「次の相手は誰!?さっさとしないとポケモンの代わりに気絶させてあげるわ!」
ガーネットの左手はさっきから人に向かっている。もうかれこれ10人目。四方八方から仕掛けられれば一気に片付くものの、向こうもバカではないらしく一人一人しかけてくる。さて、いつまでガーネットの体力が持つか。
 狭い洞窟をふさいでいるほどの人数だ。他のやつを片付けている間に一人でも復活したら永遠に終わらない。だから急所を上手くついて気がついてもしばらく動けないようにしている。
「ガーネット・・・。」
「大丈夫、ミカド君が来るまで・・・私は負けない。」
ナギが心配そうに見ている。ふとワタッコが前に出た。そして大量のふわふわとした綿胞子を撒き散らす。それに絡みつかれたやつらは次々に動けなくなっていく。
「ワタッコありがと!これで少しは足止めになる・・・。」
大半の下っ端の動きは封じた。しかし、綿胞子が届かなかったリーダーっぽいやつはぴんぴんしている。
「変な技使うし、バカ力だし、でもそれも今日でおしまい。下っ端に任せたのが悪かった。このダークポケモンを前にして立ってられるかな?」
ボールが開く前からナギは感じていた。それだけこのダークポケモンのオーラは強い。また、ダークオーラを見分けることのできないガーネットでさえ思わず一歩退いた。
「さあ、ダークカポエラー、さっさと任務を終わらせちゃおう!」
「まあアゲトビレッジにきたんだ、ゆっくりしていきなされ。」
ダークカポエラーの後ろには、堂々とした貫禄のローガン。傍らには相棒のピカチュウ。
「お、おじいちゃん!」
「あ、ローガンさん!」
二人が叫んだのはほぼ同時。助かったという安堵の表情が浮かんだ。
「なんだあ?邪魔しようってんなら老い先短いじじいでも容赦しないぜ!」
「どうかの。」
ピカチュウとカポエラーはほぼ同時に動いた。ピカチュウの方が多少すばやかったか、ダークカポエラーの足に当たった。電光石火の速さでの攻撃だから当たれば痛いだろうに、さすがはダークポケモンというところか全く動じない。
「ピカチュウの攻撃が効かない?」
ダークカポエラーは攻撃してくるピカチュウをみてさらに興奮したか、さっきとは桁違いのオーラを発した。目で見えるのはナギだけだが、そのオーラの違いを感じ取るくらいなら全員ができた。ピカチュウでさえ、その変貌ぶりに怯んでいる。
「さて、フィニッシュだあ!ダークラッシュ!」
ダークラッシュと呼ばれた技。それがあの黒いオーラで攻撃する技だと理解するのに数秒かかってしまった。ダークカポエラーは全身に溢れる非常に強いオーラをピカチュウに向ける。
 今までのダークポケモンが実験台だとしたら、このダークカポエラーは本格的なダークポケモンに思えた。実験台だからこそ配るなんてこともできたわけだ。本当に成功したダークポケモンはここまで強くなるなんて、誰もが思っていなかった。
「ダークポケモンに普通のポケモンが勝てるわけがねーんだよ!思い知ったかじじい!」
ピカチュウにとどめをさす。ダークカポエラーのオーラがさらに勢いを増した。思わずガーネットは動けない手下たちをふんずけながらも走り出す。ナギがとめようとしたが間に合わない。


「ほのおの渦。」


静かにそう言っていた。誰の声かはわからない。ギャロップの甲高い、いななきと共にオレンジ色の炎がダークカポエラーを囲む。その炎は部下たちをからめていた綿胞子にもうつる。当然のごとく、その場は一瞬にしてパニックになってしまった。


「ハイドロポンプ」


また聞こえる謎の声。狭い洞窟の中に洪水のようにハイドロポンプが押し寄せてくる。ひざまで水につかるが、それ以上には水かさは増えなかった。
「だ、誰だこんなことしやがるのは・・・・。」
「・・・この場で燃やされたいか?一回助かった命、そうそう捨てることないだろう?」
見知らぬ少年は、ギャロップとシャワーズを連れていた。静かな言葉の中に、どこかチンピラなんかではなく大きな犯罪組織を相手にしてきた感じを受ける。言葉の一つ一つに重圧をかけるような響き。
「だ、だ・・・ジャキラさま〜〜〜〜!!!!」
少年のプレッシャーに負けたか、何より大切な「完成された」ダークカポエラーを放置して逃げ出した。逃げる途中、少年のギャロップが威嚇するが、それにすら怯み、よろけながらもアゲトビレッジから出て行ったようだ。

