足音軽く燃える炎のたてがみを揺らし、シフォンが駆け抜ける。照りつける太陽の力を受けてなお。背中に乗るシズイはしっかりとシフォンを離さなかった。
「もうすこしか・・・シフォン、のどかわいた?」
呼吸が乱れている。水分が足りないことのサイン。少し足を止め、シフォンに水を飲ませた。水の豊かなホウエンで育った彼にとって、長く水分が補給できないのはただ辛い。十分に水を飲んだ後、主人の導く方向へ走る。


「やあ、ごめんねシズイ君呼び出して。」
シフォンと共にアゲトビレッジに来たシズイを迎える。そこには淡く光るほこらと共に、緑色の妖精がいた。それに呼応して森までも輝いているように見えた。
「いいよ。でもどうして?何か起きたの?」
軽くジャンプ。シフォンから飛び下りる。
「いいや、何も無いよ。ただ、シズイ君が克服しなきゃいけないことがちょっとわかったんだ。」
「本当!?」
目の色を変えてシズイは近寄った。主人をじっと待つシフォン。
「うん。偽物に注意して。本来なら、いないはずの命たち。本来なら消えてなくなるべき命。」
森の中に風が吹いた。樹がざわめく。森の神様が帰ると。
「わかった。それだけでも十分だよ。ありがとう、セレビィ。」



 どこまで降りるのか検討もつかなかった。気まずい時間が流れる。お互いに違う方向を向いて、話し掛けようともしない。無理に話題を作るには時間が掛かり過ぎたし、かといって話し掛けないのも気まずい。両者の認識はそれだけ。さっきまでなんとか喋れたのは奇跡だったのか。
「あ、あのさ・・・。」
無言のまま、ガーネットの視線が向く。その気迫に押されてサフィリスは言おうとしていた言葉を飲み込んでしまった。が、このまま言わないともっと機嫌が悪くなるので、必死で話題を探す。
「なんで、俺と来るとか思ったの?」
「別に・・・」
続く言葉があるとサフィリスは期待していた。が、ガーネットはそこで黙っている。顔を見れば、何か言いたそうな、わかってほしいという目。
こういう時は、絶対に考えがマイナスに向いている。出会ってから4年間、学んだことといえば、ガーネットが一旦マイナス思考に入ってしまうと、プラスにするには相当な時間と努力が必要だということ。ただ、なんだかのきっかけがスイッチになっていきなりプラスになることはあるけれど。
そのきっかけが簡単につかめれば問題ないのだが、彼には未だにそのスイッチが見つからない。何か言おうとして口を開けた瞬間、それは来る。彼女の身体的制裁が。
「ぐはっ!」
としか現せない声をあげて、彼はちょうどエレベーターの外に吹っ飛ばされる。見計らったような攻撃で、体はメートル単位で空を飛んだ。
ちょうど胸のまん中にあたった。細身ではないので肺に穴が開く心配はなさそうだが、着地に失敗したために頭が痛む。起き上がり、胸、というより肋骨を押さえて咳き込む。
普通の人間ならとっくに肺まで潰されている圧倒的な力。それに何発も耐えられる彼も尋常な防御力ではない。
そんな彼を放置するガーネット。心配してくれと言わんばかりの視線を送る。ふとガーネットが鋭い視線と共に言葉を投げかけた。

「役立たず。」

耳から入った音声信号が脳へ響き、心臓をとめるかとさえ思った。まさかここまで嫌われていたとは。心配すらせず、ガーネットは先に行ってしまった。追い付こうと思っても、頭と胸のダメージは思ったより大きく、すぐに起き上がらない。
「ま・・・まって・・・まってぇ・・・。」
ガーネットの後ろ姿が遠く思えた。弱々しくのばす左手の先は絶対届かない。廊下の曲り角の先、ざわめきの中にガーネットはまぎれていった。泣きたい思いに狩られたのは当然。
「ひどい・・・酷すぎる・・・。」
起き上がる気にもなれない。非道さと残酷さを混ぜて怒りで削ったようなものが刺さった気分だった。精神的なダメージを受け、やけっぱちになっていた。


