ここに来て、何の意味があるんだ・・・?

 マグマ団のこと、知っていたから来たのか?
 それとユウキのことも知っていたのか?
 
 それを聞いてどうするんだ・・・。

 それで過去が変わるわけではないのに。


 それに、生きてるかどうかも解らないのに。


 金色の砂を踏み締め、通りすがりに目についたスタンドへと入る。汽車のような形をした珍しい建物。ここオーレ地方は変わってる。だから誰も名乗りをあげなかったと、古い記憶を手繰り寄せて思った。

「おれがいく!たのしそーじゃねえか!」

いつもの調子だから解らなかった。それに、親の無いあいつにとってはどこでもよかったんじゃないかと思っていた。子どものころは。でも今は違うことが、浮かんでいる。深い疑惑が。
「いらっしゃい。」
カウンターの奥にいるマスターが響きのあるテノールで呼んだ。席にも座らず、一直線に向かう。
「聞きたいことがある。」
「なんだい?知ってる範囲ならなんでも答えるぜ。」
彼の眼光は鋭かった。怒りと悲しみ、そして少しの期待がこもっている。
「この地方には、スナッチ団という窃盗集団がいるだろう?」
「ああ、いるな。」
「その中に・・・顔は解らないが、くずきりみかどという人物がいるのを、知っているだろうか?」
「・・・この地方の人じゃないな、あんた。」
一瞬、彼の眉間にしわがよる。
「確かにホウエンから来たが、どういうことだ?」
「あまり近付かない方がいい。スナッチ団に知り合いがいたのか知らないが、あそこにいたやつは、みんな死ぬ。知らないわけじゃないだろう?」
他の客から注文が入り、マスターは背を向けた。それでも、納得がいかないと、カウンターを乗り越える勢いで食らい付いた
「確かに、生きてるか死んでるかも解らない。けど、俺は探さなきゃいけない。」
「・・・ま、それほど大切なら、命かけて戦う覚悟がないとな。あそこの他人軽視は酷いものがある。抵抗するなら容赦なく人を殺しもする。つい最近も、通りすがりのトレーナーが心臓を撃ち抜かれて死んでいた。ポケモンは何一つなかった。」
黙ってマスターは氷の入ったジンジャーエールをテーブル席の客に出す。戻ってきたマスターは再び口を開いた。
「そんなに大切なのか?その人物が。」
「ああ、大切というより、聞きたいことが山程あるんだ。それを聞いたところでどうすればいいのかは解らないが、聞かなきゃいけない。」
「そうか、そこまでいうなら何も言わない。」
スタンドの中に電話が鳴った。マスターが取り、一言二言だけ言うと奥へと引っ込んだ。情報を聞いたかわりに何か頼もうと、カウンターの席に座る。

「よぉ、スナッチ団探してるんだって?」
と、対照的にテンションが高いやつが話し掛けて来る。さっきジンジャーエールを頼んだあいつだ。どうどうと来て隣に座った。
「やめとけ。」
「そりゃわかってる。でも、俺はそいつが何を思っていたのか知りたい。」
「何を思っていたって?」
「そいつはホウエンに住んでた。そいつがどう思っていたか知らんが、俺はそいつと仲良かった。でもある日、そいつは仕事のせいで、オーレ地方のスナッチ団に潜入することになった。しばらくは連絡がきたのに、突然こなくなった。生きてるのか死んでるのか、それは解らない。でも、なんでオーレに行ったのか、それが知りたい。」
生姜が効いたか、男はむせた。
「いやいや、そんな堅苦しく考えるなって。」
「は?」
「そいつは行きたいから行った。まあ行きたい理由はどちらにしろ、それでいーじゃねーか。なーんも考えるこたぁねえよ。」
氷をじゃらじゃらならし、テーブルにおいた。そして、視線を見て話しはじめた。さっきとはうってかわってまじめに。
「それより、むしろ俺はそっちのこと聞きたい。南の海が汚染されたような悲壮な風。最愛の女をなくしたばかりの風にしか見えないんだが、もしかして探してる相手は・・・。」
「違う!」
相手はひいた。さっきまでと違い、いきなり怒り出せば誰でもそうだ。咳き込むような早さ。
「そいつが知っていたか知らなかったか、知っていたなら俺はそいつに裏切られた。そいつが俺に教えてくれれば、事件は全部防げたんだ!」
マスターが戻って来る。気にもとめず、そいつはいきなり笑い出した。何がおかしいのか、笑いは止まらない。
「あのなあ、そいつが知ってたとして、お前に教えるとすんじゃん?でさあ、お前そのことだと思って行動できるか?俺だったら無理だね〜。」
「・・・は?」
「堅いね〜つーか暗いっていうか。だから、お前がそのことをそいつから聞いていたとしても、何ができるってこと。本当に今の状態が変わってたかっつーとそうでもねーだろ?」
あ、マスターもう一つ、とそいつは気軽に頼んでいる。返事と共にマスターは新しく氷を入れ直した。
「で、そのことが防げなくて、自分に責任感じたくないからそいつに転嫁しよーってのも間違いだけどな。」
何も言わなかった。確かに聞いても意味がないことはわかっていた。もう過去は変えられない。それでも、自分の中でどこかそいつに責任転嫁する気持ちがあったのは確かだ。
「確かにそうだな。」
「そうだって。つーか飲め。砂漠じゃー水分とらんと。」
話を聞いていたか、マスターは気をきかせてもう一つ出してくれた。感謝しつつ、口にするも、ここのジンジャーエールは生姜が非常にきつい。舌には痺れるような空さしか残らない。冷たいはずなのに、口の中は火を吹きそうだ。
「そういやさ・・・。」
同じものを飲んでいるのに、そいつは全く平気でいた。
「昔、同じ風を持ってるやつがいたよ。青くて深い海を思わせるやつ。俺はそいつが好きでしょーがなかったんだけど、大人から聞かされたんだよ、そいつが死ぬって。何年も前だから、もう死んでると思う。
 ただ、そいつを裏切るのだけは嫌で、俺は逃げたんだよ、オーレに。仕事といって。その時のことを今になっても思うんだ。あの時、俺は残ってそいつに言えばよかったと。まわりの大人、全員裏切る事になっても、伝えてやればよかったと思ってる。」
さっきまでの態度とうってかわった神妙な話し方。それに思わず聞き入ってしまった。誰もが過去を後悔し、あの時こうであればと思っているのは変わらない。同じような境遇だな、と共感せずにはいられない。
「そいつは俺が来たこと、恨んでるんだと思う。」
「いや、そうじゃねえだろ。俺がそいつを恨んでない。ただ、知っているかどうか聞きたいだけで、それ以外のものは何も思わない。ただ、知っているなら知っていたと正直に知りたいんだ。だから、そいつは絶対、お前のこと恨んだりしてない。」
「お前に言われるとなんかそう思えて気が楽になる。」
空になったコップとコインを数枚カウンターに起き、そいつは立ち上がる。
「だろ、ほっしー。」













「ってちょっと待て!おい!」
もう店を出るそいつを引き止める。名前を呼ばれたから思わず馴染んでしまったが、なぜ初めて会う人間が名前を知っているんだ。思わず近付いた。
「なんだよ?」
「なんで俺の名前を知ってる?」
「・・・トレーナーカードがちらっと見えた。あんまりそういうのこの地方じゃ見せない方がいいと思って。んで、お前の名字なら絶対みんなからそう呼ばれると判断したから。文句ある?」
にっこり笑うそいつは、絶対何か隠している。
「お前・・・名前なんていうんだ?」
「知りたい?つか知ってると思うぜ。俺は・・・。」
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