「何これ?」
事の起こりは2月14日。
正月気分も抜けてお菓子業者の陰謀が渦巻くその日、イベントに乗っかりつつも絶対にきらびやかな店じゃ売っていないようなものをサファイアは差し出してきた。
小さな箱に入っているから中身は分からないけど、少なくともハートのチョコレートとかじゃなさそうだ。
ただ、渡されて悪い気はしないけど、渡す方向が逆だ。 普通今日は女から男に渡す日だろう。
そんな気持ちもあいまって、冒頭のセリフへと移る。

「・・・多分、さーたーあんだぎー・・・」
「サイユウ名産の?」
サファイアはそろそろとうなずく。 自信がないみたいだ。
何で、何でバレンタインにさーたーあんだぎー?
「小麦粉と、卵と、砂糖と、ふくらし粉・・・」
何で、材料なんか・・・そう思ったとき、あたしはサファイアが妙に自信なさげな理由に気付いてしまった。
ばんそうこうからはみ出した、指先の、やけどだ。
そうか、こいつ・・・わざわざ今日のためにドーナツ揚げてきたんだ!

「・・・くっ・・・・・・」
マズイ、笑っちゃいけない。 こうなった理由はわかるんだ。
こいつ妙なとこで古風なトコあるから、きっと手作りしたって知られるのが嫌なんだろう。
怖い・・・ん、だろうな。 自分が認められないってのが。
「わざわざサイユウまで行ってきたのかい?」
いつまでもそんなおびえた目、させてらんない。
「あ・・・おぅ! クウにびゃーっ!と飛んでってもらってやな、カナががばーっ!て海かいて、ダイダイがどばーっ!って・・・」
「・・・ッ! あははははっ!!」
おかしすぎる。 そんなに意地張って隠さなくたっていいのに。
笑ったらちょっとだけサファイアの目が喜んだ。 きっとウケたとか思ってんだろうな。
ホント、見てて飽きない。 1度だってサファイアは同じ表情をしない。 だから、一緒にいて楽しいんだ。
「サファイア、実はさ、あたいも今日お菓子買ってきててさ・・・一緒に食べないかい? チョコレート・・・」
「えっ、あ、食べるわ、食べる! ワシ甘いモン好きやし!」
意地っ張りはお互い様。 これも手作りだなんて言えなくて、ありがとうの言葉も忘れて。
お互いなんだかよく分からないまま、道端で向かい合って不恰好な菓子をつまみあった。
隣同士じゃない、中途半端な距離。 嫌いじゃないけど、たまにもう少しだけ、近づきたくなる。



・・・決行は今夜。 ルビーの計画はもう始まっていた。




その夜、サファイアはみょ〜な物音で目を覚ました。
寝ぼけつつ、時計を見る。 案の定、床の上に落っこちていたが、すぐに見つかった。 11時30分の文字が暗闇に浮かび上がっている。
サファイアは意味不明な言葉を口走ったが、訳せば「まだ夜中やなかか」である。
どう考えても起きるには早い。 もう1度寝ようと布団をかぶり直したとき、また、みょ〜な物音は聞こえてきた。
「・・・泥棒?」
頭ははっきりしないが、起き上がる。 盗られるものなど、悲しいかなこの家にはないはずだが。
枕元に置いたモンスターボールを手に取って、恐る恐る扉に手をかける。
そろ〜っと開こうとした扉が、ガチャッと大きな音をあげる。

