騒ぎは治まってきた。パイラタウンの人陰はまばら。その様子を見にいっているサフィリスは未だ戻ってこない。その暇を埋めるように時計を見たり、タバコに火をつけたりと、心配しているというよりも、遅すぎていらいらしている印象を受けた。
「心配じゃないんですか?」
ふとガーネットに聞く。
「何が?」
「サフィリスさん・・・心配じゃないんですか?なぜです?」
「は?なんで私があいつの心配しなきゃいけないわけ?」
「だって・・・。」
シズイの声が曇る。
「すいません・・・僕が言うことじゃないことはわかってます。だけど・・・。」
ガーネットの視線がそれている。それは真直ぐ、サフィリスへ向かって。
「帰ってきたか。」
「なんだよ残念そうに。」
それに対するガーネットの答えは無かった。反応を諦め、業務連絡を優先させた。
「ミラーボがいなくなってから、あんまり経たないけどなんかこう、リアルファイトする方が白い目で見られて来てるな。」
「で?」
「・・・だから、派手にやりあった俺らは、多分もうパイラに入れないかもしれないってこと。つかお前まじ消せっつーの、シズイだっているんだぞ!」
「だから?嫌なら離れればいいじゃない。好きこのんでシズイがここにいるんだから関係ないでしょ。」
険悪すぎる雰囲気。2人を止めたくても、飛び散る火花の前にシズイは話し掛けることもできない。リアルファイトしても負けるのはサフィリスの方だろうけれど、シズイとしてはそこで倒されてしまうとのちのち自分に影響が出るので止めたい。
「あ、あの・・・。」
「はぁ?よくもそんなことがいえるわね。」
「俺だって言いたくていってんじゃねえよ!」
「あ、あの・・・。」
「じゃあ言わなきゃいいでしょ!あんたが言うから無駄なことになるんじゃない。」
「そういってたら俺はお前に何も言えなくなるだろが!何考えてるんだよ!」
「・・・シフォン。僕もう消えちゃうのかな・・・。今にもお父さん殺されちゃうよ・・・。」
シフォンはただじっと2人とシズイを交互に見つめた。ひたすら独り言をくり返す主人に近付く影も。ただ自分達を攻撃しようという意志が見えないのでシフォンはじっと立っていた。あまりに派手に動くと、後でこっぴどく叱られるのはわかっているから。
「関係ない人間がどうなったって知ったこっちゃないわ。」
「なんで俺とお前が関係ない人間になるんだよ!」
「何を町外れでやってるかね!」
2人の視線がお互いから外れる。
「・・・どちら様?」
「私は占い師のビーディ。あんたたちだね、パイラを騒がせてるのは。占いなんか必要ないって顔だね。別にあんたたちが必要としてるかなんて問題じゃないんだ。」
「なん・・・」
「あんたらの纏っている本来の風はそんなもんじゃない。未来を歪める気かい?そのまま歪み続けたら、生を失うよ。特にあんた。」
「私?」
「深い時の森の風はそんな歪んでいたら未来を閉ざす。何がそんなに怖いんだい?そのままだったら、森の神様はあんたを見放すよ。」


 信じられない。風に乗っただなんて。いつまでもフライゴンの去った空を見上げている。小さく見えるバトル山のステージ。あそこから落ちて今ここに立っているのが夢のようだ。もしかしたら夢なのかもしれない。そうでなければ、フライゴンの声が聞こえたのも・・・。
「ミカドー!ミカドー!!」
フライゴンの声と同じく、はっきりと聞こえて来る声。それが、伝令エアームドと一緒に谷を降りて来るナギだと認識できた瞬間、視界が曇った。それは頬に熱いと思わせる。
「ねえちょっとミカド?ミカド?大丈夫?・・・ミカド?」
夢ではない。そうでありたいと願った。思わず抱き締めたナギは暖かく、もう夢ではなかった。生きている。そう、まだ生きている。
「・・・ナギ・・・ナギっ・・・。」
「うん・・・大丈夫だから。ね?」
強く抱き締める。風が強く吹き抜けた。



