ポケモンの状態も万全だ。今度こそやられるわけがない。悔しいがサカキのポケモンの腕は自分より上だと認めている。アジトの周辺を歩いていた。ヘルリンが夏椿に囲まれながら、警戒している。近くにいるのだ、ロケット団が。
「ヘルリン?どうしたの?」
飛び出した。そこにいるロケット団員に向かって。先手を打たなければこちらがやられていた。フーディンを連れている。
「ヘルリン!噛み砕けぇっ!」
フーディンの念力を受けず、力いっぱい噛み付いた。
「いいよヘルリン!」
レンちゃんが攻撃をやめるよう指示すると、サカキはそいつの前に立った。ロケット団員の顔色が見る見る青くなるのが解った。
「ま、まさかサカキ様・・・。」
「さて、お前らを束ねてるやつのところへ案内しろ。直接ヤキいれてやる。」
「は・・・はいっ!!!」
いなくなっても権力は絶大だ、とレッドは思わざるおえない。
ロケット団員は黙ってアジトへ引き入れた。不思議な組み合わせだと口も挟めず。
「お前が勝手にロケット団をまとめてるやつか。」
近くで聞いていたレッドが思わず震えたほどだ。サカキの怒りはその後に何があっても、言ってしまえば殺されても不思議では無い。
「!これはサカキ様・・・どこへ行かれていたのでしょう。」
「そんなことはどうでもいい。お前、メモを見ただろう。」
「ああ、あの方法・・・その御子息からお聞きになられましたか。総帥が私たちに残してくれるとばかり思ってましたよ。メモを発見した時はそれはそれで大喜びでした。」
「そんなことは聞いてない。」
「そして、試してみたのです。7の島に生息する珍しいポケモン、ヨーギラスに。見る見るうちに進化して、今では最強のポケモンとして君臨できました。サカキ様には感謝しております。」
何かを感じた。サカキの息が荒い。肩で息をしている。怒りからではなく、無理して立っているようなそんな感じだ。
「サカキ様、無理をなさらないでください。私はサカキ様の後ろ楯を得てロケット団の次の総帥となり、世界を支配するのです。御子息では無理でしたから、サカキ様にしていただかなければ!」
バンギラスがボールから出た。うなり声をあげて、エネルギーをためる。そのエネルギーはサイドンが受け止めた。後ろにいても余波は感じる。
「くっ・・・ダメだ・・・持たない。」
「父さん!?どうし・・・。」
膝をつき、サカキは伏せた。サイドンは指示を待っている。レッドはサカキの胸から小さなバッチをはずした。グリーンバッチ。どんなポケモンでも言うことを聞かせられるという、トキワシティのジムリーダーもかねていたサカキならではのものだった。
「サイドン!カウンター!」
疲れて動けないバンギラスに向かってサイドンはありったけの力でぶつかる。自慢の太い角をふりかざし、バンギラスを突き飛ばした。
「おじさん大丈夫!?」
レンちゃんがサカキの顔を覗き込む。
「もうちょっと・・・練習すべきだったな。ごめん、レッド君。レンちゃんも、ちょっと離れてて。」
形が変わる。まさかそんなことは無いと思っていたのに、手は短くなり、足も短くなり、肌は白く、ところどころ緑色。レンちゃんは今朝みた妖精そのものだとはっきり自覚した。
「な、せ、セレビィ!」
振り向いたレッドが驚かないわけがない。サイドンの指示を止めるわけには行かない。
「ごめん、レッド君・・・騙すつもりはなかったんだけどさ。君がここで死んじゃうのは、歴史が変わっちゃうから。」
むしろどこで「変身」なんていう技を覚えたのかを知りたいが、サカキに変身してたということが解ったいま、サイドンに指示できるのはレッドだけなので、聞く暇もない。
「セレビィ!?ほう、これはもっと好都合。なぜセレビィが総帥の御子息の味方をするのかは知りませんが、珍しいポケモンです、捕獲させていただこう・・・。」
「そうはいかない。僕だってそんなもんの為に来たわけじゃないんだから。」
セレビィの体が光る。
「バンギラス・・・君は成長をゆがめられた・・・もう戻っていいんだよ、僕が戻してあげる。本来の君に戻るんだ。」
どんどん体が縮む。それは進化前のサナギラスへ、そしてさらに時間は戻る。見つけた時のままのヨーギラスへと。