「突撃ィー!!!」

先に扉が開いたことに驚いて、モンスターボールを構えるヒマもなかった。
何だこいつらは。 ゲリラか機動隊かFBIか。
むさいとしか言いようがない黒服のおっさんたちが、5人以上10人以下。 とにかく、いっぱい。
あっという間に囲まれた。
別に武器とか向けられてるわけじゃないけど、サファイアはとりあえず両手を上げる。
「へ? へ!?」
その手をおっさんその1その2につかまれた。 何かよく分からないけど、身動きが取れない。
やばいんだろうか、なんだ、暗殺者か。
チー、と、何かが引き出されるような音がする。 命の危機っぽい。
「よろしいデスカ?」
「おっけぃ。」
「へっ!?」
聞き覚えがある声、ていうか、ルビーの声。 「おっけい」って言ったのは間違いなくルビーの声。 考えてみれば、さっきの叫びも。
何か危機感がなかったのはそのせいか・・・などと悠長に考えている場合じゃなかった。
ワケもわからないうちに寝巻きを引っぺがされる。 いっつパンツいっちょ。
「・・・!?!?!?」
「失礼シマス。」
妙に礼儀正しいおっさんに体中何かを巻きつけられたサファイアは、ミシロの空に叫び声を響かせた。
緊急事態だが、うるさいこと、この上ない。 扉向こうのルビーが耳をふさいでいるらしい。 ひじの先っぽが見える。
「あんたさぁ、もうちょっとその音量どうにかした方がいいんじゃないかい?」
「ルビー!? どういうことじゃ、説明せぇっ!!」
「あー、悪い。 時間ないから、また今度。」
よく分からない言葉を話すおっさんたちに連れられ、ルビーはどこかへと去って行ってしまう。
「コレ、新しいパジャマデス。」
最後に残ったおっさんが、サファイア好みのかっこいいデザインの寝巻きを置いて扉を閉める。
もらうもんはもらうけど。 何だ、一体何だったんだ。
ルビーは怪しい組織に入ってしまったんだろうか、真っ黒装束でサングラスのルビー。 うん、それも格好いいかもしれないけど。
最後まで明かりのつかなかった自分の部屋で、パンツいっちょのまんま、サファイアは泣いた。

ひとしきり泣いてから、サファイアはとりあえず服を着た。 怪しいおっさんが置いてった方を。
お気に入りのメーカーだし、好き系のデザインだし、黒基調でかっこいいし。 いいんだけど、それはいいんだけど。
「うぅ、お嫁に行けへん・・・」
お嫁に行けるわけがない。 何故なら、サファイアは男だから。
とりあえずこんな状態で寝られるわけもない。
水でも飲もうと1階に下りていくと、いつもなら真っ暗なはずのリビングに明かりがついている。
ずびずび鼻水の流れた鼻をこすりながら、サファイアはリビングの扉を開ける。
家族みんな起きていた。 当たり前といえば当たり前か、あれだけ大声上げたわけだし。
お茶を配っていた父親、通称オダマキ博士がサファイアのことに気付く。
何か雰囲気がおかしい。 さっき起きてきたという感じじゃなさそうだ。 と、いうか、何で誰も慌てていないのだ。 あれだけ怪しい集団が踏み込んできた後だというのに。
「おぉ雄貴、お疲れ。 雄貴も茶ば飲むと?」
「親父・・・何でそんなに普通なん? あんな怪しいのが来て・・・」
オダマキ博士だけではない、リビングにいる家族全員の態度が普通過ぎる。 普通過ぎて異常だ。
もう1杯、サファイアの分のお茶をいれながら母親がちょっぴり寝ぼけた声を上げる。
「あら〜、格好よか服やねぇ。 さすがルビーちゃんたい、よかセンスしとると。」
「おかん!? 上で何があったか知っとったと!?
 なして止めんね、あんな怪しい集団!?」
声をひっくり返して叫んだサファイアの肩に、オダマキ博士はポンと熊のような手を置いた。
「仕方なかったと。 夜中にルビーちゃんの来て、今日のことに協力してほしいと言われて・・・」
オダマキ博士はダイニングテーブルの方を見た。
一体どこに行ってきたんだというほどの、山盛りに盛られた各地の名産品が置かれている。
「協力料と口止め料、これだけもらった後やけんのう・・・」
「息子売るつもりなんか、親父ぃーっ!!?」
「雄貴、せからしーうるさい。」
冷めた声で弟にまで邪険にされる。 すっかり威厳をなくした兄は、がっくりうなだれながら机に手を突いた。
何となく欲しいなと思っていたタコ焼き味銘菓とか、スズの塔ベルとかもある。 こんな状況下で素直に喜べないが。
読めないルビーの行動に混乱しつつ、サファイアはコガネ名産タコ焼きまんじゅうの包みを破った。

