「で、聞いてるの?」
大人気ないミカドに散々つき合ったせいで、シズイはとても眠い。勝負がつくたびにもう一回もう一回と言うので、とてもじゃないが今日の行動がテキパキできる状態でもない。同じく、ミカドは明後日の方向を見てぼやーっとしている。ナギの話も全く聞こえていない。
「ああ、まあ聞いてます。」
「聞いてないでしょ!」
と、こちらはいつもの調子なのだが、隣を見れば沈黙しているガーネットとサフィリス。といっても、半分怒ってるように見えて、しかもそれが自分に対する怒りのように見えなくもない。朝食の席はここを除けば気まずい雰囲気ではなかった。もちろん、中和役のナギはミカドに昨日のことを説明する方に必死だし、シズイは眠気でほとんど物を考えるような状態ではない。黙って嵐の通り過ぎるのを待ったとしても、今の状態では何年かかるか解ったものでない。
にゃううん
そんな声がずっとするにも関わらず、シズイはほとんど寝ている。サフィリスのエーちゃんがずっと起こそうと努力しているのだが、彼にとっては涼しい風。
「シズイ良く寝てるなあ。」
ミカドはふとシズイの背中をつついてみる。普通の人間ならびっくりして起き上がるだろうに、彼はそれをしない。というかできない。今度はくすぐってやろうとミカドが手をかけた瞬間、ナギのストレートが顔に入る。
「寝てるんだから静かにしてあげなさい!」
あまりに正論すぎてミカドが反論できたのは、グーのストレートはやめてくれということだけ。しばらく奥歯の神経がズキズキと「痛かった」と言っていた。
ふいにサフィリスが席を立つ。「支度する。」とだけ言うと、振り返りもせずいってしまった。その後ろ姿をみてミカドはため息をつく。
「あー、俺って報われない性格。」
何があったのかガーネットに聞きたいところだが、今の彼女に話しかけようものなら、空を飛べそうだ。その彼女はサフィリスと反対にナギとにこやかに話している。一人あぶれてしまったミカドはお茶を飲みながら聞いていた。
「なあ、くずきり。」
昨日のバトルで本調子ではないと判断したスナッチマシンを部屋で調整してもらっている。黙々と作業をしていたサフィリスがふと口を開いた。
「なんだ?あ、ちげーぞその部品!」
「あ、わりぃ。それで本題だけど、ガーネットのことどう思う?」
「どう思うって、ナギ以上のツッコミ役だと思ってる。」
「役割の話じゃなくて!お前はガーネットのことをどう思ってるかって話!」
「いやーそりゃ貴重なヤニーズだからねえ。」
「だからそういう意味でもなくて・・・。」
爆音がする。フェナスシティの市長の家の方向から。うるさいな、で済んでいるのはヘリコプターの音だから。しかし、会話を妨害するには十分な音量。
「・・・やらねえよ?」
ミカドは言ったが、直前にサフィリスがなんという質問をしていたかはわかってない。が、何かノリで答えるところだと思ってそう言ったのである。
「・・・そうきたか。」
完全に言ったことが通じてると思って、サフィリスはそう受け止めた。
「もちろん。別に嫌なわけじゃないし。」
「俺も負ける気はしない。」
少しぎらついた目をしたサフィリスに、なぜこんな本気になってるかわからない。もちろん、両者で会話が成り立ってるようで成り立ってないからだ。
「ああそうだな。だったら少しはざくろの話聞いてやってもいいんじゃね?話の大半がほっしー向けだし。」
「なんていってた?」
「ほっしーが浮気したとかアニオタで困るとか。」
「そうか、気にしてんだな・・・。アニオタなのは俺言ったはずなんだけどなあ。」
大きくため息をつくと、サフィリスは作業を続けた。このボルトを締めれば完了だ。こういう機械は原理というのが大体同じだから、修理は簡単なのである。
「はい、じゃあ次から壊れる前にメンテしろよ。」
「え〜ほっしーやってくんないのぉっ!!!」
「・・・一人でやってくれ。俺はいそがしーんだ。」
立ち上がり、荷物を持って出ようとする。が、ミカドはまだ話してないことがあるのを思い出した。
「ああ、ほっしー、お前の知り合いにさあ、笛吹ける人いない?」
「笛・・・?誰でも吹けんじゃね?」
「ちげーの、音でねーんだって。」
荷物の中から白い穴の開いた筒を見せた。紛れもなく笛なのだそうだけど、まったく音が出ない。ミカドはふーっと息を入れてみたが、かすれた音が出るのみ。
「・・・横笛吹きなら知り合いに二人くらいいる。」
「えーまじ?ちょっと紹介してよ。」
「あほか。一人はジョウト、一人はホウエン、明らかに遠すぎるだろが。オーレ限定とか知らんがな。ナギちゃんに聞いてみりゃーいいじゃん。大体からそんなことでフェナス来たとかネタとしか思えねーよ。」
