元々朝型の生活をしている人というのは、寝起きが非常に良い。目覚ましをかけていたにもかかわらず、音よりもむしろ窓から差し込んでくる光で目を覚ました。昔からそのようにして朝を迎えてきたガーネットにとって、不自然でもなんでもなかった。
「ガーネット?」
布団の上で着替えていると、ナギを起こしてしまったようだ。まだぼーっとしたような目でこちらを向いている。
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
「え、違う違う、なんか昨日は疲れたのにあんまり寝てなくてさ、なんか起きちゃった。」
ナギはとても眠そうに目をこする。
「それならいいんだけど・・・。」
長い髪をとかし、まとめあげる。終わったと同時にブラシを乱暴に鞄の中へ入れる。
「あ、それとさあ、アゲトに大きな森あるでしょ?ちょっと行ってくるから、みんなにそう伝えておいて。」
「え?散歩?私も行くよ。ちょうど久しぶりに戻ってきたんだし。」
ナギも起きると早速、着替える。プラスルはまだ夢の中のようだが、物音に気づいて起きたようだ。着替え終わったナギの腕に抱かれ、再び眠ろうとしている。ダークポポッコはゆらりと大きな犬のような耳を動かすとナギの後についていく。
「じゃあ行こうか。そういえば、ミカド君どこいったんだろ。」
「ミカド?そういえばいないけど、まあいいわよ。」
ナギにも見捨てられたミカドは元からいなかったように痕跡が残ってない。多少の砂が落ちているから、起き上がってどこかに出かけたのは明白なのだが・・・。
低い崖の近くの清流と反対の方向に歩いていけばその森に着く。ナギの足取りは何回も来ているベテランの歩き方。追いつくだけで精一杯。さらにナギは近道といって、大きな空洞に入っていくものだから、地元の人でないと追いかけるのには体力が要りそうだ。
「ちょ、ちょっと待って・・・。」
「大丈夫大丈夫、もうすぐだから。」
この言葉に何回騙されて、こんな洞窟まで入ったのかは知らない。大きな木の蔓や根っこを越えると、視界は大きく開ける。
「こんなところが・・・・。」
朝だというのに、そこは昼間以上に明るかったように思えた。真っ暗なところからいきなり出たからそう感じたのか、それともそこにあるものが光を出しているように見えたか。
「ほこら・・・みたい。」
「そうよ、アゲトビレッジではね、セレビィを奉るためにこのほこらがあるのよ。おじいちゃんの話では、最初にあったのはこのほこらで、後からアゲトビレッジができたっていうけど。」
ナギの説明など耳に入っていないようだ。ガーネットの中に懐かしい記憶が洪水のように押し寄せる。
「ナギ、私ね、今でこそホウエン地方に住んでるけど、昔はジョウト地方にいたの。」
「え?ジョウトのどこ?」
説明しにくいようで、ガーネットは少し黙る。住所を言ったところで通じるとは思えないし、ジョウトで有名なのは都会のコガネか古都のエンジュしかない。後は小さな街が集まっている静かな地方だから。
「ちょうどコガネシティと杉の木で有名なヒワダタウンの中間くらい。小さいころ、妹と二人で近くにあるウバメの森によく行ったの。そこにも、これと同じようなのがあった。」
「あ、知ってる、ウバメの森ってセレビィが住むっていう森だよね?」
「うん、そう。そこで、こういうほこらの近くで・・・よくセレビィを見てた。向こうは気づかないだけかもしれないけど、ほこらのまわりで何か祈ってたように見えた。」
「え?ガーネットもセレビィみたことあるの?」
「あ、うん、一応・・・。喋ったこともあるよ。」
「うそー!!!!!」
ナギはうれしそうな顔をしてガーネットに飛びつく。
「私も、この森にきて、このほこらのまわりでセレビィみたことあるの。それも何回か。子どもの頃だったけど、なんとなく神秘的なものを感じたよね?」
「え?ナギも?すごい偶然・・・。セレビィを奉る地域に住んでてもセレビィを見たって人そんなにいないのに。」
さらにナギは目を輝かせてしゃべり続ける。ガーネットもあまりの偶然にただ押されるばかり。
「だよねだよね?そのときからさあ、なんとなくポケモンが寄ってくるようになったのよ。セレビィのせいかなあ、って思うんだけど。」
「あ、そうかも!旅のトレーナーとか必ずセレビィに会いたいって言ってたから、何か関係あるかもね。」
プラスルはうれしそうにナギの腕を離れてほこらのまわりで跳ねている。それと対照的にダークポポッコは警戒しているようだ。
「ダークポケモンはそんなうれしくないのかな?」
「やっぱりダークポケモンだからなのかな。ほら、プラスル、あんまり悪さするとセレビィが来るぞ。」
再びプラスルを抱える。帰ろうとするも、ダークポポッコはほこらを警戒したまま、動こうとしない。
「どうしたの?ほらいくよ。」
するといきなりポポッコの黒いオーラが増したように見えた。そしてそれが赤いオーラとなり光のグラデーションを描き、最後は透明な風の流れに消えていく。
