろ、左、右の可能性もありますよ」

 「左はどの道残る。左、後ろのどちらかで間違いない」

 この場合、左の穴に誰か1人が飛び降りてみればいいわけだ
 
 「間違ってたらやばいっすね」

 「考えても仕方ない」

 グリーンがゴールドをせっつき、左の穴に向かわせる
 ぶうぶうと文句を言っているが、割と楽しそうにそこへ飛び込んだ
 ・・・・・・上から落ちてくる様子は無い
 下手すると地下1階に戻されているのかもしれない

 『そうなるとやっぱり4択の方が』

 「行くぞ」

 グリーンが左の穴を飛ぶとイエローも続く
 ぽつんと残ったシショーも慌てて飛び込んでいった


 ・・・・・・


 落ちた先にレッド達はいなかった
 代わりにゴールドが待機していた

 「正解だったようだな」

 「石版も壊されてないッス」

 先発組はここまでたどり着けなかったらしい
 地下3階
 まだ最下層ではないようで、やはり4つの穴が壁際でぽっかりと口をあけている

 早速石版を調べてみるが、壊されていない代わりに文字が風化し・かすれてしまっていた
 空間がねじまがっているような仕組みのくせに、時間経過はしっかりと刻まれているらしい

 「だが、文字は2文字のようだ」

 「えーと、前後ろ左右なら前か右ッスね」

 「上下左右なら3択になる」

 『どのみち左はないんだね』

 ここは前・上か右に2人ずつと絞るべきか
 グリーンは思案し、慎重に物事を考えていく
 

 「いや、右に2人、前・上に1人、下に1人で行こう」

 「前・下だったら1人になっちゃいますよ?」

 「被っている右の確率は高いが、間違って地下1階辺りに戻されてしまった場合・確かめるすべがない」

 『最悪、1人の勘で進んで、駄目なら仕方ないよ』

 再挑戦は日を改めれば出来るかもしれない
 今は落ちて、進んでみるしかない

 「じゃ、どう分かれる?」

 「右は俺とシショー、前・上はゴールド、下はイエローだ」

 「OKッス。今日の俺はついてるんスよ」

 そんなことで分けたのかはわからないが、確かにゴールドの落ちた穴は正解が続いた
 分かれて穴の上に立ち、ゴールドが先に落ちた

 ・・・・・・上から落ちてこない
 しかし、グリーンとシショーは右の穴を落ちた
 ゴールドが戻されたという確認は出来ないのだから、前に続くわけには行かない
 イエローも下に開いている穴に思い切って飛び込んだ


 ・・・・・・


 「うおっ」

 
 ゴールドが落ちた先、そこはレッドの頭の上だった
 とっさに気づき、レッドがゴールドを避ける
 クッションがなくなり、慌ててしまった結果・ゴールドはどしゃっと無様な体勢で着地となった

 続けてイエローが上から落ちてくるので、レッドは反射的に受け止める
 「ナイスキャッチ」と周りがはやしたてる
 ゴールドがひいきだ、と言うがこれは仕方なくもある

 「んで、結局どうなったんだ?」

 レッドが、あれからずっと先発であったと思われるゴールドにそう訊ねた

 「えーっと、上の穴に落ちた俺に続いてグリーンさん達が来たんスけど、同じような部屋が続くんスよ。
 この下は砕けた点字の数と推察で左の穴で、その下が・・・イエローさんと俺がいるから右の穴が正解だったんッスね」
 
 「残ってるのはシショーとグリーンだけか」

 「あの2人なら大丈夫そうですね」

 「そ、それよりレッドさん! 早くおろしてください!」

 はたと気づくが、レッドは上から落ちてくるイエローを受け止めた
 どう受け止めるのが楽かといえば、俗に言うお姫様抱っこが一番だ
 今回もその例に漏れず、しかしあまりに自然な態勢なのでレッドはイエローを抱きかかえたままだった

 「あ、ごめん」

 少し照れたように、イエローをおろそうとした
 その時だった


 てんのあな入り口より続く階段から、レッド達のいるこの部屋のなかに
 何かが素早く、その軌跡を残して過ぎ去っていった

 一瞬だったので、目で追いきれなかった
 それでもはっきりと軌跡がわかった

 「なんだ、今の!?」

 「やべ、上の穴に入っていきましたよ!」

 レッド達がこうして残っているのにもわけがある
 もし最下層に誰かが向かっている間に刺客が来ても、ここ地下1階で足止め出来るからだ
 望ましいのは各降り立った地下階で待機出来ればいいのだが、これだけの戦力が集まっていれば充分だ
 そのはずだった