「で、君は借りを返したからチャラにしてくれと言いたいんだな?」
頭と右足に包帯をまいているセネティに向かってミカドは0.1秒で反応した。医務室にいる人の目はミカド、特にその左腕のスナッチマシンを見ている。
「で、本当にスナッチ団は抜けたんだな?」
「うん、まあいろいろとあって。今はフリーのひきこのりじゃないニート。」
「・・・君は日本語がおかしいのだが・・・じゃあムガイもか?」
「いやいやあいつのことはおいといて。だって俺らあんたにボコボコにされた上に死にかけたし、それを助けてくれなきゃ俺は今頃いなかったわけで、それは感謝してる。」
「『絶対に借りは返すから今は見のがしてくれ』だっけか?その通りになったわけだが、しかし何年前だと思ってるんだ?会った瞬間にお笑いタレントのようなやつがスナッチ団だとは本当に思わなかったが。」
ミカドは視線を落とした。必死で思い出そうとしているのだが、当の本人は全く覚えていない。
「そんなのどうでもいいから、とりあえずあれなんだ、今さあ、俺はダークポケモンを使う組織追ってるんだ。多分、押し掛けたやつらも、エドモンド本多もそれだろうな。」
「・・・シャドーか。やつらはそう名乗っていた。」
「シャドーっていうのか?なるほどな。やつらがさ、なんでダークポケモンを使ってるのかは解らん。俺も奪って、何匹かはダークポケモンなんだが、エーフィとかブラッキーとかよりも何が違うのかが・・・。」
「何かが違った。あのエンテイはそうなのだろう?戦うことに集中させ、威力を極限まであげる、そんな感じを受けた。」
「そうか。」
ミカドは振り向いた。ナギが呼んでいる。手にはモンスターボールを持って。
「あ、わりいなセネティさんよ。俺もう行くわ。じゃあ、気をつけて。」
「まあ待ちたまえ。」
怪我をしているにも関わらず、セネティは歩くと小さな棒を渡す。ところどころ穴が開いていて、中は空洞。
「なにこれ?カラカラの骨の中身抜いたやつ?」
「どこをどうみたらそう見えるんだね君は。ダキムはそれを狙ってここへ来た。セレビィを呼ぶと言われている時の笛だ。」
「まーじーで!?」
「どうした?」
「俺たち、これを探してたんだ!セレビィの力が入った笛!まさかあんたが持ってるとは・・・。」
「そうか、君も探しているということは、本物なわけだな。つまり・・・これを狙ってきたんだ、本物かどうか知らないが、持ってれば向こうが君を狙って来るんだ、持ってろ。」
凄まれてはミカドも受け取るしかない。2、3歩仰け反ると、一礼して医務室を後にする。
「なんかもらったみたいだけど、何?」
「ああ、ナギ大収穫だぜ。探してたセレビィの笛だ。」
「セレビィを呼べるの?」
ナギの目がキラキラ輝いた。
「じゃーさじゃーさ、吹いてみようよ!そうしたら、もしかしたら、ほこらで起きたリライブが起きるかもしれないじゃん!」
2人は思わぬ収穫に飛び跳ねながら外に出る。あれだけ大量にいた野次馬は今では姿が見えない。日陰を選んでミカドは息を入れた。・・・が。
「・・・鳴らない。」
何度息を入れてもスースーという音ばかり。そのうちミカドは平衡感覚が狂っていくのが解る。
「大丈夫?じゃあ私吹いてみるー。」
妖精が吹いているような小さなサイズの笛。ナギも簡単に息が入る。のだが、管はそれを拒否するように響かない。
「・・・セレビィが拒否してるとか?」
「だったらこんな笛残さないだろう。うーん、一度パイラでやっぱりほっしー拾って来るか。ギンザルに報告しなきゃいけないしな。」
止めてあるバイクにエンジンを入れる。
「おーい、ナギ、行くぞー。」
右手で呼ぶ。乗ったのを確認すると、レーシングカーのごとく急発進。もうそろそろナギも行動がわかっていたのでそんなに怖がることはなかった。

