グラードンは動きを止めた
背後からは光が放たれている

その光をたどると―


第十四話 姫



「えっと・・・サファイアさん・・・?」
そこにいたのは、サファイア

「グラードン相手に、光る手無しで行く馬鹿がこんなところにいましたねぇ・・・」
「師匠!」「チィ・・・ババアか・・・」



クリアの足元には、テトラ(サイドパン)が
「やはり心配と思いあなたたちを追いかけたらレッド君にいきなり電話かけるわ・・・連絡取ったらグラードンを捕まえに行くとか・・・イエローちゃんを一緒に行かせたのはいいけど、あなたたちの力じゃ勝てないわよ」
クリアはそうツカツカと五人の元に近づく
「サファイアちゃん・・・だったかしら?契約しなさい」
「あ、は〜い」

サファイアの右手の光が強まる
すると、グラードンは光に包まれ、以前のレックウザと同じように赤い半透明のボールとなった
ボールはすぅっとサファイアの手に収まった

「とりあえず、出るわよ」
クリアがそういうと、五人も、それに続いて出て行った







〜〜〜ルネシティ〜〜〜

「それにしても、どうしてサファイアさんが赤い光る手を?」
シデがサファイアに尋ねる
「ん・・・実はこの前、スカイ団と戦った後―」



・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・





「ん・・・・・・・・」
サファイアが目覚めた
目の前には、ローマのコロッセオのような情景が広がっている
「ふぇ・・・・・えぇ!?」
しかも、自分が立っているのは、その闘技場


『コレヨリ・・・光手ウゲワタシノ儀ヲ・・・ォ・・・・執リ行イマス・・・』

サファイアの頭に直接響くような言葉が耳に入る

その直後―



ギィィィィィィィィィィィィィ・・・・・・


目の前に広がる石の扉が地を削りながらゆっくりと開く
同じく石の蝶番が悲鳴を上げる
土煙が舞い上がる
その扉の置くから姿を現したのは―



「あれって・・・チルタリ・・・すぅ!!!?」


姿を現したのは、チルタリス
姿も、形状も、通常のチルタリスとは変わりない
ただ、“大きさ≠除けば


その超巨大なチルタリスは、ふわふわ(しているはず)の翼を扉にこすりつけ、砕きながら中に入ってきた


「ワ、ワカシャモ!!」
サファイアはボールを投げる
そこからはワカシャモが
ゆっくりと視線を上に・・・


ビクッ


明らかにびびっている
ゆっくりサファイアのほうを向くと、泣きながら「無理」のサイン
「が・・・がんばって・・・ね?」



ビュゥゥゥゥゥゥゥ!!


チルタリスはそのふわふわ(してるはず)の翼を大きくはためかせ、強烈な突風を浴びせる

「きゃぁ!!!」
サファイアとワカシャモはその場に踏みとどまるが、チルタリスはさらに大きく翼を引く
さっき以上の攻撃力を持つことは言うまでも無い


『戦ッテ下サイ・・・』

また何者かから声がする
人間の発する声ではない
機械音のような、でも違う
ただ、あのチルタリスが自分に敵意を抱いていることは確かだ




ビュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!


ワカシャモはサファイアを抱えて飛び出す
ワカシャモはギリギリ突風を回避する
が―


その突風を浴びた壁が突如崩れ去る
「ぇ・・・え・・・えぇぇ!!?」
地面も大きくえぐれ、風を浴びた場所にぽっかり穴が開く
巨大なコロシアムに開いた穴
そこからは黒雲が覗ける
それは雷鳴を轟かしながらゆっくりと進んでいた



「ワカシャモ・・・行くよ」

サファイアはそう言うと、ポケットからコインと糸を
手馴れた手つきで糸をコインにくくり付けると―



ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン・・・・


音を鳴らしながらまわし始める
ワカシャモはその音を聞くと、ゆっくりとチルタリスに向けて構えを取る


ヒュヒュン!!ヒュンヒュ!


