「あら、遅かったじゃない。」
どういう手段を使ったのか解らないが、アゲトビレッジについた時には、すでにガーネットに先回りをされていた。抜かされた気配などなく、さらに砂嵐に会ってしまったから、時間を食っていた。そのせいで、日の出ているうちに着く予定が、すでに夜になってしまっていた。
「まじかよ・・・俺達なんかもう砂嵐がひどくて・・・。」
そういうミカドの顔は砂埃だらけだった。サフィリスも同じような状態であるが、ナギだけはなぜか無傷。
「まだ口の中がざらざらする。」
そういってサフィリスはバイクを停める。荷物をまとめると、砂と草地の境目へと足を踏み出した。
「ここ草地だなあ、乾燥してないし。」
「そりゃそうさ。オーレの癒し、とかまで言われてるんだから。ほら、ナギ起きろ。」
荷台にて眠ってしまったナギを起こす。目を擦りながらナギはプラスルを抱きかかえた。
「着いたの?もう夜だあ。」
意外に素早く飛び下りる。ダークポポッコも目が覚めたかナギの後を追うように飛び下りた。砂漠からの冷えた風が途絶え、代わりに森からの暖かい風が吹く。
「ほら、ナギ、早く行けよ、俺その後ついて行くから。」
「あ、うん。」
ナギは歩く。その後をミカドは追おうとしたが・・・。
「ああまてナギ!ナギってばああ!!!!」
すでにミカドの声は聞こえていない。何をしてるのか、荷物が上手くまとめられないミカド。仕方なく、ガーネットがナギを追い掛ける。
すでにナギは遠くへと駆けている。あんなに動きにくそうな靴を履いているにも関わらず。ガーネットがなんとか追い付くと、そこは木の根っこの間に作ったような、不思議な雰囲気の家。初めて来たのに、なぜか懐かしかった。
「ナギの家ってここ?」
「うん、正確にはおじいちゃんの家。あれ?ミカドは?」
「なんか荷物が上手く出せなかったみたいで叫んでたよ。」
「仕方ないなあ・・・おじいちゃんたちを待たせるわけにもいかないし。」
ナギはドアに向き合うと、軽くノック。そして、遠慮なく家に入る。
「あらナギ!どこいってたの!?」
「おお、ナギ!心配したんだぞ!」
と、家の中にいた2人同時に反応する。それから見ても、ナギがいかに心配させていたかが解る。ナギは今までのことを全て話す。
「それで、ダークポケモンっていう真っ黒なオーラのポケモンが見えるからっていうんで、変な組織に追い回されたところに、ミカドって人が来てくれてね!」
そのミカド本人はまだ何かやってるのか、一向に来る気配がなかった。
「で、お前本当に人が良いっていうか、誤解されやすい上に伝わらないんだな。」
男2人、雲一つない星空をながめて。
「何が?」
「いやさあ、ナギちゃんに日焼けするからとかいってコートかした後に砂嵐来ただろ。お前、分かってたんじゃないの?」
「いやだって男はいくら汚れても放置できるけど、女の子は俺責任とれないし。」
「お前・・・やっぱり誤解されやすいんだな。この分だとナギちゃんをスナッチできる日は明らかに遠い。うん。」
「ほっしいいいいいいい!!!!!」
それしか言い返せないでいると、どこから出したのか大量の荷物を持ってミカドはようやく歩き始めた。その後をサフィリスもついて行く。何もなければそのまま行けそうだが・・・。
「そういえばさあ・・・ナギんち知らないんだよな、俺達。」
「そうだよな・・・。」
2人は真っ暗なアゲトビレッジで途方に暮れてしまった。
「どうする?」
「ほっしーはざくろと連絡とれるんだろ?」
「ああ、その手が!」
言うまで気付かないのか、とかなり呆れてミカドは自分に近付いてくる人を観察していた。夜に出歩く人というのは、都会では珍しくないかもしれないけど、ここは都会ではない。
「もしかして・・・あんたミカドじゃあ・・・。」
ここはアゲトビレッジ。こんなところまで名前が届いてるんでは、オーレ地方の有名人。むしろ、スナッチ団としてのミカドの悪名が売れてる可能性が高い。
「ああ、そうだが?」
「お、お前が最近不審なポケモンを・・・。」
「ああダークポケモンか?」
「やっぱりな!あんたすげえよ!有名人だぜ!パイラタウンからミラーボっていうの追い出した上にコロシアムで圧勝したんだろ?」
順序が逆だが、ミカドはうなずいた。こんな小さい村にまで情報が入っているとは思いもよらなかった。
「なんかさ、こんなアゲトビレッジにいるとあんまりそういうのもなくてさ、そういった情報が伝わってくるのはええんだ。」
