大地と海をめぐって、グラードンとカイオーガが戦っていた。
陽はグラードンの味方につき、雨はカイオーガの味方についた。
どちらともつかぬ空はすでに手に負えないものになっていた。
人間たちは環境の変化に耐え切れず、北の高い山へ逃げていった。
ある者はまだ緑豊かな土地へ。いずれにせよ、限界が近付いていた。
人間たちは祈った。
「もうやめてください。私たちの大地を返してください。」
その瞬間、天から雷が走り、北風と共に炎が上がった。
人間たちが見上げると、雲の間から光が差し込み、虹色の風がグラードンとカイオーガに割って入る。
「もうやめよ。争ったところで、何もならない。」
虹色の風はそういった。しかし、両者とも譲ることが出来ない。
「何を!グラードンの方こそ退くべきである!」と。
「何を!カイオーガの方こそ退くべきである!」と。
困った風はこう言った。
「ならばこうしよう。このオーレは大地とする。しかし、それではカイオーガが不服であろうから、海底の砂の大地にしよう。雨も滅多に降らない、乾いた大地だ。それならば両者とも納得できるのではないか?」
グラードンとカイオーガはお互いを見合わせ、それならばと、退いていった。
徐々に空は穏やかな青を取り戻した。
しかし、そこには白くうつる雲はなく、乾いた金色の砂が広がる大地へと変わっていた。
それでも大地が戻ったことを喜び、人間たちは虹色の風を「フラッシングウインズ」と呼び、今日でもオーレの最高の称号である。
これだ、とナギはその本を持ったまま走り出す。オーレの神話、これを探していた。ポケモンセンターの図書館はさすが豊富な情報量。消えてしまったようにいなくなったミカドの代わりに、話し相手を探していた。頭にのっているプラスルも一緒になって見回す。
思い付いたことをさっと言わないと忘れてしまいそう。だが、中には誰もいない。ガーネットはきっとタバコだろうし、サフィリスはそんな彼女に会いに行ったわけで、誰1人として相手は見つからなそうだ。
仕方ないから、マリルのメモ帳にわかったことを書き、重要なところは本をコピーして図書室を後にする。
「あ・・・。」
ガーネットは思わず口に出した。前から負のオーラを出してあるいていたサフィリスに出くわしてしまったからである。これでは会うというより、エンカウントに近い。
しかし、その負のオーラは人を寄せつけない力があるらしく、ガーネットは背を向けて歩き出していた。それに気付いたか、サフィリスの反射神経が口を開く。
「あ、ってそれだけで俺スルーかよ!?ちょっ待って待って!」
去っていく肩をつかんだが、振り向いてさえくれない。ことの重大さを重ねて感じる。
「あんたが男色だとは思わなかった・・・。お幸せに・・・。」
いつもと違うと感じた瞬間、左手をつかんでいた。彼女の利き手である左手だから、跳ね飛ばされることも否定は出来ない。
「どうしたんだ・・・」
「なんでもない!」
予想通り、彼の手は大きく振り払われ、その反動で体も後ろに押さた。数回転んで、すでに遠く離れてしまったガーネットの背中を目で追い掛けた。そして標的の位置を確認すると、とっさにその足で駆け出した。
「なんでもなくないだろ!じゃあなんで、泣いてるんだよ。泣くようなことがあったんだろ。そんなの、なんでもないわけない!」
話すどころか、涙目でさらに睨まれた。泣き終わるまで彼女は何も言わない。それは昔からずっとそうだったから、次の行動くらい解る。サフィリスには待つしかできない。声を殺して泣く彼女が再び口を開くまで。
砂嵐の後は自分の位置を見失う。そんな話を知り合いの人から聞いたことがある。さっきと景色が違うのだ。ずっと同じ砂漠だが、目の前の建物は見えていなかった。真っ暗な夜空に浮かび上がる妙な建物。警備員がぐるっと囲まれた塀の中や外を見張り、物々しい雰囲気が隠せない。仕事の直感からか、このまま訪問してはいけない施設だと悟る。このままシフォンに乗ってすり抜けたいが、足音で気付かれる可能性だってある。回れ右をして冷えた砂漠を走り出す。もちろん、タダで帰るようだったら意味は無い。注意しなければ解らないような発信機を壁に投げ付けていた。
「よー、シズイ!」
一番近くの街に夢中で走った。そしたら、なぜか壁に向かってボールを投げているミカドに出会ったわけである。街の入り口付近の壁は投げられたボールの形がついていた。スナッチの練習のようだ。
「どこいってたんだよ〜。ほっしーに聞いてもどこかいったとかしか言わんしー。」
「いえ、ちょっと、そのカポエラーの様子がおかしかったんで。」
「そうかそうか。なあちょっと聞くがよ。」
