キザトラは走る。ゴーリキーの空手チョップや、地獄車をたくみにかわし、一直線に。しなやかな動きで、ゴーリキーの目の前に立つと、額の赤い宝石が光った。そこから放たれたレーザーのような直線の光を見たものは倒れる。ゴーリキーの足下がふらつき、キザトラの方へと倒れこむ。
「キザトラ!リフレクター!」
再び額の宝石が光る。結晶のようなものがキザトラを包み、倒れくるゴーリキーの下敷きに備える。
「さてさて、残りはキルリアちゃんですねぇ。」
ミカドがにやりと笑う。キザトラに標準を向けてるキルリアの目の前に入ると、地面を盛り上げた。秘密の力がバンダナに味方している。仲間を巻き込んでまでキザトラを攻撃しようとするからだ、とバンダナは言わんばかり。
「じゃ、行くぞバンダナ!」
体に刻まれた輪が光る。ミカドの位置から見ていても、この光は不思議な錯覚を起こす。バンダナが一瞬大きくなったような、そう見えた。
「な、な!!!!」
ダークオオタチに頼りきりのバトルだった。でも、今はそれが通じない。
たいていのポケモン使いというのは、ポケモンに攻撃、補助、回復、などの役割をわけているのだが、このキザトラもそうだし、バンダナなんて、攻撃補助という、マサにも予測不可能な技をくり出してくる。ミカドの性格がそのまま出ているといってもおかしく無い。
「お、お前ブラッキーに・・・。」
「だってバンダナってかっこいいじゃん。」
理由になってない理由をあたかもそれが正統派のように言う。言葉を理解しているわけではないだろうが、マサがゴーリキーを戻した後、下から出てきたキザトラが、体にまとった結晶をそのままキルリアにぶつける。それは無数の流れ星。弱ったキルリアにはひとたまりもない。
「じゃ、俺はこれで失礼する。まじ急いでるからよー。」
と、キルリアを戻す前に走って逃げる。終了の合図をしないのはミカドとしてはいつものこと。キザトラもバンダナもミカドについていく。
「待てよ。」
「なんだよ。」
振り向くが、後ろ向きにでも歩き続ける。器用だな、と思うが、ナギは敢えて口に出さなかった。
「お前、あの白髪探してるんだろ。」
「うん。」
「うん、じゃなくて、もうちょっと危機感もったらどうなんだよ。」
「いや、俺まじ急いでるから。いやいや、マサっちにもほっしー探してくれるなんて嬉しいね、じゃ、俺行く。」
それでも後ろ向きに歩きながら、ミカドは手を振る。マサはそれを引き止めるように話す。
「だからそうじゃねえだろっつーの!!だからあの白髪の行方知りたくねーのかって・・・もういねえし。」
いつの間にかミカドの姿は遠くへと行っていた。エンジンの音が遠くでなっている。もう追跡は不可能のようだ。
「ちっ、あいつらそろいもそろって逃げ足がはええ。」
「ねぇ、ミカド、さっきサフィリス君がどこいったか知ってるみたいなこといってたのに、よかったの?」
今日の陸路はよく揺れる。サイドカーからミカドに聞くが、何やら歌っていて話を聞いてもらえそうにもない。
「ミカドってば!」
ついにミカドは横を向いた。
「うーるさいなー。いいんだよ、ほっしーは放っといても。シズイいるだろ、だいじょぶだーって。」
「もう、本当に友だちなの?それに、結局シズイ君って誰だったのよ。知らない子だったんでしょ?」
「・・・・ん、まあ、その、うーん、なんつーの、その、うーん、まあ、強いガキっちょ。」
再びミカドの口から変なメロディが流れる。その変なメロディはなんだろうとナギは考える。それでも解らないのは、ナギのせいだけではなかろう。
「ミカド、ちょっと・・・。」
「あ?なに?だからほっしーは・・・。」
「あれ・・・。」
風が舞う。透く青の空を。
「フライゴンか!」
翼が風を起こすため、飛ぶ時はいつも砂嵐と共にいるはずだ。それなのに、その野生のフライゴンが空高く北へと飛んで行く。
「なんだろう、あの方向にはバトル山が・・・。」
「フライゴンは砂地しか住まないはずなんだがなあ。火山にいって何がいいんだか。・・・・ん?ナギ、あのメモ見せろ。」
「いいけど・・・?」
あの時からずっとナギが調べ続けている。メモは3枚目となった。そのうちの2枚目をミカドは見る。
砂嵐と共に砂漠の精霊は飛ぶ=フライゴン?
