【ポケモントレーナー】
ポケモンを捕まえ、付き従わせている人間の総称。
その多くが、育て、戦わせることを目的としている。
ポケモントレーナーとして行動し、賞金などの入る戦闘を行うのには 別途『トレーナー税』が必要。
しかし、大半の人間は採算が合うほど稼げないので、その半数近くが子供というのが現状。
略称、トレーナー。


PAGE2.どこにでもない出会い


―――――――ガタンッ、


小さな揺れを最後に、少女を乗せたトラックは停止した。
半分寝ていた少女の瞳に うっすらとした明かりが差し込む。
ホロが誰かの手によって開かれたのだ、その人物を少女は見ようともしないが。



「ハルカちゃん?
 着いたのよ、ミシロタウンに!! ・・・・・・眠っちゃったのかしら?」
30代の後半・・・もしかしたら40代かもしれない女の人が 少女に声を掛ける。
それでも少女は微動だにしない。
「・・・・・・起こしちゃ、いけないかしら?」
「いえ、起きています、叔母様(おばさま)。」
少女は体を反転させると 立ちあがってトラックの中から飛び降りた。
必死の笑顔を見せる女の人の横を通りぬけると、どこかへと歩き去ってしまう。
「ちょ、ちょっと、どこ行くのハルカちゃん!?」
「散歩です。
 ずいぶん長い時間トラックの中にいたので疲れました。」
あっという間に少女の姿はなくなってしまう。
後に残された女性は ふぅ、と1つ 大きなため息をついた。
「笑いもしない。
 ショックなのは分かるけど・・・・・・人に対する態度ってものまで忘れちゃったのかしら、あの子?」



少女は無言のまま田舎道を真っ直ぐに歩き続けた。
どこに行くわけでもない、行くあてがあるわけでもない、横道にそれて景色を楽しむわけでもない、ただ、真っ直ぐ。

「くけ?」
聞いたこともないような鳴き声に話しかけられ、ようやく少女は振り向いた。
少女の背後に、小さなオレンジ色の鳥のようなポケモンがいる、そして、つぶらな2つの瞳で少女のことを見上げているのだ。
「・・・・・・・・・・・・?・・・」
少々首をひねっただけで、少女はまた真っ直ぐに歩き出した。
ところがこの鳥、後をちょこちょことついてくる。
「・・・邪魔、ついてくるんじゃないよ。」
非常に冷たい声を少女は放つ。
そんなことはお構い無しに オレンジ色の鳥は後をついてくるのだが。





「・・・・・・・・・うぉあああ―――――ッ!!!?
 アチャモぉ、キモリぃ、!! どこに行ったとね―――――!?」
ひげの男が必死に何かを探しまわっていた。
雑誌、壊れにくそうなプラスチックの瓶、ダンボール箱・・・様々なものが 散らかった部屋の中を飛びまわる。

「うるっさいな、何をそんなに騒いどるんや、親父ぃ・・・」
好き勝手な方向に生えている白い髪を掻き揚げながら、少年は部屋から登場した。
「アチャモとキモリがいなくなったばい!! ユウキ、あんたも探すの手伝っちょくれぃ!!」
「なんぼで?」
「は?」
ユウキという名の少年は 親指と人差し指で丸を作って見せる。
「頼み事をする、ワシがそれを達成する、それは立派な『契約』や。
 当然、報酬っちゅうモンがないと、割には合わんよなぁ?」
「こんの・・・・・・ごうつく息子がぁ!!
 そんなん後の話ばい!! ミズゴロウを連れて、とっとと出掛けんか!!!」
「はいは〜い、しゃあないなぁ・・・・・・・・・行くで、カナ。」
少年は軽く肩を落とす。
動くのが楽しそうな 水色の4本足の動物を足元に従えると、ゆっくりと扉を開いて、外へと歩きだした。


「・・・まったく、あの親父にも困ったもんやで・・・金にもならん研究して、どうするっちゅうねん?
 ・・・・・・・・・・・・・・・お?・・・」
ユウキは目の前で視線を止めた。
小さな町の中では見慣れない 知らない女の子が真っ直ぐにこちらへと向かって かなりの早足で近づいてくる。
「なんやなんや、この辺では見いひん子やな?
 あ、せやせや、会って早々なんやけど、姉ちゃん、このポケモンフーズ、買ってくれへんか?」
「お断り。」
少女が一言で済ませると、ユウキは大げさ過ぎるほどにのけぞって見せた。
「そんな・・・・・・見てもくれへんやなんて・・・・・・・・・
 これが売れんと、ワシの家族が 今日の晩めしが食えへんっていうのに・・・・・・・・・殺生(せっしょう)な・・・!!」
ユウキがうるうると瞳をうるませると、少女はようやく足を止めた。
その様子にユウキは しめしめ、と心の中で にやついて見せる。
「・・・ワシの父ちゃんな、全然働いてくれへんねや。
 せやから、ワシが働いて母ちゃん養わん(やしなわん)と、ワシら一家、みんな飢えで死んでまうんや・・・・・・
 姉ちゃんワシと同じくらいの年やろ? せやったらワシの気持ち・・・・・・」
「うるさいよ、ペテン師(フィドリスト)。」

少女は瞳をつぶると、もう一度見開いた。
はっきりとした一重のまぶたの下からは 燃えるような、血のような赤い色が覗いている。
「なっ・・・!?」
「おどかしてやりな、そこの赤い鳥。」
少女が命令すると、後をつけていたオレンジ色のひよこのようなポケモンが ユウキへと向けて突然炎を吹き出した。
ヤケドこそ負わなかったが、突然のことにユウキはのけぞり、派手に後ろへと転倒してしまう。
何が起こったのかも分からず、ユウキがただ眼を瞬いていると、少女はようやく、うっすらとだが 笑った。