疑いもしないのかこの人、とシズイは本気でミカドを疑った。普通ならそんなこと「ガンダルフじいさんにまかせときゃーいいのに」とか「どんな様子だった?」とか聞くものだろう。
「なんですか?」
半分どころか四分の三は呆れていた。残りはこの人は変わらないというあきらめである。
「お前母親は誰だ?教えろって。誰にも言わないからよー。」
肩をがっしりつかまれて、そう簡単には放してくれそうにない。
「・・・だから言わないって言ったじゃ無いですか。」
「じゃーヒント!ヒント!なーヒントだけ!」
父親のツッコミ力というものは、実はかなり素晴らしいところにあると感じた。こういう時、彼だったらどういうか、しつこいボケに対する処置の仕方が解らない。
「・・・権力的にはお母さんのが強いです。いつも『ネクタイまがってるー!』とか『お弁当わすれてるー!』とか言われてます。」
「・・・ん?なんかそれってもしかして、ハルちゃん・・・?」
「え・・・?」
彼等は全く予想していなかったことに驚いた。シズイの方はその物まねだけでその人物の名前を出すとは思わなかったし、ミカドの方は彼女の物まねができるとは思っていなかった。ちなみに、ハルちゃん、というのは幼馴染み。もちろん、ミカドがオーレに来るまでだから、もうかなりの年月会っていない。サフィリスからたまにハルちゃんの話を聞くことはあるが。ミカドが思い出すくらいなのだから、彼女の口調は小さい頃から変わり無いことが解る。
「『さーくんダメでしょ!』とか『ひじついて御飯食べないの!』とか言うだろ?」
「さーくん」とはサフィリスのこと。言葉を覚えたばかりの年齢には、言いにくい名前のようで、まわりからそう呼ばれていた。
小さい頃からの知り合いは今でもたいていそう呼んでいるようだ。それにしても、少しばかりトゲのある言い方でズバズバと欠点を指摘する、それがハルちゃん。そこも全く変わらないようだ。もちろん、ミカドもそのトゲを食らったこともあるし、シズイも未来の彼女にそれを食らっていることが解る。
「・・・すごい似てますね・・・。」
あまりに似過ぎていて思い出すだけでシズイはため息が出る。ちなみに、彼が今まで言われた言葉で一番深く刺さったのが「考えも言えないなら大人しいんじゃなくてただのバカよ!」である。
「だろ?だろ?・・・ん?ってこたぁ、ざくろどうしたん?」
「結婚してますよ。子どもも1人います。仕事が忙しいようで、義理の弟の家に預けて働いて来るんです。」
「へー!旦那は?」
「だから・・・二人とも忙しいとかで。」
危ない、という顔と、もう少しだったのに、という顔は、電灯に照らされるほどではなかった。
「・・・そうか。なあ、シズイの母親がハルちゃんだとしてもよ?聞いていい?」
いつの間にか出てきてしまっているバンダナを抱き上げる。バンダナをしていないのに変な名前だな、とシズイはその光景を見て思った。
「何をですか?」
「その大人しい性格はどこから来た?」
「どうやら、父方の祖父のようです。」
「隔世遺伝か。まあ確かに顔も両親に似て無いしな。」
「そうなんですよ。」
「それと、ざくろの旦那って誰よ?」
ノリで聞けば口を滑らすと思ったか、そういう作戦に出た。しかし、ここでうっかり言ってしまうようでは今の仕事など到底できそうにない。作り笑いをして、シズイは答えた。
「・・・それは言えませんね。ミカドさん口軽そうじゃないですか。」
「んなことねーと思うぞ。言えって。別にいいじゃねえか。」
信じられないという表情のみが浮かんだ。子どもにまで信用されてないのも、社会的な信用というより、彼の性格が禍している。
「・・・解りました、こう言えば解りますか?今、僕が関係している人たち全員の未来を迂闊に言わない約束で来たんです。ぶっちゃけ、僕が誰の血縁だかも言いたくは無かったんですが、ミカドさんはそうでもしないと信じてくれそうにない人だし。」
「うーん、まあそうだなあ。・・・俺の説得は一体なんだったんだちきしょー。」
バンダナの首の後ろをつかんで持ち上げる。それはネコにするものだろうと思うが、シズイは黙っていた。
「はあ、とりあえずシズイ、俺の特訓につき合うか?ちなみに明日には違う街にいく予定だから。」
「あ、はい。構いませんよ。」
「なにその余裕の表情。虫タイプのポケモン持ってるって顔してんじゃ・・・。」
「あ、その通りです。負ける気はしませんから。」
にっこりとしてシズイはボールを構える。中には今か今かと攻撃のタイミングを見計らっている虫タイプのポケモン。ミカドも表情を保ったまま、バンダナとダークビブラーバを並べる。夜だからか、バンダナの輪っか模様が異様に眩しく感じた。
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