「君達に恩赦を与える。」
サフィリスは視線だけ鉄格子に向けた。ミカドも珍客には思わず立ち上がる。警察官の大名行列を作るほどの偉い人が目の前にいるのだ。何の用か、ミカドが口を開いた瞬間にお偉いさんは喋り出したのだ。
「なんだって?」
オンシャ、という言葉などミカドはおろか、サフィリスの頭の中にも入っていない。何がなんだか解らないうちに、鉄格子は開けられ、2人は外に出される。
「恩赦というのは執行猶予に等しいことだ。」
またもや謎の法律用語でミカドの頭は混乱状態。留置場を出て警察官に長々と理由を言われても全く理解できていない。とりあえずうなずいているサフィリスも分かっているか妖しい。
「しかし、条件付きだ。」
警察は書面を突き付ける。そこに書いてある文字をミカドは読み上げた。見ていないサフィリスも聞いていて思わず覗き込む。
「『葛霧御門、星野青宝の両名は正体不明のポケモンの事件(以下ダークポケモン事件)解決することに専念する。なお、両名の釈放はダークポケモン事件が解決するまでとする。』ってなんだこりゃ!?」
さらに文章は続く。長々としたものを読み上げるのが辛いようで、ミカドはサフィリスに書面を手渡した。
「つまり、交換条件ってことか。俺達に頼らなきゃわからねーような問題なのか?」
サフィリスの質問を無視するかのようにさらに喋り出した。
「この条件をのむか?のまなければずっとここにいるだけだ。」
ミカドはサフィリスの方を見た。それに気付いたかサフィリスもミカドの方を見る。2人の答えは同時であり、同じことだった。
「あんのバカ、やっぱり捕まってたみたい。」
行方不明になった2人を捜索していたガーネットが、家につくなりそう報告した。いきなり姿を消したミカドとサフィリスを散々探し、「警察にパクられてた。」という証言を得る。
「ナギ、どうしてこう警察ってお堅い人が多いのかしら。」
ガーネットの顔は捜索の疲労がたまっていた。シズイが心配そうに見ている。ナギはどっちともなく口を開いた。
「う、うん、やっぱり・・・それが警察だからじゃないかな?・・・ミカドはともかく、サフィリス君大丈夫かなあ?」
「ん、留置場の中で休んでるんだから元気じゃない?それより、ナギの方は何か見つかった?」
ナギは黙って小さな石の板を見せた。森のほこらと、ほこらに棲むセレビィのことが書いてある石。らしいのだが、ガーネットには何が書いてあるか全く読めない。三人は石版を覗き込み、黙ってしまった。
「それは普通の言葉で書いてあるんじゃないからな。」
手当てしたピカチュウを抱きかかえてローガンが少し足下おぼつかなく歩いてきた。ダークカポエラーの攻撃の影響が出ているようだ。対象だけでなく、まわりの気まで狂わせる嫌な攻撃。受けたピカチュウの真後ろにいたローガンが影響を受けても不思議じゃなかった。
「おじいちゃん?大丈夫なの?」
「大丈夫さ。それよりナギ、話がある。ガーネットちゃんも、シズイ君も聞いて欲しい。」
ローガンは一言おいてから白いまゆげに隠れがちの目から鋭い眼光を飛ばした。それにはシズイもびっくりしたようで、大きく目を開いたまま、固まってしまった。
「あのミカドという男と、ナギが会うことは今後一切禁止する。」
「ちょ、おじいちゃん!」
ナギを無視し、ローガンはガーネットとシズイに向けてさらに口調は早くなる。穏やかなローガンから信じられないことだった。その気迫に押され、誰も反論が出来ない。
「あの無法者がどんだけオーレを脅かしてきたか解るか?大量に他人のポケモンを奪っていって、それで我が者顔で歩く無法者が!」
そう、いくらスナッチ団を抜けた、止めたといっても、過去の悪すぎる業績は一般の人々に通じるわけがない。説得しようとナギとガーネットが同時に話し掛けるが、ローガンは背を向け、奥へと入っていってしまった。怒鳴られたショックで誰1人追い掛けようなんて思わない。空気が凍り付く。
声をそろえ、2人同時に叫ぶ。「誰がお前らの思い通りに動いてやるか。」と。そろいもそろって他人の為に使われることを嫌う質。だが今回ばかりはその性格が仇となるようで、留置場に逆戻り。
「あ〜〜〜〜俺って損な性格。」
ミカドはさっきからぼやいているが、してやったり、という顔をしている。お偉いはなんでも権力さえ振りかざせば他人が思うように動くと思い込んでいる。思い通りにならない人間がいることを思い知らせてやっただけでミカドの気分は爽快だ。
「これでオーレ地方にて俺がどんなに凶悪か分かっただろほっしー。」
「ああ、よ〜〜〜〜〜〜〜くわかったね。」
ほぼとばっちりのようにして捕まったサフィリスもこの結果でよかったという顔をしている。他人に使われることはまっぴらだと 思っているので、それだったらここにじっとしていた方がいい。ただ、巻き添えを食って捕まった、というのじゃ、あまりにかっこわるいな、とは思っている。
「こんな働きぶりしてりゃあ、生かしておくのは当然だろうな。」
「そ、俺って有能だしぃ〜。で、ほっしー、本題はここからだ。」
ミカドは鉄格子に歩み寄る。そして思いっきり揺らした。鉄格子はびくともしない。
「ま、人間の力くらいじゃあ壊せないだろうけど、1人だけ壊せる方がいらっしゃるじゃないの。」
「・・・いやいやいや、くずきり、いいか、あいつは確かに警察犬みたいな勘と忍耐力があるがな、まさかこんな留置場までは来ないだろう!」
