予想通りの展開だった。ふとガーネットが後ろを向いた瞬間、走るオズの姿もその上のサフィリスの姿もなかった。思わずシルクを止め、振り向かせる。手加減して走っていたつもりなのに、いつ見えなくなったのか気付かなかった。いつもなら見ていたはずなのに。
「大丈夫、だよね・・・。」
暑さとは違う汗が流れて来るのを感じた。シルクも心配そうに鳴くが、いまの彼女には気遣う余裕が微塵もない。
「あれ?止まって何してんだ?」
気付くと背後にはまだまだ元気そうなオズと、暑そうに(というか多少オヤジ臭い)タオルをまいているサフィリス。まだ20にもならないのだから、それは止めてほしいが、そこはどうこう言わないでおいた。
「え?いつからいたの!?」
言いたいことが伝わったか、首からタオルをはずして汗を拭うと手に持った。
「いまさっき。いやあ、シルク見えなくて焦ったけど待っててくれるなんてなあ。」
ぽんぽん、と熱くなった頭を撫でる。が、これが彼女の逆鱗に触れることになり、彼は肘鉄で2メートル近くあるウインディの背中から墜落することになる。



「ぷっ、それで砂だらけかよー!!」
ミカドの笑いは止まらない。なぜか砂だらけのサフィリスと、日焼けしたか顔が赤いガーネットが同時に乱入してくれば、その理由を聞いて笑うしかない。
「オズには踏まれそうになるし、シルクには哀れみの目で見られるし、もう俺どうなってんだ。」
フェナスのポケモンセンターの一室。今日の宿を借りている。男2人でごそごそと隠って。クーラーがガンガンに動いているせいで、むしろ寒くなって来た。
「ま、いいじゃん。砂落としたし、迷わないでフェナス来れたんだし。」
「別にいいんだけどな。俺ってつくづくついてないなって思うんだよ。」
それはそうと、とミカドはサフィリスに寄る。他の人が外にいても聞こえないくらいの小さい声で。
「あのさあ、ほっしー、スナッチマシンが整備不良起こしたんだけど。」
それを聞いた瞬間、サフィリスの顔が変わる。ふざけてるのか、と言わんばかりの顔に。
「は?お前は自分で修理することも出来ないで飛び出してきたわけじゃないだろ?ん?」
まゆげが動く。完璧に怒ってるな、とミカドは少し思ったが、頼れるのは彼しかいないし、概要しか言わなくてもわかってくれるのはサフィリスだけ。
「いやいやそう怒るなって。知ってるけど壊れたところがまあ俺じゃ手の届かないところにあるんだ。やってくれたっていいだろ、ほっしーは昔から器用だったし。」
目に星を飛ばす。その目の使い方は何かを頼む時で、サフィリスいわく「気持ち悪い」だそうだ。
「だからキラキラ目使っても意味がないの。仕方ねえ、二人が風呂入ってるうちにやってやる。」
「ありがとほっしー。ん〜愛してる。」
と、ふざけてサフィリスに飛びついた。そして唇をせがむ勢いで、のしかかるが下になってしまったサフィリスの顔が全身全霊で拒否してる。
「気持ち悪いわ!趣味じゃねえし!やってやんねえぞ!」
「いやん、そんなほっしーが誘ったんじゃないの・・・。」
目に星を飛ばしつつ、さらに潤んだ目で見る。
「だからお前はどうしてそういう勘違いを起こす言葉しか出て来ないんだぁ??」
全くサフィリスに対して効果は無いようだ。むしろ上に乗るミカドをはね除け、怒りにふるえながら突き飛ばす。
「きゃー!いやー!ほっしーが襲ってくる〜〜〜。」
なぜかミカドの方は楽しそう。それとは反対にサフィリスは上にのって胸ぐらをつかむ。
「くーずーきーりー!!!!」
思いっきり揺する。そんな中でもミカドは楽しそう。


