【モンスターボール】
トレーナーに捕らえられたポケモンが普段生活する 基本的に赤色と白色の球体。
野生のポケモンにこれを投げつけると捕らえられる捕獲装置の役割も果たす。
また、改良された製品等も発売され、それぞれ性能が違う。


PAGE4.ふたり


日の当たる道を、2人の子供が歩いていた。
1人は黒地に赤の模様の入った上着、
ロゴの入った黒の幅広のバンダナも目立つが、その下から覗く白髪(はくはつ)もなお目立つ男の子。
もう1人は、赤いシャツに白のスカート、黒のスパッツ。
赤いバンダナでまとめられた とび色の髪も可愛らしい、ぱっちりとした瞳の女の子だ。
彼女のニックネームはルビー、少年のニックネームはサファイアと言った。


「ねぇ・・・・・・・・・」
先に口を開いたのは少女、ルビー。
「何や? さっき食ってたお菓子なら、もう無くなってしもうたぞ?」
「そうじゃないよ!! こんな まーっすぐ街の方向にトコトコ歩き続けてて、本当にキモリは見つかるのかい!?
 ちっとは草むらの中を探すくらいやらないのかい!?」
もっともな意見をルビーが挙げる。
しかし、そんなことは全く気にしていないように、サファイアは人差し指を立てて見せた。
「キモリはま〜だまだ先の道におるんや、それは、この秘密兵器『ポケモン図鑑』が教えてくれたったで。
 ルビー、自分ももろたさかい、自分の手で調べればええ話やろ?」
「お・あ・い・に・く・さ・ま!!! あたいは機械とかマシンとかメカとか そういったもんが大っ嫌いなのさ!!」
「機械もマシンもメカも同じモンやと思うんやけど・・・」
そんなことはお構いなし、ルビーは左右をキョロキョロと探索しながら 前へ前へと進んでいく。
顔には、ちょっとだけ楽しそうな微笑み。
彼女が2日前には 全く笑いもしなかった少女だったなんて、誰が想像できただろう。





「・・・とーちゃーく!!
 やっと着いたで コトキタウン〜、ってか?」
サファイアはミシロとは違う風のする町で 大きく伸びをして息を目一杯吸いこんだ。
とはいえ、やはり子供の足、疲れがたまったのか先に座りこんだルビーと一緒にサファイアもその場にしゃがみこむ。
軽く浮き出た汗を、冷ややかな風が優しくさらっていく。
「町から出たのも久しぶりやな、長いこと歩いてたから 足が痛とうなってしもたわ・・・・・・」
「運動不足だろ、自業自得ってモンじゃないかい?」
「手厳しいのう・・・・・・せや、ルビー、いも揚げ(ポ○トチップスのこと)買うか? 安くしとくで〜。」
「こ〜と〜わ〜る、大体そんなしゃべり方で客が喜ぶかい・・・
 商売下手め・・・・・・・・・」

その言葉に サファイアのほほが引きつった。
背後のルビーの方へと振り向き、眉を吊り上げて睨みつける。
「聞き捨てなれへんな、ワシはジョウトでNO1を誇っとった商人『サファイア』を目指す男や!!
 どういうわけか『サファイア』は 今、姿を見せてへん、せやからワシがその2代目になったろうとしとるんや!!
 2度と今みたいな・・・・・・」
「下手だから下手って言ったんだ。
 悔しいんなら あたいに何か物売ってみろってんだ。」
こう言われては、さすがに返す言葉など見つからない。
悔しさでサファイアが奥歯を噛み締めたとき、不意に上空が暗くなった。
何が起こったのかと 2人が空を見上げたのは 同時。


「何や!?」
反射的にサファイアは上空に赤い手帳のような物を掲げる。
これこそが、ルビーとサファイアの秘密兵器『ポケモン図鑑』、出会ったポケモン、捕まえたポケモンの情報を細かく調べることの出来る優れものである。
ルビーは赤白の球体を構えていた。
ポケットモンスターと呼ばれる特殊な力を持った動物たちが中に入れる『モンスターボール』という名のボール。
『ポケモントレーナー』、ポケモンを戦わせ、共に生きる者にとって、なくてはならないものである。
「野生のポケモンだね!? 匂いで分かるよ!!
 襲いかかってくるなら容赦しない!!」
上空に現れた黒い影は 睨むようにルビーとサファイアを見つめていた。
油断のない動きに ルビーは姿勢を低く構え、いつでも戦える状態を保つ。
「ル、ルビー・・・・・・何もそんな、ピリピリせえへんでも・・・・・・」
「何言ってんだい!! 油断してると こっちが殺られるかもしれないんだよ!?」
殺られるくらいならやってやる、そのくらいの勢いで黒い影を睨むルビーに 不意に優しい視線が浴びせられたようだった。
ほんの一瞬、ルビーが戦う構えを解いたとき、黒い影はゆっくりとうねり、どこかへと飛び去っていく。