「解りませんぜ〜留置場の風はまあたまに換気した方がいい風だが、明らかに森からの風がする。しかもオアシス的なこんなちっぽけな森じゃないけど、とても似ている大きな森の風がな〜。」
そのミカドの謎めいた予言通り、ことは運んで行くのである。未来から今を見ていたかのように。
「お〜やっぱり捕まってたか〜。」
鉄格子越しにガーネットが檻に入った珍しい動物でも見るように呟いた。隣にはミカド達には見なれない男の子を連れている。そのまわりには警察官が立ち会っている。面会をさせてもらっているように見えた。ガーネットに多少の疲れが見える。警察官を説得するのに相当な時間を費やしたのだろう。
「全く、いきなりいなくなったからびっくりしたわ。」
「・・・嫌味か?」
信じられないものを見るような目でサフィリスはガーネットを見つめた。そして、隣にいる男の子にも。
「嫌味言う為に私が2時間も説得するわけないでしょ。それより、ミカド君。」
軽く返事をするとミカドは立ち上がる。そして鉄格子に寄ってきた。
「このコ、シズイ君。かわいいでしょ、ミカド君のこと探してたんだって。知ってるんでしょ?」
シズイは恥ずかしそうにお辞儀をする。
「おう!・・・・いや、誰だっけ?」
その場は凍り付いた。ガーネットは心の中で「私の説得はなんだったのよ。」と叫ぶ。そんな中、顔色一つ変えないでシズイは話し出した。
「僕はその・・・信じてもらえないと思いますが、未来から来ました。僕のお父さんを救う為・・・っていっても信じてませんよねその顔は・・・。」
「あ〜なんか信じらんねえ。だいたいなんで俺なんだ?俺はお前のオヤジに絡んでるの?」
その時、何か閃いたようでサフィリスが立ち上がり、シズイを見た。
「お前、まさかまさか・・・。」
閃いたまではよかったが、まだ混乱しているようだ。それを補うようにガーネットがシズイに聞く。
「もしかして、シズイ君のお父さんがどこかで動けなくなってたりするのかしら?」
「あ、いえ・・・そうではないんです。本当の今の時代には僕は産まれてないんです。この六年後、僕は産まれます。だから、今の時代にお父さんがいなくなれば・・・僕はこの場にいなくなるんです。」
ミカドの顔が疑問を浮かべる。質問しようとしたところで、警察官はシズイとガーネットをつかんだ。
「面会時間は5分といったはずだ。」
肝心な話を聞きそびれ、解決する疑問も解決できずにミカドの顔は不満だらけだった。鉄格子を通り越してシズイを呼び止めるがそれは権力の前には無駄な努力。振り返りつつもシズイは引きずられて行った。
「な、言った通りだろほっしー?」
「ああ、そうだな・・・。本当に来たし・・・。」
「ああ、そっちもだけど、あの男の子もだ。今じゃあ良く解らんが、外に出たらゆっくり話してくれるだろうよ。」
「二度と来るな」という顔をされ、留置場を追い出された。ガーネットは突き飛ばした警官をにらみつけると、シズイを連れて建物を後にする。
ミカドにナギの事も言うつもりだった。しかし、どこから来たのか良く解らないシズイを待たせるわけにもいかない。ガーネットの腕時計で少し見ていたが、五分も経っていなかった。あの2人、特にミカドは何か握っているに違いない。だから接触させたがらない。
「あ、あの・・・・。」
ガーネットは無言で振り向いた。シズイが心配そうな顔をしている。
「2人を・・・助けましょう。多分、そうしないと何も始まらないと思います。」
シズイの勧めもあって、それは夜中に決行された。2人の脱出を助ける。昼に会った時、ミカドは何かを合図していた。それはずっと見ていたシズイが受け取り、きっと何かやらかすと予感する。ローガンにこのことを話せば反対するだろうし、何よりもナギには危険すぎる。
「あ、じゃあ、見張りお願いしますね?」
シズイはそれだけガーネットに言うと、留置場の壁を素早く、それは森のジュプトルのごとく登る。普段、どんなことをしている子なのだろうと、ガーネットはただ見とれているだけだった。ただ、思うことは、あの動きと素早さが、誰かに似てる気がするのである。
シズイは命綱をつけず、身一つで登っていった。危険だけれど、これが一番身軽。そして、外から大体の見当をつけていたところにつくと、通気孔の蓋を外す。そこからシズイは侵入した。
「あ〜〜〜〜さみぃ。」
羽織るものが何一つない留置場。空調なんて整うはずがなく、ミカドは椅子の上で体を震わす。
「くずきり、そんなコート着てても寒いのか?」
「なに、分かって聞いてんの?俺がただ羽織るためだけにそんな分厚いコート着ると思う?」
「思う。つかお前なら絶対やりかねんから。」
サフィリスは上を見た。それにつられてミカドも上を見る。ものを引きずるような音がしている。ネズミか何かが上を通っているような音ではない。と、いきなり天井にある排気孔の蓋が外れ、黒い空間に引きずり込まれていくように見えた。
「あ、あってた!ミカドさん、それと・・・えと・・・。とりあえず、出ましょう!」
ほら来た、とミカドはほくそ笑んだ。サフィリスは何がなんだか解らないまま、シズイの導きのもと、脱走することにした。狭い排気孔は埃っぽく、環境は非常に悪い。なるべく息をしないように気をつけながら。
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