「あれ、ミカドは?」
喫煙所にいると思ったのにそこにはいない。ガーネットが写るモニターを見つめていた。ナギの声に振り向くと、火を消した。
「さっきまでいた・・というか、風呂いってくるって言ってそのままいなくなったけど、そっちにいないの?」
「うん。いないの。」
ナギの様子からしていそうなところを全部探したと見える。ガーネットは立ち上がる。
「じゃあ探してみるよ。サフィリスにも聞いてみる。」
そのサフィリスがいるはずの部屋に行く。中からはミカドの声も聞こえて来る。ここにいたんだ、とガーネットはノックもせずにドアを開けた。
「あ・・・。」
「あ・・・。」
「あ、ざくろ〜。」
ミカドを下敷きにしているサフィリス。彼等と目があったガーネットは非常に気まずい空気に包まれる。というか、どう見てもサフィリスがミカドを襲ってるようにしか見えない。
「いや・・・その・・・サフィリス・・・あんた・・・。」
「ちょちょちょっと!勘違いしないでくれ!俺はこいつに・・・。」
寝ている人がいたら迷惑な程、大きな音をたててドアが閉まる。その場は完全に凍り付いた。特にサフィリスは完全にフリーズしてしまっていて、ミカドが話し掛けるも反応がない。
「あーあ、勘違いされたってやつ?違うのになあ、ほっしー?」
「あー・・・あー・・・そう。」
もうしばらく時間が必要そう。ミカドはサフィリスを退かすと、タバコを持って部屋を出た。しばらくおいとけば治るだろうと、サフィリスをおいて。



予想通り、彼女はそこにいた。ポケモンセンター外にある喫煙所。夜のフェナスになど、ナギは絶対に出ていかない。それを知って、ミカドは近付いた。
「よぉ、そんなすねんなって。」
無言でこっちを見てくるが、睨んでるとしか思えない。空気を読まないように隣に座る。
「なに?」
「わかってんだろ?間違いだって。だったら何もあんな態度しなくてもいーじゃん。」
いつもより減りが早いな、と思った。すでに予備の箱に手を出している。普通の早さじゃないことはすぐにわかった。
「別に・・・。」
目をそらす。大きく煙とため息を同時に吐くと、灰皿に吸い殻を落とした。そして新たにタバコを取り出し、火をつける。そのペース、ミカドの見た通りにいつもより早い。
「どーしてかなー!」
「え?何が?」
「いやさあ、昼間の電話の限りじゃ、それなりに上手くいってたのに、なーんで少しのことでそんなに拗ねるんだよ!人間素直にならんと、何も伝わらんぞ。ツンデレがかわいいとされるのはデレ期があるからであり、ツンだけじゃ嫌われてるのかと勘違いされるだろ!」
自分のことを言われてることに気付かないか、意外なことを言われてびっくりしたか、ガーネットの動きが止まる。今まで誰にも言われたことないんだろうとミカドはさらに続けた。
「ほっしーだってよ、ちゃらちゃらしてるよーに見えるけどさ、あいつはあいつで苦労してんだって。俺よりわかってんだろ?」
何も答えなかった。火をつけたままのタバコを持ったまま、何も動かない。深く考えてると思って、ミカドも黙って一本取り出し、火をつけた。
「私、実際どうなんか本当に解らない。」
「そうなのか?」
「うん。最初は確かに好きだったかもしれない。でも、もう最近じゃあそんなんどうでもいい。一緒にオーレ行こうって言われた時、もしかしたらって思ったけど、そんなことない。やっぱりいつものサフィリスなんだと思うとイライラする。」
「だーからってタバコ吸ってもうまくねーだろ。問題も解決しないしさあ。」
「あとさあ・・・。」
すでに一本が燃え尽きている。サフィリスのことを考えてる時は自然とそうなんだと解釈した。煙を吐いて、まだ残っているタバコを灰皿に落とすと、ミカドの方を向いて喋り出した。
「あいつの部屋、めちゃ汚い。」
いきなりの話題に、ミカドもすぐに反応できない。しかしガーネットは真剣で、そのギャップに思わず笑ってしまった。
「ぷっ・・・ほっしー・・・。」
「そんで、部屋に入ったら、何かすんごい変な声の歌が流れて、後ろから呼ぶまで気付かなかったんだから。んで、泊まる時には夜中までアニメみてるし。」
「ほっしーはアニメ昔から好きだったからなあ。まあそれくらい許してやれって。趣味趣向を他人がどういうことってできんし。」
「そうなんだけど、私の言いたいのは、そのせいで部屋が片付かない上に部屋の隅にエロいDVD隠してるのよ。私は何なの?いたって意味ないじゃない。」
少し涙目になってる。ミカドも真剣に考えた。彼の返答を待っているのか、ガーネットはタバコに一切手をつけず、まっすぐ見ている。くわえながら考えていると、人間思い付くもので、短くなった吸い殻を捨てる。
「・・・それは違うぞ。それでどうこうしてるかは本人しか解らんけど、俺だったら彼女いても見る。だってそうだろ?ざくろだって体調悪い時あるし、朝早い時もあるし、二人ッきりになれない時だっていっぱいあるわけじゃん?中々やりたいときにやるってのも難しいわけでさ。そりゃ人間だもんよ、当たり前だろ。」
ガーネットの前にライターを差し出す。それに黙って取り出すと火をもらった。
「男は解らん・・・。本当に解らん・・・。」
ため息が主流煙となって出て来る。
「難しく考えるなって。そんなに言うくらいなんだ、ほっしーのこと、まだ好きなんだろ。だったら、素直に伝えりゃいい。話さなかったら、何も解決しないし、ほっしーだって何考えてるかわかったもんじゃないし。」
「うん。」
「そうそう。人間素直なのが一番だって。」
そう言われた瞬間、初めてタバコを吸った瞬間にむせた。初めて吸った時さえこんなことなかったのに、今はなぜか苦しくて仕方ない。治まるまで煙の元から体を離す。ミカドがさり気なく背中を摩った。大分楽になり、ガーネットはミカドの目を見る。

