アサガオ 第1章 ジャンケンで決まった姉と妹(どんな決め方だ…)

 

「おはよう、フゥ。」

「おはよう、スゥ。」

私はフゥ。スゥとは双子の姉妹。今日はどうも早く起きちゃって。いつもなら、もっと遅いのに。

やっぱり、スゥは早起きなんだね。さすがお姉ちゃん。

と言っても、どっちがお姉ちゃんだか妹だかは、はっきり知らないの。

まあ、今週だけは、スゥにジャンケンで負けちゃったから、私が妹、スゥがお姉ちゃん。

私って本当にジャンケン弱いなあ…というかそれより、

いままで普通にスゥって呼んできたのが、いきなりお姉ちゃんって言うことになると、

これまた抵抗があるの。

何でだろうね…?

「本当に、なんでスゥがお姉ちゃんなんだか…」

「何か言った?フゥ。」

「あ、何でもない何でもない!気にしないで!」

と言う風に、今みたいにどうしてもこういうグチがポロッと出ちゃうからまた大変。

ひどいときはスゥに泣かされちゃったからね。まあ、だいぶ昔の話。

「スゥ、今日はお父さんもお母さんもいないんだから、ご飯の支度手伝って!」

あ、そうだった。今日はお父さんもお母さんもいないんだった。

昨日から二人で旅行に行っちゃったの。二人だけで。もう、私たちの事おいてくんだから。イチャイチャしちゃって!

それにしてもスゥ、お姉さんになったからってお母さんぶっちゃって!

そんな事いわれなくても分かってるわよ!

私がお姉ちゃんになったら、こき使っちゃうんだから!

「スゥ?お願い、急いで!」

「は〜い…」

ああ、もうめんどくさい…親の気持ちってこういうことか…感心感心。

まったく疲れちゃうわね。


第2章 面倒な…(短すぎ)

油?いったい何処にあるのさ。

ああ、ここにあったわ。

ええっと、フライパンフライパン。早くしないとスゥの檄が飛ぶわ。

「はい、お姉ちゃん。」

「あ、ありがと、フゥ。」

これでも、スゥは優しいんだ。もしお姉ちゃんにするなら、こういう人が一番かも。お姉ちゃんでよかった。


第3章 世話のやける妹とプライドを傷つけられた姉(正直どうでもいい)

「お姉ちゃ〜ん、何作るの?」

私はスゥ。フゥは私の妹。まあ、明日までだけど。

もう少し、物分りのいい妹だったら、いつまでも妹で大歓迎だわ。

だけどやっぱり…バカ。

そもそも、どっちがお姉ちゃんだか妹だか、はっきり区別がついてればいいのよ。そうすれば諦めだってつくのに。

お母さんとお父さんがはっきりしないからよ!そのくせに、二人でのんきに旅行。まったく、イチャイチャしちゃって!

 

困った妹がいると、姉が困るのよ!

 

「ねえお姉ちゃん、何作るの?」

あら、さっき言ったはずなのに。やっぱり聞いてないのね。

「味噌汁とベーコンサラダって言ったでしょ?」

「え〜、ベーコンサラダと味噌汁とご飯じゃ、和と洋でぜんぜん合わないよ〜」

「も、文句言わないでよ!しょうがないでしょ!それしかないもの!」

「…は〜い…」

あ、危なかった。実は私、まだ大した料理が作れないの…

作れる事には作れるんだけど、うまくないらしい…

フゥったら、「うまくないよ」って単刀直入に言うんだもの。

女の子のプライドが傷ついたわ!もう最悪。フゥって、もう空気読めないのかしら!?


第4章 ようやく調理開始、妹に指導される姉。(少しダサい…)

ようやく調理開始。私は味噌汁を、フゥはベーコンサラダを作る事になったんだけど…

あのこったら女の子なのに、料理ひとつ作れやしないんだから…

私だって人の事言えないけど。で、でも、作れる事は作れるわよ!…味が問題だけど…

確か味噌汁って…味噌をおたまですくって、お湯の中でとくんだったっけ?

「ちが〜う、お姉ちゃん!味噌は最後だよ!」

え〜!?そうだったかしら…フゥのいう事って信用できない…もう味噌も出しちゃった…

「味噌って最後だったかしら…?」

「そうだよ、お姉ちゃん!しっかりしてよ、お姉ちゃんなんだから!まあ後二日だけど。」

うっ、痛いところを。

お姉ちゃんなんだからって言わないで…

分かりました分かりました!後にすればいいんでしょう!?