「バカ。」
おそるおそる目をあける。さかさまにうつる、ガーネットの顔。逆光でよく見えないが、その顔は何の表情もない、一番怖い時の顔。
「ガーネット?」
彼女は無言で手をのばした。黙ってそれをつかむ。強く握られた。これ以上、彼が口を出すのはせっかく直りかけた機嫌がまた悪くなるので黙っていた。
「・・・行くよ。」
再び手をのばした彼女から、タバコの香り。さっきの空白の時間に吸っていたに違いない。そのことも言おうとしたが、やはり再び機嫌悪くなるのを恐れて黙っていた。
そういえば、彼女が吸っているのはいつからだろうか。
彼は知らない。ただ、別れた後だけ、としか。
気付いたらそうなっていた。いつの間にか。
彼女のポケモン、ポルクス(マイナン雄)がやけにタバコ臭くて、そこから知った。
理由を聞けば「死ね」か「ウザイ」の一言で無視されるし、やめさせようとしたら問答無用でコメットパンチ。ちなみに、食らうと目から星が出るので彼がそう命名した。
そして、その後に余計に吸う本数が増える。その連鎖をなんとか止めたい。そのストレスの元が解れば取り除いてやりたいし、そのためなら手段を問う必要がない。
彼は諦めてない。
 
いつからタバコを吸い始めたなんて詳しく覚えてない。
友だちに勧められ、一本もらった。
今までたまっていたイライラがすーっと消える感じがして、気持ちが落ち着いた。
それ以来、タバコが手放せなくなった。
値上がりしようが分煙されようが知ったことじゃない。
彼がストレスの元なのだから、話し掛けられたくない。うっとうしい。
そういう無神経さが嫌い。

・・・最低。


「あ、待ってガーネット。」
新着通知を知らせる振動を握りつぶすようにそれを取る。光る画面を黙ってみた後、静かにそれをポケットにしまう。
「ちょっとくずきり迎えにいってくる。すぐだから待ってて。」
走り出した途端、後ろに引っ張られるような感じがして足がもつれ、お尻から地面にクラッシュ。何が起きたか冷静に観察すると、ガーネットが黙ってサフィリスの腕をつかんでいた。
「・・・1人でおいてくの?こんなとこに?」
「え・・・あ・・・・。」
配慮がないと毒づかれたこともある。成長してないと反省した。再び彼女の目が何か言っている。こういう時はどうしようもない。サフィリスは素直に聞いた。
「行く・・・か?」
「・・・うん。」
立ち上がっても彼女は大きな手を離そうとしなかった。黙って手を握り返す。が、ここで素直になれないのがガーネット。それよりも力を入れて握り返す。が、ここで対抗心が出てしまうのがサフィリス。さらに力を入れる。だが、彼は気付くのが遅かった。ガーネットはまだ余力を残している。それに気付いた時、彼の口から奇声が誕生する。
「ぎぶぎぶぎぶ!!!!死んじゃう死んじゃう!」
「・・・勝った。」
勝ち誇った笑みを浮かべて、大袈裟なサフィリスを見る。少しだけ視線をあげて。
「勝った、じゃなくて!」
「それくらいで死んでたら・・・なんでもない。」
そういってもサフィリスの手を離さない。なんだかんだいいつつ、二人は元来た道を戻り出した。出口がわかっていれば、の話。



「え、そんな人いたっけ?」
フェナスシティのポケモンセンターで一息ついている。オーレの中で落ち着いた街の中で、一番落ち着く場所。何よりもあまりの暑さにミカドが音をあげて休憩することになったに等しい。
「見たけどいないみたいだよなあ。やっぱ大道芸人なんかに笛吹き頼むのは悪いか。」
「悪いかっていうより・・・」