「・・・じゃあ、ミカド君も言うの?ちゃんと?もしまだ隠してることがナギにあるなら、今のうちに言うべきだよ。」
まくしたてるようにガーネットが口を開く。予想外の言葉にミカドは不意打ちをくらった。こんな短時間で勘付かれていることに驚く。
「はへ?別に隠してねーし、だいたい・・・。」
「惚れた男が世間に認められないことほど、女にとって辛いもんは無いんだよ。」
再び吸うが、今度は何も起きなかった。その瞬間、初めてあれを知った時の気持ちが蘇る。大きく呼吸すると、煙が吐き出された息になびいた。
「ほっしー?」
「それしかいねーだろ。マグマ団だって知った時は、泣いても泣いても、どうしていいか解らんし、八つ当たりしてもどうにもならんし、その時に好きだって気付いたって遅すぎて、そういう泣かすようなまねさせたら許さん。」
「泣いたの?まじしんじ・・・・。」
「根性焼きシマショーカ。」
「すいませんすいません。んで、どうしてそんなにショック受けたのに、別れちゃったのよ?そこだけ納得いかんなあ。」
吸い殻に押し付け、さらにタバコを取り出す。その時に見た残り本数が少ないので、そろそろ買いに行かなければならない時期だ。最近値上がりしたので財布には痛いのだが。
「・・・あいつが浮気しやがった。」
「はぁ?あいつが?ほっしーが?いやいや嘘だろ!」
信じられないという顔をしている。体も同じように反応し、火をついたタバコを持ったまま動かない。
「嘘じゃない!陸部の後輩とつき合ってるし。」
「はぁああああ?まじ?」
「まじ。」
「嘘だろ・・・。つかそれは何かの間違いだ。断言する。いいかざくろ、俺と久しぶりに会って、メールするようになってからほっしーとの会話はなんだと思う?」
「さあ・・・?」
「『好きだった人を見捨ててまで生きてるのが辛い』だったな。」
その途端、ガーネットの表情が今までよりもはっきりと変わる。驚いた、というよりも期待と希望が見えたような顔。
「それでさ、ある日を境にひじょーにほっしーのテンションが上がったんだよ。それからの話題は、彼女に冷たくされて悲しいとか、かまってもらえないとか、誕生日なにしたらいいとか、ざくろ関係のばっかりだったぞ。そんなほっしーがざくろおいて、他の女とつき合うわけない。いいか、俺はあのほっしーと幼少期から『4バカカルテット・ボケ担当』をしてたんだぞ。そのくらい解る。」
少しガーネットの表情が明るくなった。ミカドはそう思っていた。現に人の目を見る時の厳しさがない。優しい表情だった。
「・・・そうなの?」
「なー、ざくろ、たまにはほっしーの話聞いてやれって。そうじゃねーと、あいつまじへこんだままだし、何よりもかわいそうだ。」
「あいつが?」
「ざくろが。男の俺が言うのもなんだが、あいつは多分、ざくろ以外の女に手だせねえと思う。つか、出さない。それだけ、男にしちゃー珍種だな。俺はさあ、あの『半年』からほっしーに会ったわけだけど、相当落ち込んでたし。いやさあ、精神的にだけじゃなくて、当時の痩せ具合からも結構解るし。だから絶対浮気しない。そんな男をみすみす逃がすざくろがかわいそう。」
「はぁ?」
そういうガーネットは少し嬉しそうで、少し「何いってんだ」と言う声だ。ミカドが短くなった吸い殻を灰皿に押し付けた時、さらに変化に気付く。あれから吸って無いのだ。ずっと。火のついたタバコは彼女の手の中で、副流煙を出し続けていた。
「まあ、なんだ・・・その、確かに、他人だから解らないっていうのもあるかもしれないが、もうちょっとほっしーを信用してもいいと思う。」
「・・・そう・・・かな・・・。」
「うん、そう。ざくろは少し信用しなさすぎ!俺ならまだ解るけど、ほっしーを信じてやれって。話し掛けづらかったら俺がなんとかするしさ。」
灰だらけの吸い殻に気付いたか、それを灰皿に投げ入れた。あまり役目を果たせずに水につかり、完全に消える。
「・・・なんでそこまであいつの肩を持つ?」
「うーん、なんでだろ。ほっしーはいいやつだし、何よりもざくろなんか寂しそうだから。」
「・・・別に。」
「んまあ、寂しかったら俺の胸にいつでも飛び込んで来い。」
思わずガーネットは吹き出した。その行動と顔とナルシストの性格のギャップに。
「・・・あんたナギに殺されるよ。」
軽く後ろに仰け反る。ナギよりも殺しそうな視線をするガーネットから避けるように。
「・・・ええ・・・ちょ、ちょっと無理かもしれませんごめんなさい。」
「言い訳しても分かってるんだから。だからナギに言う勇気もないんでしょ。」
何も言い返せない。反抗の印として膨れっ面をするが、全く可愛く無いと切り捨てる。ボケとしては美味しかった場面だったらしい。
「なら、別にかまわねえな。ざくろから誘ったってことで。」
「・・・金とるよ。」
にっこり笑ってガーネットは、右手を伸ばしてきた。もちろん、金を要求して。