「大丈夫ですか?怪我はないですか?」
その少年はピカチュウを抱えてローガンに駆け寄る。ピカチュウはとても元気というわけではなく、ほとんどの体力を使い果たしたようでぐったりとしている。庇うようにそっとローガンに渡した。
 あまりの突然さにガーネットとナギはその少年をただ見つめるばかりだった。主人を失って暴走寸前のダークカポエラーのことなどすっかり視界から消えていたのである。
「あ、危ない!」
ナギが叫んだ。何のことか解らずガーネットも反応できない。ダークカポエラーが新たな標的として少年を選んだ瞬間。静かに少年はダークカポエラーを睨み付けた。
「黙れ。お前はポケモンだ。僕に刃向かうことは出来ない。」
相手も選ばずただ戦ってるだけのダークカポエラーが静かになった。ダークポケモンがただ1人のポケモントレーナーのプレッシャーに押されたのだ。見ていたガーネットでさえもダークポケモンよりも強く押されるものを感じた。
「すごいね・・・ところで、君はどこから?」
ローガンは訪ねる。先ほどのプレッシャーなどなく、穏やかな口調でこういった。
「僕は・・・シズイと言います。ミカドさんを探しに・・・来ました。」


「いやー、さっきのはやっぱりまずかっただろくずきり。」
2人が大人しく捕まる・・・訳が無く、ミカドはスナッチマシンのついている左手を振り回した。そこはやはり堅いものなので、当たれば流血騒ぎに。警察官を怪我させたとして、傷害と公務執行妨害で現行犯逮捕されてしまった。で、2人は大人しく留置場にいる。
「ああ、まずかったな・・・。さすがにスナッチマシンであんな流血沙汰になるとはな・・・。」
もちろん、警棒を振り回してくる警察官に無抵抗だったわけではない。犯罪組織にいたやつらだ。集団で襲われた時の心構えくらい知っていたが・・・。
「まあ、あれだ、眠り粉とハッカの実のコンボは痛かった。うん。それが敗因なわけだが。」
ミカドが1人で会話している。警察官の捲く眠り粉攻撃にはさすがに参ってしまった。そして、気がついたら留置場の中でハッカの実にて起こされたのである。
「景色も見えない、あるのは机と時計と椅子。どうしろってんだよ、俺狂いそう。」
力なく椅子に座り、机に突っ伏しているが、ミカドの口調からどこか楽しんでいるようにも思える。向かいに座っているサフィリスも静かにしているが、どこかわくわくしているような感じを受ける。
「くずきり・・・テンションが微妙に高いのはいいことだと思うんだ、俺も。だけどその1人で会話するってーのはやめろよ。」
サフィリスがため息をついた。それと交互になるようにミカドが顔をあげる。
「なあほっしー・・・。ナギは・・・大丈夫かなあ?」
サフィリスは視線を合わせなかった。ミカドの話など聞いてないようだったが。
「ガーネットが・・・いてくれたら多分・・・大丈夫だろうな。」
「なんかさあ、お前かわったよな。」
「何が?」
思わずミカドが立ち上がった。
「だってそうだろ!マツブサさん、俺、ハルちゃんと家族以外絶対信用しねーって態度だったお前がよ?心配しても『ガーネットは強いから大丈夫だと思う』なんて言葉が出てくるのが不思議だ!」
そうだったかなあ、とサフィリスは首を傾げた。
「いやそりゃガーネットは信頼できるよ。俺より力強いし、精神的にもあいつまじ強いし。」
「いや、なんつーか・・・恋愛と程遠かったほっしーがよぉ、彼女とかあり得ないんだって。だって恋愛っつったら無条件の信頼だよ?」
「くずきり・・・お前だから言うけどな。実はガーネットとは・・・別れたんだ。」
ミカドは信じられないといった顔をしてさらに前に乗り出した。
「は?じゃあなんで連れてきたんだよ?だってここに来るまで2人旅だったんだろ?」
「喧嘩別れっつーの?俺が本当に諦めきれなくて仲直りしたかったんだよ。昔みたいにさ、2人でどこか出かければ自然に話し掛けてくれるようになるかなあって。」
「ほっしー・・・やっぱりあの時のこと、まだ根に持ってるのか?」
泳いでいた視線がいきなりミカドを見る。その事に驚いて、少しひいてしまった。
「根に持ってるんじゃーない。あの時に思ったことだ。何があっても手放さないって。もうあの時みたいな奇跡は起きないだろうし。」
ミカドは何も言えなかった。前のサフィリスを知っているから、この変ぼう、いや成長ぶりが信じられない。ただ1人の女をこうまでも愛することなど・・・本当に小さい頃のサフィリスからは想像ができなかった。
「奇跡がなかったら、俺は人生終わってただろうな。だからくずきり、俺はナギちゃんのが心配だ。」
「は?」
サフィリスの話は飛躍しすぎていたが、大体の言いたいことは伝わった。長い付き合いだ、このくらいの飛躍で言いたいことが伝わらないことなんてない。
「あ、ああそういうことか。でもよほっしー。俺はナギも心配だが、ほっしーもざくろもいなくなったら・・・俺もいなくなりたいって思うぞ。」
サフィリスが少し笑った。その目は挑戦的で。
「ああ、俺は心配ねーって。壮大な劇作家、マグマ団だぞ。アクア団との対立で鍛えられたピンチ切り抜け法があるんだ、そう簡単に死ぬわけねーよ。」
「ま、そうだよな。」
あまりにおかしくてミカドは笑い出した。それに釣られてかサフィリスも笑う。賑やかな留置場の一角を囲むように集団の足音が聞こえた。
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