『晴れてるから』

こんな、口実になっていない口実で連れ出した。
本当は、ちゃんとした目的がある。
でも、それを言うのは気恥ずかしいから。
口実になってない口実できみを連れ出す。


      
      {キミには幸福の花束を、ボクには...}


春から初夏へ移りだした日差しが差し込む森の中を
俺はクリスタルの手を引いて歩いている。
いつもは二つに結っている藍鉄色の癖毛を下ろしている
その姿は新鮮で素直に可愛いと思う。
ただ、普段はソウしないで居て欲しい。
俺以外の奴にこの姿を見られるのは嫌だから...。

「今日、暑いね」
「そう...だな」

他愛のない会話でも
きみの見せる無邪気に笑うその仕草は
とても、魅力的で側にいるだけで胸が高鳴り
落ち着かなくなり、歩く度、揺れる
自分の髪の毛さえ鬱陶しく感じてしまう。

.....邪魔だ。俺の髪...折角、並んで歩いているのに
折角、二人っきりなのにチラチラと遮るなよ.....

不毛な苛立ちを抑えるには、
根源を絶つ、髪を結ってしまえば良い。
俺は立ち止まり、ポケットからゴムを出して
髪を結ぼうとした、が。
不器用な為、なかなか上手く結えない。

「結んであげましょうか?」
「...ああ、頼む」

彼女にゴムを手渡す。
クリスタルは俺の後ろに回り俺の髪を結ぶ。

「はい、出来上がり」
「.....サンキュ」
「いえ、いえ。」

ニッコリと微笑む彼女。

...嗚呼、ダメだ。
これ以上、そんなに可愛く微笑まないでくれ...
俺の身が持たない...ポーカーフェイスに自信は有る、が
...きみの前では通用しないんだ...。

俺は赤く染まった、顔を見られない様に
また、クリスタルの手を引いて歩き出した。


―――――――――――――――――――――――


それから、少し歩くと
ようやく、目的の場所に到着した。

「わぁ...」

目の前に広がる風景に吐息をつく

...良かった、喜んでくれたみたいだ...。

そこは人の足で簡単に降りれる低い崖の上。
その下には、崖と森に囲まれた箱庭の様な
白詰が咲き乱れるクローバー畑。

――――――――――――――――――――――

「大丈夫か?」
「ええ、ありがとう」

俺達は崖を降り、クローバー畑の真ん中辺りまで来た。
白詰草の香りが混じった、心地の良い風が鼻をくすぐる。

「クローバーにはね、葉っぱ一枚一枚に意味が有るの」

ふいに、クリスタルがそんな事を言いだした。

「{希望}{信仰}{愛情}の三つで、四つ葉に成ると全部で{幸福}」

しゃがんで、側にあったクローバーの葉を指さししながら話す。

「幸福...?」
「そっ、だから全然見つからないのかしら?」
 
そう、言いながら、四つ葉のクローバーを探し始める。
俺もそれに習い、適当に探し始める。

....確かに、何処を見ても三つ葉だら....け?

「有ったぞ...。」
「ええっ?!」

意外と簡単に見つかってしまった...。

「すごーい、私なんて一度も見つけた事が無かったのに」

目をキラキラと輝かせる
...まるで宝石でも見てる様だな...

「でも、これだけで普通は{幸福}はやって来ないぞ?」
「そんな事ないわよ...っ」

少し、拗ねた様に、軽く頬を膨らませる。
押してみたい、という衝動に駆られた、が
そんな事をしたら、本当に拗ねられてしまうから止めておこう。

「占いとかもだけど、こういう事って、それだけで幸せな気持ちに成らない?」

....それは、逆に言えば、簡単に不幸に成ってしまうのでは...?

「......お手軽だな」
「幸せってお手軽の方が良いと思うわ」

クリスタルはそっぽを向いて
また、四つ葉のクローバー探しに没頭し始める。

....まずい、本当に拗ねてしまったな...。

どうしようかと、視線を辺りに巡らせてみると
また、四つ葉のクローバーが...。
何となく、つみ取ってみて、視線を動かすとまた....。

...クリスタル、本当に[なかなか、見つからない]モノなのか?
.............大量に有るぞ...?

そうしている内に四つ葉のクローバーは
どんどん集まって、片手いっぱいの束に成った。

ふと、ある事を思いついた。

...このまま、クリスタルに拗ねられていたら困るしな...。



「クリスタル。」

俺はさっきのクローバーの束に白詰草を数本混ぜて
髪を結っていたゴムで束ねた花束をクリスタルに渡した。

「....これって」

彼女は、目を瞬かせ花束をじっと見る。

「.....一応、[幸福の花束]って所...だな。」


    ―――キミには幸福の花束を―――  

きょとん、としていた
顔は弾ける様な笑顔に変わって行く

「ありがとうっ」


    ――――ボクにはキミの笑顔を――― 


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