「ふぅ・・・さて、これで有利だね。こっちにはあのサカキが育てたサイドンがいるんだから。」
苦虫を噛んだような顔をして、セレビィとサイドンを睨む。
「くっ、もう少しだったのに・・・もう少しでロケット団を支配できたのに・・・。」
「所詮、父さんの力を借りてやることだ、失敗するに決まってる。」
まだ暴れ足りないとサイドンは猛っている。レッドは目の前のロケット団員を責める気にもならなかった。あまりに卑屈なその姿は哀れみさえ感じるのだから。
「・・・約束してもらうか、もうライムちゃんに執拗に手出さないこと、そして二度と活動しないこと。」
「・・・それは出来ません・・・なぜなら貴方はここで死ぬのですから!」
伏兵のようにそれは飛び出した。サイドンと同じくらいのニドキングがいきなり角を回転させ、突き刺したのだ。角ドリル、どんなポケモンでも当たれば致命傷となる、一撃必殺の技。
「サイドン!」
意識は無い。レッドに呼ばれてもサイドンは答えず、大きな体を倒した。
「そんな、一匹だけだと思ってましたか?まだまだいるんですよ・・・カントーのと違って、ナナシマのロケット団は全員強化していますからね。ほら、油断していたら囲まれます・・・。」
ヘルリンが最初に反応し、リュックにしがみついてるマイラが次に反応した。ヘルガー、ペルシアン、ラフレシア、エアームド、ピジョット。時間が経つにつれ、どんどん増えるポケモンたち。正常な育ち方をしていないので、鳴き声やうなり声が変に聞こえる。
「シアン君、ライムちゃん、行くよ。こっちはレンちゃんたちがやろう!」
「ガラリーナ地震!」
ニドキングに向かって力をぶつける。
「セレビィ、なんとかならないのか?いくらなんでもこの数は無理だ。」
「全員戻せばいいんだよね。でも、時間が掛かる。ほろびの歌を歌うまで時間を稼いで欲しいんだ。」
「解った。それとセレビィ、どうしてわざわざ父さんの変身してたのさ?」
「どうしてもレッド君に伝えたいことがあったから。じゃ、頼むよ!」
セレビィは歌い出す。時間を戻す旋律を。
ガラリーナは骨を回転させたまま、ニドキングにぶつけた。骨ブーメランは行きと帰りの両方のダメージを与える技。それを食らってもなおニドキングは戦える。
「ただのポケモンじゃあやっぱりないわけだ。」
その育て方はレッドも知っている。いますぐ出来るものであることも知っている。適わないとわかっても使う気にはなれなかった。
ポケモンがポケモンじゃなくなる気がして。そして、みんながみんなでなくなる気がして。
「マイラはバブル光線!ヘルリンは大文字!」
「パン、サイケ光線。」
「りむ、やどり木の種!」
一匹一匹指示しても追い付かない。まとめてしとめる方法があれば教えてほしいくらいで、特に動きの素早いペルシアンを攻撃するのは難しい。おまけに力も強く、マイラが受けた爪跡は深かった。甲羅にしっかりとついている線はリザードンにでも切り裂かれたものに近い。
「マイラ大丈夫!?ヘルリンは!?」
戦い慣れしているせいか、ヘルリンは飛んで来るエアームドに炎を吹き掛け、風を起こすピジョットに噛み付いて攻撃している。そのヘルリンの攻撃でさえあまり効いていないみたいで、ダメージは期待してない。
「・・・あ、そうだ、シアン君、ライムちゃん、ちょっと敵から離れて!」
「どうしたの?」
「いい方法があるかも。マイラ!」
解った、とでも言うようにマイラは手足と首、しっぽを甲羅に引っ込める。殻に隠る技ではない。
「行け、頭をねらって高速スピン!」
水の中から飛び出したマイラの高速スピンをレンちゃんが知っていたのかは解らない。けれども、マイラはその速さを武器に次々に相手ポケモンの頭を特にねらってあたっていく。途中で減速するも、再び勢いをつけて。
「よし、ヘルガーとペルシアンはなんとかなった!」
2匹とも目から星を出して倒れている。頭に強い衝撃が今までなかった為、効果は抜群だ。もちろん、その後に当たるエアームドとピジョットも例外では無い。
「後は、フィーリン、ラフレシアを眠らせて・・・いや、それだけじゃないか。」
数は増える。ポケモンの種類も増えている。マイラで気絶させたのはいいが、代わりはいくらでも増えていっているのだ。レンちゃんはシアンを見つめる。
