第23話
            父と母

 育てやでのバトルが終わった夜。
 オレンジは育て屋に泊まることになった。……といっても夜の庭を見回るといううれしくない特典つきだったが。
 それというのも、ケンタロスとポチエナ、グラエナの群れのせいである。
 爺さん婆さんが知らないというのなら、誰もが寝静まったこの夜に何者かが勝手にこの庭に放したということになるであろう。
 卵ができたのなら、爺さんと婆さんが回収して卵ができたポケモンの持ち主に渡すはずである。

 オレンジは、欠伸をしながら目をこすった。
 目の前に広がるのは寝ているポケモンたち。しかし、ヨルノズクやコラッタなど、まだまだ元気に動くポケモンもいる。

 オレンジのそばには、龍静と草陰がいた。
 こちらも眠たそうであるが、オレンジがカゴの実を持たせている。カゴの実は、眠ったポケモンを起こす実だ。それがどういう理由であれ、眠ってしまえばカゴの実の効力は勝手に発動し、ポケモンは起きる。

「ふぁ〜あ……これじゃ泊まるっていう意味にあてはまらねえよ。」

 オレンジのいうとおりである。
 泊まるというのは人の家で寝るということであり、寝てないのならば泊まったうちにはいらない。
 しかもここは家の中ではない。庭だ。

 オレンジは今卵を抱えている。
 左手で卵を持ち、歩いている。右手には懐中電灯を持って、庭を見て回っている。
 そのとき、森の方で何かが動いた。ヨルノズクが獲物を捕らえたのかと思ったが、違う。人の声が聞こえた。

 それこそ常人には聞こえないほどの小さな声であったが、さすがにあのレッドの息子だけある。レッドは全てが常人とはかけ離れていた。
 そのうち、聴覚だってそうだ。ホウエンという地方のポケモンリーグチャンピオン、サファイアほどではないが、五感は優れている。

『よし、こっちはOKだ。そっちはどうだ?』
『こっちもOKです。このままいけば、もう少しで……!』

 突然、声がやんだ。
 オレンジは一瞬ばれたのかと思い、懐中電灯の光を消す。そして、音をたてないように木の陰に隠れた。
 しかし、どうにも気になる。先ほどの声、よく考えてみればどこかで聞いたような声だった。

(いったいどこで聞いたんだ?
 なんか、懐かしいような……。)

 そのとき、オレンジの隠れている木に電撃が迫ってきた。
 オレンジはとっさに動き、木を方を見る。木は、電撃が当たると同時に黒こげ、倒れてしまった。

 今度は電撃が飛んできた方をみる。そこには、ピカチュウの姿があった。
 そして、その後ろには2つの影がある。

 1つは赤眼黒髪の男性。1つは黒目に黄色い髪の女性の影だった。
 あの姿にも見覚えがある。確か……。

「!……父さん、母さん?」
「よぉ、久しぶりだな。オレンジ。」

 その声は、レッドの声であった。
 もう1つは、イエローの声であった。

 だが、オレンジがなぜ思い出せなかったのか。きっと、その声のトーンは同じでも、冷淡だったからであろう。
 以前のレッドとイエローの声は、もっと温かかった。そして、もっとやさしかった。

 ところがどうだ。今のレッドとイエローの声には温かみの欠片すら感じない。

 姿だってそうだ。右肩には黄色い肩当。左肩にはLと書いてあって、後は黒ずくめ。

「……草陰。龍静。」

 オレンジの声で、草陰と龍静が戦闘準備に入る。
 向こう側のピカチュウは、左耳に傷があった。きっとレッドのピカだ。
 だが、レッドはそのピカを戻し、古代の翼竜、プテラのプテをだした。イエローは、ドードリオのドドすけを出す。

「オレンジ。残念だが、お前に付き合ってる暇はないんだ。」
「だから、おとなしく消えて頂戴ね?」

 それと同時に、プテから黄色い光線が、ドドすけからは三色の光線が放たれる。
 破壊光線とトライアタックだ。

 しかもその速さは凄まじく、オレンジが対応できるものではなかった。
 草陰は戦闘不能。龍静も、体当たり1発であっても倒れてしまう。

 そのとき、龍静の体が輝きだした。
 それと同時に、卵に小さなひびが入る。

 進化と孵化。その2つが、同時に始まった。

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