「・・・・・・誰や?」
ユウキはようやく本題に入った。
見知らぬ少女は 疲れが出たのか軽くひざを叩きながら、茶色い瞳でユウキのことを見つめる。
「あんたのあこがれる ジョウトから引っ越してきたんだよ。
 名前は『瑠璃 遥(るり はるか)』、ルビーって呼んで、みんなそう呼ぶからさ。」
「あらま、分かっとったんやな、ワシがホンマのジョウト人でないってこと。
 ワシは『小田牧 雄貴(おだまき ゆうき)』や、最高の商人、『サファイア』目指しとる、せやからサファイアって呼んでやv」
「男のクセにハートマーク使うなよ・・・気持ち悪い・・・・・・」
ルビー、はクスリと笑う。
事件が起こったのは、サファイアが何かを言おうと、口を開きかけた時だった。


「・・・・・・・・・うっ、わああぁあ!!? ユウキぃ、ミズゴロウぅ、助けてくれぇ!!!」

「親父の声や!?」
雑巾(ぞうきん)を引き裂いたような悲鳴で サファイアとルビーは反射的に走り出した。
後を追って、水色の4本足の動物と オレンジ色の鳥のような動物がついてくる。
それを振り払おうともせず、2人は声のする方へと走り続けた。
「何が起こったんだい!?」
「知らへん!! それが分かってたら用もなく走ったりせんわ!!
 ・・・・・・うわっ!!」
突然サファイアが横に飛んだ。 灰色の狼のような動物に押し倒されたのだ。
あごについた鋭い牙に噛みつかれまいと、サファイアは必死で抵抗する。

「ユウキッ!!?」
草むらから中年の男が飛び出してきた。
すぐにでもサファイアのことを救出しようと試みるが、どうやらそれどころではなさそうだ、
男も同じ動物に追い掛け回され、今にも追いつかれそうなのだ。 着ている白衣のすそが 所々破れかけている。
「親父ぃ!!? 何なんや、こいつらはっ!!?」
「ユウキ、お前ポケモン研究者ン息子やっとるに、ポケモンのこと知らんとね!!?
 野生のポチエナばい!! キモリとアチャモを探しとぅたら うっかり踏んでしまったと!!!」
サファイアに襲いかかる灰色の『ポチエナ』に 水流がぶつけられ、横へと吹き飛んだ。
体をよじり、再び押し倒されないように起き上がったサファイアの視線の先には 水色の4本足の動物が鼻息を荒くしている。


「ルビー言うたな、あんたさっさと逃げ!!
 ワシはこれでも一応、ポケモントレーナーや、こいつらはワシが引きとめる!!」
サファイアはルビーへと向かって叫んだ。
一瞬ルビーが眉をひそめたのにも気付かないうちに、サファイアは『ポチエナ』の方へと向き直る。
「カナ、『たいあたり』や!!
 そいつをフッ飛ばして 時間を稼ぐんや!!!」
水色の動物が灰色の動物に突進して、草むらの方へと弾き飛ばす。
「さぁ、今のうちにさっさと逃げ!! ワシが時間を稼いだる!!!」
ルビーは腰についているポシェットに手を当てると、ゆっくりと、1歩ずつ前へと進み出て来た。
サファイアの横へと立つと、睨むような目つきで灰色の動物、ポチエナの方をじっと見据える。
「・・・・・・何しとるんや、危ないやろうが!!!
 ここはワシが押さえるから・・・・・・」
「あんまり、なめないでくれるかな?」

ルビーは右腕を前へと突き出した。
その手には 手のひらに収まりそうなほど小さな球体・・・赤と白で半分ずつのものが、にぎられている。
「『ねこのて』も借りたいなら。」
ルビーはポチエナへと走り出すと、手に持った球体を地面へと打ちつけた。
すると、小さなボールは消え、代わりにピンク色の小さな動物が 可愛らしく にゃあ、と声を上げる。
「・・・・・・ポケモントレーナー!?」
「エネコ、『ねこのて』!!!」
叫び声と同時に ピンク色の動物は燃え盛るような炎を吐き出した。
炎は回転し、辺り1面を包みこむような炎の壁が出来あがる。
ポチエナは驚き、2、3歩後ろへと下がって間合いを測っていた。 その様子を ルビーは炎のごとく赤い瞳で見つめている。
「消えな、化け物!!」
ルビーが吐き捨てるように放った言葉と同時に ポチエナはルビーへと飛びかかってきた。
そのポチエナに向かって 彼女を守ろうと飛びかかった水色の動物を巻き込み、小さな炎が降りかかる。
オレンジ色の鳥のような動物が炎を吐きかけているのだ。
「アチャモの・・・・・・『ひのこ』?」
「・・・・・・弱い。」
「は?」
ルビーはオレンジ色の動物、アチャモのことを睨みつけていた。
赤々と燃える瞳には 強い意思の力が込められている。
「あんた、炎ポケモンだろうが!! だったら景気よく ボオッと炎くらい吹き出してみな!!!」
彼女の言葉に同調したように アチャモの周りに赤いオーラが見えたようだった。
アチャモはポチエナのことを睨むと、足のツメで地面を踏みしめ、再び炎を吐き出した。
それは、先ほどの小さな火種とは比べものにならないほど強く、耐えきれず、ポチエナはその場でぐったりと倒れこんだ。



「・・・・・・強ぇ〜・・・・・・・・・・・・」
目の前で倒れているポチエナを見て、サファイアはつぶやいた。
中年の男は何が起こったのかも分からず、ただただ目の前のことを目で追っている。
一体何が起こったのか、サファイアは視線でルビーに訴えかける。
ルビーは ぎこちなく微笑んだだけだった。


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