スピードを上げたり下げたり・・・
これが戦闘の暗号となる


ワカシャモは右へ飛び出し、壁を蹴りながら接近する
最後に大きく跳ぶと、すぐ目の前にはチルタリスが

ヒュヒュヒュンヒュンヒュン

攻撃の暗号
ワカシャモは右足を一気に燃やすと、かかと落としのように蹴る
が、その瞬間に再びチルタリスは大きく羽ばたく
ワカシャモは吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる
あまり威力は高くなかったとはいえ、効果は抜群
かなりの深手を負ったようだ

「・・・・・・・・・・・・」

この状況を見たサファイアは少し考え、新たに指示を出す

『!?』

ワカシャモが「え?何だって!?」と言わんばかりの顔でサファイアを見る
が、サファイアは「大丈夫」と顔でメッセージを送る
ワカシャモはそれを見ると、その指示通りの行動ととった


ワカシャモはチルタリスは正面から突っ込んでいった
チルタリスは大きく翼を引く
もちろんこれは、強力な攻撃の前触れ
その瞬間、ワカシャモは大きく跳ぶ
ワカシャモはすぅっとチルタリスの上へ
するとどうした事か、ワカシャモはさらに大きく飛び上がった
チルタリスは横に一回転すると、真上にいるワカシャモに向かって強力な風を吹きつける

「今よ!!」

サファイアが叫んだ
するとワカシャモは、チルタリスの背中を蹴って浮上した勢いを使って、天上に向かってアッパーを繰り出す
そう、これは『スカイアッパー』
ワカシャモは天井を木っ端微塵に砕き、その岩盤が、チルタリスの視界を狭くする
チルタリスの顔面に次々と岩盤が激突する
ワカシャモはその隙に下に下りると―



「かみなり!!」


チルタリスの頭上にぽっかり開いた穴から、強烈な雷がチルタリス目掛けて飛んだ


轟音を響かせ、巨大なチルタリスは陥落した
ふわふわ(しているはず)の翼はパチパチと燃えている
その姿は墜落する飛行船のよう

この雷は、ワカシャモのものではない
これは―

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・


『噴火よ止め≠チて言ってみろ』
『え・・・何で』『いいから』
『・・・・・噴火よ止め・・・わっ!?』


・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・


その時、一気に噴火は止んだ
噴火の始まりも、自分が声を上げたから
多分、自分の声には―


『自然現象を操る力』が有るのかも知れない


ルビーの言葉でそう気付かされた





地面に不時着したチルタリスが光に包まれる
チルタリスを包む空色の光は、だんだんと真っ赤な色に変わって行く

なんだろう?

そう思って近づくと・・・
危うくこけそうになった
足元には、真っ赤な透明なボールが
「・・・・・・・・・」
それに見入っていると、あの声がまた聞こえた



『ソレヲ、光に向カッテ投ゲデクダサィ』



投げ・・・る・・・?



恐らく『ソレ』は、このボールのことをさしていると思う
そして投げる対象は―あの光


サファイアは無我夢中でボールを掴み、投げる
そのボールは光に当たると、それをどんどん吸い込んでいった

光を完全に吸い込んだボールは、力なく落下した
「えぇ・・・・っと・・・」
何しろ無我夢中で行った行動、何が起こったか頭に入らない
僅かに動く頭をゆっくり動かし、「とりあえず拾え」の答えに到達する


サファイアはテクテクとボールの元へたどり着く
そしてボールに手をかける
が―



バリィィィン・・・



触れるや否やのタイミングでボールが木っ端微塵に砕け散る
そのボールの破片は当たりに飛び散り、サファイアの手に―

「・・・・・・・・??」

刺さらず、通り抜ける
次々と起こる奇奇怪怪な現象に、頭がフリーズしたサファイア
さらには、その破片がまた光になって集まり始める
その光はすぅっと集まり、サファイアの右手へ―





そこで眼が覚めた―




・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・




「・・・って事があって・・・」
今はクリアのポケモン『ゴラド』の上
屈強なドラゴンポケモンとはいえ、総勢七名が乗っている
ゴラドも必死に羽を羽ばたかせ、飛んでいる

