第13話
第2の刺客
シバはきわのみさきにいた。
しかもそのがけっぷちに胡坐をかいて座り、なにやら精神を集中しているようである。後ろから見ているだけでも何かがシバの体を取り囲んでいるように見えた。
オレンジはトウキをそこまで案内した後、少し後ろでトウキとシバの様子を見ていた。トウキはシバに近づくと、肩を叩いた。
「おい、シバ。」
「……もう来てたのか。トウキ。」
シバは立ち上がるとトウキの方に向き直った。
そして少し後ろで様子を見ていたオレンジと共にキワメの家に入る。
「婆さん。珍しい客が来たぞ。」
しかし、キワメはそこには居なかった。
代わりに、机の上に置き書きがある。
『シバ
わしはしばらく出かける。
何でも育てやの婆さんが来て欲しいといっとるでの。
そろそろトウキとか言うお前の兄弟弟子も来るころじゃろ。来たいのなら一緒に4の島へ来い。
多分婆さんの頼みというのは預かりポケモンの相手じゃろう。オレンジとかいう若僧も連れてきたらええ。
それに、あそこはカンナとかいうお前の同業者が守っている島じゃろう。オレンジとかいう小僧も修行がはかどるじゃろうて。
なぁに、2の島のもんのポケモンには無理矢理究極技を覚えさせておいた。お前がおらずとも、大丈夫じゃろう。
お前が精神統一してたのは知ってたが、これをみて行動しとるようならばわしが一枚上手じゃな。
キワメ』
どうやらキワメは4の島というところに向かっているらしい。
シバは置き書きを破り捨てると外へ向かった。
「トウキ、どう思う?」
「俺としては、あんな置き書きをあのばあさんがするとは思えないな。ましてや、出かけるときに置き書きなんてしたことがあるか?」
「いや、ない。」
そう、キワメは何度も家を留守にすることがあるのだ。
しかし、そのたびにシバを見つけて連絡するため、置き書きというのはしたことがない。ましてや、気づいていたのならなおさらだ。
「そして、婆さんは究極技を一定のポケモンにしか教えない。……いや、教えられないといった方がいいか。」
そう、現在究極技であるブラストバーン、ハードプラント、ハイドロカノンを使えるのは10種類前後。
しかし、この2の島にはその10種類前後をもっているトレーナーはいないし、キワメが究極技をおしえることができるのはそのうちリザードン、フシギバナ、カメックスだけだ。
となると、キワメはどこへ行ったのか。
「トウキ。この世の中、婆さんを倒すほどの実力者がいることはいるだろう。だが、それだと世界的に有名な奴ということになる。
しかし、婆さんはいない。つまりこれは連れ去られたことになる。しかも俺の知らないうちとなると、そいつはかなりの実力者だ。
だが、そうなると誰がそんなことをしたのかという疑問がわいてくる。……俺にはもう答えが見えているがな。」
「まさか……。」
トウキはある答えにたどり着いたようだ。
そして、オレンジの顔も強張る。
「そう、ロスト団だ。
奴らの幹部級がやったことだろう。だが、何の音も聞こえなかったということは、ポケモンは使っていない。」
そのとき、オレンジの頭にある姿が浮かんだ。
トキワの森での襲撃者、グリーンの妻でありライバル、アクアの母。自分の親からも恐れられていたブルーの姿である。
彼女はマサキ以上の頭脳を持っているかも知れない。いくら洗脳されているとはいえ、グリーンの様子を見ていた限りでは態度などに変化はなかった。つまり、自分のくせなど細かいことを壊さずに洗脳されているのだ。
かなりの高度技術である。
トウキ、シバが共に唸っている時、オレンジは他の答えも見つけ出した。
ナナシマはカントー本土からかなり離れた島。
伝説のポケモンでもない限り、人を乗せて本土とナナシマを行き来はできないだろう。
となると、交通手段は限られてくる。
「……シーギャロップだ。」
オレンジがぼそりと呟く。しかし、シバとトウキはまだ唸っている。
オレンジは待ちきれずに走り出した。
シバ、トウキがそれに気づく。
「オレンジ!どうした!?」
「師匠!もしかしたらキワメ婆ちゃんは2の島から離れてないのかもしれない。
そうじゃなかったら、今カントー本土のクチバに向かっているはずだ!シーギャロップで!」
オレンジはさらに走った。
シバ、トウキもそれを追いかけながらオレンジの考えに感心していた。
オレンジはさらに加速する。
そして左足で大きくブレーキを掛け、少しだけ勢いを残した状態で港へ向かった。シバとトウキもそれを追いかけてくるが、曲がったところでオレンジを見失ってしまった。
「! シバ!あれを見ろ!」
港の入り口に、オレンジの帽子が落ちていた。
父親からもらったという大切な帽子。それが落ちているということは、オレンジは今港にいる。
「行くぞ!」
「オウ!」
シバとトウキはまた走る。……が、何歩も走らないうちに突然体が動かなくなった。その後、目の前に1人の女性が現れた。
星の形をしたイヤリング、明らかに重力を無視した黒に近い群青色の髪、そして、かつての輝きを失った水晶のような目。
ジョウトの捕獲専門家、クリスタルだった。
オレンジは港に入った後、ある人物を見つけた。
その人物は車椅子を押している。
だが、後姿ですぐにそれが誰かわかった。
茶色いロングヘアー。白い帽子、水色の服に赤いミニスカート。
あまり私服というのを見たことがなかったが、1度だけ見たのを覚えていたかいがある。
オレンジはミニリュウを出して指示を出した。
「龍静(りゅうせい)!
龍の怒り!」
ニックネームをつけてもらったミニリュウ、龍静の口から炎の龍が放たれた。
それはまっすぐに標的となったミニスカートの女に向かって行ったが、当たる直前に大きなポケモンにさえぎられた。
2足歩行の背中に発射砲を2つ背負った大きな亀のようなポケモン、カメックスである。
「オレンジ。不意打ちって言うのは酷いんじゃない?」
「さすがブルーさん。
親父が恐れることだけある。」
亀の横から1人の女性が出てきた。
青い眼をしている。やはりブルーだった。
「へぇ、グリーンのいう通りね。
だったら……容赦はしないわ!」
ブルーは着ていた衣服を投げ捨てた。
そして、その中から新たな衣服が飛び出してくる。
右肩には青い肩当。左肩にLと書かれた黒い衣装。ロスト団の服である。
「さて、どうしましょうかね。
この、厄介なガキ!」
シバとトウキに掛けられていたのは、黒いまなざしだった。
しかし、クリスタルことクリスの登場と共にそれは解かれる。
「どういうつもりだ?」
「いえ、私はただの足止め係ですから。
さて、ウインぴょん。炎の渦。」
右目を失ったウインディから炎が放たれ、シバとトウキを取り囲んだ。
「しばらく、そこに居てくださいね?」
クリスはクスッと笑うと、次の瞬間には消えていた。
そしてそのとき、シバがあることに気がついた。
「しまった。奴らの狙いは、婆さんじゃなかったのか!」
「! なるほど、そういうことか。」
トウキも何かに気づいたようで、どうにかしてこの渦を抜ける方法を考える。
「だが、早くしねぇと行けないぜ。」
「ああ、早くしないと、連れ去られてしまう。」
「……オレンジが……な。」
人類の希望の星に、危機が迫っていた。
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