 

と言うわけで、わかめと豆腐の調理開始…

わかめはボウルに入れて水洗いしなきゃいけないし、豆腐は一回皿に出して切らなきゃ…

ベーコンサラダにすればよかった…あ、ベーコンと言えば。

すこしフゥのも観察しよ〜っと!


第5章 いきなり作れと言われても…〜過保護、でも優しい姉〜(理想の姉妹…か?)

あ〜ん、もうベーコンサラダなんて作った事無いよ〜っ

お姉ちゃん、私に大変なの任せたんだ、ずるいっ!

仕方ないから…さて、フライパンにベーコンを敷いて、と。

「待って、フゥ。」

「え〜、何か違うの〜?」

「先に油を少し敷いてから炒めるの。」

ふ〜ん、そうなんだ。じゃあ油を敷こうかな。

「あ、危ない!入れすぎに注意して!」

「大丈夫だよ〜、いちいちびくびくしないでよ、私だって同い年なんだから!一週間だけお姉ちゃんだからって。まあ、後二日だけだけど。

いつもこのぐらい入れてるし、問題ないよ。」

「違うのよ。ベーコンから油が出てくるから、大目じゃなくてもいいって事よ。」

「いいって事は、大目でもいいんだね?」

「屁理屈言わないの!なら、少なめにしなさい!

「はいはい、了解ですよ〜」

ま、一応いい事聞いたかな。そうだったんだね。

一応お姉ちゃんだから、いろんな事知ってるからね。

さーてと、油を少なめに敷いて、ベーコンを投入〜

「お姉ちゃん、これでいいよね?」

「うん。大丈夫。さて、私も味噌汁をつくろっかな。」

「早くしてね〜?」

「大丈夫よ、フゥじゃあるまいし。」

「ちょっと、それってどういう事〜っ!?」

「フフッ、なんでもない。」

 

…やっぱりお姉ちゃんは…優しい。


第6章 しつこいフゥ、火傷をする(…天罰って言えば天罰だけど…)

フゥ、しつこい。

さっきっから、「まあ、後二日だけど」って言うセリフ、もう2回も言ってる。

私だって、こんなにバカな子のお姉ちゃんなんて疲れますよ〜!

あ、いけないいけない。

…わかめがフニャフニャに…いや、フニャフニャなのはもどった証拠なんだけど、

…水分を吸いすぎた。

しぼって、お湯に投入。豆腐も適当に切って、はい投入。

熱い熱い。換気扇スイッチオーン。

これで湯気は逃げてくだろう。

 

さーて、しばらく休憩かな。ソファーソファー。

あ〜気持ちいい〜 フカフカ〜

ここが私の特等席だもん。フゥが奪ったら奪い返す。それで一回フゥの事泣かせちゃって、私も起こられて大泣きしたんだっけ。

でも最後は、私のおやつのおせんべいをあげて仲直り!

フゥは、「スゥ、いいよ、食べていいよ」って言ってくれたんっだっけ。

相当昔の話だな〜…

ねえ、でも最初に謝った私って、やっぱりお姉ちゃんの才能あるかも!!ねえ、そうでしょ!?そう思うでしょ!?

「お、お姉ちゃん、助けて!あ、熱いよっ…!」

フゥが悲鳴を上げた。フライパンが床に落ちる音。もしや…

「フゥ!大丈夫!?どうしたの!?」

フゥのそばには、油がしいてあって、ベーコンが乗ったままのフライパン。あれ…一枚と半分しかない…

「お姉ちゃん!足の、足の上のとって!」

そう叫ぶフゥの足には、ちぎれた半分のベーコン。

「熱い、お姉ちゃん早く!たすけて…!」

「大丈夫、我慢してて!」

フゥの足の上から、ちぎれたベーコンを取ってあげた。熱い、まだ熱気が残ってる。足の上には、真っ赤なやけどが…

私の手も、少し赤くなっていた。

そんなのどうでもいい、フゥを助けないと。

フゥの事をお姫様抱っこして、運ぶ、運ぶ、運ぶ。

運送屋じゃありません、でも、運ぶ、運ぶ、運ぶ。

フゥって重たい…私に頼りすぎ、寝てる子供みたいに重い…

 