少しばかり怒ってるようなオーラを出しながら部屋を出て行こうとしたとき、ミカドはふと言った。
「ほっしーごときが、まさかそんなことだけで寄ったと思ってるわけないっしょー。俺だってそーいう世界の人間でっせ。」
眠ってるシズイを背負って出発できるのを待っていた。炎タイプのシルクが日陰で座っているところをみると、彼女もあまり暑いのが好きではないらしい。対象的にシナは暑いところでも光合成の関係上、日向でじっとしている。
「わりぃな、後少ししたらくずきりがくるから。」
遅刻した上にさらに怒りのオーラが増えているサフィリス。そんな彼をガーネットが見ることもなく、黙って無視していた。その場にいたナギはどうしていいかわかったものではない。しかも、昨日の経緯を少しだけ聞いたナギは、少しだけわかるものがあるから困っていた。
3人の気まずさを吹き飛ばすように、再びヘリコプターの爆音が街にとどろいた。ここの市長は相当忙しいようだ。あまりのうるささに一度目を開いたシズイは騒音の消える方向を見ていた。
「・・・いそがしい。」
半分キレながら空を飛ぶ。本来なら太陽が暖かいところで腹出して寝ているはずだった。それなのに、アレのせいで仕事が増える増える。誰かに押し付けて帰りたいのだが、そういうわけにもいかない。ここは自分の仕事場と分担してしまったのがいけなかった。なんせ砂漠なんて問題もなにもないと思って引き受けてしまったのだから自己責任もいいところ。
「目印にしとくって・・・目印の森がみえねーよあの緑蜂がぁっ!!」
「へぇ、そういうんだ。」
面食らった。まさか悪態をついた本人が目の前にいるのだから。
「『自分の範囲〜』とかいってて、仕事があるとそういうんだ。やらなきゃいけないことも全部押し付けて仕事しないんだ。へぇへぇへぇへぇ。」
と、どこで拾ったのか、押すとやる気なさそうに「へぇ」という音がでるボタンを押している。
「い、いや、その、俺は別にそんなことぢゃ・・・。」
「なら、文句言わないで仕事する。本拠地は任せてきたんだろうね?」
「いやあ、あいつもそれで忙しいからなって言ってた気がするのねー。だからって忘れたなんていわないのねー。」
『へぇ』
再びボタンは「へぇ」と言った。
ナギがバイクの荷台に乗っていると、遠くで砂煙が見えた。幻覚ではない。大きなノクタス(らしきもの)と小さなサボネア(らしきもの)が砂漠を走り抜けているのだ。初めて見る光景に思わずミカドの方を向く。
「ノクタスが走ってるよ!サボネアも走ってるよ!つか普通走らないよあれのポケモン!」
思わず言葉が乱れるのは仕方がない。ミカドも初めて見た光景に目が点になっている。そうこうしているうちに、走るノクタスは遠くへ行ってしまったが、後からまた別のノクタスがやはりすごいスピードで走ってくる。
「知らないのかナギ、あれはノクテンダーっていって、砂漠を走る謎のサボテンポケモンだぜ。」
遠いせいか、ノクテンダー(?)は人間たちに気づかず、そのまま走りたい方向に走っていった。そういえば、その方角はアゲトビレッジの方角を向いている。
「水でも飲みにいったかな・・・。」
ナギはノクテンダー(?)の後姿が見えなくなるのを確認すると、再び地図やメモを確認した。空高く飛ぶ影には気づかずに。
再びシズイが目を覚ましたのは、ガーネットがシルクから降りるときだった。振動で目が覚め、まわりの景色がすっかり変わってしまっていることに驚いていた。
「ここ、どこなんですか?」
「パイラタウン。何か地下にいくみたいだけどね。」
何か楽しそうなミカドはサフィリスと打ち合わせしている。何か秘密なことでもあるのか、行き先を決めるときはいつもこの二人はこんな感じだ。二人っきりでこそこそと誰も寄せ付けないでやっている。いつもなら誰も放っておいてある二人だったが、今はなぜか気になって仕方がない。
「そうだなあ、エレベーターに乗るには、5人だから、二人ずつで操作できるのは・・・。」
「お前こんなところで川渡りのクイズ出さなくていいから!」
いつものとおりのボケとツッコミ。仲のよい漫才コンビにも見えなくないが、やはり重要なところはヒソヒソとしている。そういうタイプだったかなあとガーネットは後ろを振り返る。起きたには起きたシズイがぼけーっと空を見上げながらシフォンに寄りかかってる。
「・・・大丈夫かな。」
こういうときの不安というのはあたるもの。ガーネットもそうだがミカドも感じていた。地上に吹き抜ける風は予兆を知らせていることに。地下に風は吹かないと。
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