サファイアが事の真相を知ったのは、それから約1ヶ月・・・3月13日になってからのこと。
この時期になると、再びお菓子会社の陰謀が渦巻き始める。 もっとも、こちらはチョコレートだけに限ったものではなく、アメ、クッキー、マシュマロなど渡すものは様々だが。
ちなみに、ホワイトデーという名前は甘いものの材料になる砂糖が白いことから由来している。
だからといって・・・
・・・だからといって・・・
上白糖5キロは買いすぎです、チャンピオン。 いくら安いからって。
1キロの袋を5つも背中に乗せた、奴隷のようなポケモンリーグチャンピオンにあるまじき姿。
しかもそのまま重曹の売り場へと向かっていく。 カルメ焼き作る気か。 この男、季節イベントを完全に誤解している。

よたよたと砂糖5キロ背負ったまま製菓材料売り場へとやってきたサファイアは、出会い頭、回転するカートへとぶつかった。
砂糖5袋がどさどさと床の上へと落ちる。 ワケも分からず目をパチパチさせているサファイアの目の前で男は自分のひざを叩いた。
顔を上げると、どこかで見たことのあるような男の姿。
「ゴメンナサーイ、バナナの皮でコントロールが・・・」
「キ、キノコダッシュ・・・!?」
どこかで見たようなでかっ鼻の男を見上げていると、相手は驚いたような顔でサファイアの顔を指差す。
何だか嫌な予感がする。 とりあえず重曹は後でいいやと、その場から逃げ出すべくサファイアは後ろを向いた。
途端、男の殺気が膨れ上がる。
サファイアは忘れていた、某幽霊は後ろを向いたときに襲い掛かってくることを。
振り返って恥ずかしがらせている場合じゃない、ランニングシューズの機能を使いひたすらBダッシュ。
しかし男も追いすがる。 さらに忘れていた、奴はわざわざ親からもらわなくてもBダッシュを標準装備している男なのだ!
「マンマミーア!?」
春のミシロを走る2人、逃げるチャンピオン追うヒーロー。
カルメ焼きを作ることも忘れ、サファイアは店を飛び出しひたすら逃げ回る。 数分も持たないが。
別に逃げ足が遅かったわけではない。 どこかで見たようなアミにかぶせられ、見ず知らずの集団に捕獲されたのだ。
「な、何なんじゃ!?」
「ナンダカンダと聞かれタ〜ラ?」
「答えテあげるがヨイヤサン!」
「間違っとる!!?」
思わず突っ込む。 質問に全く答えられていない、本当に何だこの怪しい集団。
サファイアは網目から集団のことをまじまじと見つめるが、それ以外に形容する言葉が見つからない。
スパイとか誘拐とかにしては派手過ぎるし、本当に、何がしたいのかさっぱりわからない。
対抗するポケモンも持っておらず(ポケモンリーグの疲れをいやすため、カナたちはフエンの温泉に慰安いあん旅行中だ)、怪しいとしか言いようのない集団を見つめていると、集団の1人は円筒っぽい形をした簡易更衣室を転がしてきた。
テレビ番組で早着替えとかに使うアレだ。 嫌な予感がサファイアの頭をよぎる。

「テレレレレレレレ・・・・・・」
「・・・ちょお待ち、その効果音何ね? え? え? ぎゃー、連れてかれるっ!!?」
アミをかぶせられた状態ではリーグチャンピオンもまな板の上のコイキング。
男2人に両脇を固められ、足をバタバタさせたまま簡易更衣室の中へと連れ込まれる。
めちゃめちゃ狭い。 1人用の更衣室に3人も詰め込まれているんだから当たり前。
頭からアミを取り去られ、服の端っこをつかまれると、サファイアの顔があり得ないほど変色した。

ギャーッ、ひっぺがされる!!?