「え・・・なにこれ?黒いオーラが消えた・・・。」
「うそ?オーラが消えたの?何があっただろ・・・。」
さらにほこらは緑色とも白ともつかぬ光を発し、ポポッコを包んだ。信じられない光景。何がおきたのかさっぱり解らない。ただ、光とともに形を変え、ワタッコとなるものが目の前にいる。
「あれ?あれ?あれ?・・・な、なにこれ!」
「ナギさ、これってもしかしてダークポケモンって実は普通のポケモンになったりするんじゃないの?」
「え、あ、そういえば・・・落ちてたファイルにそんなのがあったっけ。これはミカドに言わないと!」
意外に速い。行きと同じ、見失わないようにと追いかける。しかし絶対に見失うことなんてなかった。ナギが立ち止まっている。プラスルは怖がり、ナギから離れようとしない。
「くっくっく、お守のミカド君はどーした?いないようだなあ。それに、セレビィとダークポケモンの関係、先に解っちゃったんなら余計に会わせられないかなあ。」
ここにくるまでは一本道。その道は、ダークポケモンを使っている組織らしき人間が塞いでる。それも何人も。他に人が通れるような道はなく、逃げるに逃げられない。ガーネットはナギをかばうようにして前に立った。
「悪いけど、トレーナーには気絶してもらうわ。」
何の準備もしていない。何のポケモンもいないことを悟られない苦肉の策。リアルファイトに持ち込んで勝てる人数ではないことくらい、ガーネットでさえ解っていた。けど、この中を突破しないことには、どうなるかくらい、予想はついている。
「くっはー!やっぱ川っていいなあ。」
朝っぱらから家の近くを流れる川にて水泳。あまりに早いので、誰も通らない。寝ぼけたプラスルに電撃をくらい目が覚めてしまって、昨日の砂を落としに川に飛び込んだのだ。暑い砂漠に生きる者にとって、最高の贅沢とされている。
清流の流れに身を任せ、ゆらゆら漂う。なんだか自分が軟体動物になった気分で、放っておいたら下流まで流されていきそうだ。この川はどの海につながっているのかミカドは知らない。けど、なんだかこの事件が終わったら探検したくなってみた。
「くーずーきり!!!!やっと見つけた!」
頭の上から急いで怒鳴った声が降ってくる。思わずその方向を見上げる。
「やあやあほっしー。どうした・・・。」
「やばいぞ!アゲトにあるっつーほこらをダークポケモン持った連中が囲ってら!ローガンさんによればナギちゃんとガーネットがそっちにいったとかなんとかで!!!!」
「なに!!!」
思わずミカドは反応したが、まさかそんなことが起きるとは思っていないので、キザトラとバンダナコンビはおろか、ポケモンに分別されるものを持っていない。
「ちょっとほっしー俺あとから行くから先いってて・・・。」
「とかいうと思ったからお前のもってきたんだよ!ほら、行くぞ・・・・・ってスッポンであがってくるな!!!」
同じ男でも一糸まとわぬ姿はさすがに受け付けないようだ。エーちゃんがしっぽで自分の目を隠す。ミカドはついにエネコにまで恥じらいを教えられる立場になってしまったようだ。
「いやいやとりあえず洋服なんて気がまわらない・・・ってスナッチマシンのカバーだろ上だろ、よし、確認終わり。」
「俺まじでお前とテンションが一緒とかしんじらんね。」
サフィリスは残念がっていたが、ガーネットからみたら二人は顔と姿が違うだけで精神が一緒だと思っている。もちろんナギも。仲が良すぎて似てしまうとこういうことになるのだろう。
「そんなこというなよほっしー。小さい時からの仲じゃねーか。」
「つーかなんでそんなピンチにゆっくりしてられんだよ!急ぎなんだから早くしろよ!」
売れない漫才のようなやりとりが朝のアゲトビレッジに響かないわけがない。ミカドが行くか、と走り出した瞬間に二人はあまり見たくない制服に、特殊警棒を持った人に囲まれる。
「お前たちだな?スナッチ団のミカド。窃盗、住居侵入、傷害で逮捕する。」
ミカドの下から心臓が5メートルは飛び出ただろう。まさかこんな土壇場で警察に出会うなんて思ってもいない。
「いや、ちょっとおっさん、俺たちそのダークポケモンを使ってる集団を今から掃除してこないと・・・・。」
「それと、そっちがマグマ団のサフィリスだな?窃盗、住居侵入、傷害、殺人未遂で逮捕する。」
明らかに警察の方が人数が多い。もう何年も前のことを言われたサフィリスも仰天していて何がなんだかわかっていない。
「だから、俺たちは今からダークポケモンをシメなきゃいけねーんだよ!ここでパクられたら死人が出るかもしれないんだぞ!」
警察は二人の言うことなど聞いていない。言い訳にしか聞こえないからだ。しかもミカドの苦手なリアルファイトに持ち込むことになる。そうしたら勝ち目がない。
「げ、ゲームオーバー・・・・?」
二人は声をそろえてつぶやいた。
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