「ねえシアン君、歴史変わっちゃうっていってたよね?」
「・・・そうだね。」
「でも、仕方ないよね、ここで死んじゃうのも、歴史変わっちゃうもの。」
「・・・そうだね、仕方ないよ。行くか、レンちゃん。」
「うん、おいでクラッチ!ラッチェ!」
レンちゃんの投げたボールから緑色した2メートルはある竜が、そしてもうひとつのボールからは全く動かない抜け殻が。
「クラッチ、風起こし!ラッチェは剣の舞!そんでシャドーボール!」
抜け殻から黒い塊が発射され、噛み付こうとしたポケモンの口の中に当たる。頭を叩かれたような衝撃で、一瞬怯んだ。緑の竜は2枚の翼を使って強い風を起こす。
「よし、サポートだキュウ!」
シアンの投げたボールからは青く大きなセイウチ。太い2本の牙が特徴だ。
「氷の礫を降らせろ!」
吠えたと思うと、まわりの気温が一気に下がる。気付けば天井近くに氷の塊が浮いていた。それがくだけ、クラッチの作る風にのってポケモンたちを切り裂く。
「な、見た事もない・・・ポケモンなの!?」
「うん、でも、20年後には普通にそのへんにいるポケモンだよ。」
再びクラッチに指示すると大きな口をあけて噛み付いた。ラッチェもクラッチに当たらないよう、配慮してシャドーボールを打ち続けている。
「戻れガラリーナ!」
何度やってもニドキングとは勝負がつかない。ヒビが入った太い骨では骨こん棒で殴っても対したダメージは無いのだ。それなら力のあるセイに変えるしかない。
「セイ、叩き付けろ!」
太いしっぽが振り回される。その勢いでニドキングはロケット団の方に吹っ飛んだ。しかし、冷静にかわすと次の命令をしてくる。
「角ドリル。カイリューでも一撃で仕留めてしまえば問題ない。」
「高速移動っ!」
狭い室内で、セイはさらに素早く動く。速ささえあれば避けるのにも問題ない。向かって来るニドキングをさらっとかわし、おまけにサマーソルトのよう足で蹴りあげる。その後、おまけとしてしっぽの攻撃も。
『聞くんだ・・・僕の声。君たちはそんな無用な戦いをするべきじゃない・・・・。』
セレビィが光った。そして歌が聞こえる。レッドや、レンちゃん、シアン、ライムにもそれは届く。ポケモンたちにも届き、異常なものは苦しみ出す。
『大丈夫、素直に、力を抜いて。君たちは本来の姿じゃないんだから。』
ニドキングが倒れる。そして普通のニドリーノに。その他のポケモンも本来の大きさに戻ったり、無理矢理進化したものは元の姿に戻っていく。
「これで、全部かな・・・苦しかったね・・・よく戦った。」
レッドはセイをボールにしまう。そしてロケット団員に近付いた。
「どんな腐ってもロケット団なんだな。僕はお前らを絶対認めない。」
「ひっ・・・た、たすけてー!!」
レッドに眠る気迫に押され、ロケット団員はニドリーノを見捨て、一目散に背を向けて走り去る。誰もあんなやつについて行かないだろう、とレッドは思った。そして残ったロケット団員たちも蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
「終わったな。」
みんなの無事を確認するとレッドはため息をついた。
「でも、もう一個作業が残ってる。それを手伝ってくれるか?」
「セレビィが書いたメモ探すんでしょ!」
とレンちゃんはすでに本棚に張り付いている。
「レンちゃん、セレビィじゃなくて、セレビィが変身してたおじさんが書いたメモだからね。あったら教えてほしいんだ。」
誰もいなくなったアジトは広い。その中の本棚や机の中、果てはパソコンの中まで探す。
レッドが入り口付近の本棚を探っている。セレビィが手伝おうと飛んできた。
「レッド君。」
「なに?」
「君に話しておこうとおもったこと、今でいいかな?」
「うん。」
セレビィは一番上の本棚を探っている。レッドの背の届かないところでちょうどよい。
「サカキさんに変身した時、記憶も一緒に変身したんだ。」
「うん。」
「その時、君がロケット団を解散したきっかけの時とか、君が生まれた時のこととか、全部解ったんだ。」