「フゥ、大丈夫?」

「うん、もう平気だよ。お姉ちゃんが冷やしてくれたから。」

フゥが幼く見える。これでも同い年なのに…

「…私、彼氏にお姫様抱っこされたかったな〜…」

「私がファーストお姫様抱っこ取っちゃって、ごめんね。」

フゥは首を振った。

「いいの。私、お姉ちゃんに抱っこしてもらえてよかった。同い年なのに、何かとってもうれしい。」

「…ありがとう…」

 

フゥがなんとも無くてよかった。今まであんなに喧嘩してたフゥが、ありがとうって言ってくれてよかった。

 

なんだか…熱いものがこみ上げてきてる。視界がぼやけてくる。フゥが…見えなくなる。

「お姉ちゃん…泣いてるの?」

…返答できない。でも、事実そうだ。フゥの気持ちがうれしかった。フゥは、私を心配している。


第7章 しみじみ語る、火傷の真相(いや、そんなのしみじみ語られても…)

…熱かった…死ぬかと思った。

フライパンが落っこちて、熱いのが足に引っかかって…

そこから覚えてない。「足の上のとって」って叫んだところしか覚えてない。

 

でも、お姉ちゃんのぬくもりが通じたんだ。

お姉ちゃんのお姫様抱っこは、なんだか暖かかった。

母は強し、いや、姉は強し。強いお姉ちゃんに助けてもらったんだ。

同い年でも、きっとスゥのほうが上なんだ、お姉ちゃんなんだ。

少し悲しかった。けど、やっぱりうれしかった。

「フゥ、大丈夫?」

はっと我に返った。お姉ちゃんがそこにいる。足が冷たい。

そうか、お姉ちゃんが冷やしてくれてるんだ。

「うん、もう平気だよ。お姉ちゃんが冷やしてくれたから…」

スゥが、やっぱりお姉ちゃんに見える。もう抵抗も無いよ。スゥは、私のお姉ちゃんなんだから。

少し、そんなスゥを、そんなお姉ちゃんをからかいたくなった。

「…私、彼氏にお姫様抱っこされたかったな〜…」

するとお姉ちゃんは、優しく答えてくれた。

「私がファーストお姫様抱っこ取っちゃって、ごめんね。」

昔の私たちなら…私がからかったところで、もう喧嘩になってた。また私が泣いて、お姉ちゃんもしかられて泣く。その繰り返し。

 

そんな生活、うんざりしてた。

お姉ちゃんだっていい事してくれたるのに、喧嘩のせいでいい所が見えなかったんだ。

 

庭に咲く向日葵(ひまわり)にかき消された、片隅のアサガオのように。

 

私は、そんな記憶に思いをめぐらせながら、首を大きく横に振った。

「いいの。私、お姉ちゃんに抱っこしてもらえてよかった。同い年なのに、何かとってもうれしい。」

お姉ちゃんでよかったんだ。これが一生の思い出になるんだ。

「…ありがとう…」

お姉ちゃんは、しばらく黙っていた。その時…

「お姉ちゃん…泣いてるの?」

お姉ちゃんの瞳から、雫がほほを伝って、ゆっくりと落ちる。

お姉ちゃんは黙ったままだ。

 

私は、今までの私が悲しかった。

私は、姉に反抗した事が悲しかった。

私は、姉の気持ちに気づけなかった事が悔しかった。

 

でも

今日からは違うんだ。

私はうれしかった。

私は、今までの私から変われた事がうれしかった。

私は、スゥが姉でいてくれた事がうれしかった。

私は、姉も気持ちに気づけた事がうれしかった。

私は

もう今までの私じゃない

お姉ちゃんが傷ついたら

今度は私が助けるんだ。

 

本当にありがとう。


第8章 スゥ、ノックアウト。フゥ、一人で料理に奮闘。そしてベーコンに語る。(こりゃ大変ですわ、と言うよりなぜにベーコン…。)

気づいたら

私とお姉ちゃんは、浴室で二人で泣いていた。

お姉ちゃんは、なんと感じたんだろう?

こんなに世話やかせで、バカな私が妹でよかったのだろうか?