『ポケモントレーナーのレオ様、お電話が入っております。受け付けまでお越しください。』

すぐにミカドが立ち上がる。その名前に反応するやつが誰もいない。裏の人間はいないようだ。だが安心は出来ないので周囲に気を配ることを忘れない。
「あーはいはい、俺俺。俺だよ俺。」
「詐欺師か。」
冷たく突き刺さる声がする。こんなツッコミを入れるのも仲間の証拠。
「いやいや、そうじゃなくて、ほっしーよ、フェナスに一旦来てくれねー?」
「なぜ?っていうかお前回線盗んでまでメール送るなよ。」
「仕方ねーじゃん、俺のP☆DA壊れてるんだから。盗めるのがフェナスしかなかったんだし。」
無言で切れた。その直前、ガーネットの声が聞こえる。ただ、あまりトゲや毒は含まれていないようだったので、この後にサフィリスが吹っ飛ばされる心配は無いはずだ。その予想とあってないかが楽しみなので、来たらそれを話して、それから本題だな、と。
「あ、おねーさんありがとな。」
カウンターに背を向けると、プラスルと戯れるナギのところに戻る。帰ってくる彼に気付くと、視線をそっちに向けた。
「あ、どうだった?」
「来てくれるっぽい。来るまでちょっと外で出店みてこねーか?」
この状態で何を言ってるんだろうと疑ったが、来るまでにオーレで取れた石などを売っているところがあるのを思い出す。時間つぶしでいいのかなあ、とナギは脳天気な彼の後ろについていくことにした。あの時と違ってミカドがいるから、そうそう変なことにはならないと思っている。


原石だから磨いていないものが多い。名前がおいてなければ何の石か解らないものばかりだった。その中でふとナギがオレンジ色の石を取る。
「これは?」
「それはガーネットの原石。ルビーレッドじゃないから価値はそんなに無いよ。だからお姉さんだったら2000でいいから。」
値札には何もついてない。ナギは一旦それをおき、違うものを手にとっている。どれも宝石の原石のようで、なぜそんなものをここで売っているのかは解らない。黒いマントを羽織った商人はさらに続ける。
「フェナスシティの人は何でも自分でやるっていう意気込みが強くてね、加工代がかかるから原石のがよく売れるんだ。」
暑くないのかな、と心の中で心配するとそれも元に戻す。そして石なんて何も言わないからつまらなそうにしてるミカドに近寄る。日陰で涼しそうな顔をして。


「ねー、誘ったんなら何か見ればいいじゃん?」
「うん、そうしたいんだけどさあ。」
ナギは振り返る。ミカドの視線の先には、恋人らしき二人が噴水の前にいる。それだとわかったのは、男の人が女の人の手を取り、水の入った青い瓶を渡していたから。
「うわー、凄い、もうすぐ結婚するんだね。」
「いや、ナギ、俺はあんな白昼道々プロポーズするやつの気がしれん。」
それは砂漠での習慣。新婦となる人に、水を渡すのは、それだけ砂漠で生きていけるからついて来いという意味でもある。ちなみに、水を入れる瓶は必ず青でなければならず、しかもその中に宝石を入れておかなければならない。瓶が青であるのは水の色だからいいとして、宝石を入れるってのがミカドの理解の枠を超えている。
「で、ミカド、なんか見に行こうよ。」
「いや、日なたにいると暑いし、それになんか嫌な予感するからよ、俺はここにいるから好きなだけ見てこいよ。」
「・・・スナッチ団の追っ手でも来てる?」
ミカドの目が笑う。その時、初めて会った時のことを思い出した。