抜け殻のように徘徊しているところを、ナギに止められた。階段から落ちそうになっているところを、慌てて引き戻したという方が正解か。身体的ダメージを何も食らわなかったとはいえ、サフィリスの精神的ダメージは大きい。
「あ、ナギちゃん・・・。」
「ちょ、大丈夫!?今にも崖から飛び下りそうな自殺前の失恋した人って感じよ!」
ナギも意図してではないが見事な追い討ち。サフィリスは大きくため息をついた。対照的に無邪気に甘えてくるプラスル。それに少し心が和らぎながら、ナギにさっき起きたことを話す。それには彼がこんなになってる理由に納得してしまった。何と苦労が絶えない人だろうと。
「なんか俺はよくわかんねえんだ。ガーネットが好きなのかどうかも。三日くらい会わないと会おうかなって気にはなるんだけど、いざ会うとウザイっていうか、だるいんだよ。」
「倦怠期なのかな?別れたいの?」
まさか彼の口からそういう言葉が出て来るとは思わなくて、ナギは少しだけ驚いた。好きなのかと思っていたから余計に。
「そういうのじゃないんだよな。だるいって思ってもこっちが口出せば問答無用の平手とハイキックで、そのくせ自分はウザイだのだるいだの死ねまで言ってくるし。ナギちゃんと二人で話すだけで浮気だのなんだの言うんだよ?さらに言えばそのくせあいつは元彼とデートとかしてるし。どうせ俺が全部悪いんだよ。」
「・・・あんまりだね・・・。」
「いや、ナギちゃんは俺の話しか聞いてないからそう思うだけで、ガーネットの話聞けばきっと俺が悪いことが解るから。」
プラスルの「手助け」効果も全く効かず、サフィリスのまわりにどんよりとした空気が流れる。少し見間違えばダークポケモンと同じようなオーラが出ていたはず。
「でも、話しかけてもっていうけど、やっぱり誠意が足りないんじゃないかな?」
今度は意図しての追い討ち。マイナスに向いてる人にプラスなことをいっても何もならないのはわかってる。
「いつもの感じで話し掛けられたって、ふざけてるとしか思えないわけだし、やっぱりまじめな態度で話し掛けた方がいいって。だって、ていねいに話し掛けられて突っぱねられるんなら、それはガーネットに問題があるわけで、サフィリス君にじゃないでしょ。それほど、ていねいな態度ってのは受け入れやすいんだから。って聞いてる!?」
返事もせずにサフィリスは歩き出していた。多分、いるであろうところに向かって。プラスルが心配そうに見ていたが、すぐにナギの元に戻る。
「ま、大丈夫かな。」
プラスルを抱えると、階段を登りかける。その先にいつもかぶるように着ているコートを珍しく脱いだミカドが何やら迷っていたから。
「あれ、ミカドどうしたの?」
黙って振り向き、こちらを向いた。いつもより視線が定まらないのはあのコートの効果・・・かもしれない。
「あ、いや・・・なんでもない。ちょっと来ただけだから。」
「え?」
手を左右に振り、ミカドはそのまま廊下の奥へと行ってしまった。不思議に思って追い掛けようとすると、金属のドアが閉まる音が衝撃となってナギの耳に届く。非常階段のトビラが閉まったのが解ると走り出し、ナギも同じくそれをあける。力を入れて重たい金属の壁を押すと、夜風が舞い込んだ。思わず目をつぶり、ドアが閉まると共にミカドの姿を探すも、風と共に消えてしまったように、気配すらしなかった。