「シデ・・・確かそれは・・・」
「うん、『光手受け渡しの儀』」
「だな」
それを聞いたサファイアは
「『光手受け渡しの儀』って?」
と、すかさず訊く

「『光手受け渡しの儀』ってのは、そのまんま、光る手を受け渡す儀式。光る手を持ってない人が持ってる人に勝つと、アレが起こるわけ」

そうユイが簡単に説明すると、ビルドが短く言った



「ほぉら・・・お出ましだ・・・」

「「!!」」

目の前、数百メートル先には、レックウザが
レックウザはビルド達を見つけると、突如襲い掛かってきた


ゴラドはギリギリでその攻撃を避けると、海上の浅瀬に下りる
その浅瀬はドーナツ状になっており、中央には大きな穴が・・・
ビルドはそれを見ると

「サファイア!シデ!レッドさん!イエローさん!ダイビングでその穴へ!その奥にカイオーガがいます!レックウザがもういるってことは、シンももう来てる!レックウザは、オレたち三人でどうにかします!」
レッドはその話を聞くと、ボールを足元に転がす
「行こう!早く!」
四人は海の中に消えていった









「バロム」
「バンギラス」
「テトラ」




「「「勝負!!」」」





・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・





「ぷはぁ!」
四人が次々と海面から顔を出す

洞窟の中は空洞になっていて、そこなら息が出来る
四人は軽く海水を払うと、歩を進める
が―





『こんにちは』


「「「「!!!」」」」
そこには、シンのポケモン、イシスが

『レックウザ様はあっという間にかいくぐられましたか・・・』

イシスはそう言うと、洞窟の奥に続く道に立ちふさがる
『行かせません』
そう言い、四人を睨みつける




「行けよ」
「「!」」

レッドが言う
「あいつの戦い方は知ってるからさ。アイツはオレとイエローで抑えるから、シデとサファイアは、さきに行ってろ」
「です。ここはボクたちに任せて!」
レッドとイエローが言う
サファイアとシデはコクンと頷くと、イシスの横を走り去っていく
『・・・・・・・・・・・』




「止めないのか?」
『いいえ、いずれにせよ、セトも待ち伏せしてます。そこで負けますよ』
「そう・・・うまくいくかな・・・?」




「行け!チュチュ!」
「行け!ピカ!!」

『行きますよ・・・サイコキネシス!!』



・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・



「ピカ!」
「チュチュ!」

「「十万ボルト!!」」


『まぁだまだ!守る!!』

左右から放たれた十万ボルトは、むなしく弾き返される
『サイコキネシス!!』
イシスが両腕を横にやる
その直後、ピカとチュチュは洞窟に叩きつけられる


「ピカ!がんばれッ!!」
「チュチュ!!起きて!」

二匹は、その声を受け、ゆっくり立ち上がる
が、息はかなり切れている


「(あの強さ・・・ハンパじゃない・・・。二人がかりでもキズ一つ・・・)」
『どうしたんですか?早く私を倒さないと、向こう行きますよ?』
「まだだ!」「まだです!」



「「十万ボルト!!」」

『ミラーコート』

電撃の双撃は、一度はイシスを捉えるが、体に張られた青い鎧が、二倍の威力で攻撃を弾き返す

「うわぁぁぁ!!」「きゃあ!!」


再びピカたちは強烈な攻撃を受け、倒れる



『単調すぎるんです』
短くそうはなつ
すると、イシスはすっと右手をチュチュの方へ―

『一対一のほうが、うまく戦えるでしょう?』

イシスの腕に念動力が集まっていく
恐らくコレを喰らえば―一撃
『サイコキネシス』


その直後、地をも揺るがすほどの振動の後、チュチュに向かって地面がえぐれていく
念動力が壁に当たり、激しく爆発する
砂煙が舞い上がる
そしてその中から出てきたのは―チュチュを抱きかかえたピカ

『早いですね・・・』

イシスはすばやく右腕を次はピカにやると、サイコキネシスを放つ
さっきよりは威力はないが、ピカはそれを受け、吹っ飛ばされる
チュチュはその場から突き飛ばされ、無事だった

「ピカ!!」
レッドがピカの元へ駆け寄る
が、ピカは戦闘不能状態、起きてこなかった

「クッソォ!!」
レッドが悔しさと怒りが織り交じった声を上げると―




「まだですよ・・・レッドさん」

「!!」




キィィィィィィィィィィ・・・



イエローの右手が、黄色の光に包まれる
まさしくこれは―光る手




「ボク・・・怒りました・・・!!」























その頃、海上では―




「突進!!」

レックウザを、青い体のポケモンが吹っ飛ばす
「いよっしゃ!ナミ!」


第十五話へ続く・・・
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