「情報が早い・・・そんな情報網、オーレにあったか?」
不審に思いながらもサフィリスが行く方向について行く。荷物がやたらと重い。ずっしりとのしかかってくるようだった。
アゲトビレッジの中でもっとも風が強く吹く場所からそう遠くないところにその家はある。少なくともミカドはそう判断した。初めて来るミカドにとっても心地よいものを感じる。
「あらあら、貴方がナギを助けてくれたミカド君なのね?」
「ああ、まあ成りゆきになってしまってお嬢さんには本当に振り回され・・・・。」
ナギからの視線が痛く突き刺さる。
「いやいやそんなことなく、本当にポケモン大好きな子でまじでそれでいて勇敢なものですからもう本当に・・・。」
ミカドの中に、パイラコロシアムに入る前のナギの行動が過る。あの勇敢さと強引さには、ミカドも参ってしまった。
「それにしても砂だらけだねえ。もしかして砂嵐の中を突っ切ってきたのか?」
たっぷりの白いヒゲをたくわえた、分かりやすくいうなら魔法使いのような貫禄を備えた人。ローガンというこの人がナギのおじいさんのようだが、砂だらけのミカドとサフィリスを見て不審そうに見ていた。
「いや、もうまじでいきなり砂嵐きたもんですからねえ。」
「その中に精霊様の声はしなかったかの?」
「精霊様?さあ?」
首をかしげる。サフィリスも何のことか分かっていない。
「フライゴン様だよ。オーレ地方を見守る精霊様。砂嵐と共に飛んでくる。何かあった時に出てくるんだよ。」
「へー。そういえばそんな話聞いたなあ。」
ミカドが頷きながらナギに渡されたタオルで顔を拭く。顔から頭から、はては愛用の日差し避けのコートまで砂だらけなものだから、すぐにタオルは真っ黒になってしまった。
「精霊様は、砂漠を通る人間が見込みがあると現れるんだよ。」
「なんの?餌の見込みとか・・・?」
サフィリスの幼稚な疑問を笑い飛ばしさらに続ける。
「違うな。『フラッシングウインズ』に値するかどうか。」
「なんだそのフラッシングウインズっていうの?」
年寄りの話には興味がなさそうにミカドはタオルを裏返した。
「栄光の風、煌めく風、輝く風とも言うな。オーレ地方の伝説でな、困難を乗り切ったものや困難を救うものに吹くという伝説の風で・・・。」
うんざり気味のミカドの隣で、白い帽子についた砂を振り落とす。すでに白いという形容詞ではなくクリーム色という方が正しい。室内にもうもうと砂埃が舞い上がり、側にいたガーネットに攻撃を食らう。
「いってぇ・・・なにすんだよ。」
「室内で埃落とす行為のがどうかしてると思うわよ。ほら、ちゃんと顔も落としなさい。」
有無を言わせずサフィリスは大きなタオルに拭かれていた。横目でみながらミカドはローガンの長い伝説の話にうんざりしている。ナギなんていつも聞かされているのか、いつ止めようと機会を伺っている。
「砂漠の精霊様が認めると、虹に知らせて、『フラッシングウインズ』が訪れる。そんな伝説があっての。遠くからやってくる虹の休憩所として、このアゲトビレッジが栄えたわけじゃの。」
ミカドの目は半分閉じていた。ナギに揺さぶられ我に帰る。が、つまらない話なことには代わりないので、再びミカドのまぶたが降りてきた。そんなミカドを見てもなお、ローガンの話は続くのである。
失礼きわまりないことだが、そのままミカドは寝てしまっていたようだ。気づけば辺りは電灯よりも明るくなっており、隣にはナギがパジャマ姿で転がっている。
「・・・つまり俺って未来のおじいちゃんに失礼したってことだよな、やべえ・・・。」
ローガンの話はとてもつまらなかったのはみんなそうだったようだ。話を聞きながら眠ってしまい、それでいて寝床に運ばれても気づかないとは今までになかった。どうもスナッチ団を抜けて、ナギに会ってからというもの、勘の鋭さというのがなくなってきたようだ。ちょうど鉛筆が使っているうちに丸くなるように。どこかでけずらなければいつか使い物にならなくなる。
「・・・まだ早いみたいだし、もう一度寝るか。」
左腕が上に乗らないように気をつけてミカドはナギに背を向けた。その直後だった。プラスルが寝ぼけてミカドに電撃を食らわせたのは。
−あの人間、風が言うには違う点もあるが、間違いないだろう。・・・難は続く。終着点についたとき、それが栄光の風になるのは間違いない。−
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