私の見間違いだろうか?
いや、そんなはずはないのだが・・・。
早急に確認すべきだろう・・・。
炎天下の砂漠で立ち止まることは危険。日射病の危険性もある。にも関わらずミカドはわざわざバイクを止めた。いい加減、見切りをつけられたバイクなど修理して乗るものではないと誰もが言うのだが、本人は気に入っている。気に入っているなら手入れくらいマメにやってやればいいものを、そんなことしていない。だからこんな砂漠のど真ん中で修理しなければいけなくなるのである。
「ちょっと〜早くしてよね〜」
ミカドのコートを頭からかけて日差し避け。足下にプラスルと、シナとつけられたワタッコがいる。シナは日陰を行ったり来たり、光合成をしたり、日差しで暑くなったら引っ込んだり。
「いやそれは俺に言われても・・・。」
ミカドの手が止まる。座り込んでいるナギに潜っているようにいるように言う。何がなんだか解らないが、とりあえずそうしていた。
すると、だ。
ナギの耳に強い風の音が届く。思わずコートの下から外を覗いた。
砂嵐。
コートが砂つぶてから守っているけど、ピシピシと容赦なく当たっているのが解る。あの時、アゲトビレッジに行く時みたいに、何の前触れもなく砂嵐が来た。
ルオーーーーーンロオオオオオオオン
砂嵐の声ではない。中心から聞こえてくる低い声。思わずナギは耳を塞いだ。吹き付ける砂と、無気味な声。プラスルも怖いようでナギに離れまいとくっついている。シナは冷静に隙間から見える砂嵐を観察。
ルオー−−ーローーー
歌っているような低い声はどんなに耳を塞いでも聞こえてくる。それはだんだん近くなっているようだ。
「ナギ、ナギ!」
気がつけば砂嵐は止んでいた。コートを退かせば大量の砂がつもっている。
「あ、あれミカド?」
顔は砂だらけ。服は黒だったのにベージュにかわっている。スナッチマシンも間に砂が入り込み、あまり調子が良いというわけではない。
「止んだぞ。直ったから早く追い付かないと。ほっしー達は着いてるだろうから。」
砂だらけの服の上からコートを羽織るとエンジンを入れた。ミカドが見ても壊れたところがなかったのだが・・・。
「ねえ、あのさあ・・・。」
「なんだ?」
「なんで、ミカドは砂嵐が来るのが解るの?」
走り出す。シナが置いて行かれそうになった。相変わらずの乱暴な運転で、ナギでさえ慣れるにはかなりの時間がかかりそうだ。
「声がした。」
「声?」
「風が言ってたんだよ。砂嵐が来るってな。」
「だから・・・なんで?」
「何が?」
友達を待たせているせいか、いつもより速度が速い。エンジンから黒い煙がいつもよりあるのは気のせいか。
「なんで風で解るの?」
「俺が風の精霊だから。」
「は?」
「じょーだんじょーだん。いや俺もわかんねえ。本当に風が俺に話し掛けてくるんだって。昔からだから、なんで、とかいつから、とかは解かんねえ。そんなこといったら、ナギだってダークポケモンのオーラが見えるのはなんで?ってことになるだろ。いいじゃん、お互い、そういうのはスルーってことで。」
「おせーなあ。」
「そうね。」
パイラタウンのメインストリート前にてミカドを待っていた。バイクを直すから先に行けといっていたが、それにしても時間を食いすぎだ。隣にいるガーネットはすでにリラックスタイムに入っている。壁に寄り掛かり、愛用のたばこを取り出す。
「前来た時よりは空気が綺麗になったけどね。」
「それを今お前が汚してどうする。ほら、灰皿。」
サフィリスは携帯灰皿を取り出す。なぜ非喫煙者の彼が持っているのかは疑問だが、それを受け取ると短くなったたばこを押し付ける。
「ヤニじゃないって。なんつーの、雰囲気。」
「いや、俺はたばこ吸ってるお前の隣にいると、すんげー肺が痛いんだが。」
治安が悪いところが、分煙などしてるわけがない。あっちにいけとも言えず、ただ隣から飛んでくる副流煙に耐える。最初のうちはまだいい。だんだんと肺が痛くなり、呼吸が苦しくなる。喘息持ちなわけではないが、隣にスモーカーがいるとそのうち命に関わりそうだ。
「よぉ、久しぶりだなあ。」
その声にガーネットの視線が横を向く。派手な緑の染髪、サイバー系の服装。
「・・・だれだっけ?」
まだ火をつけたばかりのタバコを灰皿に押し付けた。横目でサフィリスに合図を送るが、彼も覚えがないようで、困惑するばかり。
「・・・ほう、俺を忘れるとはいい度胸じゃねえか!今日こそ決着を・・・。」
「ああ、なんかこの感じは前にあったような気がするけど、デジャヴかしら。」
と、いきなりそいつはリアルファイトに持ち込んだ。「あ、バカ」とサフィリスの顔は言っていた。そいつを止めようとして踏み込むも遅かった。ガーネットはそいつの胸のまん中を思いっきり押したのだ。
「あーあ・・・。」
軽く押したつもりだっただろう。喧嘩を吹っかけられたとはいえ、知らない人なのだから。それでもそいつは壁に背中を打ち付け、しばらくは声が出ないみたいだ。
「ガーネットさあ、俺は別にな、吹っかけられた喧嘩で一方的にやられろっていわないけど、これはやりすぎだろ。どっちが悪党だか解りゃしない・・・。」
シズイが心配そうにそいつの事を見ている。悪党でも心配してやる優しいやつだな、と、サフィリスは思っていた。当のガーネットは何もなかったかのように再び火をつけた。
「大丈夫ですか?」
一応心配してやらなければならない。シズイもガーネットの力持ちのことをよく知っている為、他人事に思えない。直接被害にあったことはないが、未来のサフィリスが語っていた話にはただならぬ現実味があった。幼心に強烈な話だったことを今でもシズイはよく覚えている。
「うぅ・・・」
そいつはうめいていた。シズイは顔を覗き込む。 さすがにこれはまずいと思ったのか、手を伸ばした。善意だったのに、それを悪用しようとするのはパイラの人間の特徴。シズイの手を掴み、そいつ自体に強いダメージを負っているにも関わらず、首に腕をまわす。
「動くなよ!お前らあのミカドの仲間だろ?動いたらこいつの首の骨が折れるぜ。」
その場に緊張感が漂う。恐怖からか、もともとの静かな性格からか、シズイはじっとしている。踏み出そうとしたガーネットの腕をサフィリスは強く掴む。待て、と。
「あいにくだが、お前の探してるやつは今いない。リアルファイトに持ち込んだのはそっちだから、こっちが言うこと聞くことないと思うんだが。」
そんな冷静なことを聞くはずがなかった。大声で意味不明なことを叫ぶ。シズイはただ、うるさいな、という表情を表わすばかり。このままじゃ危ないと思っていたが、そうでもなかった。想像以上の柔らかさでシズイは隙をみてするりと抜ける。驚きで何も言えないそいつの腕をひねりあげ、地面にねじ伏せる。突然のことで、誰もその場を動けない。
「だから、大丈夫ですか?って聞いたじゃないですか。怪我人なんだから、手だしたくなかったのに・・・。」
騒ぎに住民の視線が集まる。それが気になったのか、シズイを呼び寄せると囲まれる前に走り抜ける。
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