でも、それは聞かない。

きっと、同じ事を思っているはずだから。

お姉ちゃんは私だけの、私はお姉ちゃんだけの、大切な姉と妹だから。

 

「ありがとう、フゥ。」

もう一回、お姉ちゃんは言った。

もういいよ、私はお姉ちゃんの気持ち、分かってるよ。だから、もう泣かないで。

私まで…もっと泣きそうだから。

 

お姉ちゃんは立ち上がった。ゆっくり、浴室を後にしようとする。私は、立ち上がれなかった。

今までの事が、ゆっくり思い出されていく。記憶の糸をたどっている旅人。

それは私。

いろいろ考えて、いろいろ思いをめぐらせて、ずっと考えてた。

その時。

ドサッという音がした。

「お…ねえちゃん…?」

ドアを開けてみた。

フゥは…いや、私のお姉ちゃんは、そこに横たわっていた。

「お姉ちゃん…?どうしたの…?ねえ、目を醒まして…」

思いのほか、返事が返ってきた。

「大丈夫…ちょっと…熱があるだけ…だから…」

「お姉ちゃん…しんじゃイヤだよ!?私のベーコンサラダ、食べるって約束してよ!」

「う…ん…大丈夫…」

「ゆびきりげんまん…うそついたら…はりせんぼんのます、ゆびきった…」

ダメだ、泣いちゃう。

いくらただの熱ってわかっても…

辛そうなお姉ちゃんを見てたら、耐えられるはずが無い。

 

だって、たった一人のお姉ちゃんだもん。

お姉ちゃんを護るって、誓ったもん。

涙が、横たわるお姉ちゃんのほほに落ちる。

「冷たいよ…フゥ…」

ニコッとしたお姉ちゃんの顔。もう、我慢しないで…そんなに笑わないで…

「約束してよ…お姉ちゃん…!」

お姉ちゃんはコクッとうなずくと、気を失ったようだった。

 

立ち上がって、涙を拭いた。

今度は、私の番だ。

横たわるお姉ちゃんを、お姫様抱っこする。

…重い。

だけど…今は、お姉ちゃんが私にくれたように、私のぬくもり、届いてるよね?

夢の中でも、感じてるよね?

 

お姉ちゃんの特等席、

ゆっくり降ろしてあげた。

優しい寝顔。よかった。

湿らせた布を、額に載せておいてあげた。

 

その時、グツグツ言う音に気づいた。

しまった、お姉ちゃんの味噌汁、作りっぱなしだった!

 

「あ〜あ、もうお湯が無い…」

わかめと豆腐がお湯を吸ってしまって、いかにも不格好。豆腐がものすごい感じで崩れていた。氷山が崩れた跡みたい。

しょうがないから、水を足して再加熱。

豆腐とわかめは有り合わせで作ってるからもう無い。不格好でもこのままで行くしかない。

床に転がった半分のベーコン。

「もう食べられないね。でも、何か大切なものを教わった気がするよ、キミに。」

私は、足の痕を見てみる。お姉ちゃんが熱心に冷やしてくれたおかげで、少し引いてるように見えた。

「ベーコンさん、ありがとう」

名残を惜しみながら、半分のベーコンをゴミ箱に捨てる。

残ったベーコンは、一切れと半分だ。

 

…なんか変な感じ…

私ったら、何でベーコンなんかにお礼言ってるのかしら…

まあいいか。ちょうどお湯も沸いたころだし。

「後は味噌を入れるだけ。」

不慣れだけど、やればできるはず。

味噌を一生懸命とく。

でも、結局味の保証は無い。お姉ちゃんがこれを食べたら、失神するかも…

それぐらい、味の保証が無い…悲しい。

ベーコンも、もう一度炒める。

「熱い!あつっ…」

大声で叫んでしまった。はっと後ろを振り向く。

…ぐっすり寝てる。よかった、もう心配かけたくないもの。

油がはねる。熱い。

でも自分の力だけで、何とかしたかった。

もう、大切な人に心配かけたくないもの。


第9章 完成、約束破棄、自己満足、保障ナシ…(問題だらけ)

ようやく、完成。

不格好な味噌汁と、少し焦げちゃったベーコン炒め。ベーコンサラダじゃなくて、ベーコン炒めになってしまっていた。どっちにしろ、味の保障は無い。

「おきて、お姉ちゃん。ご飯だよ。」

…返事は無い。ゆさって、もう一度声をかける。

「お姉ちゃん。ご飯…」

…相変わらず返事が無い。

思わず、お姉ちゃんの服をつかんでいた。

「約束…しっかり守ってよ…私のお姉ちゃんなら…守ってくれるよね…?」

また涙声になる。ああ、また泣きそうだ。その時だった。

「な〜んちゃって。ほら、約束守ったわよ。」

まだ少しほてっている顔、少しかれた声。まだ快調ではないようだ。でも、よかった。

安堵の笑みを浮かべて、言った。

「意地悪しないでよ、お姉ちゃんなんだから。」

いつもの言葉じゃない。これは、ありがとうって言う意味だから…

「さて、フゥが作った料理、食べようかしら?」

「賛成!早く早く!」

私とおねえちゃんは、食卓に向かった。

 