「そう・・・。父さんは僕を嫌っていた。総帥の息子なのに、欠陥だらけの僕のこと。それに、母さんのことだって・・・」
「いや、そうじゃないんだ。」
あまりにほこりをかぶっている本を出してしまい、思わずむせる。そしてページをペラペラとめくった後、元の場所に戻す。
「君に妹がいるね。」
「え!?妹?イエローでなく?」
「僕も最初疑った。でも、今はっきりしたんだ。これをみて。」
分厚い本に挟まれていたひとつの写真。それを見て、レッドは何も言えなかった。自分と同じベビーベッドの中にいる、もう1人の子。二人とも少しだけある柔らかい髪が赤い色をしている。夕日のように赤い色。
「なっ・・・もしかして、僕は双児だったのか?」
「そう。君には妹がいる。」
「名前は・・・名前は書いてないのか?」
よくみてもどこにも名前がない。あるのは家族の名前だけ。それはまぎれもなく父親の名前である。
「さらに君のうまれる前の記憶も出てきたよ。君の家族はナナシマ、6の島にある印の林を守る一族だったようだね。」
「そうなのか!?こんな近くに・・・。」
「ただ、絶対にナナシマを出てはいけないと言われていたそうだけど、君のお父さんだけはカントー本土に渡った。」
他にも無いかとセレビィは他の棚も探す。レッドの手が完全に止まってしまっているから、セレビィがしなきゃいけないこと。
「なぜ?やっぱり父さんは跡継ぎだったの?」
「そういうわけじゃないみたい。君のお父さんは両親と、他の兄妹と喧嘩までして出ていったんだ。なんでも、一族にはある噂があって。」
「噂?」
「島を出るのは裏切り者。裏切り者の末裔は髪が赤く、その血縁が誰か死ぬまで呪いがかかるとか。事実、君の髪も、妹の髪も赤い。」
「呪い・・・呪いなのか?」
「呪いっていうのは言い過ぎかな。でも、何かレッド君にはあるようだけど。」
レッドは黙ったままだった。何か考えているからセレビィは口を挟まず、メモの検索にあたっている。
「セレビィ、過去の父さんを見たんだろ?だったら教えてくれ。なんで父さんは僕を手元に残し、妹を捨てたんだ?」
「君が入院していたから。君を死なせたくなかったんだ。君のお母さんとひきかえに残した命だから。」
「それならなぜ・・・。」
「その後、その子に『シルヴィア』という珍しい名前をつけてサカキさんはジョウトのウバメの森においていったようだね。僕はそこ見て無いけど。」
「シルヴィア・・・まだ生きてるのか?」
「君と同じような感じがする子は確かにまだいる。おそらく、自分がサカキさんの娘だと知らずに生きてるんじゃないかな・・・。」
「ジョウトか・・・。」
写真を見つめ、レッドは動かない。
「レッド君、君はお父さんに愛されて無いと思ってたみたいだけど、それは違うよ。事実、君はまず『どこいってたんだ?』と聞いたよね。」
「そう・・だったけな?」
「それに、サカキさんは君を選んだんだ。生まれた後に異常があると知っていても。君を愛してたんだよ。だから自分に反抗するのが悲しかったから・・・。」
「そう・・・か・・・。セレビィ、ありがとう。」
その途端、奥の方からレンちゃん声が聞こえた。見つけた!という大きな声。
「あ、見つかったみたいだね。」
「そうみたい。こっちはもういいよね。」
「レッド君、君にはなぜ名前つけられなかったか解るかい?」
「・・・いや・・・。」
「どうしてもつけられなかったんだ。忘れ形見の君をどうしてもある存在に固定することは出来なくて。だから君に『レッド』という仮の名前を与えたんだ。」
振り向いた瞬間、レンちゃんが張り付いた。背中にはやっぱりマイラがしがみついている。
「これでしょ!見つけたよ!」
「お、うん、そうそう。これだ。こんなもの燃やしてしまうのが一番だね。」
ヒートのしっぽの火にかける。紙は何の音もたてずに静かに燃え、灰となって落ちる。
「あとねー、パソコンに『電波が成功』って書いてあったけど、それはどうしたらいい?」
「電波が成功?いいよそれは。どうせナナシマの情報を封鎖した時に使ったんだろうから。」
「そう?じゃあ帰ろう!悪いやつらやっつけたし、帰ろう!」
レンちゃんがスキップをするように出口へと走っていった。開いたドアから、風にのって夏椿の香りがまぎれてきていた。