砂漠の精霊=フライゴン?虹=?
フラッシングウインズ=虹?フライゴン?
語源〜フラッシング=多分オーレ言葉。
ウインズ=フライゴンか、虹の別称?
乱雑なナギの字を見る。何かを思い付いたように、ミカドは再びは知らせた。
「うーん、でもやっぱり違うよなあ。でもフライゴンっつったらそれしか・・・・。」
「ミカド?どうしたの?」
「わかんねえ。あーわかんねえ。オーレは謎の地方。だーから誰だって行くの嫌がったんだろなー。」
「ミカド?」
ナギに言われて気付く。1人で喋ってることに。
「あ、いやいやなんでもない。それはともかく、なんだろなー、砂嵐をまとわないフライゴンがいるっていうのが、怪しいんだよな、そもそも。」
「なに話戻してるの、ミカドってよそものだったのね。」
思わず手が滑る。その際、大きく揺れた。何かを言おうとしていたので、舌を噛んでしまった様子。
「いてぇ・・・。で、なんだ、ナギよ、今さらか?普通に考えろ、ほっしーと幼馴染みなんだぞ。ホウエンからきたほっしーと、だぞ。俺が元ホウエン人だって解るだろそりゃ。」
「ん、そりゃそうなんだけど、なんかミカドってどっちかってとオーレっぽい顔してるし、まあ、性格はホウエン気質そのものって感じだけど・・・。いつ頃引っ越してきたの?」
「いつ頃だっけなー・・・。確か、あれは・・・うーん、いつだろ、ほっしーの事件があって、それから4年か5年以内かな。」
「事件?サフィリス君何かやらかしたの?」
「違う違う。ってあれ?誰からも聞いてない?あのほっしーが白髪になった事件。」
「知らない。」
「まあ、ほっしーもあれなんだ、波乱万丈な人生なわけで。」
と、急ブレーキをかける。振り落とされそうになった。
「ほら、多分ここがバトル山っぽい。」
「へえ、ここがバトル山っぽいとこね。」
ナギが首を押さえている。横の衝撃が半端ではなかった。そのことはプラスルも証明している。シナはそうでもなかったらしく、むしろ乱雑な運転が好きなよう。
「で、変なやつらって、こいつらだろな、多分。」
見えないところに止める。その次の瞬間をナギは見のがさなかった。
「ミカド、酔ったんじゃないの?」
「バーカ、自分の運転で酔うなんて聞いたことねえよ。」
一瞬だけ左側に崩れた。いつもちょっと高いところからおりる時、左側に傾くのは知っていたが、今日はいつもと違う。
「最近あれだ、満足にふかふかのベッドで寝てないからな、疲れが取れないし、ほっしーのつっこみが痛くて・・・。」
「それはあんたがボケるからでしょ。」
「ナギのつっこみもそれ以上に痛くて・・・。はあ、俺ってかわいそう。」
力無くバトル山へと向かう。とてもつまらなそうに。ふもとには、野次馬の人だかりが出来ていた。どこの世界にも、命知らずなカメラマンというのもいるもので、時々聞こえる中の様子をもっと撮影しようと中へ中へと入りそう。
「ほれ、どけ、っつーか危ないぞ。」
野次馬の中でもはぐれないようにナギの手をつかんでいたが、それでもやけに引っ張られる。それもそうだ、数人のカメラマン達がミカドを見ている。あるカメラマンはスナッチマシンに釘付けだ。確かにこれは珍しいもの。
「ちっ、俺も変に有名人だ。」
右手に力を入れ、ナギを引っ張る。集団から挟まれながらもなんとか脱出できたようだ。細身の彼女が出られないのだから、その集団の密度の濃さが解る。この野次馬にはさすがにうんざりしながら、中へと向かう。