「なあ、ナギ。」
「なに?」
「落ちたこと、それと俺がわん泣きしてたこと、ほっしーとかざくろには言うなよ。俺まじ恥ずかしいんだけど。」
「・・・言わないよ。」

私だって、どっきりしたんだから。

「ん・・・?なんかめずらしー。」
「え、何が?」
「いつもだったら『バカじゃないの!高いところが怖いとか本当にスナッチ団なの!』って言って来るのに。」
言い方がナギそっくり。物まね発動中。この余計な特技のせいで、要らぬことを言ってしまうのは当たり前。これも、言わなければミカドは右肋骨に衝撃を食らうことは無かったのに。体勢が崩れるが、それでもハンドルだけは離さない。
「ナギぃっ!!!もうちょっとで大事故じゃねーかよ!」
「あら、頭うってみたら、少しはその根性もマシになるんじゃないの?」
言い返せず、再び前を見る。開けた砂漠に見えるとても高い建物。以前、シルバと持っていった歯車を探してあそこまで行ったことがある。まだ未完成のようだが、ほぼ外装は終わり、後は内層工事のみといったところか。ずっと前から工事していただろうに、スナッチ団では噂すらしていなかった。誰もが気付くはずなのに。
「あーもう出ないっ!」
さっきからナギは時の笛を握りしめ、音を出そうとしているが全く出ない。風の中に、笛を通る息の音が聞こえる。が、それが音色として出ることは全く無い。


「わかったかね。誰もあんたが消えることを望んじゃいない。」
反論できないガーネットに、最後にそういった。
「全く、若いもんには疲れるってもんだ。それと一つ。もうあんたらはパイラには帰れない。別行動とっている友だちもな。闇は闇のごとく動く。そこに探している人もいるだろうね。それじゃあ、言いたいことは言った。後はあんたたちが栄光の風を連れて来るのを見るだけさ。」
ビーディは背を向ける。ガーネットが何かたずねようとしたとき、それは砂つぶてを含んだ強い風に阻まれた。思わず目をつむり、再びビーディの姿を捉えようとしたが、そこにいた3人は誰一人としてできなかったという。

「本当にあの人はいたんですかね・・・?」
ふとシズイはそう言った。風のように消えた占い師。そして彼女が言っていた言葉の中には・・・。シズイの荷物の中が小刻みに揺れた。彼のもっている機械に通信機に新しい着信があったことを伝えている。
「あ、すいません、あの・・・僕はちょっとアゲトビレッジまで行ってきます。ダークカポエラーがちょっとあれなんだそうです。」
理由を聞く前に、シズイは走り出していた。愛馬シフォンに乗って。サフィリスにはその姿がどこかで見たような光景であることが気になった。デジャヴではない。確かに、ああいう場面が昔あったような、そんな気がしている。
「あ、いっちまった。しかしはええなあ。」
「速いわよそりゃ、ギャロップだもの。」
神様が通る。しかも大名行列を組んでいるようで、どちらともなく話しかけるのをやめてしまった。気まずさだけが流れる。遠くで砂が舞い上がる光景が幾度となく見られた。
「これから、どうすっか?」
なんとなく視線をそらす。目をあわせられない。
「どうするって?パイラタウンに戻れないなら、違うところに行かなきゃいけないでしょ?ミカド君にメールしたの?」
対象的にこちらはくってかかる。一言で言えば「冷たい」。
「あ、まだ。どこにいたらいいかわかんねえし。あの婆さんは闇とか言ってたし・・・。」
「・・・ねえ、あのさあ、ミラーボがいたっていう建物にもう一回行ってみない?」
ここからでもうっすらと見える汚らしいビル。それを指していた。
「あの廃墟ビル?なんで?」
「裏の組織のことだと思う。だから一番近いところから行ってみればいいのよ。現場百回っていうでしょ。人がいなそうな裏道通ればいいじゃない。ほら行くわよ。」
右腕を引っ張られる。この強い力に反抗できるわけなく、しぶしぶついていった。あまり街中に入りたくないが、彼女が街の人を黙らせるならいいやと。