ノー! ノォ! ノン! ノーン!! 通じてへーん!?

痛い痛い痛い! チャックに肉挟んどる!!

オーウ、スミマセーン!!

ハナシ通じとる!!?

「ジャジャーン!」
集団の1人がありきたりな効果音を口で言うと、簡易更衣室の丸いワッカがストンと真下に落ちた。
呆然としたまま、サファイアはくしゃみ1つして自分の体を見下ろす。
寒かったのも当たり前だ。 ワケも分からないうちに着せられたのは夏物の服。
見覚えはないが、デザインに特徴がある。 それが分かったのは、1年前、このブランドの服を買うために彼自身が散々金策に苦しむハメになったからだ。
「あの・・・これは?」
サファイアが尋ねると怪しい集団たちは一斉ににぃっと笑った。
別の意味でサファイアがぶるぶるっと震えると、男ははるか南の空を指す。


顔を上げると、燃え上がるような赤い翼が春一番を追い越しそうな勢いでこちらへと向かってくるのが分かった。
避けているヒマもない。 減速らしい減速もせずに近づいてきたボーマンダから飛び降りてきた少女を受け止め切れず、サファイアは彼女を抱えたまま草の上に寝転がる体勢となる。
青空と太陽の光をバックに、ルビーはにっと笑った。
「ただいまっ! 途中の道が事故で混んでてさ、待ってらんなくって途中から飛んできちまったよ。
 テレビ見てくれた? あたい的には結構いい映りしてたんじゃないかと思うんだけどさ。」
「ル、ルビー!? どういうことやねん? 説明し!」
上体を起こすとサファイアはルビーの目を見ながら尋ねる。
唇のくっつきそうな距離にちょっと驚いたような顔をしてから、ルビーはサファイアを落ち着かせ、彼の首元でちょっと曲がっているエリを直した。
「似合う似合う! やっぱ、デザインに口出した甲斐かいがあったね。」
「へ? この服・・・」
「リーグ優勝記念、と、誕生日プレゼント。 少し遅れたけど。」
「あ。」
誕生日、そのイベントすらサファイアは忘れていた。
そういえばこの間突拍子もなく赤飯が炊かれたと思ったら、そういえばこの間覚えのない靴が送られてきたと思ったら。
唐突に渡された図書カードはお小遣いじゃなかったのか。 妙なところで納得していると、ルビーに頬をぺしぺしと叩かれる。
「紹介しとく、ファッションブランド『CHANPION』の・・・」
「ボブデース!」
「ジョージデース!」
「フレッドデース!」
「サムライデース!!」
「侍!?」
「・・・サムさん、サム・ライアン。 あんたの来てる上着作ったのあの人だから。」
あぁ、と納得しかけて、サファイアの頭は一気にオーバーヒートした。
「あのトップデザイナーの!!?」
「ほめられると照れマース。」
「感謝しなよ、あんたの着てる服からブランド調べて、わざわざこの人探してきてやったんだから・・・
 サイズもわかんなかったから、オダマキ博士に許可もらってさ。」
だからって何も夜中にあんな強盗まがいなことしなくても、と、サファイアはため息をつく。
怪しいけど実は有名人だった集団と、ルビーと、旋回して戻ってくるフォルテとを見比べていると、引き付けられるようにルビーの顔に目が向いた。
久しぶりに見る笑顔に、顔が熱くなる。
「どうだい? 着心地は。」
「ちょい、でかくないか? ブカブカするんやけど・・・」
「当たり前だよ! あんた、まだでかくなるんだろ?」
ひざをつつかれると、我慢していた痛みがぶりかえしてきてサファイアは思わず顔をしかめた。
急に背が伸びてきたのはいいが、泣きたくなるほどの成長痛。 1度思いっきりわめいてみたらルビーに大笑いされたのが記憶に新しい。
「夏までには丁度良くなるから、安心しな。」
「夏?」
意味がわからずサファイアが首をかしげると、ルビーは眉を吊り上げてぐっと顔を近づける。
「チャンピオン決定戦!! 今年の9月って通知来たはずだろ?」
通知も何も、ポケモンリーグのポスターにも端っこにかかれていたが。
ぽかんとした顔でサファイアがうなずくと、ルビーはは〜っと深いため息をついて、サファイアのひざの間から立ち上がる。