夜の砂漠は寒い。暖められた熱の貯えなどなく、ひたすら冷たい風が吹き抜ける。しかし、シフォンがいればそんなことも平気だ。炎がシズイの体を絶えずあたためている。
「どこだろう、またパイラに戻っていいのかな・・・。」
シフォンのスピードが落ち、やがて足を止めて主人の指示を待つ。シズイがシフォンに止まれといったわけではない。月明かりでも解る、巨大な竜巻きが目の前にあるのだ。規模とまわりの砂嵐からして、巻き込まれたらタダじゃ済まないことが予想できる。
「シフォン、10時の方角に走れ!」
竜巻きから逃げるようにしてシフォンは走り出した。ただ、同じギャロップでもシルクとは違い、スタミナよりも攻撃力が突出しているシフォンにとって、長時間走ることは苦痛。最高時速200キロ以上にもなるギャロップの足が、だんだん竜巻きに追い付かれてきたのである。
「嘘・・・でしょ!?」
砂礫が顔にぴしぴしと張り付く。ぬぐうようにシフォンを完全に止め、ボールに避難させた。しかし、その直後、シフォンくらいは出しておいた方がよかったと後悔した。何せ自分に降り掛かる砂の量が半端ではない。砂嵐が通過する頃には生き埋めにされていてもおかしくなかった。


『未来からやってきたもの、中途半端に期待を持たすべきでない。お前の役目は歴史を作ることでなく、歴史を未来に導く役目。』


シズイは砂嵐の中、おそるおそる目を開いた。砂が邪魔をして何も見えないが影だけははっきりと見えた。2枚の翼が特徴のフライゴン。それが語りかけて来る。気付けば自分に降り掛かる砂の感覚はなくなっていた。


「なぜ、知っているの?そしてなぜそう思う?」
『私は風。オーレに住む風。人がまとう風を知っている。昔のような強い風を持っている人、それを見守っている。』
「風?確かにおじいさんは風の精霊だっていってたけど・・・。」
『・・・時間とは面白いものだ。私も歴史を作るものではない。歴史を導く役目。フラッシングウインズを導く役目。未来へ栄光の風を語り継ぐ風。』
「栄光の風・・・。」
『全ては、オーレの歴史の出発から始まっていたこと。風の地になってしまったことも全て。』


強い砂嵐が吹き付ける。再び顔を臥せる。それはすぐにおさまり、フライゴンの姿を捕らえようとしても、それは出来なかった。全くいなかったかのように、砂嵐も影もなくなっていた。
「え・・・なんだったんだろう・・・。」
シズイの後ろから、強い風が吹き抜ける。
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