 裏道は人通りが少ないどころか、全くみない。風に乗ってメインストリートの声が聞こえるが、この街ではポケモンバトルか仕事、と決まっているようだ。なんだか街のみんながそうであると思うとぞっとするが、この昼間に誰もいないところを見るとそう思うしかない。
「あ、ガーネットちょい待ち。」
彼の感覚が何かを訴えた。隅っこの方に目立たぬようにある四角い何か。何か施設のようだが、それにしては小さく、人が数人しか入れない大きさ。
「なに?」
「これこれ。なんだと思う?」
「・・・エレベーター?けどなんで?ここから上は何も・・・。まさか!」
「だよな?この街には地下通路があるぜ。どうせここにいられないなら、行ってみるか。」
何か楽しそうなサフィリスをよそに、不安そうなガーネット。あまりこういうことに深くかかわるとロクなことがないと、今までの経験から知っている。ただ、楽しそうな彼を見ているとなぜか大丈夫な気がしてならない。
「・・・あんたが責任とるならいい。」
「大丈夫、大丈夫だって。何のために犯罪率が多いオーレに呼ばれたかって、その逃げ足を買われたようなもんだしな。」
この楽観的な彼の言動を信じるか信じないか、答えは簡単である。信じられるわけがない。しかし他に道もなく、もしかしたらこのエレベーターの下はあの廃墟ビルにもつながっているんじゃないだろうかと思える。それだったら行ってみて損はないはずだ。


「おっ、なんか鳴ってる。」
P☆DAに連絡が入った。しかし、彼は運転中にもかかわらず、右サイドのポケットからそれを取り出し、平然と読んでいる。それには隣のナギもレッツゴーハリセンでたたくしかなかった。それにはさすがに急停止をかけなければならなかった。大きな岩の影にぶつかるように停車。
「運転中にメール見ない!警察みてたら罰金とられるのよ!いくらか知ってるの!」
「いや、はい、あ、はい、知ってます知ってます。」
正論を言われては謝るしかなかった。どこから出したのかわからないような大きなハリセン、それがレッツゴーハリセン。いつから持ち歩き始めたのか、というか入手元が不明な道具ナンバーワン。エンジンの音を食い、その衝撃音をとどろかせたある意味ダークポケモンより恐ろしい武器。
「どうせ一回つかまったんでしょ!」
「・・・うん。でも、一回じゃなくて5回くらい見つかった気がす・・・」
再びレッツゴーハリセンがとどろいた。今度は頭に直撃。しかしそのやり取りがかなり楽しそう。根っからのお笑い芸人のミカドとしては今のはかなり「おいしかった」らしい。
 ナギの注意により、静かなところでメールを見る。途中までみた。差出人はサフィリスだ。やっときたか、と受信専門になってしまったP☆DAを見ていった。
「ナギちゃーん。ナギちゃんは鳥ポケモンの専門だから空飛べるなんてお得意だよね?」
「は?・・・・って、いくら同名だからって、私とジムリーダーの実力一緒なわけないでしょ!で、なんで?」
「ほっしーたちよ、地下にいるんだって。」
「地下?どこの洞窟?」
「違う。パイラタウンの地下、アンダーにいるんだと。」
「アンダー?」
「俺もギンザルさんに聞くまで知らなかったんだけど、パイラタウンは鉱山の街で、鉱脈掘るのに労働者たちを地下の街に住ませてそこで仕事してたらしい。それのなごりが通称『アンダー』だ。ただ、行き方が問題で・・・。」
「なに?どんなの?」
「コロシアム前の崖を下りる。・・・なんて俺にはできねーよっ!!」
深い崖。ナギも怖くなかったわけではない。ただ、そこが見えない分、高さがわからないから怖くないというのはある。あそこを降りるのか。となると、飛び降りるとしたら衝撃を和らげるものが必要だ。
「他に道を探そう。今でもアンダーが街として存在するなら地上にでる何かがあるはずだから。」
再びポケットにしまうと、ミカドは再び走らせた。
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