3章 とかれた封印

二人の少女と一人の龍。

その少女と龍の、ここまでのプロローグ(序章)


白き龍王町

 

 

 二人の少女、一人の龍。

 遙か山脈を目指し、ひたすらに飛ぶ。龍の背に乗って、龍は背に乗せて。

 

「あ、山脈見えてきたよ、バル。」

「ホントだ!じゃああの向こうが龍王町かな?」

(ファルタ、ファド スピーキアロ?「二人とも、何を話していらっしゃるのですか?」)

 

ルナフレア―またの名をルナ―、バルフレア―またの名をバル―、そして二人を乗せる龍。

 龍の背に乗って何かを話す少女。


「ディア ウル エールア“ドラゴンフロンティア”ルティアル スピーキアル。シャイル、バル?(あの山越えたら“ドラゴンフロンティア”だって話してたの。ね、バル?)」

「ティア。エスティア?ルル。(そうよ。分かった?ルル。)」

 

彼女たちは、龍の言葉を理解し、そして龍の言葉を話せる特別な人間。


(エスティル。ファルタ、フィン ナウルアロ。「分かりました。…二人とも、よく知っていますね。」)

にっこりしながら話す龍。しかしその表情は、背に乗っている二人には勿論見えない。―その龍の名は、ルル。

 

山脈に差し掛かる。いよいよ“ドラゴンフロンティア”に近づく。そうなれば、さすがに表情も真剣になる。

 

“ドラゴンフロンティア”―龍が住むと言われる、辺境の町。彼女たちは、ルルが生まれたらしいこの町を目指して飛んでいる。

―この町のまたの名は、龍王町。

 

山脈の真上を越えていく。前方からは涼しげな風が吹き渡る。

「フゥリィ スワロゥティア、バル。(風気持ちいいね、バル)」

「ティア、リヴェン スワロティア。(うん、とっても気持ちいい)」

そんなことを話す二人の少女に、龍は一声かける。

(クリアル“ドラゴンフロンティア”「間もなく“ドラゴンフロンティア”ですよ。」)

 

姉のルナフレアは、龍の背で一人思い出にふけっていた。楽しかった過去のこと、両親の事、そしてあの忌まわしき事件。

 

 その度に、悲しくなる。

 

 その度に、過去に戻りたくなる。

 

「ねぇルナ、何考えてるの?…あ、またどうせ昔の事でしょ?」

 

 図星だった。

 

 視線をはずす。

 

「言ったでしょ?思い出すと辛くなるからって。過去の方に振り向いちゃいけないって。」

 

 返事なんて、できない。ただ、黙ってるだけ。胸が痛い。

 

「…ねぇバル…想燃場(そうねんば)の人たちが龍を災いだと思っても…私たちはそうは思わないよね…?」

「何言ってるの、当たり前よ。やっぱり昔の事考えてたのね。」

ルルが二人の話す言葉の意味を知りたくて、首をあちこちに向けている。しかし、勿論分かるはずもない。

姉妹の秘密は、龍には分からない人間の言葉で。

 

 そして、とうとう街が見えてくる。

 

「ロゥ…ピビリアル ヴィリアル トゥエルン!(わあ…すごい大きな街ね!)」

「ディア クロック オル プレシオ コルトゥラクゥ!(あの時計があるところまで行って見ましょう!)」

(フィクシーズ「了解です。」)

ルルは轟音を立て、龍王町の時計台へ向かう。時計台、といっても巨大な塔にある時計のことなのだが。

「バル、トゥ ルル コルゥド スターツ。(バル、ルルに指示を出して。)」

「フィクシード。ルル、クロック イグリアル ターンフゥリング。(了解。ルル、時計の周りを旋回して。)

(ターンフゥリンギア?フィクシーズ。「旋回ですね?了解です。」)

するとルルは、時計の周りを旋回し始めた。塔を中心に、きれいな円を描くように、風を舞い立たせながら旋回する。

 やがてルルは、ワンパターンな旋回ではすまないと思ったのだろうか、ルルはその高度を上げて旋回の範囲も広くした。

 

「ロゥ…ディア トゥエルン ナリアル ティエタス!(へえ、この町ってこんな風になってるんだ!)

「キルア リュウティア!(景色が綺麗ね!)」

ルルは姉妹が喜んでいるのを見ると、またにっこり笑った。

 

この町には、誰も居ない。

廃墟と化したこの町には、誰も住んでいない。

山賊でさえも、ここに入ることすら恐れる。

遥か昔に滅んだ町、龍王町。

唯一残るのは、ボロボロになった民家の一部。それは土に埋もれている。

 

そして

残りはあの時計台が残るのみ。

 

遥か昔から、神殿か何かとして使われていたのだろうか。

壁のひとつ崩れたりはしていない。

 

美しい自然

謎めいた塔

 

この二つは一体三人に何を思わせたのだろう。

遠い昔の町のことだろうか。

それとも自然の情景と化したありのままのこの町だろうか。

 

不意にバルが叫ぶ。何かを見つけたようだ。

「ねえルナ、あそこに居る人たち、なんか変わった雰囲気だよね〜?」

「あの六人…いや、二人はポケモンみたいね。」

「そうそう。…何か威圧感感じるよ〜、こんなに空高くに居るのに。」

「面白そうね、ちょっと後つけてみようよ、バル。」

 

彼女たちは、必要に応じて話す言葉を変える人間。

必要のないときは人間の言葉を話す。

 

「ルル、ディア ティクシア キルフィ クアール。ノウディックアール。(ルル、あの六人の近くに降下して。気づかれないように。)」

「フィクシーズ。(了解です。)」

 

ルルはあの激しい轟音をピタッと止め、風に身を任せるようにゆっくり降下する。

かなり近くまで来たようだ。

「クアール、クアール!(降下、降下!)」

バルフレアはかなりはしゃいでいる。

下では、六人組のうちの一人の少年が、空を見上げて何か言っているのが分かった。

 

「バルのせいで気づかれたんじゃない?」

「ゴメン、でもそんなことないと思うよ。」

一気に声のボリュームを落とす二人。

 

そして

着陸は成功した。

姉妹の尾行作戦が、今幕を開ける。

 

 

 

 

 

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