「ごめんお姉ちゃん、約束守れなかった。」

「何が?」

何がなんだかさっぱり分からないような顔で、お姉ちゃんは言った。私はそれに答える。

「ベーコンサラダって言ったでしょ?」

「うん。」

「…ただのベーコン炒めになっちゃった。」

お姉ちゃんは、皿に視線をやった。みると…ベーコンしか載っていない。

「いや、確かにそうだけど…」

お姉ちゃんは苦笑いで答える。更に続けた。

「言ったでしょ?フゥの気持ちだけでもうれしいって。」

…ならいいんだけど。とりあえずよかったね。

「全部失敗しちゃった…味噌汁も、ベーコンも。ご飯は炊きっぱなしで何とかなったけど。」

私も、お姉ちゃんもベーコンと味噌汁を確認する。私は不格好のあまり、大きなため息をついた。

「…フゥにしては、上出来。それに、いろいろあって失敗しちゃったわけだから、

 何にも無かったらきっとうまく行ってたわよ。」

そうは言うけど、現に失敗作。もういいよ、皿をひっくり返したくなる。

「いただきます。」

「ちょっ…お姉ちゃん、味の保証が無いんだけど…」

「うまいから大丈夫。」

かえって心配になってしまう。しょうがないので、私も黙々と食べる事にした。


10章 やせ我慢じゃない、本当の気持ち。(たとえ味が微妙でも…大切な事がある。)

…食べ終わった。

私には、豆腐がしっくり来なくて、わかめは水を吸いすぎてて、ベーコンは焦げてて苦かった。イコール、正直まずかった。

唯一うまかったのは炊き立てのご飯だけ。

なのに…なのにお姉ちゃんは、「おいしかったよ」って言うだけ。

何回聞いてもそうだ。やせ我慢してる。

思わず、聞いてしまった

「ねえ、本当の事言って。やせ我慢してない?本当はまずいでしょ?」

これを聞いて「まずい」と言われたら、プライドが傷つく。

でも、本当のことを言ってと言ってしまった。

お姉ちゃんはゆっくり口を開いた。

「味はうまくてもまずくても、ともかく」

少しドキッとした。どんな答えが返ってくるのか…

「フゥの気持ち、伝わってくるよ。その気持ちだけで十分。」

結局、求めていた答えは返ってこなかった。でも、それと引き換えにもらったものがある。

大切なのは、味じゃない、気持ちなんだと。

料理だけじゃない、これはほかの事にも言えるはず。

お姉ちゃんから教わった事は、たくさんある。

 

食器を片付ける。お姉ちゃんと一緒に。

面倒だから、食器洗いは後にしよう、と言う事になった。しかも、お姉ちゃんも手伝ってくれる。

 

気づくと、お姉ちゃんは外にいた。

「お姉ちゃん、何やってるの?」

「少し外で涼んでるの。」

「私も行く〜!」

結局同い年なのに、私のほうが無邪気。幼く見えて当然、か…やっぱり悲しい…


11章 庭のアサガオと支柱(ラスト章ですよ〜、多分)

お姉ちゃんは、もう外で待っていた。

私は、それを追うように急いで外へ駆け出す。

もうサンダルが小さい。成長したね、心も体も。

「涼むだけだけど、いいの?」

「お姉ちゃんと一緒ならいいよ〜!」

やはり無邪気…今のはおねえちゃんの眼にどう見えたのだろう…少し心配。

「あ、お姉ちゃん、あれ!」

そこにあったのは、倒れているアサガオ。

「この前植えた種だよ!うわぁ、もうこんなに大きくなったんだ!」

「つかまるものが無くて、倒れちゃってるのね。」

お姉ちゃんは、庭のガーデニングツール用の物置をいじくり始めた。

ガーデニングはお母さんが得意。

だけど、私たちが植えたのまでは気が回らないらしい。

なによ、それなのに旅行のときばっか張り切って。

でも、その留守番のおかげで大切なものを手に入れたんだもん。

 