絡まれていたナギを連れて、ただ歩くミカドに不審さは感じた。なんだかダークポケモンのように暗いオーラな人だし、その割には何も考えて無いような風来坊。市長にダークポケモンのことを話したはいいけど、本当に報告のようなものをしただけで、後はさっさと帰る。
「さて、どこいこう。」
急いでいた割には行き先なんかどこも決まってなくて、チグハグな動きに見えた。作られた動き、それがナギの第一印象。
「あ、そういえばさっきの市長、なーんか嫌なオヤジだったなあ。ああいうのが市長とか思うとめんどくせえ。んで、なんでもいいが飯食うか?」
とりあえずナギはうなずいた。本当についていっていいものか考えものだけど、とりあえずついていってみることにした。でも本当にいいものか、ずっと思っていた。さっきの変なやつらよりも、もっと変なやつらが絡んで来るのだから。
「おい、ミカド、よくもスナッチ団を抜けた上にこんなところでふらふらしていられんなぁ・・・。」
ハゲの二人組。それのインパクトにはナギも驚いた。ミカドがその二人組の知り合い、そしてスナッチ団ということもにも驚いた。
「なんで抜けたんだミカド。言い訳によっちゃあ、俺たちがヘルゴンザに口添えするぞ。」
「あぁ?んにいってんだよ、俺はまだハゲたくねーの!お前らハゲと同じにされちゃあ困るんだ。ヘルゴンザのやろう『お前が頭丸めないうちは認めん』とか言うし!」
その内容にも驚いた。思わずナギは袖を引っ張る。
「ねえ、ミカドって本当にスナッチ団だったの?」
「おうよ、その男は本当にスナッチ団の、しかも一流の腕してやがる。狙った獲物は逃がさないハンターさ!」
ハゲの片方が答える。ナギが怯えた目でそいつを見た。
「あー、俺の女が怖がるからお前ら黙っててくんね?ヘルゴンザにも伝えておいてくれると嬉しいんだけどな、俺はお前らの後始末につき合ってられんとか。」
ミカドが何かを投げる。さっきのエーフィ、キザトラのボールだ。そして、追うようにもうひとつ、ブラッキー、バンダナのボール。2vs2のダブルバトルの構えを相手がしていた。
「どうせかなわねーこと知ってんだろヤッチーノ。退くならいまのうちだぜ。」



そういう時の目に似ている。敵を探している状態。レーダーのごとく辺をさぐっているのは、機械のようだなと思っていた。
「そういえばミカド、あのバトルの後にやったヤッチーノさんの物まねめっちゃ似てたね。」
「あ?やっぱり?」
そう言うと安心してるのか、タバコに手を伸ばす。フェナスは分煙が厳しいところだからわざわざ日陰の喫煙所を選んで。
「それで、その後なんかボスっぽい・・・ヘルゴンザだっけ?」
「ああ、それも似てたろ?俺さあ、年末の一発芸はいつもムガイと組んで物まねだったからな。」
大きく煙を吐き出す。
「・・・ムガイ?スナッチ団での友だちかなんか?」
「ん、まあ・・・俺の一番信頼してるやつだよ。今でも。」
「じゃあ、やっぱりハゲになりたくないからスナッチ団出たわけじゃないでしょ!」
にっこりと笑うと、それっきりミカドは何も答えなかった。笑ってごまかすとはこの事である。



「オズ、いこうか。」
「シルク、走るよ。」
迷って迷って、辿り着いたエレベーター。その途端、二人の表情が明るくなったのは言うまでもない。その中で来た時よりもずっと話がまわったのは当然のこと。地上に出た瞬間、二人はフェナスシティまでの足となってくれるポケモンを出した。ウインディのオズ、ギャロップのシルク。2匹とも2人分の体重は運べるのだが、砂漠では体力低下が命取りになる。
「ここから東、オズをまかないように走れ。」
風のようにシルクは走り出す。柔らかい砂の上をどこまでも。走ることに突出しているシルクはシフォンと違って余裕がある。どんなにオズが遅れそうになってもちゃんと速度を下げて待っていた。
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