 だが、何かがレッド達の会話から途中までとはいえ正解るとを聞いて、行ってしまった
 このままだとグリーンとシショーの身に危険が及ぶかもしれないが、連絡が取れない
 
 「何か見えたけど人間ッスか、あれ?」

 「ポケモン以外ありえないんじゃ」

 「ポケモンはあの穴通れないんだろ」

 「シショーは通れましたよね」

 「そうだ。例外はある」

 皆の目に未だに焼きつくようにして残るその軌跡はまるで


 「蒼い稲妻・・・」


 ・・・・・・
 
 
 『地下4階に到着〜』

 「のようだな」
 
 レッド達もイエローとゴールドの姿も見えない
 正解の穴を通れたらしい

 『石版もあるね』

 「相変わらず文字はかすれているがな。2文字に間違いない」

 それでも3文字ではないがわかるので、『左』の1つが消えた

 「多少かすれているが、それとこれはさっきの階では見なかった点字のようだ」

 つまり『右』ではないということ

 『2択?』

 「そうなるな」

 まだ見ぬ点字は地下1階の破壊されていた『上』と『下』だけ
 上、左、右ときたのだから

 『次は下!』

 「単純すぎる。ひっかけかもしれん」

 『うーん』

 もし『下』が『後ろ』だった時、どちらも2文字の上・前が正解の穴となる
 まだ点字を判断して進んだのが左か右かだけのが痛い
 上下左右の上か下か、前後左右の前か後ろかがわからないからだ

 かすれたり砕けていたりしたせいで、せっかくメモしてきた点字についての勉強が無駄になってしまった

 「・・・俺は下を行こう」

 『ん。じゃ、僕は上・前に行く』

 
 とうとう穴を通れるのは2人だけ
 どちらかが正解なのは間違いないが、最下層にはたどり着けるかわからない
 下手すると10下層まであるのかもしれないのだ

 『グッドラック』

 シショーが似合わないことを言ってから、穴に飛び込んだ
 グリーンもそれを見てから、下の穴に飛び込んでいく


 ・・・・・・


 飛び降り、どしゃっと着地し、立ったところは今までと違っていた
 無骨な岩壁とは違い、磨き上げられた石室と石畳

 その中央に青く光る鉱石がひとつ
 壁際にも穴が見当たらない

 「最下層か」

 運が良かった
 地下5階
 ここが最下層
 残ったのはグリーン1人

 ともかく、たどり着けた

 何か壁に点字・・・・・・そう点字で文章が刻まれている
 グリーンは解読せず、手持ちのカメラで写真に収めた
 今はそんなのんびりしている暇はない

 目の前にある蒼い鉱石がサファイアであるか
 それを確認せねばならない

 グリーンが蒼い鉱石を手に取ってみる
 警報も何も作動しない
 ここまで来られたことへのご褒美のつもりなのか

 「・・・ニシキに調べてもらうしかないか」

 石に関する知識はない
 専門的なことは他人に頼った方がいい

 それより、これから上に戻る道はあるのだろうか
 グリーンが石室を見回してみると、わかりにくい隅の方に妙に細長い階段があった
 しかもそれは天井にぽっかりとあいた穴に続いている
 やはり、あれも途中から空間がねじれているのだろうか・・・
 
 グリーンが懐に蒼い鉱石をしまいこみ、観念して上り階段へと向かう
 

 何かの気配を感じ取った

 すぐに背後を見ると、何かいる
 いつからかわからないが、正解の穴を通って、追いつけたのだ
 レッド達の守りをすり抜けてだか倒して、ここまで来れた人間ともなれば手ごわい・・・・・・

 
 人間ではない
 ブラッキーだった

 グリーンの思考がそのポケモンの名前に至った時、決着はついていた

 そいつはグリーンの懐にしまったはずの蒼い鉱石を奪い、上り階段に消えていた
 何も追えなかった

 ただ、蒼い稲妻のような動きが目に焼きついただけだ


 グリーンは奪われたのが『どろぼう』の技効果だと、そこまで思考が至ったのと同時に上り階段へ足をかけた
 考えている間にもその足は動き・走り出し、蒼い鉱石の後を追った


