「待ってろ…シン…」


第七十一話 万智の神


ハァ…

ミキが深くため息をつく

「行っちゃったのかぁ…」


ベットに腰掛けるミキが呟く
その横には一匹のヌマクローが

「結構楽しかったのになぁ…ねぇナミ?」
『?』

声には出ぬが、顔を見れば分かる
多分「なぁに?」とか言いたいと思う…多分ね

「さ・て・と・・・もう行こっかな…準備準…」


ピーンポーン…

ふいに聞きなれぬやわらかい音が耳に響く
「えっとこれは…」

ミキは少し混乱する
が、すぐに何かを察し、玄関に走って行った

「はいはーい」
そう言って半畳ほどの靴置き場のスペースを踏まぬように手を伸ばしてドアを開ける
そこに居たのは―

「(誰だろ…この人…)」

開いたドアの向こうに立っていたのは、眼鏡をかけた若い女性だった
背はシンと同じくらい
茶髪で、長い髪を後ろに三つ編みして垂らしている

「シン、居る?」

ミキにそう訊いた

「いま…せんけど…」
ミキがポカーンとした顔で答える

「アンのヤロ!!明日出発するって言ってその日に行ってんじゃねぇよ!アホが!!」
「ッ!!」


その女性が遠くの海を睨みつけながら言う
明らかに顔には怒りが浮かんでいる

「ン…入らせてくんねぇか?」

腰を折ってミキに話しかける
ミキは雰囲気に蹴落とされたのか
「ハ…ハイ…」
そう言うと、女性を招きいれた


・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・


「そういやぁ…」
「?」


部屋の床にドスンと座り込むと、ぶっきらぼうに言った

「おめぇ…ミキ…か?」
「あ…はい。そうですケド…何か?」


名前もいってないのに見事に当てられる
誰かの紹介を受けて来たのだろうか?

そう思っていると、「ハハハ。やっぱし」
そう言ってポケットから手紙を取り出す


「シンから紹介受けてよ。紙には『お前のことを知らなかったら多分そいつ』って…ププ…」

そう言うとすでに開けられた封筒を差し出す
ミキはそれを受け取ると、その封筒には合わぬ小さいメモ帳のような紙が二枚入っていた
その紙には確かに『俺見てすぐに何者かわかんなかったから…反応が薄かったりしたらそいつだ』と

「ホントだ…(うぅ…前言撤回…)」(※楽しかった)

「それで、如何してこちらに?」
ミキが心の涙を抑えながら訊く
「ホイ」 

そう言って封筒からもう一枚の紙を取り出してミキに見せる


『俺は少しミキっていう弟子分の女の所から離れなくてはいけない。代わりに教えてやってくれ。拒否権は無い。明日になったら出て行く。特徴は別紙』

と、簡潔に書かれていた
「え…じゃあ…」
「そ。アタイがアンタの新しい師匠。意義は?」
「え…いや…それが…」

ミキがもじもじしながら必死に言葉を出す
そしてやっと出てきた言葉が

「えと…どなた…でしょうか?」

アハハ…と髪をかきながら訊いた

「ハァ…アタイは…」

そう言って胸ポケットからトレーナーカードを取り出す

「(これって…ゴールドカード!?)」

取り出した紙は金色に輝いていた
「ホラよ」
そう言ってトレーナーカードをミキに渡した
それには、クォーレ地方での獲得バッチ等が書かれている
しかも、バッチは八つ揃っている
名前には『ユイ』と書かれていた

「え…えと…」


「ユイさん…ですよね…?」
「んあ…そうだけど…何?」

「…ごめんなさい…分かりません」

ズシャァ…
『ユイ』はその言葉を聞いてずっこける
ひりひり痛む鼻を押さえながら

「ア…アタヒは…ヒヘンフウの…ヒホヒの…」
うまく喋れていない
ミキが必死になって聞き取ろうとするが、よく分からない

「アタイは!四天衆の一人の!!『万智のユイ』!!」

やっと言葉がまともに出る


・・・・・・・・・・・


「(えぇぇぇぇぇっ!!!!)」


「しっ…知ってましたよ!!…」
「うそはけぇ…ぜってぇ知らんやらぁ?」
ユイが呆れ顔で言う
が、ミキは別のことが引っかかった

「『やらぁ』?まさかユイさんて…」
ミキがユイの方言に気付く
「あぁ。シンセイタウン出身。シンから話とか聞いてない?」
「あっ…いいえ…」
「じゃあ教えてやんよ…


それは今から五年前のこと
まだアタイが十歳だったころだ
アタイとシン、そしてビルドって男がいて、その三人がモンスターボールを貰える筈だったんだけどよ…
その日、アタイは風邪をやらかして(風邪をひいて)
運悪くボールがもらえるのは次の日になってね
残ってた奴が可愛くない奴で…個人的にはシンが持っていったラルトスの方が…
ってこれは別に良いな
それで、三人でリーグを目指したんだけど、途中である組織との対決になっちゃったんだな…
それでビルド以外みんな締め切りに間に合わなくてね…
運良く一日だけ間に合ったシンすら最後にジムリーダーに勝てなかったんだ
それでアタイたちはクリアって女とロク爺さんにこう頼んだんだよ
「勝負して、もし勝ったら推薦出場させてくれ」ってな
なんとその二人は勝負を受けてくれたんだ
が、やっぱり負けちまったんだがな
だけど、その二人は出場を認めてくれたんだ
んでリーグ本戦
二回戦だったかな…
アタイとシンが当たってな
ん〜…結果は聞くなよ…
それで準決勝で負けちまってよ
三位決定戦にも負けちまった
その大会の後、三人はいろんなとこに散ったんだ
だけどその年はポケモンキングスダムがあってな
アタイとビルドは出場したけど予選で負けてな
シンはバトルフロンティア…だったかな
それに挑戦してたらしくて、行けなかったんだ
それからまた散らばって散らばってを繰り返してな
今から二年前にビルドがカントーで優勝
そのまま四天衆…分かるだろ?      「分かります」
それになってな
その次の年にアタイがジョウト、シンがカントーで優勝して、二人とも四天衆になったんだ
ま、そんな繋がりだ」