お姉ちゃんは、物置の中から何か棒を取り出してきた。

「…何、それ?」

「知らないの?これは、“支柱”っていうの。こういう上に伸びるツル系の植物が巻きつけるように、

 こうやってアサガオの近くに立てるの。そうすると、アサガオが勝手に巻きついて、

 どんどん成長していくのよ。」

お姉ちゃんは説明をしながら、支柱を立てて、アサガオのツルを丁寧に巻きつけ始めた。

「そのままにしておけばいいんじゃないの?ほら、勝手に巻きつくって言ったじゃん。」

「それは、アサガオが大きくなる前に立てておいたときの話。だけど、今回は

 大きくなってるのにそのままにしちゃってたから、もう一回巻かないとうまく巻きついてくれないの。」

「ふうん…」

結局同い年なのに、お姉ちゃんのほうが物知り。

こう見ると、双子でも何でもないようにしか見えない。…悲しい。

巻きつけ終わってから、お姉ちゃんはこんな事をポツリと言い出した。

 

「人間って、みんなアサガオよね。」

「え…!?」

お姉ちゃんが急に言った言葉は、言われるまで理解不能だった。

キレイだから?それとも、何?

「え、それってどういう事?」

「アサガオって、支柱がなければ上に伸びられないでしょ?」

「そうだね。」

それがいったい、人間=アサガオとどういう関係があるのだろう?

「人間だって、ほら、支柱みたいに支えてくれるものがなきゃ生きられないでしょう?

 友達とか、家族とか…ほかにもやりたい事、好きな事とかに支えられてるでしょ?」

 

言われてみれば、そうだ。

私は…家族に支えられている。

今日は、お姉ちゃんという支えが、更に頑丈になった気がする。

 

お姉ちゃんは続ける。

「そういう支柱が人間から消えたとき、人は人で無くなる。」

ドキッとする。

お姉ちゃんの言葉には、いつも説得力があった。

これが同じ姉妹なのだろうか?

「人は一人では生きていけない。だから、みんなが支えあって生きていくの。」

そうだ…

今まで私たち姉妹は、互いの支柱を倒しかけていたのかもしれない。

多くの原因は、喧嘩。

でも、今はもうそんなことは無い。

互いの気持ちを知る事ができたのだから。

 

ふと支柱を見てみる。

そこには、もうアサガオが巻きついていた。

支柱を立ててくれてありがとう、とでも言うかのように。

これは、お姉ちゃんの魔法だろうか?

或は、お姉ちゃんの気持ちが通じたからだろうか?

それはきっと、アサガオしか知らない。

 

気づけば、もう夕暮れ。

空はいい感じのオレンジ色。

(人は一人では生きていけない。)

何度もかみ締めるその言葉は、

胸の奥に語りかけた。

「もう入ろう、フゥ。」

「わかった、お姉ちゃん。」

 

もうじき、お父さんとお母さんが帰ってくる。

その時、こんなに気持ち的に変貌した私たちを見て驚き、そしてこう言うだろう。

「何かあったの?」と

 

でも、それは言わない。

これは、二人だけの秘密だ。

 

結局フゥはお姉ちゃんという事になり、私は妹という事になるだろう。

それも無期限で。

私はそれでかまわない。

そのほうが気が楽だし、

お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだ。

それを両親に言ったら、またきっと驚くだろう。

戸籍上はどっちが長女でどっちが次女なのか、私たち姉妹は知らない。

もうそんな事、知らなくてもいいしね。

 

留守番が教えてくれた事、そして火傷が教えてくれた事、風邪が教えてくれた事。

 

両親が旅行に行ってくれたおかげ。

何か変な言い方だけど、ありがとう。

 

そして、庭のアサガオ

本当にありがとう、大切な事を教わったよ。

 

もうじき、夏真っ盛り。

あのアサガオも伸びている事だろう。

 

姉妹の絆は、いっそう深まっただろう。

 

夕焼けを見つめながら、姉妹はきっと同じことを考えていただろう。

おわり

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Palm Station!!

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自己満足しすぎな私です、どうもスイマセン…

こういう隠し文字が一番自己満足です…

もうしわけありませんっ!

(というより、これを見つけられた人は隠し文字マスターっぽいですね。スゴイですよ。)

by Pepporo Yukimatsuri