巨大な会場は 歓喜にうねっていた。
まもなく、この場所で 大きな祭りが始まる。
「ポケモンリーグ」 ポケモントレーナーたちのための、ポケモントレーナーによる最大の祭典。
そこに、足を踏み入れようとする、1人の少女の姿があった。

「・・・・・・やってんな、聞こえんだろ? あの楽しそうな声・・・」
連れ添ったポケモンはうなずいた。
優しい瞳を持った少女の連れは 不安げに少女にしがみつく。
「大丈夫、ずっと この為だけにあたいたち、やってきたんだろ?
 やっていけるさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行こう!!」



【ポケットモンスター】
各地の草むら、洞くつ、果ては街や海や河の中に生息する
人間を含まない生物の総称。
その全てが特殊な能力を持ち、モンスターボールと呼ばれる 特殊な機械の中に入ることで人間に従属する。
略称・ポケモン


ELEVEN×ELEVEN REPORT
PAGE1.少女と少年と


話は、1年ほど前にさかのぼる。
その少女がいたのは、黒い空間だった。
黒のビロードの幕がかけられ、大勢いる人々の服も、全て黒、そして、人々の心の中にある色も、黒で染められていた。
主役のいない舞台、
その代わりに助演として立っているのは、まだ成年してすらいない少女だ。


「・・・かわいそうに、あんなに仲の良い母子だったのに・・・」

黒い服を着た女性が、旦那らしき男にささやいた。
2人の視線の先には大きな箱を抱き、枯れることもなく涙を流し続けている少女がいる。
誰も笑うことのない葬式、それは、空へと昇っていった人物が まだ若かったことを示している。


「・・・だけど、あの子の父親、一人娘に構っていられないらしいのよ、仕事が忙しくって。」

「ジムリーダー、だったかしら? 因果な仕事よね・・・・・・・・・」

「でも、だったらどうするつもりなのかしら、あの子のこと?」

「親戚の家に預けるらしいわよ、ずいぶんと田舎町の・・・」




―――――ゴトンッ、


「・・・・・・いったぁ・・・」
大きな机のかどに頭をぶつけ、少女は声を上げた。
痛む頭を押さえ、辺りを見まわす。
薄暗く、狭い空間。山積みになった荷物が 震える地面のせいで いちいち音を立てている。
「夢か・・・嫌な夢・・・・・・」
再び頭をぶつけないように 角張った(かくばった)机のかどを手で押さえながら少女はつぶやいた。
うっすらと光の糸が差し込むホロに目をつけると、スキマを手でこじ開け、首から上を外にのぞかせる。
景色は後ろから前へと進んでいった。
少女がいたのは、少しだけ古びはじめた トラックの中。
「・・・・本当に、夢だったらよかったのに。」
森に囲まれた道をトラックは揺れ続けながら走り続ける。
全ての始まりは そこからだった。







ホウエン地方――緑が多く温暖な気候によって、大きな葉の木がよく育つ。
枯れ落ちた葉は雨水を清め、清められた水は様々な生き物をはぐくみ、その繰り返しで大きな自然は留まるところを知らなかった。
しかし、例外もあった。
ミシロタウン、風向きの関係でわずかばかりの変化が起こり、他の干渉を寄せ付けない。
はるか昔より同じ木のみが育ち、同じ草を生やし続ける。
それゆえ、この小さな町は 人々からこう呼ばれていた。

――――――――どんな色にも 染まらない町、と。



「・・・・・・・・・ユウキ!! また、こげんなモン集めちょったか!?
 父ちゃん お前をそげな子供に育てた覚えはなかと!!」
「触らんといてや・・・大事な商品なんやから・・・」
大きな家から 父親らしき男の怒鳴り声が響く。
どこの家庭にも見られる、親子ゲンカというものなのだろう。
「聞いちょるか、ユウキ!!?」
「・・・そないに怒鳴らなくたって、じゅーぶん聞こえとる。
 ワシは急がしいんやから、それだけやったら、あんまり構わんといてや。」
同じ家の子のはず・・・なのだが、なぜか少々なまり方がかみ合わない。
「一体、なんなんね!?
 そげんおかしな話し方、どこで誰に習ったとね!?」
「別に、誰にも習ってへんよ。
 自分で調べたんじゃ、本場に行っても恥かかへんようになぁ。」
「なにが本場とね!?
 家の仕事も手伝わんと、お前一体何になろうとしとるけん?」
「決まっとるやろ・・・」


少年は振り返った。
ボール型のロゴの入ったバンダナで纏め上げられた白い髪、赤のラインの入った黒い服。
そして、グローブのはまった手に収められた、小さなそろばん。
「商人(あきんど)の本場言うたら難波(なにわ)じゃ、
 ワシは、世界一の商人、サファイアになるんや!!」


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