「へぇ…」
「んで、話を戻すぞ。これからお前にいろんなことを教えなきゃならないみたいだ」
ユイはなぜか膨れっ面
それに気付いたミキが
「まさか…何か弱みでも…」
「う…!うるせぇ!!そこは触れんな!置いとけ!」
ユイはそう言うと、すっくと立ち上がり、玄関に向かった
「行くんだろ…準備しろ!」
「あっ…ハイ…」



・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・


「・・・・・・・・」
準備が終わり、もうトキシティから出たユイ達
そこでユイが何かに気付いたように立ち止まる
「・・・・・・よいしょ」
ユイはそう言うとバッグを下ろし、中から折りたたみの傘を取り出す
「何…してるんですか?」
「あ?傘あるだろ?」
「ありますけど…」
そう言うとユイが遠くの空を見る
「あと数秒だな…傘かけろ!早く!」
ミキがビクッっと反応すると、すぐにバッグから折りたたみ傘を取り出す
直後―

ポツ…ポツ……ザァァァァァァ…

突然降り出した雨が二人の傘を叩く
「…ウソ……」
傘を広げた直後に雨が降る
そんな奇跡とも言えるタイミング
そして、それを指示したのがユイだ
「どうして…分かったんですか?」
ユイが空を見上げながら言った
「シンみたいにセンターとかには泊まってないからな。いっつも野宿。それくらいで生活してりゃあ、分かるっての」


そう言うと歩き出そうとした
が、その足は爪先立ちの状態で止まる
「何か…分かったんですか?」
「ッ!!」
その直後、ユイはミキを突き飛ばした
僅かにバランスを崩すものの、その場に踏みとどまる
ユイは突き飛ばした直後に横っ飛びする
直後―


ドシャァァァァァッ!!!


さっきまで立っていた所に雷が落ちる
「え…え!?」
ミキは驚愕の表情を浮かべる
さっき雨が降るタイミングを予測し的中
さらには雷が落ちるタイミング、そして場所までも当てたのだ
「ユイさんすごい!!どうしれば…」
「危ねぇ!!」
ユイは再びミキを突き飛ばす
再びその場所に落雷が
「・・・・・・・・」
ミキは呆然とした顔で目の前を見る
眩い閃光とともに視界がほとんど見えなくなり、すぐに見えるようになった
始めに見えたのが黒焦げになった地面
そして、雨、ユイの順番に見えた
そして、見えるはずのないものが映っていた

おそらくポケモン
立った髪が特徴的で、小型のライオンのようにも見えるそのポケモン
そして、その横に灰色のコートを着たトレーナーが居た


「ポケモンバトルだよ…ミキ」
そういわれてハッとした
そのコートには『G』と描かれている
それは多分この前シンが言っていたゴット団
そいつが持つポケモンが攻撃してきた
それは確かだった

「行け!ナミ!!」

・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・

「ライボルト。雷」

状況はかなり劣勢だった
戦いの中で相手が電気タイプだと言うことが分かった
が、なんと相手の雷はミキにめがけて飛んできた
ミキはそれを避けながら指示を出すため、まともな指示が出せない
ミキは劣勢を強いられていた

「この雨さえなければ…!!」

先ほど降り出した雨
この雨がライボルトの雷の命中率を格段に上げていた


そのバトルを見ていたユイは
「ハァ…」
そうため息をついて、一つのモンスターボールをはるか彼方に投げ飛ばす
そして、さらに一つを足元に転がす
そこからはかなり巨大なバンギラスが

「・・・・・・」

ミキがその大きさに見入っている
その直後

ビシッ!     ピシ!!

バンギラスの足元がどんどん砂になっていく
それはさらに広がり、あたりは砂漠となった

「こいつ着けな」
ユイはそう言ってミキにゴーグルを渡す
ミキはそれを受け取るとしっかりと着ける
いつの間にか雨はやんでいた
その瞬間!あたりの砂が舞い上がり、砂嵐となる


「くっ…雷!!」

男が襟元を口に寄せ、指示を出す
ライボルトは体に電気をため、空に放った
そして大量のエネルギーを得た雲は、それを地上に降り注いだ
が、それはまったく見当違いの方向に飛んで行った

「ナミ…!!ケホッ…ゲホッ…」

舞い上がる砂が口に入り込む
唯一利く目でユイの方を見ると、また呆れた様な顔をしながら、マスクを口につける
そして―

「地割れ!!」

バンギラスが砂の大地を思いっきり踏みつける
すると、踏んだ足元から相手までの砂が、溶けるように地面に消えていった
ライボルトはその開いていく穴の中に落っこちていった

「クッ…」

男はそう言うと背を向け、走り出した
本来ならそうなる筈だろう
だがその男は身動きができなかった

「ッ!!」

その男の影を辿っていくと、かなり先には一匹のポケモンが
「バンギラス、出たらフィールドに砂嵐を起こさせる。ソーナンス、相手の影を踏んで逃げさせない」



・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

「ありがとうございます」
砂嵐がすっかりやんだところで、ミキが言う
「ん?いいってこった」
ユイはそう言うと歩き出した
トキシティの方向に
「え?」
ミキが呼び止めるとユイはビクッっと止まった
そして顔を赤らめながら次の町の方向へ向かっていった


これから五十日間の旅が始まる―


第七十二話へ続く…
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