「なん・・・だったんだい、今のは・・・・・・? どう思う、サファイア・・・
 ・・・・・・・・・サファイア!?」
ルビーの見ている前で、ゆっくりと地面にひざが落ち、土の上にサファイアの体が横たわった。
眠っているようなその表情からは異常が起きたとは考えにくいが、なんの前触れもなく眠りだす人間なんて、そうそういるものではない。
「サファイア、・・・・・・サファイアッ!!
 嫌だっ・・・・・・目ぇ、覚ませ、このアホンダラ!!!」

今にも泣き出しそうな顔をして ルビーはサファイアの胸ぐらをつかみ、激しくゆすぶった。
その瞬間、ぐっすりと眠っていたサファイアの瞳が パチリと開く。
「うおおぉぉっ!!!? 吉田屋のうどんが350円じゃあ!!」
「は?」
「ん?」
サファイアは まるで何もなかったかのように辺りをキョロキョロと見まわした。
すぐにルビーの存在に気付くと、海の底のように青い瞳をパチパチと瞬かせる。
「どうしたんや、ルビー?
 おまえ、今にも泣きそうな顔しとるぞ?」
「なっ・・・・・・・・・バ、バカ言ってんじゃないよ!! あたいが泣いてたまるかってんだ!!
 サファイアこそなんだい、いきなり眼の色変えたりして、驚かそうって魂胆(こんたん)かい!?」
「せやけど、世界一美味い(うまい)って評判の 吉田屋コガネ本店のうどん(定価650円)が350円やぞ、350円!!
 眼の色も変わるわ!!」
「んな 非科学的なことがあってたまるかってんだ!!!」
上から下へ、グローブで覆われたルビーの拳が サファイアの頭の上に振り下ろされる。
こうなっては男のサファイアには もう勝ち目がない。
ただ 痛んだ頭を押さえてうずくまるばかりだ。

「・・・・・・・・・・・・痛〜た〜・・・・・・何するんや、ルビー!?
 何も殴ることないやろうが!?」
必死の抗議の印として サファイアは黒真珠のように深い黒の瞳でルビーのことを睨みつける。
「・・・戻った?」
「何がや・・・? ・・・・・・おー、痛い・・・」


ルビーは今だ、異議申立てるサファイアに対し、何度も謝りながら説明した。
「・・・・・・ホンマに瞳の色が変わってたやて?
 んなアホなことがあるかい、ワシは化け物やあらへんで?」
「あたいだって信じらんないよ!! だけど、ちゃんと見たんだ!!」

この後、お互いに自分の意見を引かない2人の話は 1時間以上も続く。
長くなるだけなので そこは省略させていただこう。



「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ル、ルビー、日ぃ暮れてきよったで・・・」
「・・・はぁ・・・はぁ、なんで こんな無駄話続けてたんだろうね、あたいらは・・・・・・」
「そりゃ・・・・・・」

「あんたが!!」
「おまえが!!」
2人同時に声を被らせて、ルビーとサファイアは大きく息をつき、少しずつ笑い出した。
体力的にも精神的にも、初日から全開を出していた2人は疲れ果て、
どちらが先に提案したか、宿を探そうと言う案は あっという間に受理されていた。







【ポケモンセンター】
ポケモントレーナーのために造られた ポケモン用の病院。
同時に旅をしているトレーナーのホテル的役割も果たす。
ポケモンセンターに預けられたポケモンは ほぼ一瞬で完全回復することが可能。
センターと略されることもある。


そして2人が現在いるのが、そのポケモンセンター。
宿泊無料、毎日2食に風呂とベッド付き、そういうと聞こえは良いが、実質的にはここに泊まっている料金は2人の親が払っていることになる。
サファイアは 父親であるオダマキ博士が、ルビーは残された彼女の父親が。

「・・・・・・疲れたのう・・・どんくらい 歩いたんやろうか・・・?」
食事も食べ終わり、痛んだ足を放り投げるようにサファイアはベッドの上に倒れこんだ。
3段ベッドの1段目を早々と占領されてしまったので、ルビーはしぶしぶはしごを使って2段目へと登る。
「どのくらい歩いたかは知らないけどさ、こんなにトロトロしてて大丈夫なのかい?
 あんまり遅いと、キモリに引き離されちまうんじゃないのかい?」
ルビーの言葉でスイッチが入ったように、サファイアはのそのそと自分のカバンに手を伸ばした。
中から 赤いポケモン図鑑を引っ張り出すと、指先で器用に操作していく。
「今、キモリは・・・・・・ここの隣街、トウカシティ辺りやな。
 動物なら、昼か夜か、どっちかしか動かんはずやから まだ何とかなるんやないか?
 ・・・一応『気にせんでええ』言われてるけど、親父、キモリがいのうなってえらいショック受けとったし・・・・・・
 もうちょっと 付き合ってーな、ルビー?」

男らしくもなく、甘ったれたような声でサファイアは声を掛けた。
ところが、ルビーからの返事は無い。
「・・・ルビー? 寝てもうたんか?」
「一応 起きてるよ。
 こっちも、しばらくは付き合うつもり。 ・・・・・・・・・感謝してるよ。」
「・・・・・・??・・・」
それからは 何を聞かれてもルビーは答えなかった。
闇が、優しく少女の意識を包んでいったからだ。


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