「セレビィ、お願いね。」
シアンは言った。5の島から少し離れた小さな島で。
「うん。ごめんね、無断で連れてきちゃって。どうしても来てほしかったんだ、ロケット団との抗争でレッド君が死んじゃったら歴史が狂っちゃうから。じゃ、帰るよ。」
「あ、待って!」
レンちゃんはそこにあった花、夏椿を一輪摘んだ。
「ライムちゃん!20年くらい後、また来るから!そしたら、また遊ぼうね!」
「・・・ありがと。ねえ、レンちゃん、この島の名前知ってる?」
「うーん、知らない。」
「ここは思い出の塔。何か忘れたくないことがあるとここにお祈りするの。そうすると絶対に忘れないのよ。だからレンちゃんとシアン君のことは絶対に忘れないわ。」
レンちゃんは笑った。セレビィはレンちゃんとシアン、二人に触れるとその場から消える。時間を遡り、元の世界へ。
「・・・行っちゃったね・・・。」
「・・・そうね。レンちゃん・・・あの子、私を妖精みたいって言ってくれた。」
「そうなんじゃないかな?実際ライムちゃんはグリーンと違ったかわいさがあるし。」
レッドは消えた方向に背を向ける。そしてセイのボールをあけた。
「レッド、もういっちゃうの?」
「うん、6の島にある印の林に行かなきゃいけないんだ。」
「ねえ・・・レッド、行かないで・・・。」
左腕をつかんだ。
「・・・ごめんね。」
「お願い・・・私を連れていって!私にはロケット団から助けてくれた貴方しかいないの!」
レッドは黙ってライムの手を握る。そしてゆっくりと自分から離した。
「ごめんね、ライムちゃん。君にはもっと素敵な男性がいるはずだ。ライムちゃんの気持ちには応えられない。」
「そん・・・。」
「でもね、ライムちゃんのことは好きだから、また会いに来るよ。それに、ライムちゃんがグリーンに堂々と会えるような世の中にするために、僕はロケット団を倒し続ける。それは約束するよ。」
「レッド・・・ありがとう。」
「じゃあ、また。」
レッドはセイに乗ると空へ舞い上がる。強い風がライムに吹き付けた。大きなカイリューは、すぐに海の彼方へと消えて行く。
「レッド・・・ありがとう。」
気付いたら、二人はたからの浜にいた。セレビィの姿はすでにそこにない。レンちゃんとシアンはここが元の世界だと確認するため、両親たちがいるはずの方向へ向かう。
「おとーさぁん!おかーさぁん!」
レンちゃんの声に気付いたか、お父さんはこっちに振り向いた。シアンのお母さんもその声には驚く。
「レンちゃん、どうしたの?」
と言う前にレンちゃんはお父さんに飛び乗った。
「ねーねー、お父さん!」
「なに?」
「明日からナナシマ探検いってきていい!?会いたい人がいるから!」
「会いたい人?友だち?」
「その必要、ないんじゃないかしら?」
お父さんが手を振った。声の主に。
「私でしょう、レンちゃん。シアン君。久しぶり。」
そこにいるのは、年月こそ経って少女の面影はないものの、レンちゃんが忘れるわけがない人。
「ライムちゃん!」
お父さんから飛び下りると、レンちゃんはライムに飛びつく。身長なんてもう追いつけないほど伸びている。それにさらに大人になっている。しかし、ひとつだけ変わらないものをレンちゃんは発見した。
「ライムちゃんって、やっぱり夏椿の妖精だよね!いい匂い!」
「ありがと。姉さん久しぶり、義兄さんも。」
レンちゃんと手をつないだまま。
「ライムひさしぶり。ライムもカントーにくればいいのに。」
「いいのよ姉さん。私はナナシマ大好きだから。それにいいじゃない、こうして会う時があるんだから。あっ・・・。」
ライムはバッグから綺麗に作られた白い羽のようなものを取り出した。
「はい、レンちゃん。あの時のお返し。」
頭に乗せられたそれは、夏椿の大きな花環。レンちゃんはそれを確認すると嬉しくて嬉しくてたからの浜を走り回る。ヘルリンはついていけないのでお父さんの隣で座っていた。
希望を捨てないものは、やがてたどりつく
誰もが夢みた幸福へ
「レンちゃんね、ライムちゃんが幸せそうですっごく嬉しいよ!」
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