「しっかりしとくれよ・・・あんたがヘタなバトルしちゃ、あたいの立つ瀬までなくなるんだってぇの。」
「なんや、ルビー世話焼き女房みたいやな。」
「何言ってんだい。」
サファイアはピンと鼻を弾かれた。
ちょっとかゆくなったそこを押さえながら彼女を見上げたとき、はたと気付く。
自分もそうだが、彼女も寒そうな夏服だ。 オレンジがかったノースリーブに、トレードマークのバンダナも緑色に変わっている。
鳥肌1つ立てず、降りてきたボーマンダのフォルテから首につけた書簡を受け取ると、ルビーは中身を取り出してそれをサファイアの胸に押し付ける。
「ライバル、だよ。」
紙を開いた途端に現れた『優勝』の文字に、サファイアは大きく目を見開いた。
聞いてない。 というか、一体いつ行われたんだ、第8回ポケモンリーグ・ジョウトブロックとか。
「2人とも1位だから1回戦ってことはないだろうけど、総当りだから、当たったときはヨロシク。」
「え、えぇ!? ちょっ、待ち!! 勝てる気せぇへん!」
「勝ってくれなきゃ困るんだよ。」
ふわりと首筋を抱かれ、サファイアは硬直した。
『きあいパンチ』なんかよりもずっと痛い、彼女の最強技。
目が離せない、体が動かない、口がジンジンとしびれて、うずく。
「頼れないだろ?」

その一言がサファイアの胸を高鳴らせた瞬間、ピーピーという口笛が何重にも鳴り渡った。
眉をつりあげて、ルビーが振り向いて立ち上がる。
クモの子を散らすように逃げていくお偉いトップデザイナーたち。 それに向かって怒鳴りかけるルビー。
「ちゃかすなーっ!! っとに、いつまで見てんだい!!」
「帰れなんて言われてマセーン!」
「じゃ、帰れ!! 今すぐに!!」
「オーウ、酷いデース!!」
何が何だかよく分かっていないままサファイアがルビーとへんてこ集団のやりとりを見ていると、ふと、自分の腹に乗った小さなカードに気付いた。
目を瞬かせながら表面に書かれている文字を見て、サファイアは顔を赤くする。
いつもの声も出せないまま白いカードとルビーとを見比べると、突然彼は立ち上がった。
脱がされて折りたたまれた自分の上着をつかむと、ルビーへと駆け寄り、それを彼女の肩にかぶせる。
「ルビー! あの、まだ寒かよ?」
きょとんとした顔をして、ルビーはサファイアのことを見ていた。
肩から伝わる暖かさにクスリと笑いをもらすと、ゆっくりと彼の方に向き直る。
「ミシロ弁だ。」
「・・・ミシロ人やし。」
「そういや明日ホワイトデーだろ、何かやってんの?」
「せや! カルメ焼き作るんやった!!」
「カルメ焼き? サファイア、あんた相当面白いね。」
ルビーはヒップバッグのジッパーを開けると、中から緑色の帽子を取り出した。
サファイアにかぶせると、嬉しいやら恥ずかしいやらで真っ赤になっている彼は、昔の面影を取り戻す。
「あー、何か急にクッキー作りたくなっちまった!
 サファイア、あんたん家の台所借りていい?」
「お、おぅ!」
「つか、手伝って。」
「はい・・・」
2人してこの後の展開が予想できてしまった。 「作りすぎた」という言い訳と、遠回しな感情表現。
帰り道。 つながれた手は温かく、近づいてくる風は暖かい。
波乱の夏は近づいてくる。 今はそんなことも知らず、笑いあう2人。
素直にはなりきれず、1番大事な言葉はなかなか出てこられないけれど

信じられる、ポケットの中のメッセージ・カード。