 ・・・・・・

 
 グリーンが階段に一歩足を踏み込み、上るのと同時に浮遊感が襲った
 階段があるはずなのに階段がなく、気づいたら地面に立っていた
 レッド達のいる地下1階に

 「・・・・・・この遺跡を作った人間の話をじっくり聞いてみたいものだ」

 『おかえり、とか言ってる場合じゃなさそうだね』

 シショーの動体視力には期待していたが、仕方ない
 突然現れたブラッキーのどろぼうで蒼い鉱石を奪われたことを皆に告げる

 「ゴールドが反射的に走って追ってる。俺達も今から行くところだ」
 
 「そうか」

 地下から脱出し、外の世界へ飛び出す
 どちらへ逃げたのか見当をつけようとするのと同時に、いいタイミングでゴールドからのポケギアが鳴った
 相手は相当速いらしく、どうやら今まで来た道を戻っているらしい
 バクたろうに乗り、海岸線・逃げ場の無い海の方へ追い込みをかけていると慌しく言いながら通信が切れた
 
 『ブラッキーの種族値はそんなに速くないんだけどな』

 「ポケモンの種族値と実際の駆けっこは違うものだ」

 素早さの種族値がミルタンクより5も低いウインディがポケモン1速いと言われているのと同様だ
 技や特性、生態によって変わってくるだろう
 もしくはこうそくいどうか何かでその素早さを高めている可能性もあるが、ブラッキーの場合はバトンタッチによる能力引継ぎ以外そういったものは望めないはずだ

 「嫌な感じだな」

 「そうね。能力者の匂いを感じるわ」

 各々動きの速いポケモンや空を飛べるポケモンに乗り、ゴールドの後を追う
 やはり距離が開いているからか、まだ追いつけそうにない

 「それにしても、どうしてブラッキーがあんな蒼い稲妻とかに見えたんでしょう?」

 「そういえばそうですね」

 ブラッキーの体色は主に黒、模様に黄色・瞳の色は赤だ
 どう見間違えても青色は無いはずだが・・・

 「色違いだ」

 『そーだね』

 ブラッキーの色違いは模様が青・瞳の色は黄色になる
 素早い動きで模様が流れ、それがあたかも蒼い稲妻のように見えても不思議ではない

 だが、グリーンが最初で最後に見た立ち止まっているブラッキーの体色は通常のものと変わらなかった
 何の変哲も無い・見たことのある体色だったからこそ、すぐに記憶と合致し・ブラッキーという名前が頭に浮かんだのだ
 ポケモンの体色というのはカメレオンのようにたやすく変化するものなのか
 ありえない

 だから、能力者の特典による能力者のポケモンだということがわかる
 あの刺客は後からやってくるブラッキーの為の時間稼ぎ・・・・・・というのは突飛が過ぎるだろうか
 気配を感じさせずにあれだけ尾行・行動が出来るのだから、そんな行為は不必要かつ最初からそうしていればいい話だろう
 後から、遅れてやってくることにメリットはないのだ

 
 ・・・ゴールドの後姿をその視界に捉えた

 海を目前にようやく追いついた
 ブラッキーはなみのり出来ないし、この海をトレーナー無しで渡りきることも不可能だ
 ゴールドとバクたろうが肩で息をしている辺り、壮絶なデッドヒートを繰り広げていたのだろう

 目の前にいるブラッキーは確かに通常色
 そして口にくわえる蒼い鉱石


 「さて、盗人さん。それをこっちに渡してもらいましょうか」

 ゴールドがじりと迫るが、あまり追い詰めるわけにもいかない
 やけを起こして海に投げ捨てられたら探すのが困難だ


 ブラッキーの姿が消えた
 かげぶんしんやあなをほる、ではない

 高速で空を飛ぶエアームドの姿
 その背に乗るブラッキー

 ゴールドがバクたろうにふんかさせるが射程距離外
 当たりさえすればエアームドに効果抜群だったというのに

 やられた
 能力者の存在を匂わせていたのだ
 他にもポケモンの仲間やトレーナー自身がやってくる可能性は充分考慮出来た
 追い詰めた、というのが油断だった

 「追うぞ!」

 そうだ
 テレポートではなくそらをとぶならまだ追いつき、取り返せるチャンスがある
 レッド達はすぐになみのりやそらをとぶポケモンを出し、動き出す


 ブラッキーとエアームドが向かう先
 そこに、その2体のトレーナーがいるというのか
 待ち受けているのは当然のごとく敵か、タチの悪い味方か
 持ちかけられるのはバトルか、交換か、取引か


 方向は5のしまだ
 




 To be continued・・・

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