外とは違い、中は静まり返っている。占拠したというのは、このバトル山の奥の方のようだ。この建物はバトル山に挑戦するための人のいわゆる休憩所。前に来た時にはトレーナーらしき人達でうめ尽くされていた椅子が、今は廃虚のようだった。電気すら灯っていない。非常口のランプが、バトル山への入り口と、外に出る入り口に灯っているだけ。緑色の光の中、ミカドは受け付けのテーブルの前に立つ。
「まずいな・・・この奥となると・・・。」
非常口の文字が目に痛い。しかし、この暗闇に慣れた目でこの先に進めばもっと眩しい。バトル山の挑戦者だけが進むゲート。それが今、歩く度に近付く。
「ミカド!」
後ろを振り向いてもとっさに何が起きているか解るわけがなかった。ナギが暗闇の中、指を差す方向を辿る。全く持って何も見えないが、何やら黒い水のようなものが。
「血・・・?」
「ナギ、行こう。諦めろ。」
「何言ってるの!」
思わずミカドの手が止まる。
「もしかしたらまだ生きてるかもしれないでしょ!なんでそうすぐ諦めるの!」
反論が浮かばない。なぜ怒鳴られたのかさえも実は良く解らない。やはりそこが、すでにもう普通の、一般の人の感覚が麻痺している証拠のようだ。
怪我したら捨てる。お前はただの道具だ。
頭の中で誰かに殴られた気がした。その時もこのような、細い明かりの中で。こめかみから止まらない血を拭うことも許されず、その匂いと、機械の油の匂いが鼻を塞ぐ。怒鳴り声が耳を塞ぎ、自然と目は閉じる。何も見たくない。何も聞きたくない。この暗闇の中では。
一方のナギは、血の後を目で追う。プラスルのフラッシュも手伝って、床についた血はよく見える。足を怪我していても、なんとか逃げようと、それはミカドの行く方向、バトル山へと向かっていた。
「この先に、そいつが行ったってのか。」
あんな怪我で、そいつは何をしに行ったというのだろう。そっちに行けば、逃げられると思ったのか。何よりもミカドには想像できない。
「解らないけど、助けられるかもしれないなら、行くしかないのよ!」
「・・・俺にはよくわからん。なんでそんな死んでるかもしれないやつを助けようなんて思うんだ?」
「ミカドは助けてほしいって思わないの!?思うでしょ!ってかスナッチ団やってたんだからそれくらいあったでしょ!その度に助けてもらったんなら、あんただってなんかしなさいよ!」
噛み付きそうな勢いでミカドに迫る。それに押されたか、反論できないか、少し間をあけてから、ミカドは口を開く。
「そういうものなのか。良く解らん。けど、そうしたいならそうしてみる。」
「なんでそんな消極的なの!もっと積極的に行動しなさい!」
上司のような命令。やはりなぜか自然と従ってしまうものがあった。消極的に返事をしたあと、ミカドはドアをあけた。その先は、バトル山のメイン舞台。
前に来た時はスナッチ団のやつらと一緒だった。別に今じゃむさい男どもとよくいられたと思うが、その時はそれが普通だったから、なんとも思わなかった。ただ、もう何年も前の話。バトル山のトレーナー達のポケモンを奪ってこいとの命令で赴いた。
バトル山は高かった。底が見えないほどに高い。前は高いところなんてなんでもなかったから、どんどんスナッチマシンから放つボールを投げていた。
で、昔から調子に乗りやすいタイプだったのは言うまでもなく、ふと風にあおられ、バランスを崩したのを機会に、谷底へと落ちそうになった。その時、思わず下を見てしまった。
それからだ、高いところが怖いのは。
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